プロダクトマネージャー(PM)は、市場調査からアイデア創出、仕様書作成、チーム調整など多岐にわたる業務を担っています。ここ数年、ChatGPTなど生成AIツールが注目され、PMの生産性向上や意思決定の速度・質が上がった、と個人的には実感しています。
そこで本記事では、生成AIを業務に取り入れる具体的な手順や活用シーンを、実例や研究結果も交えて解説します。今日から使える実践的なアドバイスやよくある疑問への回答も掲載しているので、ぜひ参考にしてください。
1. 市場調査や競合分析に活用する
1-1. 具体的なリサーチ手法と活用ステップ
市場調査や競合分析は、PMにとって最初の重要タスクですが、その作業量は膨大です。たとえば競合他社のサイト、製品レビュー、SNS上の評判、業界レポートを一つひとつ読み込むのは時間がかかります。そこで生成AIに以下の手順で依頼すると、効率よく要点をまとめられます。
- 資料収集:まずは競合製品サイトやユーザーレビュー、記事URL、ユーザーインタビューのログなどの情報ソースをリスト化します。
例:「競合AのサイトURL」「ユーザーが書いた口コミ5件」「業界調査レポートのハイライト」「SNSでの評判キーワード」など。
Point:ここはGPTのDeep Researchがやはり最強です(個人的にProプランに課金してヘビーユースしています) - 要約指示:生成AI(ChatGPTなど)に対し「以下に示す情報ソースを総合的に見て、競合Aの強み・弱み・価格帯・サポート体制をまとめてください」とプロンプトを設定。リスト化した情報を会話の続きとして貼り付けます。
- 比較観点の提示:さらに「製品機能・UI/UX・価格プラン・顧客サポートの4点に分けて比較して」「どのユーザ層に刺さりやすいかを推測して」といった詳細条件を追加オーダーします。
- レビューと追記:生成AIが出力した要約をチェックし、誤りがあれば修正し、独自の見解や社内ノウハウを加味して最終レポートを完成させます。
Point:どれだけ尖った視点を出せるか?はインプットできる情報の質によるので、会社のレギュレーションを確認した上で可能であればネットにない情報をインプットしましょう
上記の流れであれば、PMは情報の「最終判断者」として機能しつつ、要点要約の時間を短縮できます。
実例として、あるSaaS系スタートアップのPMが同様のフローで競合3社を比較したところ、1日かかるはずの調査作業を半日に圧縮できたという報告があります。[1]
1-2. 潜在ニーズの発掘に有効
レビューサイトやユーザーコミュニティに書き込まれる声は多種多様ですが、そこにこそ競合製品への不満や未充足ニーズのヒントが埋まっています。たとえば下記のように指示すると、隠れたニーズを抽出しやすくなります。
「以下の口コミ20件のうち、最も頻繁に登場する不満点と、その背景を推測して提案できる解決策を3つ挙げてください」
こうすることで、なぜユーザーが競合製品を使い続けているのか、どの機能に不満を感じているのかを短時間で把握でき、差別化戦略に活かせます。
2. 新機能アイデアのブレインストーミング
2-1. アイデア創出プロンプトの具体例
PMは新機能を考える段階で、「そもそもユーザーはどの場面で課題を感じるか」「既存機能との相乗効果は?」といった幅広いアイデア出しを行います。ここに生成AIを組み合わせると、従来の発想にないインスピレーションが得られるケースがあります。
たとえば、下記のようなプロンプトを与えると効果的です。
- 「当社のターゲットユーザーは30代のビジネスマン。毎日のスケジュール管理をもっと楽にするアイデアを10個、SNS連携を前提にして提案してください」
- 「今あるA機能とB機能の接続を強化するにはどんな方法がありますか?活用シーンと潜在的な障壁を併せて5パターン出してください」
point:ターゲットやこのブレストをしている「背景情報」をとにかく具体的、かつ解像度高くインプットしてあげてください。PCでキーボードカタカタしていると疲れるので音声入力がおすすめ。音声入力 x 生成AIは感動モノです。
2-2. AI主導のブレストを検証・深堀り
