文系PdMでもわかる「近傍探索」 – “似ているデータの見つけ方”

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──AI が「あなたにピッタリ」を即座に提示できる背景には近傍探索(Nearest Neighbor Search)という技術があります。

こちらの記事で「エンべディング=データを座標に変える技術」は扱いましたが、座標化した後“似た点をすばやく探す”フェーズが近傍探索。

推薦システム強化の鍵となる「エンべディング(embedding)」をビジネス職向けに解説する
この記事では主にプロダクトマネージャーやBizDev、マーケターなどビジネス職向けにエンべディング(Embedding)を取り上げ、次の内容を解説します。 エンべディングの基礎と推薦システムにおける役割 「数値ベクトル」「ユークリッド距離」...

この記事はビジネス職が押さえるべき要点をまとめます。

  • 近傍探索とは何か?を日常例でイメージ
  • 「正確に探す」vs「ざっくり速く探す」──2つの戦略
  • 代表的アルゴリズム(Brute Force / KD-Tree / LSH / HNSW など)を図解
  • 実サービスでの活用例とPM視点の意思決定ポイント
  • 今日から動けるアクションリスト & Q&A

近傍探索を“コンビニ探し”でたとえる

まず最初に、「家から一番近いコンビニ」を探す場面を思い浮かべてください。

  • 正攻法
    • スマホ地図で全部の店舗までの距離を測り、最小値を選ぶ →確実だが時間がかかる
  • 勘を利かせる
    • まず大通り沿いだけを当たり、そこで最寄りを決める →速いが誤差が出る

この “正確さと速さのトレードオフ” が近傍探索でもそのまま当てはまります。


距離の測り方がカギ:ユークリッド vs コサイン

座標化されたデータ(数値ベクトル)同士の「近さ」を測る代表的な指標は2つ。

指標 ざっくり説明 得意シーン
ユークリッド距離 直線距離(m・km の感覚) 位置情報・画像の類似検索
コサイン類似度 ベクトルの角度(向きを比較) 文章・好みの傾向を比較するテキスト系

距離が決まったら、いよいよどう探すかが勝負です。


探し方の2大流派:厳密探索 vs 近似探索

厳密(Exact)探索

全部調べて最小値を取る … 正確 💯 / 遅い 🐢

  • Brute Force(力任せ)
    総当たりで距離を計算。実装は超シンプル=学習コストゼロ。
  • KD-Tree / Ball-Tree
    空間を碁盤目のように分割して検索回数を削減。次元が高すぎると効果ダウン。

近似(Approximate)探索

ちょっとズレてもいいから速く探す … ほぼ正確 🎯 / めちゃ速い 🚀

  • LSH(Locality-Sensitive Hashing)
    似たベクトルを同じ“バケツ”に放り込み、バケツ内だけ調べる。
  • HNSW(Hierarchical Navigable Small World)
    点同士を「友達グラフ」で結び、友達の友達…とたどる。FAISS、Pinecone などが実装。
  • Annoy / ScaNN
    Spotify・Google製のライブラリ。モバイルでも動く軽量さが魅力。

ビジネス用途では“99%の精度 × 10倍速”が価値を生むことが多く、近似探索がデファクトになりつつあります。


サービス事例でイメージを固める

  • Spotify:楽曲ベクトルを Annoy で高速検索し、1曲再生ごとに類似曲を提示。
  • Instagram:画像の特徴量を HNSW で検索し、Explore タブに“似ている写真”を即表示。
  • 求人サイト:求職者の履歴書ベクトルと求人票ベクトルのコサイン類似度を計算し、上位10件を提示。

いずれも「ユーザー体験に耐える応答速度」が鍵。
PM はレイテンシ目標(例:200 ms 以内)精度目標(例:Recall @10 ≥ 0.9)をセットで決め、技術選択を行います。


PM が意思決定で見るべき5観点

  1. データ規模:百万件なら Brute Force でもOK? 億件超なら近似一択、など
  2. 更新頻度:毎時ベクトルが変わるなら、インデックス再構築コストを確認。
  3. 応答速度:UX要件。モバイルなら 300 ms が体感の分岐点。
  4. コスト:GPU/TPU, ベクトルDB SaaS 課金を含め ROI を試算。
  5. 説明可能性:なぜ推薦されたかを可視化できるか?

今日から実践できるアクション

  • 💾 データ診断:件数・次元数・追加ペースを洗い出す
  • ⚖️ 精度 vs 速度 の目標を定義:Recall やレイテンシを数値で決める
  • 🔧 小規模PoC:FAISS / Annoy / ScaNN をローカルで試す
  • 📊 KPI 仮説:推薦改善が CTR・CVR に与えるインパクトを試算
  • 👂 N1インタビュー:レコメンドの“当たり感”をユーザーに確認

Q&A

Q1. 「近傍」は1件だけ?
Top N(例:10件)を返すのが一般的。ビジネス要件で N を決める。
Q2. 近似探索はどれくらいズレる?
アルