ユーザーインタビューはPMにとって必須アクション。ただ、「どんな質問をすればいいのか」「本音を引き出すにはどうすればいいのか」など、迷うポイントは多いはず。本記事では、『起業の科学』やFoundXのノウハウ、The Mom Testなどの知見をもとに、具体的な質問項目や設計手法を紹介します。インタビュー対象者のリクルーティング数から質問設計、当日の進め方、そして分析・活用までを網羅して解説。今日から仕事に取り入れられる実践的な方法を盛り込みました。
ユーザーインタビューが重要な理由
「ユーザーインタビューで聞いたから間違いない」と思いたくなりますが、ユーザーは未来を語れないという鉄則があります(語らない、ではなく語れない)。
実際、「こんな機能があったら使いますか?」と質問すると、「あったらいいかも」と抽象的に肯定されがち。しかし、そのユーザーが課金するかと言えば別問題。
そこで重要なのが、ユーザーの“過去の具体的な行動”や“最近の課題”を掘り下げることです。抽象的な希望ではなく、直近の事実からユーザーが本当に求めているニーズや課題を見つけ出すことが鍵となります。
さらに、『起業の科学』やFoundX、Y Combinatorなど、多くのスタートアップ向けリソースでも「顧客と話せ」「課題を聞け」と強調されています。真の顧客ニーズを捉えることで、後々の開発・マーケティング施策のロスを大幅に減らせます。
ユーザーインタビュー全体の流れや実施手順のポイントについては、「ユーザーインタビューガイド」の記事もぜひあわせてご覧ください。
質問項目を設計するための基本原則
とにかく、事実を徹底的に聞く
インタビューでは「もし○○があったらどう思いますか?」ではなく、「直近いつ、どんな場面で困りましたか?」のように、ユーザーが体験した事実を尋ねることが肝心です。たとえば「使いたい機能」を直接聞くのではなく、「その課題を解決しようとして今までに試した方法は?」と掘り下げることで、現行の課題と既存の代替策を理解できます。
課題の大きさを知りたければ、「その問題はご自身にとってどのくらい大きいですか?」と聞く代わりに「直近1ヶ月でその問題を解決するためにいくら使いましたか?」と聞きましょう。
ユーザー本人も認識していないインサイトを探る
ユーザーは自分の課題や行動理由を言語化できないことも多いです。たとえばカスタマーが「自分は気にしていない」と言っていても、実は裏に強いニーズが潜んでいる場合があります。
「なぜ?」「どうしてそう思った?」「直近の具体例は?」と深掘り質問をしながら、表面的な回答の奥にあるインサイトを探るのがプロダクトマネージャーの腕の見せどころです。
インタビューの中で矛盾する発言が出たらインサイト発掘のチャンスなので深掘りましょう。
NG質問を避ける
- 「どんな機能があったら使いますか?」
未来の可能性を尋ねても無駄。 - 「○○という課題、ありますよね?(ないですよね?)」
ユーザーに“Yes/No”で答えさせる誘導質問は危険。 - 「どうすれば解決しますか?」
ソリューション案を直接たずねると、想像ベースの答えになりがち。
具体的な質問項目リスト(課題インタビュー編)
課題検証インタビューでは「何が欲しいか」を聞くのではなく、「どんな課題を抱えているか」をファクトベースで深掘りします。以下、代表的な質問項目例です。
現状把握の質問
- 「直近で◯◯に困ったのはいつですか? その時の状況を詳しく教えてください」
- 「その課題を放置すると、どんな悪影響がありますか?」
解決策の探索歴・既存代替の質問
- 「その課題を解決するために今までどんな方法を試しましたか?」
- 「試した方法の中で、一番手間やコストがかかったものは何ですか? なぜうまくいかなかったのでしょう?」
- 「既存のサービスやプロダクト、あるいはエクセルや手作業など、どのように解決していましたか?」
優先度や心理的背景の質問
- 「その課題をどれくらい早く解決したいと思いますか?(時間・コストをかけられる度合い)」
- 「実際にこの1ヶ月でこの問題解決のためにどのくらいのお金を払いましたか?」
- 「この問題にお金を払うときに登場する関係者はいますか?」
