プロダクトチームの運営において、よく耳にするのが「心理的安全性」という言葉。
心理的安全性は、アメリカのハーバード大学教授であるエイミー・エドモンドソン氏が提唱した概念で、「集団の中でお互いが安心して発言し、失敗や批判を恐れずに学習と改善を続けられる状態」を指すとされます。
Googleが行ったプロジェクト・アリストテレスでも、高パフォーマンスを出すチームには心理的安全性が高い共通点があると報告されました。要するに、メンバーが高い当たり前基準を持った上で自由にアイデアを出したり、問題を率直に指摘し合えたりする雰囲気こそが、組織を強くするカギ。
なぜPMが心理的安全性を重視すべきか?
PMが心理的安全性を理解することは当たり前ですが重要で、その背景として以下のような構図があります。
- 仮説検証を高速に回すためには、試行錯誤や失敗が不可避で、試行錯誤のために責める文化だとチームが持たない
- 複数ステークホルダーで意見のコンフリクトは日常茶飯事でうまくやらないとチームが瓦解する
- チーム内に「意見を言えない雰囲気」があると指摘すれば解消した事故や不要な機能リリースが増える
- 自主的な新しいアイデアを歓迎する文化がないと、PM1人の独善的な判断軸でのプロダクト運営になり行き詰まる
心理的安全性はあくまで手段であり、目的はチームとして結果を出すこと。だけど、その手段を整えないまま高速に開発を進めようとしても、組織が追いつかないリスクが高いとあるとも思っています。
PMは、事業責任者やエンジニアリーダーなどの力を借りながら「心理的安全性に支えられた仮説検証の高速回転」が実現できる環境構築に努めるべきだな、と思っています(自戒の念を込めて9。
海外事例:フラットコミュニケーションが高速開発を可能にしたケース
海外の事例を一つ紹介します。米国のソフトウェア企業で、チーム内では「Daily Check-in」と呼ばれる10分程度の定例ミーティングを毎朝実施。ここで何をやるかというと、「前日の失敗や困ったことを率直に共有してアイデアを募る」時間に充てているそう。
誰かがエラーを出したとしても糾弾はせず、「じゃあどう直す?」とすぐに建設的な会話が始まる。結果として実験が止まらず、リリースサイクルも速い。このチームはフラットなコミュニケーションを維持し、開発期間をほかのチームより2~3割短縮できているとのことです。
PMができるリーダーシップアクション
心理的安全性を高めるために、僕たちプロダクトマネージャーが実践できるアクションは意外と多いと思っています。以下に4つほど挙げてみます。
1. 定例会のファシリテート術を磨く
定例MTGで「この取り組みが失敗だったかもしれない」という声が上がるなら大チャンス。すぐに次のステップや原因分析に移り、否定ではなく「次に何を試す?」と問いかけるファシリテートが大切。
ファシリテーションのゴールは結論を出すことだけではなく、安心感をつくり、メンバーから多様な視点を引き出すことだと僕は考えています。
2. インタビュー結果の共有方法
ユーザーインタビューを実施した際は、なるべく速やかにチーム内に共有し、議論のきっかけにする。失敗や不都合なフィードバックがあっても隠さない。むしろインタビューのログや要点を整理して「ここが課題だよね」と共有する姿勢が、チームの心理的安全性を高める。
また、速やかな共有を助けるために、ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする方法などのツールも活用すると良いです。やり取りを簡単に可視化し、メンバー全員がそれを見られるようにしておくと「言い出しづらさ」も減っていくと感じます。

3. 失敗のプロセスを表彰する
海外の企業で「Best Failed Experiment Award」という制度を導入している例があるように、失敗した実験が組織に学びをもたらすなら、むしろ称賛するくらいでちょうどいい。PMとしては、リーダーシップをもって「良い失敗だったね」と言ってあげられるかがカギになります。
4. フィードバック・ループの設計
ユーザーの声や開発中の課題をすぐにチームへフィードバックし、改善した結果をまたユーザーインタビューやログで検証する循環を作る。これこそが高速実験と学習を実現する原動力。
仮にインタビューで厳しい意見をもらっても、心理的安全性が高ければ「そういう意見があるのか、じゃあ試してみよう」と肯定的に捉えやすい。結局はカルチャーと仕組みの両面があって初めて高速実験が回ります。
まとめ:心理的安全性が高速実験を駆動する
心理的安全性は「失敗を恐れずに試せる雰囲気づくり」と言い換えてもいいかもしれません。プロダクトマネージャーがリリースサイクルを速めたい、仮説検証を高速で回したいと思うなら、そのための土台となるのが心理的安全性。
ここが欠けていると、誰も本音で意見を言わなくなり、リスクのある実験ができなくなる。結果として革新的なプロダクトにならず、「無難だけど面白くない」という状態に陥りやすい。
逆にここを大切にすることで、メンバーは自分のアイデアを惜しみなく出し、ユーザーインタビューで得た厳しい意見も素直に共有するようになる。そうやってたくさんの情報が集まれば、PMとしても事業を伸ばすためのネタが増えるわけです。
この心理的安全性の構築は僕自身も頑張っていきたいテーマなので、PMのみなさんぜひ一緒に失敗も共有しながら頑張っていきましょう!
最後に、心理的安全性をもっと知りたい、と思ったらこの辺りの本が面白かったのでおすすめです。
今日から実践できるアクション
- チームの定例会で「最近失敗したこと」を共有する時間を設け、否定ではなく改善案を最初に出すルールを加える
- ユーザーインタビューの結果はスピーディーに共有し、失敗や不都合な声ほどオープンにしやすい文化をつくる
- チャットやドキュメントで進行中の実験状況を常に可視化し、誰でも質問や意見を言いやすくする
- 失敗が大きな学びにつながった事例をチーム内で表彰し、称賛する取り組みを試してみる
- もし時間があれば、経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方を改めて読んでみる。フラットな議論を起こすヒントが見つかるはず
Q&A
- Q. 「心理的安全性」が浸透しすぎると甘えが生まれるのでは?
- A. 安心感と甘えは違います。失敗を許すだけでなく、常に学びを促すプロセスとセットにしてこそ成長が生まれます。問題提起と改善策を見つける意識があれば単なる甘えにはならないはずです。心理的安全性の正確な定義でも、「高い基準」は必要であると言及されています。
- Q. チームで意見を言うのが苦手なメンバーが多いときはどうすればいい?
- A. まず1on1や小規模の場で質問・意見を引き出すところから始めてみてください。また、書き込み形式やオンラインツールを使って匿名で意見を募集するのも有効です。
- Q. 開発リソースや納期が厳しいときに、実験的なトライをする余裕はあるのか?
- A. リソースが厳しい状況こそ、小さな検証で早期に失敗を発見することが重要です。心理的安全性が低いと大掛かりなリリースに踏み切ってから失敗に気づき、ダメージが大きくなるリスクがあります。
参考情報
- Edmondson, A. C. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly.
- Google, “Project Aristotle” (2012-2014) – 高パフォーマンスチームに関する研究
- 経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方・使い方
- ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説
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