グランデッド・セオリー・アプローチでユーザーインタビューからインサイトを掘り起こす

ユーザーリサーチ

ユーザーインタビューを通じて得られる“生の声”が、単なるアンケート結果や一時的な感想で終わっていないでしょうか?
今回は少し専門的に、ユーザーインタビューから本質的な課題を掘り下げ、インサイトにつなげるために活用したい質的データ分析手法である「グランデッド・セオリー・アプローチ」について紹介します。
そもそも質的データ分析とは?という方はこちらも併せてご覧だくさい。

グランデッド・セオリー・アプローチとは

グランデッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory Approach)は、社会学者バーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって提唱された質的研究手法。
インタビューなどから得られる定性データをもとに、仮説や理論を「生成(grounded)」していくプロセスが特徴的な手法です。
また、先に理論を仮定して検証せずに、データを詳細に分析しながら理論を導き出すため、従来の演繹的アプローチとは異なる流れになります。


PdMがグランデッド・セオリー・アプローチを使うメリット

  • ユーザーの「生の声」から精度の高い仮説を形成できる
    あらかじめ既存の理論に縛られず、現場のユーザーインタビューで得た示唆をベースに本質的な課題を探索できます。
  • 質的情報をもとに説得力のあるエビデンスを構築しやすい
    データ(インタビュー内容)→コーディング→仮説生成というプロセスを踏むため、「なぜその結論に至ったのか」を論理的に説明しやすくなります。
  • チーム間での合意形成が進めやすい
    コード化やカテゴリ分けなど、手順が明確です。
    担当者ごとの主観バイアスを最小化できます。

グランデッド・セオリー・アプローチの活用例

グランデッド・セオリー・アプローチは、社会学や看護学、心理学など、幅広い分野で用いられている手法。
ビジネスシーンではUXリサーチでユーザーエクスペリエンス向上を目指す場面などで活躍しています。
特に、「仮説のない未知領域」を探索するときの心強いアプローチです。

※そもそものユーザーインタビューの重要性については、こちらの記事でも詳しく解説しています。合わせて参考にしてください。


グランデッド・セオリー・アプローチの実践方法とステップ

グランデッド・セオリー・アプローチは、主にオープン・コーディング、アクシャル・コーディング、セレクティブ・コーディングという段階を踏みます。
ここでは、プロダクト開発に応用する際の視点を交えながら解説します。

ステップ1:オープン・コーディング(Open Coding)

インタビュー記録を文字起こしし、発言内容を細かく分解して意味のある単位に区切ります。
ユーザーの声をできるだけ細かい粒度で捉え、初期コードを作成する段階。
例えば「夜に本を読む時、Kindleの画面が明るすぎて目が疲れる」という声があれば、以下のように分解。
「夜間」「画面が明るい」「目が疲れる」

ステップ2:アクシャル・コーディング(Axial Coding)

オープン・コーディングで抽出した初期コードを整理し、類似の内容をひとまとめにしてカテゴリーを形成します。
因果関係や背景要因を探ることで、より抽象度の高いテーマが導き出されます。
上記の例なら「暗所での読書体験」「快適性の欠如」といったカテゴリーに集約。

ステップ3:セレクティブ・コーディング(Selective Coding)

アクシャル・コーディングで見えてきたカテゴリーやテーマの中核となる概念を絞り込み、仮説や理論をまとめます。
例えば「夜間の読書環境に対応した機能が不十分」という結論にたどり着けば、暗所での読書体験を最適化する施策が必要だと推察できます。


