いま、どんなWebサービスやアプリを見ても、レコメンドシステムを導入するのが当たり前になっていますよね。
ユーザーが能動的に探さなくてもコンテンツなどをおすすめしてくれる機能は受動的かつ楽なUXで、ユーザー体験を大きく向上させます。一方で、データだけに頼ったレコメンドでは、ユーザーの心理や背景を十分に捉えきれない場合があり、的外れな提案でUXを損ねることもあります。
そこで欠かせないのが「ユーザーインタビュー」を組み合わせるアプローチです。定量的な行動ログやアルゴリズムの知見に加え、“なぜこれを選んだか”という定性的な理由を把握することで、本当に刺さるレコメンド設計が可能になります。
レコメンド系強いPMってあんまり「ユーザーリサーチごりごりやるぜ」って人が少ないイメージがあるので、定性をきちんとした方法論で集めて仮説生成・深化できるスキルは強みになると思います。
PMにとってのレコメンドシステム
レコメンドシステムは、ユーザーに合った情報・コンテンツ・製品を自動的に提示するための仕組みです。ざっくりわけて、以下のような代表的な手法があります。
- 協調フィルタリング
- 似た嗜好や行動履歴をもつユーザー同士のデータを利用する方式
- ex)「この商品を買った人は、こんな商品も買っています」
- コンテンツベースフィルタリング
- アイテムそのものの特徴量(ジャンル、キーワード、カテゴリーなど)に基づいて、ユーザーが好みそうな関連アイテムを提示する方式
- ハイブリッド手法
- 上記2つのアプローチを組み合わせ、精度向上や弱点補強を狙う
PMの立場から見ると、レコメンドシステムを導入すれば、ユーザー1人ひとりに合わせた体験を自動的に提供し、プロダクトの継続利用や売上増加につなげやすいメリットがあります。ただし、「どのアルゴリズムを使うか」「どうデータを集めて活用するか」というテクニカルな課題だけでなく、「顔がわかって名前が思い出せるN = 1のユーザーが本当に欲しいものを推薦できているのか?」を検証する仕組みが欠かせないと僕は考えています。
僕の感覚では、好きな人への誕生日プレゼントを思い浮かべるとわかりやすいなと思っていて。
- 検索などユーザーが能動的に条件を入れて探すパターン:要望にまっすぐ応えたプレゼントを用意する
- ユーザー自身も何が欲しいかわかっていない受動パターン:「その人」のことをこれでもか!というくらい理解して至極のサプライズとプレゼントを用意する
こう考えると、推薦システムによって提供されるコンテンツなどは後者のプレゼントに該当しますが、好きな人にプレゼント用意するときにその人の顔や性格、行動、周辺環境がわからなかったらおすすめしようがないですよね。レコメンドシステムを担当するPMにとって、定期的にN1の声を集めることは「必要」ではなく、「必須」なんだと僕は思います。
レコメンドシステムでUX向上とエンゲージメント強化
レコメンドシステムのデメリットとして、提示されたレコメンドが的外れだった場合は、かえってユーザーを混乱させ、離脱につながりかねません。
例えば求人サイトで以下のような状態が続けてユーザーが使う価値を感じなくなることは容易に想像できるでしょう。
- 「興味がない求人情報ばかりおすすめされる」
- 「学びたいスキルとは別の内容を強くプッシュされる」
だからこそ、データやアルゴリズムの理解やアイデアメイキングだけでなく、ユーザー自身の動機や意図を深堀りするインタビューがカギになります。行動ログからはわからない事実、インサイト、裏タスクを知ることで、本当にユーザーが求めるレコメンドをデザインしやすくなります。
裏タスクについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

行動ログだけでは見えない“選択理由”や“心理”
レコメンドされた結果のクリックやCV、サイト内の行動ログを追っているだけではユーザーの背景や感情が読み取れません。
「なぜそうしたのか?」が曖昧になってしまうのです。たとえば「Aというコンテンツをクリックしたあと、BというコンテンツにCVしたが、その後みたCは3回みたのに離脱した」だけでは、「なぜBにCVしたのか、AとCはCVしなかったのか」が分かりません。
とくに、レコメンドに対するユーザーの心理的抵抗や驚きを拾うのは大切です。
- 「確かに直近同じようなコンテンツをクリックしていたけど、xxxという事象で興味が変わった」
- 「このジャンルは嫌いなのに最初にレコメンドされて萎えた」
- 「見ようと思ってクリックしたけど読み込みが長すぎてやめた」
- 「あー、今言われたら良いけど画像がガビガビでスルーしました」
