はじめに――コンセプトが曖昧だと何が起こるのか
「コンセプトづくり」を蔑ろにすると、リリース後に「なぜユーザーは使ってくれないんだろう…」という残念な結果を招く可能性が高まります。
どんなに技術的に優れていても、UIが綺麗でも、「なぜ作るのか」「誰にとってどんな価値があるのか」がクリアでないと市場で刺さらない、というのが現実。
実際、僕自身もBizDevやPMとして何度か失敗を経験しましたが、コンセプトがぼんやりしているとチーム内で優先度がブレたり、ユーザーが「これは私の欲しいモノだ」と認識しづらくなってしまう。
今回は、この「コンセプトづくり」を具体的に解説します。「いや、もう少し具体例が欲しいんだけど…」と思っている方に向けて、ステップごとに例や活用ツール、実践Tipsを盛り込みました。
この記事で分かること
- コンセプトづくりの全体像(なぜ重要か、何を目指すか)
- すぐ行動に移せる「5ステップ」の具体的プロセス
- 各ステップを成功させるための具体例・ツール・補足情報
コンセプトは「プロダクトの核」です。要点を押さえて取り組むだけでなく、「どのように進めるか」をしっかり理解しておきましょう。
そもそもコンセプトとは何か?――核となる“価値約束”
「コンセプト」という言葉は抽象的に聞こえがちですが、本質的には「顧客に提供する価値を端的に言い表したもの」です。
・どんな人を救うのか?
・具体的にどんな課題をどう解決するのか?
・その結果、ユーザーはどんな未来を手にするのか?
これらを筋道立ててまとめたものが“コンセプト”。
「価値約束(Value Proposition)」とも近いイメージです。コトラー&ケラーの『マーケティング・マネジメント』では、製品を“機能”ではなく“価値”で語る重要性が強調されていますが、まさにそこが肝。
この「価値約束」を明確化しないまま開発を進めると、リリース後に「…結局これ何だっけ?」という事態に陥りやすい。大切なのは、まずコンセプトをしっかり言語化してチーム全員で共有し、検証しながらブラッシュアップする姿勢です。
コンセプトづくりの流れ――5ステップ全体像
ここからは「どう作るか?」について。まず全体像をざっと示します。後ほど、各ステップをより具体的に解説します。
- 一次情報の収集(N1分析+ログ+既存データ)
- インサイトの構造化
- コア価値(Value Proposition)の定義
- コンセプトの言語化とプロトタイプ検証
- 差し戻し&改善を繰り返す
「知ってるよ、それ」と思う方もいるかもしれませんが、ポイントは具体的なやり方をどこまで細かく詰めるかにあります。では、さっそく深堀りしていきましょう。
Step1. 一次情報の収集(N1分析+ログ+既存データ)
初めの一歩は、「ユーザーインタビューなどで生の声を拾う」「ログ分析やアンケートなどの定量データを確認する」「社内や過去のドキュメントを洗いざらい読む」といった、あらゆる“事実”を集めること。特に、「一次情報」を自分で集めることです。「一次情報」を自分で集めない人はプロダクトに対してレビューしたりとやかくいう資格はありません(たまに一次情報を集めなくなってしまった偉い人がレビューしたり現場に意見する光景を目にしますが、直近のユーザーのことを知らないので大体邪魔です)。
特におすすめなのがN1分析。
『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』や、僕自身の経験でも、「たった一人」を徹底的に深掘りすると、その人の潜在的な課題・価値観から大きなヒントが得られるケースは多いです。
大事なのは「どうやって深堀りするか」。具体的には以下を試してみてください。
- インタビュー前に“問いの仮説”を設定:
例:「このユーザーはなぜ〇〇という課題を感じているのか?」。
予め聞きたい論点や仮説をリスト化しておくと会話がブレにくいです。
ユーザーインタビュー前に「筋の良い仮説」をチームで設定する具体的な方法やフレーム - 生活全体の観察も行う:
仕事の文脈だけでなく、家事やプライベートでの行動も聞く・見る。なぜなら、課題の根底には個人の価値観や習慣が潜んでいることが多いからです。エスノグラフィーなどの手法が該当します。 - ログ分析+アンケート:
定量的にユーザーがどんな行動をしているかを把握し、「思っていたより実際の使い方が違うかも」といった気づきを得る。
ログとインタビューを対比させると、ユーザーの発言と行動に矛盾がないかチェックできる点もポイントです。
このステップでは、まだアイデアをまとめずにひたすら吸収し、メモをたくさん取ってください。特に少人数への徹底的なインタビューで得られる情報は濃い。複数人に対しても、「N1分析を複数回繰り返す」くらいのイメージでOKです。
Step2. インサイトの構造化
集めた情報が増えてきたら、見える化&構造化。よく言われるKJ法やグランデッド・セオリー・アプローチを使うのも有効。
ここでのゴールは、単なる「意見リスト」を超えて「なぜこの課題が発生しているのか」を深く理解することにあります。
たとえば、次のような作業を行います。
- ポストイットやMiroなどのツールで“気づき”を整理
ユーザーの発言や行動ログをひたすらポストイットに書き出し、意味が近いものをグルーピング。
例:「家事が忙しい」「移動時間にスマホしか触れない」「夜21時以降しかPC開けない」など。 - 各グループにラベルをつける
例:「時間制約」「習慣」「周囲の視線」「決済フロー」など。 - ラベル同士の関係や背景理由を考える
ここで「なぜそうなるのか?」と因果を探る。
例:「子育てと仕事の両立でまとまった時間が取りにくい → 隙間時間を活用するのが日常 → それがUI上の要求へ繋がる」
単なる「ユーザーが○○機能欲しいと言っていた」というリクエストベースだけでなく、その裏にある行動原理や心理状況が見えてくると、コンセプトの「芯」が見えやすくなります。
より詳しくは、グランデッド・セオリー・アプローチでユーザーインタビューからインサイトを掘り起こすに詳しい解説がありますので参考にしてみてください。
Step3. コア価値(Value Proposition)の定義
構造化したインサイトから、「我々ならではの解決策」は何か?を検討します。これが「コア価値(Value Proposition)」の定義です。
要は「ユーザーの課題(あるいは欲求)の本質」と「我々の強み」が重なる領域を見つけ出す作業。具体的にはこんな手順を踏むとスムーズです。
- 自社・自分たちのリソースや強み、差別化ポイントを棚卸し
例:独自のデータベース・専門家との強いつながり・UI改善力・ブランド信頼 など。 - ユーザーが本当に欲しがっている要素(インサイト)と照合
例:「夜間の隙間時間しか使えない人でも、短時間で成果を出せる機能が欲しい」 - 競合製品や代替手段との差別化を明確化
例:競合B社は「大企業向けの総合ツール」。一方、我々は「夜間や隙間時間を前提にしたUIと導線」が強み…など。
マーケティングの3Cの考え方です。
この結果を一文、もしくは短い段落でまとめたものが「コア価値宣言」。さらにそれを言語化するときは『ストーリーとしての競争戦略』のように物語化しながら差別化要素をアピールすると、ユーザーの理解度が深まります。
Step4. コンセプトの言語化とプロトタイプ検証
ここでようやく「コンセプト」の完成形に近づきます。
単なるコピーライティングではなく、ユーザーが頭の中で使っているシーンを想像できるかどうかが重要なチェックポイント。
コンセプト文章を作ってみる
まずは、A4一枚で伝わる「コンセプトシート」を作ってみましょう。
以下の要素を含めるとわかりやすいです。
- ペルソナ/顧客像:どんな人が対象なのか
- 解決したい課題と背景:なぜその課題が生じているのか
- 製品/サービスの核心的ソリューション:具体的に何ができるか
- 差別化ポイント:競合にはない強み
- 提供価値のまとめ:利用した結果、ユーザーが得られる未来像
ここで文章化する際に、電通の『コンセプトのつくり方』のように「言葉選び」や「ストーリー展開」を意識することが大事です。“どう語ればユーザーのワクワク感や納得感を醸成できるか”という視点。
ラフなビジュアル・プロトタイプでテスト
次に、ラフなワイヤーフレームやデザインモックを作り、実際のユーザーか社内メンバーに見せます。
・ユーザーが「なるほど、こう使うのね」と5秒以内に理解できるか?
・「これ便利そう」と思える要素はあるか?