具体的な質問項目リスト(ソリューションインタビュー編)
課題インタビューで一定の確信を得たら、試作のプロトタイプや概念をぶつける「ソリューションインタビュー」に移ります。
ただしここでも、あくまで過去や現実と照らし合わせて感想を引き出すのがポイント。「もしあったら使う?」ではなく、利用シーンをイメージできるように工夫します。
ソリューション理解を促す質問
- 「これが実際に動いているとして、1週間のなかでどのタイミングで使いそうですか?」
- 「今使っている○○(現行の代替策)と比べて、何が違うと思いますか?」
障壁・懸念点の質問
- 「実際に使ううえで、一番の懸念点は何ですか?」
- 「導入するとしたら、どんなステップを踏まないといけませんか?」
- 「ここが改善されないと導入しない、と操作している時に思った点を教えてください」
価格・バリュー検証の質問
- 「この機能に月◯円の予算を割く予算や既存の支出はありますか?」
- 「支払いの決裁権はあなたにありますか? どの部署・誰がゴーサインを出しますか?」
- 「この導入を説明する際に、なんの成果や指標で効果が測られますか?」
インタビュー後の分析と次のアクション
インタビューは実施して終わりではありません。分析とチームへの共有が重要です。具体的には以下のステップが代表的です。
- 即日振り返り: インタビュー直後に必ずインタビュー実施者同士で気づきを共有する
- 事実ベースのメモ整理: ユーザーのセリフ(過去事例や行動)を、インサイトと仮説に仕分け
- 上位下位分析やJTBDフレームでインサイト化: 行動と心理を整理し、共通パターンを抽出
- 次のインタビュー設計やプロトタイプ改善への反映
この一連の分析・改善サイクルを回すことで、ユーザー理解の精度が飛躍的に高まるだけでなく、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)に近づく道筋も早期に見えてきます。
今日から実践できるアクション
- ① 「事実ベース」を意識した質問票を作る
「いつ・どこで・誰と・どんな課題に直面したのか」を掘り下げる構成にするだけでも、得られる情報の質は格段に上がります。 - ② インタビュー対象者を明確にセグメント分け
ペルソナごとに5名程度を目標にインタビューし、一通り回ったらすぐ分析。仮説の精度が明確に変わります。 - ③ インタビュー直後の「短時間振り返り」を習慣化
チームメンバーと認識を合わせ、すぐに仮説修正や質問の見直しを行う。早いサイクルが効果的です。
Q&A
- Q1. ユーザーに「どんな機能が欲しいか」を聞いてはダメなの?
- A. 絶対ダメではありませんが、まずは「課題」の把握が最優先。ユーザーが思いつく機能は、過去の体験をベースにした“想像”なので、真に求めるものとズレている場合が多々あります。
- Q2. 最低何人くらいインタビューをすればいいですか?
- A. 1セグメントあたり目安5〜10名という意見が多数派です。ニールセンの研究では「5人で85%のUX課題を発見できる」との指摘も。ただし、複数セグメントに分ける場合は各セグメントで5名ほどを行い、段階的に検証していくのが効率的です。
- Q3. インタビュー時にユーザーが本音を話してくれない気がします…
- A. 「ぶっちゃけどうですか?」と掘り下げたり、「事実」や「具体的にあったこと」を聞くと答えやすくなります。また、最初に「これはあくまでドキュメンタリーを撮るようなもの」と伝えて、ユーザーが気楽に話せる雰囲気を作るのも効果的です。
参考情報
- 田所雅之『起業の科学』(日経BP)
- Rob Fitzpatrick『The Mom Test』
- FounderX | スタートアップ向け「顧客インタビュー」のおすすめ記事一覧
- Y Combinator Startup School
- Jakob Nielsen Guerrilla HCI
- Shin「全PMが知るべき『本当の課題』を知るユーザーヒアリング手順と失敗例まとめ」
- ハヤカワカズキ「実践的ジョブ理論③〜ユーザーインタビューにおける質問票の作り方」
- Jakob Nielsen「定量調査: 何人のユーザでテストすればよいか」