「これ、あったら使う?」とユーザーに聞くと、優しい人ほど「いいね、それ欲しいかも」と言ってしまう。
しかし、それが本当のニーズかと言えば、まあそんなことないですよね(上記の機能を実装して成功した経験は僕にはないです)。
Rob Fitzpatrick著『The Mom Test』(2013)は、ユーザーインタビューで生まれがちな“自己欺瞞”をどう回避し、実際に払ってもらえる価値あるアイデアを見極めるかを実践的に解説した一冊。
本記事では、「The Mom Test」で紹介されるエッセンスをかみ砕き、今日から実務で活かせる形で要約します。ユーザーインタビューの質を一段引き上げたいプロダクトマネージャー必見!
The Mom Testとは?
「The Mom Test」とは、「母親にアイデアを聞いても“気を遣って良いことしか言ってくれない”から、本当の検証にはならない」、という皮肉を込めた題名です。
作者のRob Fitzpatrickは、この本で「ダメなインタビュー質問」が抱える問題と、それを回避する具体的な手法を提示。つまり、ユーザーインタビューを実施しているのに誤った方向に進んでしまうリスクを大幅に減らすためのガイドラインと言えます。
ユーザーインタビュー全般の手法を整理した記事は、こちらも参考にしてください。
自己満足と忖度を排除するための「The Mom Test」
ユーザーの声を聞いているつもりでも、「抽象的な未来の質問」「相手が断りにくい質問」ばかりしていると、ほとんどが“お世辞”や“建前”になりがち。
例:「こういうサービス、あったら使いませんか?」→相手は“いいですね”と言いがち。
しかし、このやりとりでは実際の購買意思はわからない。結果として、サービスを作っても払ってもらえない、という悲劇に至ります。
『The Mom Test』では、その“お世辞の嵐”を回避し、本当に困っている点や現在使っている代替策を探ることで事実ベースの会話をする方法を説きます。
yesと言わせない質問を。
本書では、特に避けるべき質問の例が紹介されています。たとえば:
- 「この機能があったら便利ですよね?」
→ ユーザーは「Yes」と答えてしまいやすい(誘導質問)。 - 「有料になっても使いますか?」
→ 抽象的な未来の仮定で、現実の支払い行動はわからない。 - 「これどう思う?」
→ 大抵ポジティブな感想を言われるだけで、深いニーズをつかめない。
いずれも「“Yes”を言わせるための質問」になっており、本当にユーザーが困っている事実や行動を聞けていません。
「事実を明らかにする聞き方」の3ポイント
1. 過去形で「直近の出来事」を聞く
「もし××があったら使う?」ではなく、「最近いつ××を解決しようとしましたか? 具体的にどんな方法でしたか?」と聞く。
未来や仮定ではなく事実ベースの行動を掘り下げることで、ユーザーの実際の課題感や代替手段の本気度が見えてきます。
2. 抽象的な要望ではなく「競合」「既存ソリューション」を聞く
ユーザーに「欲しい機能」を聞いてもアイデアレベルで終わります。代わりに、「今どんな製品やツールで代用しているか? その不満点は?」を問う。
競合や既存ソリューションは、ユーザーが既に「そこにお金や時間を払っている」動かぬ証拠。そこから本当に解決したい課題を抽出できます。
3. 関心があるなら「その場で支払いやコミットを求める」
もしユーザーが「それいいですね、使いたいです」と言ったなら、「では、この機能を初期費用◯万円で先行導入しますか?」など、具体的な行動を促す。
これで相手の反応が急に渋くなるなら、実は本気ではなかったということ。
事前予約、メールアドレス登録、トライアルなど形はさまざまですが、なんらかのコミットを取って初めてユーザーの本気度が判明します。
実務で活かすための具体的なヒアリングのポイント
例1:BtoB SaaSの新機能検証
「この新機能、あったら使ってみたいですか?」→Yesと言われがち。【Mom Test的アプローチ】
「今の業務フローで、一番面倒に感じる部分は何ですか?
それを解決しようとした事例はありますか?
他に何か使ったツールやサービスは?
それらのコストはどれくらいですか?」
こう聞くことで、実際に困っている事実や代替策の費用がわかり、新機能が解決できる本質的な課題を確認できます。
例2:BtoCサービスの有料プラン検討
「月500円なら払えますか?」→ 口約束で“Yes”になりやすい。【Mom Test的アプローチ】
「最近、同ジャンルのアプリやサービスにいくらくらい使いましたか?
有料機能を使うとしたら、どんなタイミングですか?
これまでに課金をしたアプリや理由は何かありますか?」
実際の課金行動をベースに、ユーザーがどんな時にお金を払う習慣があるのかを探れます。
興味だけではなく、支払い意欲のトリガーを明確化できるのがポイントです。
今日から実践できるアクション
- インタビュースクリプトの見直し
未来・仮定を聞く質問を「直近の行動」「具体的な事実」を掘る形へ変更。
「もし◯◯だったら?」ではなく「最近いつ◯◯しましたか?」という聞き方にする。 - 実際の支払いコミットを小さく試す
興味があると言われたら、先行予約フォームを提示して登録を募る、β版費用をもらうなど、ユーザーの本気度を測る施策を導入。 - 代替手段リサーチ
インタビューでは常に「今どう解決しているか? 何にいくら払っているか?」を確認。競合サービスや自作エクセルなど、ユーザーの既存解決策から本音を探る。
Q&A
- Q1. 「The Mom Test」はどのフェーズのPM向け?
- A. アイデア検証段階やプロトタイプ開発フェーズなど、プロダクト初期〜成長初期に特に効果的。ただし、既存機能のリニューアルでも「お世辞質問」を避けたい場面があるので、幅広いフェーズで応用できます。
- Q2. 競合の話を聞くと、相手が離れてしまいませんか?
- A. 実際に他サービスを使っているユーザーの話こそ貴重な一次情報です。
ユーザーは比較検討をしている場合がほとんどなので、むしろ本音ベースの課題や不満をつかめるチャンス。
丁寧に質問し、相手が抵抗なく話せる雰囲気を作ることが大事です。 - Q3. ユーザーが「いいですね」と言うのは、必ずしも嘘ではないのでは?
- A. 嘘ではなくとも、“社交辞令”や“なんとなく褒めている”可能性があります。
The Mom Test的には、そこを突っ込んで「具体的にいつ使うか?」「現在どう対処しているか?」など、現実の行動を聞くことが欠かせません。
その回答があいまいなら、まだ真のニーズとは言えないという指標になります。
参考情報
- Rob Fitzpatrick『The Mom Test』(2013)
- Nielsen & Landauer (1993). “A Mathematical Model of the Finding of Usability Problems.” Proceedings of ACM INTERCHI’93
- FoundX Review: 「ユーザーインタビューの基本」
- PM x LLM STUDIO: 「ユーザーインタビューガイド」
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