数多くのタスクをこなしてもなぜか成果が出ない。。。。。。。
そんな経験はありませんか? 「本当に解くべき問題(イシュー)」が曖昧なまま仕事を進めているせいで、エネルギーを空回りさせている可能性があります。
そんな状態をぶち破る可能性を秘めた一冊が『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』(安宅和人 著)で、ビジネスや研究において圧倒的な結果を出す人々が持つ「問題設定力」を解き明かす書籍です。
本記事では、特にプロダクトマネージャーの視点からこのイシュー思考を深掘りし、「いま解くべき本質的な問い」をどう見極め、どう答えを導くかを具体的に解説します。複雑になりがちなプロダクト開発にこそ、このイシュー思考が不可欠と感じるはず!
「イシュー思考」とは何か?本当に解くべき問いを立てる意義
イシューとは、「答えが出れば成果が大きく変わる重要問題」。なんとなく気になるテーマや、中途半端な疑問ではなく、その答え次第でプロダクトの方針や業績までも左右するほどの価値がある問いを指します。
『イシューからはじめよ』が説く最大のメッセージは、「問題解決の成功は、問題(イシュー)を適切に設定できるかどうかでほぼ決まる」という点。
なぜなら、多くの人は「とりあえず思いついた課題」に手をつけ、無数のタスクに追われるうちに根本的なインパクトを出せずに終わってしまう。しかし、イシューを厳選し「まさにこれを解けば成果が出る」というポイントを見極めると、少ない労力で大きなリターンを得られるのです。
プロダクト開発においても同じで、要件定義やロードマップ策定で、あれもこれも重要に見えて全部に手を広げてしまうと、結局どれも中途半端な結果に終わりかねません。
イシュー思考を導入すれば、たとえユーザー要望が山ほどあっても、「どの問題を解いたら最も大きな成果が得られるのか」という軸で優先度を付けられます。
結果、チームは「いま注力すべきイシュー」をはっきり理解し、そこにリソースを集中投下できる――。この効果がイシュー思考の真骨頂です。
個人的なおすすめは、常に自分やチームに対して「今3つだけ頑張るならどの課題をやりますか?」と問い続けることです。
本質的な問いを立てる:曖昧な課題を避けるステップ
イシュー思考の第一歩は、「答えが出れば状況が大きく変わる問い」をとことん考えること。
なかには「ユーザーの声を全部拾う」「とりあえず技術を試す」といった曖昧な取り組みをしているケースが多々あります。しかし、それは「何を解くか」が定まっていない典型例。
『イシューからはじめよ』では、この段階で「インパクトの大きさ」と「解きやすさ(実現可能性)」の両面を評価し、本当に解く価値が高い問いを絞り込むよう促します。
特にプロダクトマネージャーは、多数のステークホルダー(CS、セールス、経営陣、ユーザー)からの要望を受ける立場だからこそ、「どの要望が最優先か」を決めるのにイシュー思考が役立ちます。
たとえば、「顧客オンボーディングの離脱率を改善する」問いがイシュー度の高い課題だと確認できれば、それに直結しないアップデート案は一旦保留して、エネルギーを注ぐ対象を明確にできます。結果、離脱率が劇的に低下すればそのまま売上や継続率に繋がる、という大きなインパクトを得られます。
また、イシューが曖昧だとどんなに努力しても成果が薄いことがしばしば。本書で「集中すべき問題設定を誤ると、どれだけ優秀でも成果が出ない」と警鐘が鳴らされているとおり、最初の1〜2割の時間で問題を丁寧に定義し、残りの時間で答えを導くようにすれば、全体の仕事効率がぐんと上がります。
「Why」より「What/Where/How」で課題を掘り下げる
よく「なぜ? なぜ?」と掘り下げる5 Whysが推奨されますが、『イシューからはじめよ』では、さらに「What / Where / How」の視点を使うことで、問題を具体的かつ行動可能な形に落とし込むことを勧めています。
“Why”ばかりを問うと、抽象論に陥りがちなんですよね(個人的にもこの感覚は持ってます)。
対して“What(何が問題か)”や“Where(どこで起きているか)”などを意識することで、
- 具体的な場所や機能、場面での問題特定
- ユーザーが実際に困っている状況を詳細に把握
- 起きている事象の把握(定量・定性の両面)
が可能になります。結果、行動指針や施策アイデアを導きやすくなるのです。
例として、離脱率が高いという問題に対し、なぜ離脱が高いのかと「Why」だけで問い続けると、「ユーザーが面倒に感じているから」「UIがわかりにくいから」など抽象的な答えに留まりがち。
そこで“What/Where/How”を掘り下げると、「どの画面で何がわかりにくく、どういう心理・行動を誘発しているのか?」にフォーカスできる。
たとえば「決済画面への遷移タイミングが不自然」でユーザーが混乱し、結果的に離脱していると具体化すれば、UI設計の改善やステップ順の見直しという具体策が生まれます。
プロダクトマネージャーの実務でも、この“行動可能な”問題設定が極めて大事。「どの場面で発生している問題なのか」を細かく把握するのが、仮説検証の成功を左右します。
