我々には、なぜリサーチデータベース構築が必要なのか?
僕はこれまで600人以上のユーザーインタビューを行ってきましたが、同じ課題にいつも直面してきました。
「インタビューで得た貴重な知見が、時間の経過とともに活かされなくなる」という問題です。
- フォルダやメモに眠ったまま、他のメンバーが参照できない
- 過去に学んだはずの教訓を忘れ、同じ質問や検証を何度も繰り返す
これはユーザーに失礼なだけでなく、開発リソースも浪費してしまいます。
そうしたムダをなくし、顧客の声をきちんと活かすためには「リサーチデータベース」を構築して、組織全体がインタビュー情報を利用できる状態にすることが欠かせません。
本記事では、ツール選定からタグ設計、実際の運用フローまで、リサーチデータベース構築を網羅的に解説します。
リサーチデータベースのゴールと役割
「リサーチデータベース」とは、ユーザーとのやり取りで得られた定性・定量データを一元管理し、必要なときに即座に検索・参照できる仕組みを指します。インタビューメモや録画データ、ログ分析などを体系立てて保管し、タグ付けやメタデータを活用して後から使いやすくするのがポイント。
これが機能すると以下のようなメリットがあります
- 別のチームや新しいプロダクトマネージャーが過去のインタビュー内容をさっと取り出せるため、同じ課題を重複して調べる手間が減る
- 新機能や改善提案を行う際に「どのユーザーがどう感じていたか」をすぐに証拠として示せるため、社内合意形成もスムーズに進む
たとえば「リリース直後のユーザーがUIにどんな不満を抱きやすいか」を瞬時に呼び出せれば、早期に改善点を特定できます。まさにリサーチデータベースは、ユーザーインタビューの知見を「組織の大切な資産」に変える鍵です。
リサーチデータベース構築の全体像
リサーチデータベースを構築し、組織全体でナレッジ化するまでの流れを5つのステップに整理します。実際には組織規模やツール要件によって多少のアレンジが必要ですが、基本的には下記を抑えれば失敗を減らせるはずです。
* 僕が過去toCスタートアップをやっていたときは全てnotionでやっていました
- 情報の集約
- まずは、散らばっているインタビューデータを一か所にまとめる作業
- ステップ2:適切なツール選定
- ConfluenceやNotionなど、チームの要件に合ったデータベースツールを見定めます
- ステップ3:タグやメタデータの設計
- 検索しやすくするための分類ルールを固めます
- ステップ4:インタビュー結果のインポートとタグ付け運用
- 実際にインタビューファイルを登録し、ルールに沿ってタグを付与します
- ステップ5:継続的なメンテナンス
- チーム全体がデータベースを“生きた知見”として使い続けられるよう、更新運用を続けます
ステップ1:情報を集約する
散逸しているデータを洗い出す
ユーザーインタビューの録音や動画、議事録、簡単なアンケート結果などが、チーム内でバラバラに管理されているケースは少なくありません。まずは「誰が」「どこに」データを持っているのか洗い出すのが第一歩。
個人のパソコンや複数のクラウドストレージに散っている状態を把握し、一元的にアクセスできる候補場所を確保します。ここでのポイントは「データ総量」や「使用頻度」「機密度合い」を大まかにチェックすること。そうすることで、後のツール選定もスムーズになります。
フォーマットを整える
さまざまな形式のファイルが存在している場合、可能な範囲で標準化することをおすすめします。録音データや動画は大きなファイルサイズになりがちなので、基本的にはGoogle Driveなどクラウドで取り扱うかいましょう。
文字起こしや要約ツールを活用して、テキスト情報に変換するのも有効です。具体的な手順は「ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法」でも紹介しているので、参考にしてみてください!