アイデアが出てきたら、PMとチームはそれを即座に検証しましょう。AIの提案を鵜呑みにせず、ユーザーニーズとの整合性や実装コスト、既存プロダクトとの親和性などを確認します。
例えばあるヘルスケアアプリでは、AIから提案された「歩数データに基づくユーザー同士のランキング機能」が社内で議論を呼び、実装の候補になりました。ユーザーが競争要素を好むという仮説をデータで裏付け、開発リソースを計画的に割り振ったそうです。[2]
point:ICEスコアをつけるところまでをやってもらい、それを人が修正するようにすると優先順位がスムーズにつけられるようになります
3. 仕様書やドキュメントの初稿作成
3-1. PRD(製品要件文書)作成の具体ステップ
PMが面倒と感じることが多いのが、長文ドキュメントの作成です。ChatGPTなどの生成AIを活用すると、以下の手順でPRDを効率よく完成させられます。
- 必要情報の整理:まず、ユーザーストーリー・想定ユースケース・機能要件・優先度・KPIなど、PRDに書くべき要素を箇条書きにして整理。
- AIへの入力:「これらの機能要件リストとKPIをベースにPRDの初稿を作ってください。章立ては“概要”“ユーザーストーリー”“主要機能”“KPIと評価方法”の順で」と明確に指示。
- 生成結果のレビュー:出力されたPRDをチェックし、事実誤認や不足事項を洗い出して追記・修正。ドキュメントのフォーマットを自社の標準に合わせる。
このフローを守ると、PRDの作成時間が従来の半分以下になったというPMの声もあります。文章作成の手間を省き、そのぶん市場検証やユーザーインタビューなどに注力できるのが大きなメリットです。[3]
point:(レギュレーションを確認した上で)社内の既存PRDの中の特に出来が良いものと関連する機能に言及されているものをインプットするとスムーズです
3-2. リリースノートやヘルプコンテンツへの転用
PRDと同様、リリースノートやヘルプページ、FAQなどの作成にもAIが有効です。
「今回のリリースで追加された3つの新機能について、ユーザー向けに分かりやすく説明する文面を作ってください。専門用語を避けて初心者向けのトーンで」という指示をすると、初稿が短時間で完成。PMは最終チェックで正確性やブランドトーンの整合性を確認するだけで済みます。
Pacer HealthのPMはこの手法でリリースノート作成を定型化し、1回あたり30〜60分の時短に成功したと報告しています。[4]
4. ミーティング議事録・チーム連絡の効率化
4-1. 会議録の自動生成で抜け漏れ防止
会議では多くのアイデアや課題が議論されるため、議事録が正確に残っていないと後々の混乱につながります。文字起こしツールと生成AIを組み合わせれば、一連のフローが以下のように改善されます。
- 録音やオンライン会議の文字起こしを自動生成(Zoomなどに搭載の機能、あるいは外部のトランスクリプションツールを利用)。
- 生成された文字起こしデータをChatGPTに投入し、「今回の会議の重要トピックを3つに絞り、各トピックに紐づくアクションアイテムをまとめてください」と依頼。
- 出力結果をPMが確認し、不明点や不足事項を追記し最終版として社内共有。
あるスタートアップのPMは、議事録作成が週5時間ほどかかっていたのが2時間弱に減ったと証言しており、特にリモートワーク下では重宝しているといいます。[5]
Point:筆者の会社はCopilotが使えるのですがこれがめちゃ便利でteams見直しました
4-2. ステークホルダー別の連絡文面を一括生成
PMは経営陣、営業、エンジニア、デザイナーなど異なるバックグラウンドを持つメンバーへ同じ内容をそれぞれ別の切り口で伝える必要があります。
たとえば「経営陣向けには売上インパクトとリソース配分の観点を強調。エンジニア向けには技術的リスクと依存関係を強調して」と指示すれば、生成AIが複数バージョンの連絡文案を瞬時に準備してくれます。PMは最後に事実確認とニュアンス調整を行うだけなので、コミュニケーション工数が激減します。
5. ユーザーフィードバックの要約・分析
5-1. 膨大なフィードバックをカテゴリ分類
