ECやSaaSといったサブスクリプション型で継続的に顧客関係構築が重視される中、1つの有効な分析が「RFM分析」。
RFM(Recency, Frequency, Monetary)はユーザーを
- 「最終利用時期(Recency)」
- 「利用頻度(Frequency)」
- 「課金・購入金額(Monetary)」
の3軸で分類し、顧客の傾向を把握できるフレームワークです。
本記事では、RFM分析の基本から導入プロセス、ロイヤルユーザーへの具体的アプローチ方法、休眠ユーザー再活性化のポイントまでを解説します。
RFM分析の概要とメリット
RFM分析は顧客を「最終(直近)利用日(Recency)」「利用回数(Frequency)」「購入金額(Monetary)」の3つの視点からセグメント化し、ビジネス上の優先順位や施策方針を明確にする手法。もともとはダイレクトマーケティングやECで利用されることが多かったのですが、近年ではサブスクリプション型SaaSやオンラインサービス全般で幅広く使われています。その理由は、シンプルな指標でありながら、ユーザー行動の全体像が把握しやすいためです。
RFM分析を導入すると、以下のようなメリットが得られます。
- ロイヤルユーザーの可視化: 利用頻度が高く、直近もサービスを使っている上位顧客が誰なのかを簡単に特定できる
- 効果的なマーケティング施策の設計: RFMスコアごとに異なるニーズを抱えるユーザーに対して、個別最適なキャンペーンやアップセル施策を検討しやすい
- 離脱防止アクションの早期対応: 直近利用が減少しているユーザーを察知し、解約防止や再エンゲージの対策を打ちやすい
実際、世界的コーヒーチェーンのスターバックスでは、RFMを軸に顧客ロイヤルティプログラムを強化したことで、既存顧客の年間購入金額が大幅に増加したと報告されています1。このように、顧客の状態を多角的に捉えるRFM分析は、PMがプロダクトの成長戦略を組み立てるうえでも活用価値が高いのです。
Recency, Frequency, Monetaryとは何か
RFMを構成する3つの要素は、それぞれ独立した視点でユーザーアクティビティを評価します。ECなら「直近購入日」「購入頻度」「購入金額」に相当し、SaaSなら「最終ログイン日時」「月内ログイン回数」「支払金額」といった形で置き換えられます。それぞれを詳しく見てみましょう。
Recency(リセンシー):
ユーザーが最後にサービスを利用(または購入)した時期。直近利用の間隔が短いユーザーは、現時点でサービスとの接点が強いと推定し、逆にリセンシーが大きくなるほど離脱リスクが高まる傾向があります。
Frequency(フリークエンシー):
一定期間内における利用(購入)回数。短期間でも高頻度で利用しているユーザーほど、製品への愛着や依存度が高い可能性があります。BtoB領域の場合は「月内のプロダクトログ数」や「契約更新回数」で代替可能。
Monetary(モネタリー):
一定期間の利用金額や平均購入額。SaaSであればMRR(月次経常収益)や年間契約額、ECサイトであれば合計購入金額や平均注文額で把握します。Monetaryが高いユーザーは、ビジネスに直接貢献度が高い層といえます。
この3つの視点を掛け合わせることで、「直近も使っている上に高頻度・高額利用」の理想的なロイヤル層から、「最近は使わず、たまにしか利用しない低LTV層」までをセグメント化できます。次のセクションでは、他の分析手法(コホート分析など)と組み合わせにも触れます。
他の分析手法(コホート分析など)との組み合わせ
RFM分析と組み合わせられる分析手法の1つとして「コホート分析」があります。コホート分析は、ユーザーをある基準日やイベント(例:初回登録日)でグループ分けし、グループごとの継続率や利用状況を時系列で追う手法です。コホート分析は時間軸の変化を捉えるのに強く、RFM分析はある時点の状態(利用回数・金額など)を俯瞰的に把握するのに強いといえます。
もちろん両者は排他的ではありません。たとえばRFMでハイバリューセグメントを特定し、さらにコホート分析でどの月に獲得したユーザーがよりロイヤル化しやすいのかを検証する方法も有効です。より深くコホート分析を知りたい場合は、「コホート分析でリテンションを高める – amazonを例に実際の流れを解説」も参照すると理解が深まるはずです。

また、定性調査(インタビュー)を組み合わせると、
- 「なぜRecencyが下がっているのか」
- 「Frequencyが上がったきっかけは何か」
などを深堀りできます。定量分析だけでは読み取れない「ユーザー心理」を明確にすることで、打ち手の精度が高まります。
RFM分析の必要データと準備
RFM分析を実施するには、まずはデータの整備が必須。ECであれば購入履歴と顧客IDを紐付けたDB、SaaSであればログイン履歴や契約情報などが必要になります。データが点在している場合は、ETL(Extract, Transform, Load)のプロセスでデータを一元管理できるデータウェアハウスに集約するとスムーズです。
