この記事の要約
- PdMが“自分の実績”を語れるようになるメリット
- PM特有の「成果」がチームやプロダクト全体と混ざりやすい理由を分解
- 実際の面接や社内評価、チーム内共有で使うためのポイント
「PdMはプロダクト全体の成果を見ているから、自分ひとりの貢献を語りにくい」「チームで成果を挙げるのが当たり前なので、あえて主張しにくい」という悩みはPdMとして抱えやすいものだと思います。
ただ、キャリアを築いていくうえで、自分の成果や経験を言語化し、周囲に納得感をもって伝えられることは当たり前ですが重要です
なぜ「自分の実績を語れる力」がPMに不可欠なのか?
PdMは、プロダクト開発や改善における“調整役”かつ“意思決定者”でもあるため、その成果がチーム全体のものと混じりやすい立場です。エンジニアがコードをリリースしたり、デザイナーがUIを作り込んだりといった「可視化しやすい成果」と比べると、PdMの仕事はアウトプットが見えにくいことが多く、社内外にアピールするタイミングを逃しがち。
しかし、キャリアアップや異動、または転職活動などの節目では、「具体的にあなたは何をした人ですか?」と聞かれます。さらに社内での評価やリーダーシップ発揮の観点でも「あなたの貢献が組織にどう影響したか」を伝えられるかどうかが、信頼度を左右します。
“自分の実績をきちんと語れる能力”は、説得力あるコミュニケーションの基盤だなと僕個人として思っています(僕自身も修行中ですが)。明確な数値や論理に基づいて説明できるようになると、チームメンバーや上司、経営層とのやりとりにおいても「この人は自分の仕事を客観視できる人だ」と信頼を得られます。その結果、意思決定の場で発言権を得やすくなり、プロダクトを動かすスピード感が増していきます。
PMは何を成果として語るべきか?
「そもそもPdMの成果って何?」と疑問に思うかもしれません。PdMは売上やユーザー数(MAUなど)を伸ばすこと、離脱率を下げることがミッションのひとつではありますが、これらは最終的には“プロダクトチーム全体の成果”でもあります。そこで、PdM個人がどういう視点で「自分の仕事の成果を表現するか」を整理するのが大切です。
代表的な項目として以下のようなものがあります。
- 定量的成果
売上増加率、登録ユーザー数の伸び、コンバージョン率(CVR)の向上など。
ただし「自分がどこにどう働きかけて、これらの数字を改善したか」をセットで語る必要がある。 - プロセス設計・意思決定
ロードマップ策定や優先順位付け、開発プロセスの見直し、OKRやKPIの設定など。
「どのような根拠でこの意思決定をし、結果どうなったか」を言語化する。 - チームマネジメントやステークホルダー調整
エンジニア・デザイナー・ビジネスサイド・経営層など、利害やゴールが異なる人たちをまとめ上げた経験。
具体的にどんな合意形成を図り、どんな手順で衝突を解消したかが成果に直結します。
これらを「自分ならではの観点と実行」でどう牽引したか、どうリードしたかを明確にするだけで、PdMとしての存在価値をよりクリアに伝えられます。
「自分の経験・実績」を言語化するためのフレームワーク
PdMは、さまざまな領域に関わるため「どこから手をつけて良いのかわからない」という悩みを抱えがちです。そこで役立つのが、経験や成果をシンプルに整理するフレームワークです。代表的なものとしては、STAR法(Situation, Task, Action, Result)やCAR法(Challenge, Action, Result)などがあります。
以下では、STAR法を例にとり、PdM視点でどう活用するかを簡単に紹介します。
- Situation(状況):
例:運営中のHR系SaaSがリリース後1年で成長が鈍化し始め、解約率が上昇していた - Task(課題・役割):
例:PdMとして「解約率を下げる施策」をリードし、1年後にMAUを20%伸ばすこと - Action(行動):
