ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド

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HRテック企業でプロダクトマネージャーをしているクロと申します。私はマーケ出身で博報堂、リクルート、toCスタートアップなどで累計600人以上にユーザーインタビューを実施してきました。
さらに毎日LLM(ChatGPT等)を活用しながら、リサーチ業務を効率化しています。

本記事では、ユーザーインタビューの目的・設計・実施・分析の一連の流れをまとめています。FoundXの顧客インタビューリソースや多くの先行研究・手法も織り込んでいるので、ぜひ最後まで読んでみてください。


1. ユーザーインタビューとは何か

1-1. ユーザーインタビューの定義と目的

ユーザーインタビュー とは、製品やサービスの利用者、あるいは潜在ユーザーに直接話を聞き、その行動・思考・背景・課題感を深く理解するための定性リサーチ手法です。

ユーザーインタビューの目的:

  • 新規サービスのアイデア検証(課題が本当にあるか?)
  • 現行サービスの改善(UI/UXのボトルネックを把握する)
  • PMF(Product Market Fit)探索(顧客が本当に欲しがっている価値は何か?)
  • ソリューション検証(試作したプロトタイプの反応を見る)

こうした“ユーザーファースト”な視点を得るために、インタビューを早期・短期間で何度も回すことが重要です。FoundXでも「スタートアップ失敗原因の1位は『ニーズがないものを作った』」と言及されており、ユーザーの声を聞かずにモノづくりを進めるリスクは計り知れません。

 

1-2. 他のリサーチ手法との違い

  • アンケート(定量):何%がAという課題を持っているか?などを数値化して定量的に物事を把握する
  • ユーザビリティテスト:画面や機能を触ってもらい記録し、使い勝手の問題点を探る
  • 行動観察(エスノグラフィ):ユーザーのリアルな利用シーンを観察し、潜在ニーズを見つける
  • ユーザーインタビュー(定性):本人の口から直接「なぜそう思ったか」「どんな背景か」を聞き出す

これらの中でも「深いインサイト」を得やすいのがユーザーインタビューの特徴ですが、ユーザーが未来を想像して発言しやすいという落とし穴もあるため、後述の「事実を聞く」などの注意点が大切になります。

ちなみに、ユーザーインタビューは1回に1つきユーザーは1人だけ呼ぶ「デプスインタビュー」の形がおすすめで、ユーザーを複数人呼ぶ「グループインタビュー」は私個人としては非推奨です。


 

2. インタビューの設計・準備

インタビュー成功のカギは「事前準備=設計」にあるといわれます。何となく聞きたいことを並べただけでは、インタビューの最中に軸がぶれてしまいがち。ここでは仮説立案や質問項目の作り方、そして対象者の選定について詳しく解説します。

 

2-1. 仮説立案と質問項目の作り方(JOB理論・課題インタビュー等)

(1) まずは仮説を立てる

  • 例:「競合サービス(A社)を使っている人は、xxのUI面で強い不満を抱えているのでは?」
  • 例:「教育系アプリの課金率が低いのは、保護者が支払いに際してxxxというブロッカーを抱えているからではないか?」

仮説が明確でないと、インタビュー時にどこを深掘るべきか、どの属性を重視すべきかがわからなくなります。

(2) 質問項目の作り方

  • 半構造化面接を前提に、大項目を3〜5個程度設定
  • 「ファクト(事実)を聞く質問」と「背景・感情を深掘りする質問」を分ける
  • 『Running Lean』やFoundXが紹介する課題インタビューでは、「あなたが最近直面した課題は何ですか?」「そのときどんな行動をとりましたか?」など過去の具体的エピソードに焦点を当てるのがポイント

個人的には、「顧客はその課題に対してコスト(お金、時間)を現時点で投下しているか?」が「バーニングニーズ(燃え上がるほど切実度が高い課題)」を特定するためのキラークエスチョンだと考えています。
その課題が本当に切実なら、すでに解決のための行動を行い実際にコストを支払っているはずです。

JOB理論と質問票の例

  1. Situation(状況):いつ、どんなときにその課題が起きた?
  2. Motivation(動機):なぜ、それをどうにかしたいと思った?
  3. Outcome(求める成果):最終的に何を達成したかった?
  4. Struggle(もがき):達成しようとどんな行動を取った?どこで詰まった?コストを払った?
  5. Obstacles(障壁):何が原因でうまくいかなかった?
  6. Alternatives(代替手段):既存のサービスや自己流の解決策は試した?