そのうえで、RFMの各指標(Recency, Frequency, Monetary)をどのように定義するかを決めます。たとえば、SaaSなら
- 「Recency=最終ログイン日」
- 「Frequency=過去90日間のログイン回数」
- 「Monetary=月額課金の総額またはアップセル購入金額」
といったルールを策定します。この段階でカスタマージャーニーと照らし合わせ、「ユーザーがどのタイミングでどの機能を使い、どのように課金しているのか」を意識しながら定義を決めると、後の分析に説得力が増します。
また、分析ツールもあらかじめ選定しておくとよいです。ExcelやGoogleスプレッドシートでも対応可能ですが、ユーザー数が数万人~数十万人規模になるとBIツールやデータ分析プラットフォームを用いた方が効率的です。RFMスコアの集計から可視化まで自動化することで、運用コストを抑えられます。
セグメンテーションとスコアリングの手法
RFM分析では、通常各指標(R、F、M)にスコアを振り分けてセグメントを構築します。もっともシンプルな方法としては、各指標を1~5点の5段階評価にし、合計点や組み合わせで分類するやり方です。たとえば下記のようなイメージです。
スコア | Recency(最終利用日) | Frequency(利用回数) | Monetary(購入金額) |
---|---|---|---|
5 | 1週間以内 | 週3回以上 | 5万円以上 |
4 | 1週間~2週間 | 週1~2回 | 3万円~5万円 |
3 | 2週間~1カ月 | 月2~3回 | 1万円~3万円 |
2 | 1~3カ月 | 月1回 | 3千円~1万円 |
1 | 3カ月以上 | 月1回未満 | 3千円未満 |
この例でいうと、R=5、F=5、M=5のユーザーはまさに“ロイヤル中のロイヤル”であり、一方でR=1、F=1、M=1に該当するユーザーはほぼ離脱寸前ということになります。実際のスコアリングは、自社の利用状況や業種特性に合わせて閾値を設定します。
また、セグメントの作り方も複数あります。合計点(R+F+M)の合算が特定の値以上を「VIP」、一定以下を「休眠」として大分類する方式もあれば、R×F×Mの乗算値で把握する場合もあります。どの方式がベストかは業種やプロダクトの特徴、データの分布状況によります。いずれにせよ、RFMスコアをもとにしたセグメント分析を行うと、ユーザー行動の傾向が明確に見えてくるはずです。
ロイヤルユーザーへのアプローチ設計
RFM分析を行うと必ず見えてくるのが、“高Recency・高Frequency・高Monetary”を満たすロイヤル層の存在です。例えばECであれば「月に5回以上、合計5万円以上をここ1か月以内で購入している層」、SaaSなら「ほぼ毎日ログインしていて、定期課金プランの上位プランを利用している層」が該当します。彼らは事業の安定を支える重要な存在であり、PMとしてはさらにロイヤル度を高める施策を検討する価値があります。
具体的な施策としては以下のようなものが挙げられます。
- 特別プランや限定機能の優先リリース: ロイヤル層に先行で新機能を使ってもらい、フィードバックを得る。プロダクト改善の協力者になってもらう
- ロイヤルユーザー同士のコミュニティ形成: 報酬型のイベントやオンラインコミュニティを活用し、彼らの要望やアイデアを吸い上げる。愛着度をさらに高める
- アップセル・クロスセル施策: ロイヤル層は「より高度な機能」や「関連商品の購入」に積極的。関連情報やエキスパート向け機能を提案することでLTVを向上させる
これらの戦略を考える際には、「ロイヤルユーザー」を深掘りし、プロダクトグロースを加速するを参照するのもおすすめ。同記事では“ロイヤルユーザー”がなぜ大切なのか、定性調査とログ分析を組み合わせた深掘り方法が紹介されています。自社プロダクトにおけるロイヤル層の特徴や改善点をさらに具体化できるはずです。

休眠ユーザー・ライトユーザーの掘り起こし
RFM分析をすると、Recencyが低い、またはFrequencyやMonetaryが低いユーザーセグメントが必ず存在します。いわゆる“休眠ユーザー”や“ライトユーザー”です。こうした層が大量に存在すると、オンボーディングに問題がある、あるいはサービスの認知価値が十分に伝わっていない可能性が高いです。
まずはなぜ利用が減少したのかをインタビューで探ることが欠かせません。離脱の理由は「競合サービス乗り換え」「使い方が不明」「機能が複雑で面倒」など多岐にわたります。原因を絞り込むには、以下のようなステップが有効です。
- アンケート調査による仮説の数値化: 「いつから利用をやめたか」「利用停止の理由」などを複数選択肢で聞く
- ユーザーインタビューで深掘り: 休眠状態のユーザーに直接話を聞き、認知や利用プロセスのどこでつまずいているかを明確化
- 行動ログのクロスチェック: 最終利用時期以降、何か大きなUI変更や価格改定がなかったかなどを確認
得られたインサイトをもとに、