ステップ2:適切なツールを選定する
主なデータベースツールの候補
- Notion:直感的なUIとデータベース機能の融合が強み。小回りが利くのが特徴です。僕は過去notionでリサーチデータベースを作成していていました。
- Confluence:Atlassian製品との連携に強く、Wiki的に文書を整理するのが得意。(個人的にはファイルの階層わけや検索がいまいちであんまり好きではないです)
- Airtable:スプレッドシート感覚でデータベースを構築可能。API連携もしやすいです。
- SharePoint:Microsoft 365環境との相性が良く、大企業で使われる場面が多いです。
これら以外にも、自社内で構築するカスタムDBなど選択肢はいくつもあります。組織の規模や運用方針、セキュリティ要件に合わせて選ぶとよいでしょう。
ツール選定の基準
- 検索性:フリーワード検索やタグ検索、ファイル内検索などが充実しているか。
- アクセス権限の設定:機密情報を扱う場合、編集権限と閲覧権限を細かく制御できるか。
- UI・操作性:チーム全員がストレスなく利用できる画面設計になっているか。
- 拡張性:外部ツールとの連携やAPIでカスタマイズできるか。
特に検索性とUIは、リサーチデータベースが活用されるか否かを大きく左右するので要チェックです。
ステップ3:タグとメタデータの設計
タグの考え方
リサーチデータベースの「心臓」はタグ体系と言っても過言ではありません。ユーザーがどんな立場・フェーズでインタビューに参加したのか、どの機能や項目について言及したか、といった切り口でタグを設定します。
例えば「導入直後」「長期ユーザー」「UI面」「料金プラン」「エンジニア職」「経理担当」など、課題や要望を仕分ける仕組みを作ることで、あとから「長期ユーザーがUIについて不満を漏らしているケース」を一発で検索可能になります。
notionだと、複数のタグ付けできるので僕はそれでやってました(notion AI使うとめっちゃ楽)
メタデータと階層管理
タグに加えて、インタビュイーの業種や年齢層、導入環境、インタビュー実施日などをメタデータとして付与しておくと便利です。
「階層型のタグ管理」を用意すると、より詳細な分類も可能になります。例えば「UI面」の下位に「初期画面」「ダッシュボード」「設定画面」などをぶら下げるイメージです。ただし、あまり複雑にしすぎると運用負荷が上がるため、最初は5~10個程度の主要タグから始めるのが無難です。
ステップ4:インタビュー結果のインポートとタグ付け運用
既存データの一斉登録
ツールとタグ設計が固まったら、まず過去の主要なインタビューをまとめてデータベースへ登録します。この作業は地味で大変ですが、ここをしっかりやることで「一括検索できる資産」が確立します。
運用担当者を決めておき、最低限のルールを設定するのがおすすめです。たとえば「メモには1行のサマリーをつける」「動画には再生時間の目次を用意する」など、参照しやすくする工夫がポイントになります。
タグ付けのルール運用
続いて、各インタビューに対しタグを適切に付与する運用を行います。タグの付け方がブレると検索精度が落ちるので、「複数タグを付ける際の基準」「この要望はどのタグに当てはまるか」のようなガイドラインをチーム内で共有しておきます。
タグに迷ったときは、あえて複数タグを付ける選択肢もありですが、膨大な量のタグが乱立すると逆に検索しにくくなるので注意が必要です。
ステップ5:継続的なメンテナンスと社内活用
定期的なアップデート
データベースは一度作れば終わりではありません。インタビューを行うたびに新しい情報をアップロードし、タグを付与し、必要であれば古い情報を見直します。
週次や月次のスプリントレビューとあわせて更新の進捗をチェックしたり、チームメンバーに「最近どんなインタビューが追加されたか」を知らせる取り組みが大切です。これにより、常に最新のユーザーの声を誰もが共有できるようになります。
社内文化として定着させる
リサーチデータベースを活用するには、プロダクト会議やアイデア出しの段階で「まずDBを検索してみよう」という行動をチームの習慣に組み込む必要があります。
新機能のアイデアを検討するときは「データベースで関連するフィードバックがあるか?」を確かめ、プレゼンや仕様書には「どのインタビューを根拠にしているか」を明記する。こうしたフローを根付かせることで、リサーチデータベースが“使われない資料”になるのを防ぎます。
上司が、「リサーチデータベースみた?」と確認する1ステップを入れるようにしましょう。
運用事例イメージ:新機能企画と社内連携
事例1:優先度決定が早まる
あるテック企業の事例では、従来は「どの機能にユーザーが最も不満を持っているか?」を判断するのに時間がかかっていました。そこでデータベースを立ち上げ、長期ユーザーと導入直後のユーザーがUIについて発言した箇所に「UI」「長期ユーザー」「導入直後」などのタグを付けて整理。