「いつ・なぜ・どう行動したか」を深堀りすることで、ユーザーが本当に求める価値を捉えやすくなります。

また、この時にchatGPTやperplexityなどを使って事前に対象者に関連するドメイン情報を集め、かつchatGPTと「仮想インタビュー」をしておくと筋の良い仮説を出すことができます。

2-2. 対象者の募集方法と選定(エヴァンジェリスト・競合ユーザー等)

(1) 対象者の募集方法

  • SNS・コミュニティで呼びかける
    TwitterやFacebookグループなど、見込みユーザーが集まりやすいコミュニティがあればベスト。
  • リクルーティングサービスを使う
    ユーザーインタビュー専用パネルを持つサービス(例:ユーザーモートなど)を使うと早い。
  • 既存ユーザーにダイレクト連絡
    自社の顧客基盤があれば、そこから対象を募る。ペルソナに近い人が集まりやすい。

(2) “誰に聞くか”を明確にする

  • ペルソナ / セグメントごとに分ける
    例:エヴァンジェリストユーザー、競合サービス利用ユーザー、ライトユーザーなど
  • Y Combinator式:最初に5〜10人と話してみて、得られたフィードバックを元に仮説修正 → また5〜10人 → …と小さく回す
  • ニールセンの5人テスト理論:1セグメントあたり約5名のインタビューで8割以上の主要課題が見つかるというデータ。

(3) インタビュー時のサンプリング数

  • 課題発見 / ソリューション検証フェーズ
    5〜10人程度で1サイクル回し、足りなければ追加していく。大規模に一度だけやるよりも、何度もサイクルを回して仮説修正するほうが有効。
  • ユーザビリティテストを合わせる場合は、UI上の問題発見を狙うなら3〜5人、定量的に測りたいなら10〜20人ほどを目安にする。

 

3. ユーザーインタビューのやり方・進め方

 

3-1. 基本フローと留意点

  1. 目的確認 & 前提共有
    インタビュイーには、「どんなテーマで、どれくらい時間かけるか」を簡単に説明。NDAや個人情報の扱いなど、安心して話せる雰囲気を作る。
  2. 導入(アイスブレイク)
    ライトな雑談・自己紹介で緊張をほぐす。
    オンラインインタビューでは特にいつもの1.5倍笑顔になることが大事。
  3. 本題(質問実施)
    事前に作った質問項目を軸に、相手の回答に応じて柔軟に深掘り。
    「先週いつ◯◯で困りましたか?」など、未来ではなく過去の具体的事実を中心に聞く。
    事前に作った質問項目に囚われすぎて1問1答や尋問にならないように注意。
  4. クロージング
    「他に言いたいことはありませんか?」と追加質問を確認。謝礼やお礼の連絡方法を案内。
  5. 振り返り & メモ化
    インタビュー直後が一番記憶が新鮮。必ずすぐにメモや録音をテキスト化し、気づきをまとめる。
    個人的には、終わった後10分以内にslackでサマリーを投稿して関係ありそうな人をメンションする方法がおすすめ。

 

3-2. 半構造化面接のコツ(事実を聞く・本音を深掘る)

FoundXの指南でも言及されていますが、ユーザーインタビューで重要なのは「誘導しない」こと。ユーザーに「こんな機能が欲しいですか?」と聞けば、ほぼ確実に「うん、それ便利そう」と返ってきますが、これは未来の想像に過ぎないので要注意です。

