この記事の要約
- インタビューで“Whyを重ねすぎる”とユーザーを追い詰める
- 自己開示の段階理論を応用し、心理的安全性を守る質問順序を設計する
- ラポールを築く感情質問テク&リカバリーフレーズでインサイトを引き出す
ユーザーインタビュー中に「なぜ?」を繰り返し、相手が戸惑って答えが浅くなる
――そんな“尋問疲れ”を経験したはないでしょうか?
僕は、「Whyは万能ではない」と考えています。本記事では心理学的な裏付けとともに、ユーザーのエネルギーを保ったままインサイトへ到達する方法を考えてみます。
誘導・プレッシャーを生む質問パターンの実例
NGパターン | 理由 | ユーザーの反応 |
---|---|---|
Why連打型 「なぜそう思うんですか?」×5 |
質問者が“正解”を期待している空気を醸成し、 防御的認知(守りの姿勢)を誘発 |
「いや、別に…」「うーん」など思考停止 |
選択肢圧迫型 「AとBならどちらが良いですか? なぜ?」 |
前提を限定し、潜在解をつぶす | 「その2つなら…」と消極的回答 |
価値判断誘導型 「本当に便利だと思いますか? なぜ?」 |
Yesを期待するバイアス質問。 社会的望ましさバイアスを増幅 |
忖度回答になりがち |
ポイント:
「Why」自体が悪ではありません。連続・限定・価値判断との“セット使い”がプレッシャーを生むと覚えてください。
Self-Disclosure(自己開示)段階理論で組む安全な質問順序
自己開示段階理論(Altman & Taylor, 1973) は、人が表層→中核へ徐々にプライベート情報を開示する心理過程をモデル化したものです。これをインタビューに当てはめると、質問は以下の4層で設計できます。
段階 | 質問例 | 狙い |
---|---|---|
①基本情報 | 「利用歴はどれくらいですか?」 | ウォームアップ |
②行動事実 | 「最後に使ったのはいつですか?」 | 客観ファクト |
③感情・評価 | 「使ってみてどう感じました?」 | 主観的感情 |
④価値観・動機 | 「なぜそれを重要視しますか?」 | コアの動因 |
Whyは④段階で初めて“1〜2回”投入すればOK。早い段階でWhyを連発すると、ユーザーは心理的な“壁”を上げてしまいます。
感情カテゴリでラポールを築く小ネタ5選
また、「この人なら話せそう」と思ってもらうためのラポール(信頼関係)を作るには、Feelingを聞くのも効果的です。具体的には以下のような形です。
- 肯定のバックトラッキング
「●●と感じたんですね」と言葉を反射し、理解を示す。 - 比喩で寄り添う
「それは“通知の洪水”みたいな状態でしょうか?」とユーザー比喩を拝借。 - 10点スケール
「満足度を10点で表すと何点?」→数字+感情深掘りが両立。 - ポジネガ対比
「最も嬉しかった瞬間」と「最もストレスだった瞬間」をセットで聞く。 - 前提をファンタジーにする
「もし魔法が使えたら現状の何がどうなって欲しいですか?」
感情を扱う質問は心理的安全性を高め、続くWhy質問のハードルを下げる効果があります。
反応が鈍った時のリカバリー・クッションフレーズ集
面談が詰まったときは、以下の“クッション”を挟むだけで空気が和らぎます。
- 間接リフレーズ
「少し整理させてください。○○という流れで合っていますか?」 - 選択肢追加
「他にも思い当たることがあれば、あとで教えてくださいね」 - 時間保証
「残り5分で切り上げますので率直に教えていただけると助かります」 - 自己開示
「僕も同じ課題に悩んだことがあります」と軽く共有して壁を下げる - ポーズ転換
カメラをオフにし「メモを取るので音声だけ大丈夫です」と提案
今日から実践できるアクション
- 次回インタビューの質問表を4層構造に再配置し、Whyは④層のみ最大2回に制限
- ラポール小ネタ5選のうち1つを必ず実戦投入
- 録音を聞き返し、Why質問→ユーザー沈黙までの秒数を計測して改善
Q&A
- Q1: Whyを控えると真因が取れないのでは?
- 感情や行動フローを先に押さえると、1〜2回のWhyで十分に真因へ到達できます。
- Q2: 時間が短い場合の優先順位は?
- ②行動事実→③感情→④Whyの順で縮めれば、熱量あるテーマだけを深掘りできます。
- Q3: オンライン面談で表情変化が読みづらい…
- 音声のトーン変化と回答速度に注目。遅延やためらいは“疲弊シグナル”です。
参考情報
- Irwin Altman & Dalmas Taylor (1973) Social Penetration: The Development of Interpersonal Relationships
- Amy Edmondson (2019) The Fearless Organization
- Rob Fitzpatrick (2013) The Mom Test
- Kara Pernice (2017) “User Interviews: How, When, and Why to Conduct Them”, Nielsen Norman Group
- 心理学を活用してユーザーインタビューからバイアスを排除し“本音”を引き出す
- ユーザーインタビューの質問項目大全
コメント