RICEスコアリングを理解して、開発優先度決めの初期の迷いを最小化する

プロダクト企画

プロダクトマネージャーをしていると、「どの機能から開発すべきか」「どの要望を先に取り組むべきか」という優先度付けの壁に必ず直面します。リソースは限られているため、一歩間違えると“大量の機能要望リスト”を前に手が止まってしまいかねないですよね。

そんなときに役立つフレームワークが、みんな大好き「RICE」。

  • Reach(リーチ)
  • Impact(インパクト)
  • Confidence(確信度)
  • Effort(労力)

の観点で施策をスコア化することで、直観や声の大きい部署の意見だけに左右されない優先度決定ができます。

本記事ではRICEの各要素をどのように定義・スコアリングし、チームで運用していくかを具体的に解説します。さらに、実運用で起こりがちな失敗例や他フレームワークとの比較、明日から試せるアクションを含め、できるだけ深く掘り下げます。

この記事を読み終えると、機能要望やプロダクト施策に対し「なぜこれが最優先なのか?」をチーム全体で納得感を持って説明できるようになります。最後までぜひお付き合いください。

なぜプロダクト開発の優先順位は難しいのか?

プロダクト開発には多種多様な要望が集まります。

  • 顧客からは新機能のリクエスト
  • 営業からは特定の大口顧客向けカスタマイズ
  • エンジニアからは技術的負債の返済

など、すべてに応えたい気持ちはあってもリソースは限られる。結果として、個々の声の大きさや緊急度に振り回され、PdMとして「本当に大事な施策が後回しになっているかもしれない」という不安を抱くこともあると思います。

実際、僕がユーザーインタビューや社内ヒアリングを行うと、要望の裏側には真の課題が潜んでいるケースが珍しくありません。要望を受け取った段階で「これは実装価値が高い」と思っていても、丁寧に分析すれば違う課題に行き着くこともしばしば。たとえば、機能がなくて困っていると言われたが、よくよく調べると既存機能の使い方を理解していないだけだった、というパターンです。

こうした状況を打開するきっかけとして、「RICE」は使える1つの手段です。

RICEとは何か?:基本の公式とスコアリングの全体像

RICEは、主にソフトウェア開発の現場で用いられている優先度付けのフレームワーク。米国の顧客コミュニケーションプラットフォーム企業Intercomが提唱した手法として広まりました。構成要素は以下の4つです。

  • R(Reach):その施策が、どのくらいのユーザーや顧客に影響を及ぼすのか
  • I(Impact):対象ユーザーや事業に対して、どの程度のインパクト(改善・変化)が見込めるのか
  • C(Confidence):上述のリーチやインパクト、見込み数字などの根拠に、どれだけ確信が持てるか
  • E(Effort):実現に必要な工数やコスト、時間などの労力

最終的には、以下の式でRICEスコアを算出します。

  RICEスコア = (Reach × Impact × Confidence) / Effort

分母にEffortが入るため、同じだけ成果が見込めるなら、より開発負荷の低い施策が優先度としては高くなります。これにより、大きなリソースを要する施策ばかりが上位を占めるのではなく、短期間で大きな効果が期待できる機能を見逃さずにすむメリットがあります。

R = Reach:どのくらいのユーザーが影響を受けるのか?

リーチとは、簡単に言うと「この施策がどのくらいの人に届くのか」を示す数値。たとえばBtoC向けのアプリなら「月間アクティブユーザーのうち何人がこの新機能を使う可能性があるか」を具体的に見積もります。BtoBのSaaSなら「導入企業数」や「エンドユーザー数」を参考にすることも多い。

ここで重要なのは、「期間」と「セグメント」を明確にすることです。たとえば「1カ月で1,000ユーザーが使う見込み」など、施策ごとに想定するターゲットを明確化しなければ、曖昧な数字になってしまい、チーム内で議論が噛み合わなくなります。

例えば、営業から「この機能があればすべての顧客にウケるはずだ」という話があっても、実際にヒアリングやログ分析(ChatGPTでのログ分析活用など)を行うとメイン利用者として見込まれるのは全体の15%ほどに留まる、など。リーチを過大に設定しないための定量調査が大事。

I = Impact:ユーザーにどれくらいの変化をもたらすか?