イシューを分解し、優先度をつける:限られたリソースで最大の成果を狙う
『イシューからはじめよ』では、複数の問題が同時に浮上しても、大中小と分解し、どれが核心かを見極めろと主張しています。
アプリのUI刷新、パフォーマンス改善、新機能リリースなど、プロダクト開発には無数のテーマがありますが、全部同列で進めるとリソースが分散し、どれも中途半端に終わりがち。
優れたPMは、「ここを解けば一番大きなリターンが得られる」イシューを先に解決し、それから2番目・3番目の課題に移る流れを作ります。
この優先度づけこそが、成果の8割を生む2割の活動を見抜く鍵です。
たとえば新機能のアイデアが10個あるとき、どれが最もインパクトがあるかを明確に評価し、トップ1〜2個を主軸に据えるロードマップを組む。
残りは「影響が薄い」とわかれば、あえて実装を先送りしてリソースを節約する。
このように、イシュー思考を活かした優先度づけは、プロダクト開発の効率を劇的に高めます。
僕が経験したtoCアプリでは、「ログイン直後のユーザー体験」にこそ課題が集中しており、そこだけを改善することでD7RR(登録後7日以内の継続率)が大幅に向上した例があります。もし他の細かな要望にリソースを割いていたら、この大成果を逃していたかもしれません。
仮説検証は最小限で最大の学びを得る:リーンスタートアップとの親和性
イシューを確定したら、「どうやって答えを見つけるか」を考えます。
本書では、十分な検証に必要な最小限の手段を取るべきと強調。時間やコストをかけすぎると、仮に失敗だった場合のダメージが大きい。
これはリーンスタートアップやアジャイル開発の考え方とも一致し、MVP(Minimum Viable Product)や紙プロトタイプを用いて、素早くユーザーの反応をテストする手法と同じ発想です。
実例としては、ユーザーインタビューを徹底活用する方法が挙げられます。
膨大な機能をすべて作りこんでリリースしてから振り返るより、インタビューや小規模テストで「この機能が本当に要るか?」を先に確かめるほうが低コスト。
イシュー思考で「今回クリアすべきイシューは〇〇だ」と決めたら、それに直結する仮説を早期に確かめる――。これはまさにリーンスタートアップ的アプローチと合致します。
僕も過去ユーザービリティテストやプロトタイプを使ったインタビューで、UIが不要とわかれば実装前に捨てる判断ができるため、大きな時間節約が可能でした。
答えを構造化し、チーム全体で活用する:共通認識を生む仕組み
解くべきイシューを特定し、仮説検証で答えを得ても、それがチーム内で共有されないと成果に繋がりません。
『イシューからはじめよ』では、問題設定から検証プロセス、得られた結論まで一貫した構造でまとめることの重要性を説きます。
自分が苦労して導いた答えでも、チームメンバーが「なぜそれが大事か」を理解していなければ行動が変わらない。
だからこそ、短いドキュメントやミーティングで「どんなイシューを解こうとして、どう検証し、何がわかったか」を明確に共有すべきなのです(特にチームメンバーが多いチームのPMとしてはこのムーブが超絶重要)。
プロダクトマネージャーは特に、複数のステークホルダーと連携する役割。
イシューを「〇〇の離脱率を改善しなければ、大きな機会損失になる」と論理的に示し、それをサポートするデータやインタビュー結果を提示すれば、メンバーの納得度は高まります。
結果として、ロードマップの変更や優先度調整がスムーズに進み、組織としての意思決定スピードもアップ。この“答えを構造化して共有”するプロセスが、実務レベルでのイシュー思考の醍醐味です。
プロダクトマネージャーへの応用:ロードマップ、インタビュー、データ分析への落とし込み
ここまでイシュー思考の要点を見てきましたが、では具体的にプロダクトマネージャーがどのように使うのか、もう一歩踏み込んで説明を試みます。
ロードマップ策定でのイシュー選定
ロードマップには多数の機能追加や改修項目が並びがち。しかし、イシュー思考を導入するときは、「すべて同じ重みで扱うのはやめる」ことを徹底。
- まず大きなゴール(例:解約率を20%下げる)を設定
- ここは絶対に外さないことは当たり前ですが重要
- そこから逆算し、最もインパクトの大きいイシュー(例:新規ユーザーの導入体験が複雑)を特定
- 具体的な仮説(UIのステップ数を半減すれば離脱率が改善する 等)を検証する計画をロードマップに組み込む
この流れでロードマップにメリハリがつき、チームは「ここに力を注ぐ」という共通の方向を見失わずに済みます。
ユーザーインタビューの設計で論点を1つに絞る
ユーザーインタビューを行うとき、「導入時のつまずきは何ですか?」「他に使いにくい画面は?」と幅広く聞くのもいいですが、イシュー思考なら、今回明らかにしたいイシューを1つ設定することを勧めます。
例:「資料請求後にアプリの利用に繋がらない理由」がイシューなら、それに直結する質問を中心にインタビューをデザイン。余計な話題は一旦スコープ外にして、最も掘りたい部分を深掘りするのが効果的です。