グランデッド・セオリー・アプローチを使ったプロダクトへの示唆を「Kindleアプリ」を例に紹介

実際にKindleアプリを例に、ユーザーインタビューの質的データをグランデッド・セオリー・アプローチで分析し、具体的な課題と改善施策を導く流れを紹介します。

ユーザーインタビューの実施

  • 対象:Kindleを常用しているユーザー10名程度
  • 目的:読書体験を阻害している要因や、アプリに期待する新機能を抽出

オープン・コーディング

インタビューから得られたデータをテキスト化し、発言を細かく区切ります。
例えば「スマホでKindleを使うときは通勤電車が多い。周囲の音がうるさくて集中できない」という声なら、
「通勤電車」「騒音」「集中できない」といった初期コードに分解。

アクシャル・コーディング

初期コードをグルーピングし、「騒音」「周囲の視線」「揺れ」といった通勤環境に関連するものをまとめます。
ここで生まれるカテゴリーは「移動時の読書障害」。
また「夜間」「照度」「目の疲れ」といったコードを「暗所読書の不快感」というカテゴリーにまとめます。

セレクティブ・コーディング

複数のカテゴリーの中から、どれが特に重要か見極めます。
ユーザーが最も改善を望んでいるのは「通勤中」と「夜間」の読書体験。
ここから「移動や暗所など“読書に集中しづらいシーン”をサポートする新機能」が必要と仮説立てをしました。

改善施策の具体化

  • 夜間モードの強化:スマホのナイトモードに連動したUI調整や、目への負担を軽減するフォント・配色の最適化。
  • 周囲の騒音対策:文書読み上げ機能やノイズキャンセリングとの連動機能を検討。
  • 操作負荷の軽減:片手操作でも快適にページ送りができるUI配置や手ブレ補正など。

だいぶ簡略化してお伝えしましたが、このように定性データを根拠として示すことで、ステークホルダーの納得感が高まりやすくなります。


今日から実践できるアクション

  • インタビューのテキスト化と初期コード化を一気に進める:
    録音・文字起こしツールを活用し、まずはオープン・コーディングでキーワードを抽出します。
  • アクシャル・コーディング用テンプレを用意する:
    「原因」「結果」「背景要因」「感情」などのカテゴリをあらかじめ作成しておくとグルーピングがスムーズです。
  • セレクティブ・コーディングをチームで実施する:
    大事なカテゴリーを選ぶときは複数人で意見を出し合い、バイアスを減らします。
  • 結果をプロダクトロードマップに落とし込む:
    抽出した仮説を施策化し、いつ、どう実装するかをスケジュール化。具体例とユーザー発言を添えると説得力が増します。

Q&A

Q1. グランデッド・セオリー・アプローチではサンプル数がどれくらい必要ですか?
A. サンプル数よりも「飽和点(Saturation Point)」に達するまでインタビューを続けるのが重要です。同じような意見が繰り返される段階まで掘り下げれば、質的な深い理解が得られます。

Q2. 定量調査との組み合わせはどうすればいいですか?
A. グランデッド・セオリー・アプローチで抽出した仮説を、定量調査で検証する流れが効果的です。質的調査で見つけたアイデアの優先度や規模感を、定量データで裏付けることがポイントになります。

Q3. バイアスの混入が心配なのですが、どのように対策すればいいですか?
A. コード付けやカテゴライズを複数人で見直す、コード定義をドキュメント化するなど、再現性を意識した運用が大切です。グランデッド・セオリー関連の文献でも、客観性確保のプロトコルが推奨されています。


参考情報

  • Glaser, B. & Strauss, A. (1967). The Discovery of Grounded Theory. Aldine Transaction.
  • Strauss, A. & Corbin, J. (1990). Basics of Qualitative Research: Grounded Theory Procedures and Techniques. SAGE Publications.
  • Bryant, A. & Charmaz, K. (2007). The SAGE Handbook of Grounded Theory. SAGE Publications.
  • Nielsen Norman Group (n.d.). When to Use Which User Experience Research Methods.

グランデッド・セオリー・アプローチは、ユーザーインタビューという質的データを余すことなく引き出し、本質的な課題や示唆を構造化するための有効な手段です。
今日からのプロダクト開発で、その強みを存分に活かしてみてください。

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