リーチの次に考慮するのがインパクトです。これは「その施策が実装された場合、ユーザーや事業にどの程度のポジティブな変化を起こすか」を評価します。Intercomではインパクトを5段階評価(3=非常に大きい、2=高い、1=中程度、0.5=低い、0.25=ごく低い)のように係数づけする手法が紹介されています。

ただし、BtoBの場合は“ユーザー満足度”だけではなく、“契約更新率”や“アップセル機会”などビジネスインパクトを考慮しながら評価するケースも多いです。仮に1社あたりの契約金額が大きければ、リーチは少なくてもインパクトは高くなると考えられます。

たとえばSlackが「リアルタイム翻訳機能」を追加することで、海外拠点を持つ企業のコミュニケーションが大幅に改善し、離脱率を下げられると仮定できるなら、それは顧客ロイヤルティの向上につながり、契約期間の延長やアドオン購入のきっかけになるかもしれません。こういったビジネス面のインパクトも加味して数値化することがポイントです。

C = Confidence:推定の裏付けはどのくらい強いか?

RとIを計算しても、それが正しい推定かどうかは別問題です。ここで登場するのが「Confidence(確信度)」です。RやIをどれだけ定量データやユーザーインタビューなどで裏付けられるかを評価し、主観的に高すぎる数字を設定しないための調整弁となります。

具体的には:

  • 過去のABテスト結果
  • ログ分析や定量データ
  • ユーザーインタビューやヒアリングによる定性証拠
  • 競合他社の成功事例や業界レポート

などを参照して、“どの程度の確信度を持てるか”をスコアに落とし込みます。たとえば、Intercomの例では100%・80%・50%などのレベルでConfidenceを設定し、50%なら0.5のように数値化して計算するやり方が一般的です。

Confidenceが低い場合は、まずは小規模PoCやβ版のリリースなどを行い、検証するプロセスを取り入れます。僕も過去に「とりあえず高Confidenceとしたが、実際に検証してみると顧客ニーズが全然違う方向だった」という苦い経験がありました。チームで共有された検証結果と根拠データをもとにConfidenceを調整していくことが大切です。

E = Effort:実現に必要な工数をどう見積もるか?

最後にEffort(労力)です。どれほどリーチやインパクトが大きく、根拠が堅い施策でも、開発チームに1年かかるなど膨大な工数が必要なら、優先度が下がってしまう。ここで重要なのが「見積もりのブレをできるだけ小さくすること」です。

工数見積もりをエンジニア任せにしてしまいがちですが、PdMもある程度の知識を持っておくと良いでしょう。たとえばアジャイル開発でよく使われる「ストーリーポイント」を使って難易度を測る方法や、過去類似開発の実績データから割り出す方法などがあります。

実際、海外の事例ではTrelloが“短期でユーザーに見せられる価値”を重視してEffortの低い機能からリリースする方針を徹底し、大きな成功につなげています。大規模開発を一気に進めるのではなく、小さなリリースを重ねて早めにユーザーの反応を得ることで、結果的に無駄な工数を省けるのです。

RICEスコアの算出方法:具体的な数式と事例

先ほども触れましたが、RICEの計算式は以下のとおりです。

  RICEスコア = (Reach × Impact × Confidence) / Effort

ここで、それぞれを実際に数値化してみましょう。仮に次のように設定するとします。

  • Reach=1,000(月間見込みユーザー数)
    • ※Reachも3段階評価にするケースもあります
  • Impact=2(5段階評価でやや高め)
  • Confidence=80%=0.8(過去のインタビューやABテストがある程度ある)
  • Effort=20人日

この場合、RICEスコアは(1,000 × 2 × 0.8) / 20 = 80 となる計算です。一方、類似機能候補があって、そちらはReachが500、Impactが3、Confidenceが0.5、Effortが10人日だとすると、(500 × 3 × 0.5) / 10 = 75になります。するとスコアとしては80のほうが上なので、前者の施策を優先度1位に、後者を2位にするという形です。

複数の施策を同じテーブルに並べて比較すると、一目で「どの施策が高スコアか」がわかります。ただしスコア差が僅差だったり、必要な技術が全く異なる場合は、別の観点(ロードマップや組織の戦略)も含めて最終決定することが望ましいです。

RICEをチームで運用するフロー

RICEを効果的に運用するためには、PdMだけが数字を決めて終わりにしないことが重要。チームで情報を共有し、適切なタイミングでスコアリングやリファインを行うフローを作りこみます。

以下は一般的な流れです:

  1. アイデア・機能要望の収集
  2. 必要なデータ収集:ユーザーインタビュー、ログ分析、競合調査
  3. RICEの4要素を定義:チームで達成したいビジネスゴールや成功指標を共有
  4. 仮スコアリング:エンジニア、デザイナー、CSなど含めてワークショップ形式で実施
  5. 検証と再スコアリング:PoCや限定リリースで実際のデータを取る
  6. 定期レビュー:スプリントや四半期ごとにRICEスコアを更新