ユーザーフィードバックが増えると、全件を人力で読んで分類するのは現実的ではありません。そこで「このテキスト群を、主要なクレーム内容別に分類し、頻度を集計して。それぞれのクレームに対して、製品の改善策を考察」と生成AIに頼むと、体系的な要約が手に入ります。
Cannyの共同創業者によれば、「過去のユーザー投稿をまとめて分析した結果、実装を検討していなかった機能への需要が想定以上に大きいと判明した」そうで、製品ロードマップの方針が大きく変わったと述べています。[6]
5-2. ユーザーの感情分析と改善優先度の決定
さらに生成AIの感情分析機能を使い、ポジティブ・ネガティブ・中立といった感情をタグ付けしたうえで、改善要望の緊急度を整理できます。
例えば「ユーザーが怒りを表明している投稿はどれくらいあるか?その理由を推察して解決策を提案」と促すことで、「UIが煩雑である」「バグが頻発する」など感情が高ぶる理由を定量・定性の両面で把握可能。PMはそのデータをもとに優先度を設定しやすくなります。
6. チームコミュニケーションの強化
6-1. 部門ごとに最適化されたドキュメント
PMには「同じ情報を様々な部門に合わせて再編集する」業務が多く存在します。財務部門にはコストやROIを中心に、顧客サポートには問い合わせ対応手順を中心に、といった具合です。
生成AIを使う場合は、「下記情報をもとに、財務視点のドキュメントを作成。数字やROIを重視したトーンで」「顧客サポート向けの手順書を作成。やさしい言い回しで」とマルチバージョン生成を指示すれば、重複作業を大幅削減できます。
ある中堅ソフトウェア会社のPMは、1つの仕様変更を4部門に周知する際に、従来は4種の資料を個別に作っていたものを、AIの再生成機能で一括対応できるようになったと報告しています。[7]
6-2. ユーザーインタビュー活用例
ユーザーインタビューを行った際には、インタビューログ(録音・テキスト)をAIに要約させることが有効です。「このインタビューから3つのペルソナを抽出し、それぞれの抱えている課題と求めている解決策をまとめて」といった指示を出せば、インサイト抽出がスムーズになります。
詳しいユーザーインタビューの方法については、当サイトの「ユーザーインタビューの方法」でも解説していますので、あわせてご覧ください。
7. プロジェクト計画・タスク洗い出し
7-1. ロードマップ策定の具体例
新規プロダクトをリリースする際には、デザイン、実装、テスト、ドキュメント整備、リーガルチェックなど多面的なタスクが発生します。「3か月以内にβ版をリリースしたい。必要なタスクをすべて洗い出し、1〜3の優先度をつけて一覧化して」と生成AIに伝えると、以下のようなステップを自動抽出できます。
- 要件の最終合意
- UIデザイン案の作成・レビュー
- 主要機能の実装(機能A, B, C…)
- テスト計画とQAプロセス
- ドキュメントとユーザーガイド作成
- 法務・セキュリティチェック
PMはこれをベースに実際の工数やリソース状況を踏まえてロードマップを再構成すると、抜け漏れのリスクが減ります。エンタープライズ向けソフトウェアを扱う企業では、この方法でプロジェクトの遅延リスクを早期発見し、事前に対処を決められたそうです。[8]
7-2. タスク優先度の短時間検討
PMは「どの機能を最優先で作るべきか?」を常に悩みます。RICE(Reach, Impact, Confidence, Effort)などのフレームワークを導入している場合は、それらの要素をAIに入力し、「スコア計算結果に基づいてタスク一覧を並び替えて」と指示することも可能です。AIが自動スコアリングする段階で、効率よくタスクの優先度を可視化できます。
8. テストケース作成・技術リサーチ
8-1. QAテストの観点洗い出し
複雑な機能では、境界値や例外ケースなどのテスト漏れが発生しやすいです。例えば「以下の機能仕様を見て、考えられるテストケースを20個網羅的にリストアップして。バグ発生リスクが高いと思われるケースも注記してください」と頼むと、AIが複数の角度からのテスト案を示してくれます。
モバイルアプリ開発企業のPMは、QAチームと共同でこのリストを絞り込み、リグレッションテストのコスト削減と品質向上を実現したとの報告があります。[9]
8-2. 新技術やフレームワークの要点把握