ここでのフィードバックはかなり貴重。
ポイントは、「完成品を見せる必要はない」こと。簡単な画面遷移図や紙に描いたモックアップ程度でOKです。むしろ、ラフな段階の方がユーザーも忌憚なく意見をくれます。
ここで違和感があれば、再度インサイトに立ち返ったり、コア価値そのものがズレていないか見直しましょう。
Step5. 差し戻し&改善を繰り返す
一度作ったコンセプトを一発で固めようとするのは得策ではありません。多くの成功事例は、検証サイクルを何度も回し、コンセプトを研ぎ澄ませています。
例えば、米国のスタートアップがよく活用する「リーン・スタートアップ」の手法も、仮説→実験→学習→ピボットの繰り返しが基本。
検証サイクルに必要な行動例
- ユーザーフィードバック会:週に1度、実際のユーザーを呼んでモックやデモを触ってもらい、感想を集める
- 社内ステークホルダーとのレビュー:エンジニア・デザイナー・CS・営業など横断チームで、「本当にこれがうちの核になる?」とディスカッション
- 数値検証:もし早期に動くプロト環境があるなら、ABテストや導線分析を実施。ユーザーが本当に行動を起こすかを確認
このプロセスを通じて、「やはりペルソナ設定が甘かった」「差別化要素がユーザーに伝わっていない」などの問題に気づきやすくなります。修正を反映し、再度テストし、さらに改善。
最初に作ったコンセプト案が最終版になると思わないほうが吉。複数回のトライ&エラーで、最も“刺さる”コンセプトへ近づきます。
具体例:隙間時間を活用した学習アプリの場合
最後に、サンプル事例として「隙間時間を活用して勉強したい社会人向け学習アプリ」のコンセプトづくりを、ざっくりイメージしてみます。
- N1分析:
30代子育て中の会社員女性Aさんに徹底インタビュー。
– 朝は子供の支度でバタバタ
– 夜は帰宅後に家事
– 通勤中と寝る前の10分しか時間が取れない
→「10分あれば細切れで学習したいが、どこから始めればいいか分からない」 - インサイトの構造化:
– 隙間時間でも学べる教材へのニーズ
– 夜間にスマホしか使えない
– 過去に大型オンライン講座を試したが挫折→操作が煩雑
→「短いステップをパッと開始できるUI」「進捗がすぐ見える仕組み」への期待が高い - コア価値の定義:
– 自社の強み:教育領域での専門家チーム、UI/UX設計力が高いエンジニアがいる
– 競合B社は多機能だが学習時間がまとまって必要→逆を狙う
→「10分単位のブロック学習」「毎日継続しやすいUI」「就寝前にもサクッと進捗を確認できる」という“学習習慣を小さく設計する価値” - コンセプトの言語化:
「忙しいあなたでも、1日10分で資格取得を最短化する学習アプリ」
– ターゲット:家事や育児、仕事に追われてまとまった勉強時間を確保しにくい社会人
– 差別化:細切れ×UX最適化で、いつでも再開しやすい
– 得られる未来:隙間時間を最大限に活用し、着実に知識を積み上げる
ざっくりしたワイヤーフレームも用意し、スキマ時間で操作しやすいボタン配置やUIフローを試作 - 検証サイクル:
– プロトタイプを数名のユーザーに試してもらい、操作感や継続率を確認
– 「10分で単位が終わるのが嬉しい」「夜間でも眩しくない画面デザインが助かる」などの声
– 足りない機能や改善点は再度持ち帰り、UI設計を微調整
– コンセプト文言も「隙間時間をフル活用」に変更するなどアップデート
こんな感じでステップを回すたびに、曖昧だった部分がクリアになり、必要に応じて軌道修正をかけるのが王道パターンです。
参考情報
- フィリップ・コトラー、ケビン・レイン・ケラー『マーケティング・マネジメント』(丸善出版)
- 楠木 建『ストーリーとしての競争戦略 Hitotsubashi Business Review Books』(東洋経済新報社)
- 小林照彦『コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法』(ダイヤモンド社)
- 森岡 毅『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(KADOKAWA)
- 西口 一希『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング(MarkeZine BOOKS)』(翔泳社)
- クリスチャン・マズーリッシュ『センスメイキング』(早川書房)
- 森岡 毅、今西 聖貴『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(KADOKAWA)
- 伊丹 敬之『確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか』(東洋経済新報社)
今日から実践できるアクション
- 3人のN1分析をやってみる
「大人数から浅く情報を取る」よりも、一人ひとりを深く掘り下げる。仮説を立ててインタビューを繰り返し、意外な共通点や本音を発見。 - KJ法で“なぜ”を掘り下げる
ポストイットにユーザーの発言を写し取り、グルーピング→ラベリングで背景要因を探る。とりあえず手を動かしてみる。 - ラフなプロトタイプを社内でテスト
PowerPointや手書きワイヤーでも構わないので、すばやく形にして周囲にフィードバックをもらう。完成を待たずに検証を回すクセづけ。
Q&A
- Q1: 新機能開発時、コンセプト設計にどれくらい時間をかけるべきですか?
- A1: プロダクトの規模やリリース頻度にもよりますが、最低限「N1分析+構造化+簡易プロトテスト」の一連を回す時間は確保したほうが良いです。時間を惜しんで飛ばすと、あとで大きな手戻りが発生するリスクが高まります。どんなに短くても2週間で、2-3ヶ月かけることも普通にあります。
- Q2: 競合との差別化が難しいと感じています。どうすればいいでしょう?
- A2: まずはユーザーの視点に立ち返り「なぜ競合ではなく自社を選ぶのか」を考えると見えやすくなります。ニッチなユーザーペルソナや独自のワークフロー、世界観を掘り下げるなど、競合と異なる切り口を探るのがおすすめです。そして、競合サービスを使い倒しましょう。
- Q3: 社内ステークホルダーが多く、合意形成に苦労しています。
- A3: 生のユーザーインタビュー動画やプロトタイプテストの様子を共有することで、“感覚”をそろえやすくなります。口頭やドキュメントだけでなく、実際のユーザーの表情や反応をみんなで見ると、理解の深まりと共感が生まれやすいです。
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