- 「特定機能をライト化して使いやすくする」
- 「期間限定クーポンを配布して再度体験を促す」
- 「アップデート情報を分かりやすく通知して再興味を惹く」
などの再エンゲージ施策を検討します。BtoBのSaaSサービスであれば、カスタマーサクセスチームと連携し、サポートを強化するだけでも休眠ユーザーの復活率が大きく変わるでしょう。
継続的なRFM分析運用と改善サイクル
RFM分析は一度実施して終わりではなく、継続的にモニタリングと改善サイクルを回すことで真価を発揮します。自分たちの施策によりロイヤルが増えているかをチェックする訳です。具体的には以下のステップを定期的(例えば月1回や四半期ごと)に実施するとよいです。
- データの更新: DBや分析ツールで最新の利用履歴を取り込み、R・F・M各指標を再計算
- スコア変動のチェック: ロイヤルユーザーがどれくらい増減したか、休眠層が増えていないかなどを確認
- 施策効果の検証: キャンペーンやUI改善などの施策を実施した後、RFMスコアに変化があったかを分析
- 次のアクションの洗い出し: ロイヤルユーザーへの追加施策、休眠層への再アプローチなどを計画
特にチーム全員がスコアやセグメントの定義を共有し、PDCAを回せるようにしておくと、RFM分析が組織レベルでの意思決定に組み込みやすくなります。
参考情報
- Fader, P. S., & Hardie, B. G. (2009). Probability models for customer-base analysis. Journal of Interactive Marketing, 23(1), 61-69.
- Stone, M., Bond, A., & Foss, B. (2004). Consumer Insight: how to use data and market research to get closer to your customers. Kogan Page Publishers.
- スターバックスによるロイヤルティプログラム導入事例(Starbucks Investor Relations, 2020)
- 「ロイヤルユーザー」を深掘りし、プロダクトグロースを加速する(ユーザーインサイトの定性分析事例)
- コホート分析でリテンションを高める – amazonを例に実際の流れを解説
今日から実践できるアクション
- 1. データ収集体制の見直し
自社プロダクトの利用履歴・購入履歴をどのように一元管理しているかを確認し、RFM分析に必要な指標を揃える。もしデータが複数のシステムに分散している場合は、ETLの仕組みを整えることから着手する。 - 2. RFMのスコア基準を暫定設定
「Recencyを30日・60日・90日の区分にする」「Frequencyを週あたり/月あたりの利用回数で定義する」など、まずは簡易的な閾値を決めてテストする。サービス特性に合わせて随時アップデートを。 - 3. ロイヤル層を対象にインタビュー
RFMスコア上位のユーザーに声をかけ、なぜ頻繁に利用しているのか、サービスのどの部分に魅力を感じているのかを直接聞く。そこから得られたインサイトを新機能開発やアップセル施策に反映する。 - 4. 休眠・ライト層への再アプローチ施策の仮説立案
アンケートやログデータから利用減少の理由を分析し、無料トライアルキャンペーンや機能チュートリアルの再送など具体的な施策を考える。定期的にRFMスコアを再計測し、効果を検証する。
Q&A
- Q1: RFM分析とコホート分析を同時に行う意義はありますか?
- あります。RFM分析で特定したセグメントが「いつ頃登録したユーザー」に多いかをコホート分析で検証できるからです。ロイヤル化しやすい獲得チャネルや期間が分かれば、マーケ施策の効率化につながります。
- Q2: BtoBの長期契約型SaaSでもRFMは活用できますか?
- 可能です。BtoBでは月ごとのログイン回数(F)や最終ログイン日(R)に加えて、契約更新率や追加契約額(M)を指標化すると効果的です。契約期間が長い場合、リセンシーの定義を3カ月~6カ月など少し長めに設定して検討することをおすすめします。
- Q3: RFMスコアが平均値ばかりのユーザーが多くて差がつきません。どうしたらいいでしょうか?
- まずはスコアの算出基準を調整してみるとよいです。上位と下位の差が明確になるように閾値を再定義し、分布が偏らないように調整します。あるいはRFMだけでなく、商品カテゴリ別の購入履歴など追加要素でセグメントを細分化する方法も有効です。
- Q4: RFM分析でロイヤル層と判定されたユーザーの離脱リスクは低いですか?
- 一般的には低いとされますが、絶対ではありません。市場環境やライバルサービスの動向、機能トラブルなどの要因で一気に離脱が進む可能性もあります。だからこそ継続的なモニタリングと迅速な施策が欠かせません。
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