「いらない機能」がなぜ生まれるのか?そして、我々はどうすれば良いのか?

ユーザーリサーチ

新機能の開発が進んでから「これ、別にいらなかったのでは?」と感じる瞬間。
プロダクトマネージャーとしては「やってしまった…」と、チームメンバーに対して申し訳なくなる気持ちが一定発生する状態ですよね。
失敗から得られる学びもあるので機能が当たらないこと自体は問題ないのですが、まずいのは、振り返ってみると「これ、作る前から怪しかったよね」というケース。このパターンも結構多い。

我々は、なぜ「いらない機能」を大量に生んでしまうんでしょうか?
そして、「いらない機能」を最小化するためにどうしたら良いのでしょうか?
その根本構造と、具体的な対策を整理しながら“不要機能を極力作らない”ための実践方法を深堀りします。


いらない機能が生まれてしまう理由とその構造

当たり前ですが、機能の多さやUIのきらびやかさが、必ずしもユーザーの本質的な満足につながるわけではありません。
にもかかわらず、プロダクトに“いらない機能”が増えていく原因には、いくつか共通する構造が存在します。

仮説不在、あるいは曖昧な仮説による暴走

  • 具体例:「○○業界で流行りらしいから、とりあえず入れておこう」
  • 構造:ユーザー課題や提供価値に根ざさないまま、なんとなくの流行や流出阻止目的で機能を追加する。仮説が文章の形をなしていなかったり、5W1Hの要素が存在しなかったり、踏み込んだ仮説を設定していなかったり、など仮説が曖昧なこともあるある。
  • 結果:誰もその機能を使わず、結果的にUXを複雑化させるだけ

ステークホルダーの“主観的要求”に引っ張られる

  • 具体例:上司や経営陣が「これがあったほうが絶対いい」「このUI真似しなよ」「すぐやりなよ」と指示し、ユーザー検証をすっ飛ばす
  • 構造:組織内の発言力や“お偉いさんの要望”が優先され、ユーザーボイスが二の次になる
  • 結果:利用実態に合わない“装飾的機能”が実装され、保守コストまで増える

競合追随・機能パリティ症候群

  • 具体例:競合サービスが〇〇機能を出したので、こちらも急いで作らないと、という焦り
  • 構造:“本当に必要か”を確認せず、「顧客から”機能不足”, “動きが遅い”と思われたくない」という心理が働く
  • 結果:競合と同じような機能だけがやたら積まれ、独自の強みが埋もれる(他のサービスと同じような機能はあるけど、結局「ここでしかできない体験ってなんだっけ?」症候群

過剰な先読み・技術ドリブン

  • 具体例:最先端の技術を入れよう、という技術大好き系のPdMなどがやりがちなこと
  • 構造:ユーザー課題を満たすというより、“最新技術を使いたい”が先に立つ
  • 結果:実装コストがかかる割に「それ、必要?」と聞かれる機能が量産される

機能追加が唯一の成果物と捉えられる文化

  • 具体例:「リリースノートがスカスカだと評価されない」「なんでもいいから毎週新機能を出そう」
  • 構造:機能リリース数が成果として見えやすく評価されやすいため、本当の価値検証が置き去りにされる。「オペレーションで解決」「メールで検証」など「開発しない」という選択肢をPMが持っていない
  • 結果:改善やUX最適化より“やった感”が優先され、プロダクトが徐々に肥大化

いらない機能がもたらす弊害

  • ユーザー体験の複雑化:UIが煩雑になり、コア機能が見えにくくなる
  • 開発・保守コストの膨張:動かない機能でもバグ対応やアップデートの検証コストはかかる
  • 方向性の迷走:プロダクトのビジョンが曖昧になり、チームのモチベーションが低下

このように“いらない機能”が積み重なるほど、プロダクトの生命力が削がれていきます。
だからこそ、構造的に無駄な機能を生み出さない仕組みが必要不可欠。


いらない機能を生み出さないためにどうするか?

では、こうした不要機能を生まないために、具体的に何をすべきか?
「仮説を明確にする」→「検証する」→「リリース後も見直す」の流れに沿った対策を紹介します。

仮説を明確化し、共有する

  • 課題探索型か価値創造型かを区別:どんなユーザー層の、どんな課題/欲求を狙うのかを文書化する
    → 例:「筋の良い仮説」をチームで設定するフレームも参考になります
  • ステークホルダーとのすり合わせ:上司や営業が求める機能と、本当に必要な機能が一致しているか先に話し合う
    → エビデンスとして、ユーザーインタビュー録や市場データを提示すると説得力が増します
  • KanoモデルやJobs to Be Done視点を導入:機能提案時点で「どの欲求(ジョブ)を満たし、どのレベルの満足を狙うのか」を明示
  • 仮説を評価する基準を設定する:ICEスコアをその都度Impactの定義を日本語で行ったりして、「みんなが共通の仮説評価基準」を持つ

