この記事の要約
- 「ユーザーが自力で生み出したワークアラウンド」をインタビューで深掘る
- ワークアラウンドは顕在痛点 × 高コスト × 実証済みニーズが同時に可視化された“金脈”
「どこを深掘ればいいのか?」――について600回以上のインタビューを経て僕が辿り着いた答えは、ユーザーが自分独自で時間やお金をかけて苦労して取り組んでいる独自フロー(ワークアラウンド)です。どこを深ぼれば良いかわからないなら、この一点を掘れば重要なファクトとインサイトを得ることができます。
ワークアラウンドとは何か?
ワークアラウンド(Workaround)=「本来想定されていない方法で課題を解決するユーザー独自の工夫」。
- 顕在痛点:行動を変えてでも解決したい不満がある
- 高コスト:時間・金・精神的リスクなど自腹投資が発生
- 実証済み:既に何度も繰り返し行って効果を確認
――この三拍子が揃うため、ワークアラウンドは「未充足ニーズの検索コストを最小化する観測点」と位置づけられます。ユーザーリサーチ専門メディア Boxes and Arrows でも “ワークアラウンドはイノベーションの魂”
と評されています。
ワークアラウンドをどうやって引き出すか?
- 操作実演を必ず依頼:口頭説明だけでは回避策が表に出にくいので、ユーザーオリジナルの課題解決方法が話にでたらZoom で画面共有してもらって前後も含めて一挙手一投足を再現してもらう。
- 日常フローを時系列カードで可視化:ポストイットで手順を書き出してもらうと、省略されがちな裏ワザが浮上
ワークアラウンド検出シグナル
発話例 | シグナル | 即時アクション |
---|---|---|
「結局 手作業で…」 | 外製化 | フロー全体を時系列で描いてもらう |
「Slack にコピペして リマインド…」 | 外製化+ツール跨ぎ | 通知粒度・失敗例を掘る |
「夜に Python スクリプト回して…」 | 技術的ハック | 作業頻度と実行コストを数値で聞く |
深掘りは3段問いで ――Scene→Emotion→Cost
- Scene(状況再現)
「その手段(ワークアラウンド)を始める前後も含めてなるべく詳しく教えてください」 - Emotion(感情負荷)
「一番ストレスを感じる瞬間はどこでしたか?」
※“最も”と単数指定 - Cost(投入資源)
「その手段に毎週どれくらい時間/費用がかかっていますか?」
時間が曖昧なら「担当者数 × 回数」だけでも聞き取り
この3問で定性(不満の深さ)と定量(ROI試算)が同時に手に入るため、追加質問は原則不要です。
ケーススタディ:人事データ統合の“夜間スクリプト”
【一次発話】「夜にPython回してCSV結合してるんです」 ▼Scene:金曜23:00〜24:00、レポート締切の前夜 ▼Emotion:眠気と焦りで「最悪…」と独り言 ▼Cost:毎週1h × 担当3名 = 月12h ⇒ ビジネスインパクト:月12h×人件費4,000円 ≒ 48,000円削減余地
3段問いで投資対効果の試算まで揃えるイメージです
プロダクト意思決定への落とし込み
実際にワークアラウンドを聞いて、それを追加プロダクトや追加機能として入れる時は、以下のように「それをやったらどうなるか?」をイメージしてみましょう。
- ROI短冊:削減時間 × 平均時給 を算出し、他課題と同じ尺度で比較
- JTBDマッピング:ワークアラウンドが埋めているジョブを顧客旅程上にプロット
- PRDへ転写:Scene→Emotion→Cost をそのまま PRD の「背景」「ユーザーストーリー」「ビジネス効果」に貼り付ける
Q&A
- Q1: どうしてもワークアラウンドが見つからない場合は?
- 「最後に表計算ソフトを開いたタイミング」や「メモ帳にコピペした瞬間」など近しいシーンの直近のタイミングを聞いてみましょう。
- Q2: コストを金額換算する時給の目安は?
- 年収÷2,000hのイメージ。迷う場合は 1h=4,000円で統一し、比較可能性を担保します。
参考情報
- N. Anderson‑Stanier (2022) “Harness the Power of Users’ Unmet Needs”, dscout People Nerds :contentReference[oaicite:5]{index=5}
- K. Beyer & K. Holtzblatt (1998) Contextual Design: Defining Customer‑Centered Systems :contentReference[oaicite:6]{index=6}
- M. A. Morgan (2018) “Understanding the Value of Workarounds”, Boxes and Arrows :contentReference[oaicite:7]{index=7}
- Everett Rogers (2003) Diffusion of Innovations 5th Ed.
- Schaffhausen et al. (2016) “Assessing the Quality of Unmet User Needs”, Research Policy
- ユーザーインタビューの質問項目大全
- ユーザーインタビューで起こるバイアス徹底攻略
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