たとえば、毎月の定例会議で「新しい要望をRICEでスコアリング→優先度が高いものを開発チームとすり合わせ」というプロセスで議論をスムーズにするなどが運用例として上げられます。

よくある落とし穴:RICEが上手く回らない原因と対処法

RICEフレームワークを導入したからといって、すべてが自動的にうまくいくわけではありません。いくつか典型的な落とし穴とその対策を紹介します。

  • 1. リーチを過大評価する
    ユーザー調査やインタビューを怠り、「多くの人が使ってくれるはず」という希望的観測に陥るパターン。定量データとユーザーインタビューの乖離を防ぐ意味でも、実測データに基づく見積もりが重要。
  • 2. Confidenceを雑に見積もる
    明確な根拠がないまま「80%ぐらいかな」と設定するケース。PoCやA/Bテスト、小規模ユーザーヒアリングを行い、実際の数字をなるべく早期にとる。
  • 3. Effortを楽観視しすぎる
    開発チームの見積もりをしっかりヒアリングしないまま進め、後で大幅な工数超過が判明する。アジャイルでもウォーターフォールでも、過去類似タスクの実績を振り返る癖をつける。
  • 4. スコアに固執して柔軟性を失う
    RICEスコアはあくまで意思決定の材料。戦略的に最優先するべき施策が他にある場合もあり得るため、「数値は全体最適化の一要素」という認識を共有する。

RICEと他の優先順位フレームワークとの組み合わせ方

RICE以外にも、優先度付けに使われるフレームワークは複数あります。代表例は以下。

  • ICE:インパクト・信頼度・労力をもとにスコアリングする
  • MoSCoW:Must, Should, Could, Won’tの4区分で要件を整理
  • Kanoモデル:ユーザーが求める機能を「当たり前品質」「魅力的品質」などに分類

MoSCoWやKanoは定性的な評価に強く、顧客満足度の観点から機能を分類するときに有効。一方、RICEは数値化による客観性を重視するフレームワークです。どちらが優れているかではなく、プロダクトのフェーズやチーム体制に合わせて、相互補完的に活用することもあります。

また、アイデアをそもそもどう管理するかは、「アイデアマネジメント」を活用したプロセスが参考になると思います!

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明日から取り組めるアクションとツール

1. RICEテンプレートを作る
GoogleスプレッドシートやExcelで、Reach・Impact・Confidence・Effortの4列を用意し、それぞれに算出方法を記入したテンプレートを作成してみてください。施策名やメモ欄も加えておくと便利です。

2. チームで1つの機能だけスコアリング
すでに要望がある機能を1つ選び、RICEを試しに当てはめてみます。どのデータを参照すべきか、誰にヒアリングすべきかを話し合うだけでも、チーム内認識をそろえる効果があります。

3. スモールPoCでConfidenceを上げる
もしConfidenceが低いなら、小規模実験や短期リサーチを実施します。プロトタイプを使ったユーザーインタビューや、限定ユーザーへのベータテストなどを実行し、定量・定性データを素早く回収するのがポイントです。

4. 定期レビュー会を設定
RICEスコアは一度算出して終わりではありません。施策が進むなかで新しい情報が得られたり、マーケット環境が変わったりすることもあるため、スプリントや月次レビューなどで継続的に見直してください。

Q&A

Q1. RICEスコアだけですべて決めていいのでしょうか?
A1. RICEはあくまで意思決定をサポートするフレームワークです。事業戦略や将来のビジョンがあり、時にはRICEスコアが高くなくても取り組むべき施策が存在します。スコアが高いものを中心に検討しつつ、最終判断は経営戦略やチームビジョンとの整合性も考慮すると良いです。

Q2. Confidenceの数値化が難しいと感じます
A2. Confidenceは完全に定量化が難しい領域です。近しい事例や競合分析、ユーザーテストなどで裏付けを積み上げると良いでしょう。また、Confidenceを低めに設定しておいて、PoCや短期検証を行い、情報が集まった時点で再スコアリングするアプローチもあります。

Q3. Effortの見積もりがどうしてもズレます…
A3. 開発経験の少ないPdMが陥りやすい課題です。できるだけエンジニアやデザイナーなど、実装担当者にヒアリングし、過去の類似実装ケースと比較してみてください。また、アジャイル手法を取り入れて、機能を小さく切り出して実装・テストを繰り返すことで、大幅な見積もりズレを回避できます。

参考情報

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