こうすることで短時間のインタビューでも本質的なインサイトが得られやすく、分析もしやすいメリットがあります。
詳しい設計方法は、「ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド」もぜひ参考にしてください。
データ分析時に「何を確かめるための数字か」を最初に決める
大規模なログやビッグデータにアクセスできる環境があっても、イシューが定まっていなければ数字の海に溺れます。
そこでイシュー思考を使い、「オンボーディング失敗の原因がどこにあるか?」という1つの問いに対して、必要な指標(例えば特定画面の滞在時間、クリック率、離脱率など)だけを取り出し、短時間で検証するフローを組む。
そうすれば、本当に重要な発見に集中でき、時間を無駄にしません。
現場での経験上、問題がクリアなほどデータを扱う量も絞られ、効果的な分析が可能になります。
今日から実践できるアクション
- 「イシューは何か?」と問う時間を設定
スプリント開始やロードマップミーティングの冒頭で、チーム全員に「今回、一番解くべき問題は?」と問い、自分たちのイシューを言語化。
曖昧ならディスカッションを重ね、1つに絞り込む。 - インタビューやデータ分析もイシューに紐づけ
ユーザーインタビューする際、質問票を作る前に「どのイシューを検証するためか?」を明記する。
データ分析に取りかかるときも「どんな問いに対し、どの指標を見れば答えが出るか」を先に決める。 - イシュー分解表を作り、優先度を可視化
たとえば、「大中小」に分けたイシューリストをExcelやNotionで管理し、チームで合意を取る。
大=緊急度やインパクトが最も高いイシュー、小=後回しでも致命傷にはならないイシューなど。 - 答えを出したらドキュメント化、背景と結論を共有
イシュー設定→仮説検証→結論のプロセスを短いレポートや発表でまとめ、なぜその結論に至ったかをみんなが理解できるようにする。
これにより再利用もしやすく、新メンバーが入ってきても説明がスムーズ。
Q&A
- Q1. イシュー思考を導入すると、今まで進んでいたプロジェクトが止まりそうで不安です。
- A. 一気に全部止める必要はありません。まず、進行中のプロジェクトの中で「本質的な問いは何か?」を問い直すだけで成果が変わるケースが多いです。
新規の小さな施策やロードマップ更新時にイシュー思考を取り入れてみるとスムーズです。 - Q2. ユーザー要望が多様すぎて、どれが本質か判断できません。
- A. 一度にすべて対応しようとせず、「どの要望が最もインパクトを生むか?」の軸を定義します。
例:収益貢献、解約率低下、オンボーディング成功率など。そこに直結する課題が最優先のイシューとなるでしょう。 - Q3. そもそもイシューを決めても、それが正しかったかどうやって検証すればいいですか?
- A. 結局は「解いた結果が成果に繋がったか?」で判断します。
スプリント後の振り返りやKPI確認、ユーザーインタビューを実施し、インパクトが実感できるならイシュー選定は正解。思うように結果が出なければ、次点のイシューに切り替えるピボットを考えましょう。
参考情報
- 安宅和人『イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」』(ダイヤモンド社, 2010)
- Eric Ries『The Lean Startup』(2011)
- Jakob Nielsen & Thomas K. Landauer (1993). “A Mathematical Model of the Finding of Usability Problems.” Proceedings of ACM INTERCHI’93
- ユーザーインタビュー前に「筋の良い仮説」をチームで設定する具体的な方法やフレーム
- ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド
- プロトタイプを使って、ユーザーインタビューで新機能の検証を行う方法・Tips
- 【要約】『Lean UX』 – チームのUX向上を加速させるための一冊
まとめ:イシューを軸にプロダクトの成功を引き寄せる
『イシューからはじめよ』が教えてくれるのは、「何を解くか」が成果を左右するという普遍的な真理です。
プロダクトマネージャーとして、多様なリクエストやアイデアに振り回されがちな日々でも、イシュー思考を取り入れれば「いま力を入れるべき問題は何か」をクリアにできる。
そして、本質的な問いを定めたら、最小限の検証で最大限の学びを得るリーンなアプローチと併用し、短いスプリントで成果を出す。この流れこそが、現代のプロダクト開発に求められるスタイルです。
ぜひ、本書のエッセンスを取り入れ、イシューを見極める力をさらに磨いてみてください。きっと、あなたのプロダクト開発やチーム運営がよりスムーズになり、インパクトも高まるはずです。
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