コード0行段階のプロトタイプで“コアバリュー”をテスト

  • 複数アプローチの比較検証:UIが似ていても異なる課題設定のプロトタイプを用意し、ユーザーの意見を比べる
  • ネガティブ問いかけ:「この機能がなかったらどれほどガッカリする?」など
    → 使いたい機能かどうか、不要かもしれないと考えているかを言語化させる
  • 非言語的反応の観察:使う様子や表情に注目し、「本当に欲していない気配」を拾う
    → Contextual Inquiryの考え方を取り入れる
  • 1回PRを書いてみる:PR TIMESに掲載するテンションで、1回chatGPTを使ってPRリリース文章を作成して、CSや営業など日々顧客と接している人に話しに行く

Betaテスト&Feature Flagで最小リスクでの定量検証

  • Fractional Rollouts:ユーザー全体の一部だけに新機能を解放し、ログやKPIをトラッキング
  • 「Go/No-Go」基準の設定:リテンション率や行動指標が一定値に満たない場合はリリース(全展開)を取りやめる
    ピボットや再設計を想定した意思決定基準を先に決める

そして、リリース後も「本当に必要か」を継続評価する

  • 使用頻度・解約理由のモニタリング:リリースして終わりでなく、定期的にデータを見て改善・撤退を検討
  • 負債機能の棚卸し:既存機能で使われていないものを一定期間ごとに洗い出し、削除/統合の判断をする
  • 復習インタビュー:「なぜ使われなかったか」を利用者・非利用者に改めてヒアリングし、今後の企画に活かす

チーム・組織構造・文化を変える

いらない機能を生まない対策は、単なる開発手法の問題ではなく、組織文化や評価制度にも深く関係します。

  • 機能リリース数だけでなく、ユーザー満足度や事業成果を評価軸に含める:
    「ちゃんと使われた機能の数」や「NPS向上率」をKPIにすることで、不要機能の開発インセンティブを下げる
  • “削除”や“ダウンサイジング”に関する称賛文化を作る:
    「使わない機能を撤廃してユーザー体験が向上した」場合にも評価を与える。削る勇気をチームで共有する
  • データ分析やリサーチオペレーション体制の強化:
    専任の分析担当やリサーチャーを置き、エンジニアやPMが“なんとなく”要件を作るのを防ぐ仕組みづくり

これらの取り組みをやり切ると、機能を増やすことが“正義”ではなく、必要な価値を的確に提供することが評価される環境が整います。


今日から実践できるアクション

  • 機能提案時のチェックリスト作成:「ユーザーのどの課題に寄与するか」「KPIは何か」「なかったら困る度合いは?」を必ず記入
  • 定期的な機能棚卸し会議:既存機能の使用状況レポートを共有し、不要なものを削除or再設計する文化を醸成
  • Betaテストで小さく検証:いきなり全ユーザーにリリースせず、一部ユーザーだけの利用データを集めて是非を判断
  • ステークホルダーマネジメント研修:上司やクライアントからの要望を“ユーザー視点”に翻訳するための対話スキルを身につける
  • 失敗も共有する社内Wiki:過去に生まれてしまった不要機能の事例と原因・費用を可視化し、二度と同じ轍を踏まない

Q&A

Q1. いらない機能を減らすほど、リリースノートが地味になりませんか?
A. 目立つかどうかより、ユーザーが実際に使う価値を提供できているかが重要です。必要な機能だけでも十分アピール可能ですし、その分“本当に使われる改善”を打ち出せるのが強みとなります。

Q2. 上司から「競合がやっているから」という理由で機能追加を迫られた場合はどうすれば?
A. 競合に追随しないリスクと、本当にそれが必要なのかの検証コストを比較して説明します。ユーザーインタビューやBetaテストでデータを取り、「案外その機能に需要がない可能性」を示せば、過度な追随を避けられます。

Q3. 既に入ってしまった不要機能を削るのは恐いのですが、ユーザーが少数でも使っていた場合は?
A. 削除で離反するユーザーを最小化する計画が必要です。利用頻度と影響度を正しく計測し、類似機能や代替策を提案できれば大きなトラブルは起きにくいです。削減の判断を先延ばしすると、長期的には保守コストの方が高くつくケースが多いです。


参考情報

  • Ulwick, A. W. (2016). Jobs to Be Done: Theory to Practice. Idea Bites Press.
  • Ries, E. (2011). The Lean Startup. Crown Business.
  • Cagan, M. (2018). INSPIRED: How to Create Tech Products Customers Love. Wiley.
  • Kano, N. (1984). “Attractive Quality and Must-be Quality.” Journal of the Japanese Society for Quality Control.
  • Christensen, C. M. (1997). The Innovator’s Dilemma. Harvard Business Review Press.

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