例:解約ユーザーへのインタビューを10社実施し、主な解約理由を特定。新機能追加よりも『オンボーディングの改善』に注力し、A/Bテストで最適なフローを検証 - Result(結果):
例:新規ユーザーの初月継続率が15%上昇し、1年後にはMAUが25%アップ。顧客満足度調査(NPS)も+10ポイント改善。
STAR法で重要なのは、一連の“流れ”を短くまとめることです。特にActionの部分では「”自分が”どのようなファクトやビジョンをもとに、どういう仮説を立て、誰と連携したか」を端的に言うと、PdMとしての意思決定とファシリテーションスキルなどが伝わりやすくなります。
CAR法(Challenge, Action, Result)も似た構造です。STARよりもシンプルに要点だけを押さえたいときはこちらを使うと良いです。例えば「Challenge」の項目に「背景+課題+ゴール」をざっくり含め、そこから「Action」、そして「Result」という流れにすれば、短時間のプレゼンや面接でも使いやすくなります。
ステークホルダーごとに異なる「成果アピール」のやり方
一口に「成果を伝える」といっても、話す相手によって重視するポイントは異なります。ここでは、経営層・上司、チームメンバー、そして社外やコミュニティへの発信の3つに分けて考えます。
4.1 経営層・上司への伝え方
- 事業インパクトやROIを明確に:
経営層は、数字のインパクトや事業への貢献度に注目します。売上増加率、コスト削減率、顧客満足度(NPSなど)の改善幅など、事業指標にどれだけ寄与したかを具体的に示すと良いです。 - ロジックとデータで説得力を補強:
「この判断でどれだけリスクを抑え、リターンを最大化できたか」を数値や論理フローで語ること。感覚的な話だけでは伝わりにくいです。
4.2 チームメンバー・エンジニアへの伝え方
- プロセスやコラボレーションにフォーカス:
「自分がどのように要件をまとめ、エンジニアの作業をスムーズにしたか」「デザイナーがデザインを決定しやすいように仕様を可視化したか」といった具体的な連携の工夫を強調する。 - 謙虚さとリーダーシップのバランス:
「みんなのおかげで成功した」という姿勢は大事ですが、同時に自分がどのように意思決定をリードしたかをしっかり言語化する必要があります。
4.3 社外(他社PMやコミュニティ)での発信
- ノウハウや学びの共有:
イベント登壇やブログ、SNSなどでは、数字よりも「どんな失敗と成功があって、何を学んだか」に注目が集まります。実践者としての具体的なTipsを発信すると好感を得やすいです。
面接・レビュー・プレゼンでの「実績を語る」コツ
「自分の成果を語りたい」と思っても、実際の面接やレビュー、プレゼンの場では緊張してしまい、せっかくのネタをうまく伝えきれないことがよくあります。ここではいくつかのポイントを、ここは調べた情報と僕の転職経験、読んだ書籍情報などを交えて紹介します。
6.1 面接(転職・昇進)場面
- 短時間でインパクトを与える“数字+ストーリー”:
数字を並べるだけではなく、その数字を生むに至ったプロセスやチーム内外の連携話を短くまとめ、STARやCARフレームワークで話すと理解度が高まります。
参考:『転職の思考法』でPMが自分の市場価値を確かめ、高める - 数値・ファクトドリブン:
「ユーザーインタビューを何件行い、主要なインサイトを得た」「エラーログを何件分析した」など、客観的データを活用していた点を盛り込むと説得力が増します。
6.2 社内評価面談・パフォーマンスレビュー
- 上司の関心テーマとの一致を意識:
会社や部署が今重視しているKPIやOKRと、自分の成果がどう繋がるかを明確にする。 - 第三者視点のフィードバックと組み合わせる:
「エンジニアから、仕様が明確で作業が進めやすかったとのフィードバックをもらった」などを盛り込むと客観性が高まります(ここも具体の数字やプロセス改善が入るとベター)。
自分の実績を“正しく語る”ことでPdMの価値は高まる