などの感覚やフィードバックをインタビューで得ることができれば、UI設計やレコメンドのロジックを見直す手掛かりが得られます。
レコメンドの説明可能性(Explainability)
また、「レコメンド結果がユーザーにとって分かりやすいかどうか」も重視されるようになっています。ブラックボックス的に提示されると、ユーザーは「なぜこれが出てくるんだろう」と疑問や不信感を持ちやすいです。そこで、レコメンドの説明可能性(Explainability)を高めるために
- 「あなたと似た嗜好を持つユーザーもこれを選んでいます」
- 「あなたがこれまで興味を示したカテゴリに基づいてレコメンドしています」
といった根拠をUIに表示する動きが増えています。つまりレコメンドシステムの根拠をユーザーに占めるためにUIUX側に能動的に染み出して効果をあげる必要があるのです。
この説明可能性を検証する手段としても、ユーザーインタビューは有効。
たとえば、インタビューで
- 「この表示文言が意味していることを私(インタビュアー)に対して説明してみてください」
- 「コンテンツ1つ1つを0-10で評価してその理由も聞かせてください」
- 「もっと詳しく理由を知りたい部分はあるか」
- 「(競合サービスと並べて上から推薦コンテンツを1つ1つ比べながら)どちらが納得できる推薦か?それはなぜか?」
などと尋ねることで、改善点や追加すべき情報が浮き彫りになります。
では、インタビューレコメンドの質を高めるために何を聞くべきか?
ユーザーインタビューでの質問設計は、レコメンドの精度を上げるために不可欠です。僕が意識している問いかけの例を挙げます。
- 「普段、どのような場面でこのプロダクトを使うか」
時間帯や場所、使うきっかけなどを掘り下げ、ユーザーの利用文脈を把握する - 「他にはどんなサービス・ツールを使っているか」
プロダクト外の選択肢を知ることで、競合や代替手段、併用の可能性が見える - 「(上から順に)上から連続で1つ1つのコンテンツの好みの度合いを0-10で教えてください」
1つ1つのコンテンツに興味を持ったか、嫌悪感があったか、理由は何かを聞いて、レコメンドの心理的影響を評価 - 「(行動観察の後に)なぜそのコンテンツを選択したか」
行動ログだけではわからない“本当の目的”や“裏タスク”を突き止める - 「(競合サービスと並べて上から推薦コンテンツを1つ1つ比べながら)どちらが納得できる推薦か?それはなぜか?」
競合比で良い、納得できる推薦ができているかを確認する
こうした質問を通じて「ユーザーの環境・目的」「レコメンドへの感情的な反応」「代替案の検討状況」などを具体的に知ると、レコメンド精度向上のヒントが多数得られます。より体系的な質問例は「ユーザーインタビューの質問項目大全」でも紹介していますので、あわせて参照してください。

インタビュー後にレコメンドシステムを改修する
レコメンドシステムとユーザーインタビューをどのように連携させればよいか。以下のような流れが一般的です。
1. ログ分析で主要な行動パターンやクラスタを見つける
たとえば、購入履歴や閲覧履歴から「頻繁に使っているユーザー群」と「滞在時間は長いがアクションが少ないユーザー群」などを分類する。
2. 対象ユーザーをリクルーティングし、インタビューを実施
各クラスタから数名ずつインタビューし、実際の利用シーンや心理背景を深掘りする。リクルーティング方法については「ユーザーインタビューでのユーザー集めの方法と成功/失敗事例」も参考にしてください。

3. インタビュー結果をアルゴリズム調整やUI改善にフィードバック
たとえば、説明文を追加したり、関連アイテムをもう少し広めに提示したりする。フィルタバブルを回避する仕掛けも取り入れる。このときに、RICEなどのフレームで優先順位をつけて、「ユーザーのいったこと全部やるマン」にならなうようにしましょう。
4. リリース後の評価を再度インタビューやログで検証
ユーザーが変更点をどう受け止めたかを確かめ、さらに改良を重ねる。
コールドスタート問題と初期インタビューの大切さ
また、レコメンドシステムを導入する際、ネックになりがちなのがコールドスタート問題。新規ユーザーのデータが不足していると、アルゴリズムがうまく動かない状況です。これを解決する一つの方法が、初期オンボーディングでアンケートや短時間のインタビューを組み合わせること。
ユーザーにある程度の質問に答えてもらい、ざっくりと嗜好やニーズを把握しておくと、レコメンドの初期精度を底上げできます。例えば、登録時に「目的」「興味分野」「現在抱えている課題」などを入力してもらい、それを起点にアルゴリズムを起動させる仕組みを作るなどです。
ただし、これは