  • 想像させず、直近の過去を聞く
    「最も最近、その課題に直面したのはいつか?」「どんな場所、どんな場面だったか?」
  • 抽象ではなく具体を聞く
    「どうやって対処しようとしましたか? 使ったツールやサービスは何か?」
    「実際にその問題に対処するために過去1ヶ月でどのくらいコスト(時間、お金)を使ったか?」
  • 事実と背景を分ける
    「実際の行動」(ファクト) と「そのときどう感じたか」(感情) を分けて聞く
  • 自己分析や希望機能は聞かない
    「もし◯◯だったら便利ですか?」はNG。「現状の代替手段や不満」を掘り下げるほうが有効
  • 本音の深堀り
    「ぶっちゃけどう思いましたか?」「なんでそう感じたんですか?」をしつこいほど聞く

 

3-3. 具体的な質問例(課題インタビュー / ソリューションインタビュー)

(1) 課題インタビューの例

  • 質問A:現状の課題把握
    「最近の業務で、めちゃくちゃ苦労したことってありますか?」「その課題が起きたのはいつ、どんな状況でしたか?」
  • 質問B:行動 / 代替手段
    「それを解決しようと、まず何を試しましたか?」「使ってみたものの、どんな不満がありましたか?」「直近2週間で何回遭遇しましたか?また、その時のことを思い出して前後にやったことも含めて時系列で詳しくエピソードを教えてください」
  • 質問C:ファクト・具体度向上
    「その作業にどれくらい時間がかかりましたか?」「決済権限がないなど、障害はありましたか?」

(2) ソリューションインタビューの例

  • 「これまで話を聞いてきた課題を解決するために、私たちはこんなプロトタイプを作りました。実際に触ってみてどう感じますか?」
  • 「現時点で嫌だと思う点や、使いにくそうな部分はどこですか?」
  • 「もし導入するとしたら、誰が決済・導入を決めると思いますか? そのためには何が必要そうですか?」
  • 「先ほどの問題に対して完全に解消された状態を10点、既存の解決手段を5点とした時に、今の体験は何点くらいでしたか?それはなぜでしょうか?」
  • 「では、実際にこの場で契約いただけますか?金額はxxxで、この契約書にサインをすれば利用可能です(ダミーの契約書)」

ここでも「興味ありますか?」というYes/No質問だけでは不十分。実際に触ってもらう、あるいは現行の競合サービスと比較してもらい、「なぜ欲しい(あるいは欲しくない)のか」を掘り下げましょう。


 

4. インタビュー後の分析・まとめ方

インタビュー終了後、最も重要なのは「データをどう整理し、インサイトを抽出するか」です。ここがうまくいかないと、せっかくの生の声を活かしきれずに終わってしまいます。

 

4-1. データ化(録音・文字起こし)と分析手法(上位下位分析 / GTA / JOB理論)

  1. 録音 / メモのテキスト化
    早めに文字起こしツール(Amazon Transcribe、Nottaなど)を使う。発言の引用や、キーフレーズを抜き出しておく。
  2. 上位下位分析
    「具体的な行動」→「行為目標」→「本質的ニーズ」のように3層構造でグルーピング。似たような課題や発言をまとめて、背後にある共通点を探る。
  3. GTA(Grounded Theory Approach)
    ラベル付け → カテゴリ化 → 概念化の手順で、インタビューデータを体系的にまとめる。
  4. JOB理論を用いた紐付け
    Situation / Motivation / Outcome / Struggle / Obstacles / Alternativesの各視点で回答を分解して並べる。

上記手法の詳細は、実践的ジョブ理論④インタビュー調査の科学的分析法などにわかりやすくまとめられています。ぜひ参考にしてみてください。

 

4-2. AIツール活用(ChatGPTでの要約&抽象化)