PdMが自分の実績を語ることは、決して“自慢話”ではありません。客観的なデータとプロセスを示しつつ、自分が担った役割を明確化する行為によってそれによって、チームメンバーや上司、経営層との信頼関係が深まり、プロダクトにとってもプラスに働くケースが多くあります。
さらに、自分が何を得意としているのかがクリアになると、今後のキャリア戦略やプロダクト方針の議論がスムーズになります。僕自身、マーケ出身でPdMに転身した頃は、自分のコアスキルが「ユーザーリサーチによる仮説検証」などだと気づけずに遠回りをした経験があります。ですが、実績を語るためにメモを取り、プロセスを整理した結果、周囲から「マーケ観点のデータ分析をもっと生かしてほしい」「ユーザーインタビューのフレームづくりをリードしてほしい」といった具体的な期待が寄せられるようになりました。
繰り返しになりますが、PdMとしての価値は“調整役”にとどまらず、“プロダクトを前進させる意思決定者”であることにあります。その役割と成果を正しくアピールできるようになれば、キャリアの可能性は広がります。ぜひ、今日から自分の成果や経験を細かく言語化し、周囲に伝える練習を始めてみてください。
今日から実践できるアクション
- 1. 1週間の行動をCAR/STAR法で整理
週次レビューのたびに、最もインパクトがあった課題とアクション、結果を簡潔に書き出します。何も大きな改善をしていなくても、小さい結果を積み重ねておくと自信がつきます。 - 2. 社内チャットやスタンドアップで自分の担当範囲を発言
「今回の仕様決定は僕が◯◯のデータを分析して、◯◯さんにフィードバックをもらいながら調整しました」など、積極的に話す。
恥ずかしがらずに小さな貢献をアピールする習慣をつけると、周囲の理解も深まります。 - 3. “数字”と“ストーリー”をセットで記録
例えば「課金率5%向上」だけでなく、「新料金プランを提案し、どのステークホルダーをどう説得したか」まで記録。面接や評価面談で一貫したストーリーとして語りやすくなります。 - 4. プレゼン資料を貯めておく
社内外で発表したスライドや、社内共有用のドキュメントなどを定期的に整理して、いつでも引き出せるようにしておく。
過去の成果を振り返る際に大いに役立ちます。
Q&A
- Q1. 自分一人の成果ではないのに主張していいの?
- A. 大丈夫です。あくまで「チームの成果の中で自分がどこを担当し、どのようにリードしたか」を明確にすることが重要です。そこを曖昧にしたままだと、周囲にとってもあなたの強みが見えにくくなります。もちろんチームメンバーへのリスペクトを示すことも忘れずに。
- Q2. 数値成果が出ていない場合はどうすればいい?
- A. 結果が思わしくなかった施策でも、原因をどう特定し、次のアクションにどう活かしたかを語ることが有益です。失敗事例を正しく言語化できるPdMは評価されやすいです。
- Q3. 面接で詳しく話しすぎると守秘義務に触れそうです
- A. 守秘義務に配慮しつつ、数字を少しぼかしたり、具体的な企業名を伏せたりする工夫が必要です。必要であれば「〜程度」「XX%のように」など抽象度を上げてください。ただしプロセス面(ユーザーインタビューを何回やったなど)はなるべく事実ベースで伝えると、説得力を保ちやすいです。
- Q4. 内向的で自己アピールが苦手。どう練習すればいい?
- A. まずは日常的なチームミーティングや1on1で、小さな成功や気づきでもいいので「これは僕がやりました」と一言添えてみると良いです。いきなり大人数の前で話すよりハードルが低いですし、習慣化すれば違和感がなくなります。
参考情報
- Marty Cagan (2018) 『INSPIRED: How to Create Tech Products Customers Love』 Wiley
- Harvard Business Review (2019) 「成果を正しくアピールする方法」
- 北野唯我 (2018) 『転職の思考法』 ダイヤモンド社
- SmartHR導入事例プレスリリース
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