新卒でプロダクトマネージャー(PM)としてキャリアを始めるのはハードルが高いのか?それとも、若いからこその強みを活かして大きな成果を出せるのか?
今回は、29歳でHRテック企業のPMを務める立場から考察してみます。
実際、新卒PMが企業にもたらす価値と活躍の可能性はどの程度あるのか。調査データや事例を交えながら、今日から現場で活かせる具体的アクションも紹介します。
新卒PMが注目される背景
PMはプロダクトの方向性を決定し、ユーザーニーズに寄り添いながらビジネス成長を推進する役割。ここ数年、Googleが実施する「APM(Associate Product Manager)プログラム」の成功や、国内スタートアップの台頭などを背景に、新卒PMというキャリアパス自体が注目されています。
私が所属するHRテック業界でも、新卒PMが積極的に採用され始めています。デジタルネイティブ世代が持つ感性、速度感、最新テクノロジーへの順応性などが期待されているのもあるでしょうし、一方でそもそも市場にPM経験者が少なく引っ張りだこなため、「育てる」という選択肢を取らざるを得ない事情も存在します。
新卒PMは本当に活躍できるのか?を事例から考える
結論として、新卒PMでも活躍は十分に可能。ただし本来は他の職種での実績があった方が良い、と考えています。以下や事例からその理由を探ります。
1. Google APMプログラムの成功
Googleでは2002年から新卒〜若手向けのAPMプログラムを実施。合格率0.5%程度という狭き門にもかかわらず、ここから多くのリーダー層や起業家が輩出されています。これは新卒PMがビジネスインパクトを創出し得る強力な一例。
2. 国内スタートアップでの例
日本でもメルカリやLINEなどで、新卒がいきなり主要プロダクトのPMを任されたケースが珍しくなくなりました。例えば、LINEでは新卒2年目のPMが数千万規模のユーザーが利用する機能の開発を主導したという事例も報告されています。
3. 若い視点と柔軟な発想
私自身、マーケ出身で今はHRテック企業でPMをやっていますが、新卒PMは「先入観の少なさ」や「新卒だからこそに機動力や行動力」が強みになると実感しています。仮説検証を素早く回すことが求められるPMの世界では、新卒ならではのフラットな視点が意外なアイデアに直結することもしばしば。
ただし、やぱり営業、エンジニア、マーケ、CSなどで実績を残してからPMになった人と比べるとスキルや経験の拠り所がなく、プロジェクトマネジメントに逃げてしまうケースもあるので、本来であれば拠り所としての別職種での実績は欲しいところではあります。
スタートアップと大企業どっちが新卒PMにとってベター?
新卒PMが力を発揮する場として、スタートアップと大企業には違いがあります。
スタートアップ
- 裁量範囲が広い
- 決裁スピードが速い
- 先輩PMやリソースが少なく、手探りも多い
少人数組織だからこそ、意思決定が早く挑戦の機会が豊富。ただし相談相手が少なく、ノウハウが体系化されていないケースが多いのが課題。
大企業
- 育成プログラムや研修が充実
- プロダクトの認知度やユーザーベースが大きい
- 調整先やステークホルダーが多く、承認プロセスが長い
大企業はリソースが豊富で、着実にスキルを身につけやすい環境。例えば私が在籍していた博報堂では、体系化されたユーザーリサーチのノウハウが蓄積されており、インタビュー手法なども短期間で習得可能でした。ただし、施策実行までに多くの根回しと時間を要する点は留意が必要。
新卒PMが直面する課題と克服法
どの企業規模であれ、新卒PMが直面する主な課題は以下の通り。そしてそれらを克服するヒントがいくつかあります。
経験不足
プロダクト開発には、マーケ、技術、デザイン、営業など多岐にわたる知識が必要。新卒PMは必然的に経験が少ないため、以下のような対策が有効。
- メンターを積極的に利用: 社内外で尊敬できるPMを見つけて定期的にフィードバックをもらう。
- 生成AIの活用: 要件定義書や仕様書の初期ドラフトをAIで素早く作り、修正箇所の議論に集中する。
- 大量のユーザーインタビューや行動観察(先輩PMの10倍動きまくる): 新卒こそ現場の声をダイレクトに吸収し、仮説検証サイクルを高速化する。
- プロジェクトマネジメントに逃げない(PjMが悪い、ではなくあくまでPMが果たすべき役割の本質はそこじゃない、という話)
社内外ステークホルダーのリード
PMは技術サイド、ビジネスサイド、経営層、顧客…と調整相手が増える。早い段階で「なぜ、いつ、何のためにこの施策をやるか」を情報共有し、経営陣やエンジニアと認識をそろえる必要がある。周囲への発信力が求められるポジション。
離職率の高さとキャリア流動
海外ではPM職の42%が1~2年でポジションを離れるという統計もあり、PM自体キャリアの起伏が激しい傾向。企業側がメンター制度やモチベーション維持策を用意しないと、優秀な人材ほど起業や転職に流れやすい。逆にそれを前提とし、ネットワークを活かして協業体制を築く事例(Google APMなど)も存在。
今日から実践できるアクション
- メンター&コミュニティ探し: 社内に限らず、外部のPMコミュニティに参加。SNSや勉強会で「聞ける人」を確保しておく。
- LLMを業務に取り込む: ドキュメント作成やアイデア出し、要件定義の下書きに積極的に生成AIを活用。私も要件定義書の初期素案を生成AIに任せることが増えています。詳しくはこちらをご覧ください。
- 仮説検証の高速回転: 新卒だからこそ、失敗を恐れずPDCAサイクルを早めに回す。ユーザーインタビューやユーザーヒアリングを繰り返し、早期にフィードバックを得る。ユーザーインタビューの実践についてはこちらをご覧ください。
- 定期的な共有&レビュー: 経営陣やチームと施策の目的・進捗を週1ペースで共有。新卒ほど認識齟齬が起きやすいので、こまめなコミュニケーションが重要。
Q&A
- Q: 新卒PMが成功するかは企業次第?
- A: 企業のカルチャーや育成体制が大きく影響。スタートアップでも大企業でも、新卒PMを育てる仕組みのある企業は成果を出しやすい。
- Q: 経験不足を補うために最も大切なことは?
- A: ユーザーヒアリングやプロダクト検証を数多くこなすこと。私自身、インタビュー600人超えの経験がアイデアと改善の源泉となっています。
- Q: LLM(生成AI)は具体的にどう活用すべき?
- A: 仕様書や企画書のドラフト作成、類似プロダクトの競合分析、ユーザーインタビューのレポート要約などで活用。新卒PMにとっては学習コストを大幅に下げるツール。
詳しくはこちらで解説しています。
参考情報
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(2023)
- Google APM公式プログラム案内
- メルカリ・LINEなど各社公式ブログ(PMインタビュー記事より)
- 「ユーザー中心のイノベーションを起こす」エリック・フォン・ヒッペル著
- 『INSPIRED – 偉大なプロダクトを生み出す方法』マーティ・ケイガン著
新卒PMという選択は決して安易な道ではありませんが、組織体制と本人の意欲次第で、むしろ大きなインパクトを出せる可能性を秘めています。私自身もPM5年目として、これからもユーザーインタビューの知見やLLM活用のノウハウを積み重ねつつ、新卒のフレッシュな発想から学ぶ姿勢を忘れずにいたいと思います。