私はインタビューデータをChatGPT等の生成AIにかけることで、以下の作業を効率化しています。

  • 要約・キーフレーズ抽出
    インタビュー文字起こしを丸ごと貼り付け、「重要な課題」「よく使われる単語」をピックアップ。
  • 仮説検証の補助
    「この発言は仮説Aと矛盾していないか?」「似たような発言をまとめて教えて」など。
  • レポートや資料作り
    「PM向けの要約スライドを作るためのアウトラインを出して」など。
  • slack投稿用にサマリー作成
    インタビューログと事前の仮説リストをインプットし、対象者の属性、課題、ソリューションに対するポジネガ、to do、より深く掘るためのポイントをまとめてもらう。

 

4-3. レポート共有と組織への落とし込み(Interview Snapshot / 共有会)

  1. Interview Snapshot
    インタビューしたユーザーの特徴(年齢・属性・利用シーン)、要点、発言のハイライトなどを1〜2ページのドキュメントにまとめる。
  2. 共有会や振り返りミーティング
    チームでインタビュー結果を話し合い、どの仮説が当たっていそうかを整理。改善アイデアや次のインタビューで検証したいポイントを出し合う。
  3. 継続的インタビュー体制
    組織的にユーザーの声を収集する仕組み(カレンダー枠の固定、サポートとの連携など)を作ると、必要なときにすぐ話が聞ける状態を維持しやすい。

 

5. よくある失敗パターンと改善策

  • 失敗1:課題や背景を抽象的に聞いてしまう
    改善策:いつ?どこで?誰がいた?などシーンを具体的に聞く
  • 失敗2:ユーザーの意見をそのまま施策にしてしまう
    改善策:回答の裏にある「なぜ」をさらに掘り下げ本質的な課題を特定、ICEスコアに落としこむなど冷静になる仕組みを設ける
  • 失敗3:誰に聞けばいいかわからないままインタビューを開始
    改善策:ペルソナ / セグメントを最初に明確化して、各セグメント5人ずつなど分ける
  • 失敗4:単発で大人数に聞いて終わり
    改善策:小回りの利く少人数インタビューを定期的に回し、学習サイクルを高速化
  • 失敗5:インタビュー結果を共有せず放置
    改善策:Interview Snapshotや共有会を設置し、チームの認識を揃える

 

6. 今日から実践できるアクション

  1. 小規模インタビューを1回やってみる
    まずは知人や同僚など、身近な対象でテストインタビューを実施。
  2. 質問リスト(大項目3〜5つ)を用意
    「最近いつ困ったか?」など、過去の具体例を中心に据える。
  3. 少人数×多サイクルでやる
    Nielsen理論を参考に「1セグメント5人」を目安とし、学習サイクルを回す。
  4. AI要約の導入
    録音データを文字起こし→ChatGPT要約で工数削減。
  5. レポーティングを習慣化
    インタビューが終わったらすぐSnapshotを作り、チームで共有。

 

7. Q&A

Q1. 「未来の理想」を聞いても意味がないんですか?
A. ユーザーは「こういう機能があったら嬉しい」と言いがちですが、実際使うかどうかは別問題です。過去の具体的行動を聞くほうが課題の深刻度や本質に迫れます。

Q2. どんなインタビュアーが適任?
A. 聞き上手な人・カスタマーサクセス出身の人・UXリサーチ経験者が理想的。ただPM自身もユーザーの生の反応を直に聞くと大きな学びがあるので、初めはオブザーバー参加からでもOKです。本来はPMやBizDev、CEOが自分でやるべきです。

Q3. ユーザーインタビューとユーザビリティテストを同時にやっていい?
A. やり方次第です。UI上の操作感を確認するユーザビリティテストは、ユーザーの行動を見つつ、その後で追加質問を行う形が自然。「なぜそう操作したのか」を深堀りする定性質問としてインタビューが生きます。


 

8. 参考文献・引用一覧

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