結果、タグ検索で一目瞭然となり「最も改善要望が集中しているのは初期設定画面」という根拠が共有され、経営層へのプレゼンもスピーディに完了。
事例2:他部署との情報シナジー
別のケースでは、営業やCSチームが得た顧客の声(導入検討中のネガティブ要因、契約更新時の不満など)も同じデータベースに集約していました。タグを統合していたため、マーケチームや開発チームも「実際に商談中のお客様が抱えている課題」をタイムリーにキャッチ。
この多角的な声をもとに、新規顧客向けのFAQ改善やチュートリアル動画の追加といった具体策が迅速に進み、結果的にオンボーディング成功率が向上。
データプライバシーとガバナンスの配慮
ユーザーインタビューには機密情報や個人を特定できる要素が含まれる場合があります。そのため、データを集中管理する際にはセキュリティとプライバシー保護にしっかり配慮することが不可欠です。
社内ルールで以下のようなガイドラインを設定しておくと安全。
- 個人名を含む直接的な情報はマスキングする
- 機密度の高い顧客情報は限定された権限ユーザーのみ閲覧可能にする
ツール自体にも、編集・閲覧権限を細かく制御できる機能があるかを確認する必要があります。
リサーチデータベース成功のポイント
1. 最初は小さく始める
過去すべてのインタビューを一気に登録しようとすると、作業量が膨大で挫折しがちです。まずは直近3~6か月分など範囲を区切って運用を始め、軌道に乗ったら残りを移行していくほうが定着しやすいです。
2. 運用フローに組み込む
「新機能企画の前にデータベースを確認する」「週次ミーティングで更新されたタグを共有する」など、具体的な活用場面をチームで合意しておくと、活用率が一気に上がります。
3. 継続的にタグを最適化する
運用していくうちに「このタグはあまり使われない」「新しい機能が増えてタグが足りない」など問題が出てきます。その都度タグ体系を見直し、常に検索しやすい状態をキープすることが大切です。
参考情報
・Myers, M. D., & Newman, M. (2007). The qualitative interview in IS research. *Information and Organization*, 17(1), 2-26.
・Cooper, A. (1999). *The Inmates Are Running the Asylum*. Sams Publishing.
・Nielsen, J. (1993). *Usability Engineering*. Morgan Kaufmann.
・Harvard Business Review (2018). Why Organizations Need a Data-Driven and User-Centric Culture.
・ユーザーヒアリングを組織に根付かせる4つの仕組みを考察した(PM x LLM STUDIO)
・「質的データ分析」がプロダクトマネジメントにもたらす価値とは?(PM x LLM STUDIO)
・ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法(PM x LLM STUDIO)
今日から実践できるアクション
1. 既存インタビューの棚卸し:社内に散在しているメモや録音データを一覧化し、保管場所を決める
2. ツールの絞り込み:ConfluenceやNotionなど、無料トライアルで操作感を試し、チームに合うものを選ぶ
3. タグの試験運用:主要な5~10個のタグを決め、過去数件のインタビューに付けて検索性をテストする
4. 定着を促すルール作り:新機能検討やMTGのたびにデータベースを参照するフローをチームで合意する
Q&A
Q1:過去の大量データを全部移行するのは手間がかかりそうです。どう進めればいいでしょうか?
A1:一度に全データを移行する必要はありません。まず直近のインタビューから登録を始め、運用に慣れた段階で徐々に古いデータを移行するほうが現実的です。
Q2:タグを増やしすぎると管理しきれなくなる気がします。最適な数はありますか?
A2:最初は5~10個程度に絞るのが無理のない運用です。慣れてきたら、必要に応じて階層タグを追加したり、不要なタグを統合するやり方で調整するとよいです。
Q3:インタビューデータには機密情報が含まれることもあります。セキュリティ面はどうすればいいでしょう?
A3:クラウドツールを使う場合は、アクセス権限や暗号化対応がしっかりしているかを確認することが重要です。社内ポリシーに従い、個人を特定できる情報をマスキングするガイドラインを設けるなどの運用ルールも必要です。
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