PMがエンジニアと会話する際、新しいライブラリやAPIの概要を短時間で学ぶ必要がある場合があります。
「Reactの最新バージョンで大きく変わった点と、リスクになりそうな変更箇所を2〜3行でまとめて」といった使い方をすれば、ドキュメントを読み込む手間を減らせます。PMが技術的視点をある程度理解していると、チーム内のコミュニケーションがスムーズになるため、プロジェクト全体の進捗を促進できます。
今日から実践できるアクション
- 小さな領域からAI活用をスタートする
競合分析やリサーチ要約など、失敗してもリスクが少ないタスクで試してみましょう。AIの有用性と限界を実感しながら、安全に導入ステップを踏めます。 - ドキュメントの「初稿作成」を任せてみる
PRDやリリースノートのラフ案をAIに生成させ、PMは要点チェックと編集に注力してください。劇的に時短できるとの声が多いです。 - ユーザーフィードバックの分析をAIに依頼
大量のサポートログや口コミをカテゴリ別に分類してもらい、頻度や感情分析を可視化します。真のボトルネックを早期発見しやすくなります。 - 会議の音声→文字起こし→AI要約のワークフローを構築
ミーティング議事録を自動化し、漏れや重複を減らす。PMは重要意思決定やチーム調整にリソースを振り向けましょう。 - タスク優先度付けにAIを使い仮説検討をスピード化
RICEなどのフレームワークをAIに説明し、自動スコアリングをさせる。最後はPMが人間的判断で微調整を行い、計画を仕上げます。
Q&A
- Q1: 生成AIが出す情報や提案はどこまで信頼できますか?
- A: 現在のAIはトレーニングデータやアルゴリズムの仕様によって誤回答をすることがあります。提案をそのまま実行するのではなく、必ずPM自身が検証や修正を行いましょう。社内の過去データや実ユーザー調査と付き合わせることで精度が高まります。
- Q2: 機密情報の取り扱いはどうすればいいでしょうか?
- A: 公開モデルに社内機密情報を入力するリスクは避けられません。社内導入型のLLMや機密保持契約(NDA)のあるベンダーのソリューションを使う、入力データをマスキングするなどの対策が必要です。
- Q3: AIに依存するとPMの専門性が損なわれませんか?
- A: AIはあくまでアシスタントです。情報収集や文書作成を任せることで、PMは戦略立案やユーザー理解など本質的な領域に専念できます。PMの役割は最終判断・優先度づけ・チームへの影響力行使にあるため、スキルの価値はむしろ高まると考えられています。
参考情報
- [1] Canny Blog: “7 product managers used ChatGPT. Here’s what happened.”
- [2] Stanford HAI (2023): “Generative AI in Product Development”
- [3] Harvard Business Review (2023): “How Generative AI Can Transform Product Management”
- [4] Pacer Health’s Official Commentary (2023): “AI-driven release notes: Our productivity booster”
- [5] InData Labs Survey (2023): “Generative AI Adoption in SaaS Startups”
- [6] Canny Official Case Study (2022): “Feedback Classification with AI”
- [7] Interview with Mid-sized Software Company PM (2023)
- [8] Gartner Research (2023): “Effective Roadmapping with AI-driven Task Prioritization”
- [9] TechCrunch QA Roundtable (2023): “Emerging Best Practices in Automated Testing”