- ユーザーに回答してもらえればもらえるほどレコメンド精度は上げやすい
- 一方で回答負荷を増やすと離脱や雑に回答される率が上がる
というトレードオフがあるので、インタビューやABテストで最適なバランス(何問以内 / 何分以内)を探りましょう。
バイアス(フィルタバブル)を防ぐには
さらに、レコメンドシステムが強力になるほど、ユーザーが同じ属性のコンテンツばかりを見続ける危険性が高まる現象が存在します。これが「フィルタバブル」と呼ばれる現象で、ユーザー視野が狭まるだけでなく、体験としてもマンネリ化しがちになる(新しい発見がない)。
レコメンドシステムにおける探索性の重要さについてはこちらのスライドにとてもわかりやすくまとまっているもので是非読んてみください
防止策としては
- 関連性の高いアイテムだけでなく、ユーザーがまだ試したことのない領域をあえて提示する
- ランダム性を少し混ぜる
などのアルゴリズム工夫があります。
これらの探知のためにも、インタビューで
- 「他ジャンルに興味はないか?」
- 「他サービスなどで日常的に消費しているコンテンツは?」
などを定期的に聞くことが重要。ユーザーが想定外の発見を求めている場合は、適度に“サプライズ”を演出するレコメンドが喜ばれるケースもあります。
この辺りのレコメンドシステムを理解するために以下の書籍がおすすめです。
参考情報
・Ricci, F., Rokach, L., & Shapira, B. (2015). Recommender Systems Handbook (2nd ed.). Springer.
・Resnick, P., & Varian, H. R. (1997). Recommender Systems. Communications of the ACM.
・Gómez-Uribe, C. A., & Hunt, N. (2015). The Netflix Recommender System. ACM Transactions on Management Information Systems.
・O’Donovan, J., & Smyth, B. (2005). Trust in Recommender Systems. Proceedings of the 10th International Conference on Intelligent User Interfaces.
今日から実践できるアクション
1. オンボーディング時のアンケート設計:新規ユーザーに趣味や目的を軽く尋ねるだけで、初期レコメンドの精度が高まり、コールドスタートを緩和できる。
2. 行動ログのパターン分析:利用頻度や滞在時間、機能の使用状況からユーザー群を分類し、それぞれ代表者をインタビュー。
3. レコメンド理由をUIで説明:簡単なラベルやポップアップを設けて、ユーザーが「なぜこれが提示されたか」を理解できるようにする。
4. フィルタバブル対策のヒアリング:ユーザーに「新しいジャンルの提案が欲しいか」を聞き、あえて異なるジャンルの要素を混ぜるアルゴリズムを検討。
5. PDCAの継続的サイクル:UI変更やレコメンド手法の改善後も、ログとインタビューを組み合わせて効果を検証し、さらに改善点を洗い出す。
Q&A
Q1. レコメンドシステムを導入する際に、特別なエンジニアリングスキルは必要ですか?
A. ある程度のデータサイエンスや機械学習の知識はあったほうが良いと思いますが、僕もめっちゃくちゃ勉強中です。僕はレコメンドシステムや統計周りの本を20-30冊読む形でキャッチアップしました。
Q2. インタビューはどのタイミングで行うべきですか?
A. 大きく分けて2つのタイミングがあります。新規ユーザーの登録時(コールドスタート対策)と、行動パターンが安定してきたユーザーへの継続インタビューです。両方を組み合わせると効果的です。
Q3. フィルタバブルを避けるとレコメンド精度が下がりませんか?
A. 短期的には関連性が下がる場合がありますが、長期的にはユーザーの満足度や発見の楽しさを維持するために必要です。ランダム性や多様性を一部取り入れて試験的に運用し、インタビューで反応を確認するのがおすすめです。長期効果を測る指標を設定しましょう。
Q4. レコメンドの“説明”を入れすぎるとUIが複雑になりませんか?
A. 仰る通り機能過多は逆効果です。ユーザーインタビューで「どの程度の説明が最低限必要か?」を探り、一番必要な要素だけを優先的に表示する方法が良いです。最小限の説明でも納得感を得られるケースは多いです。
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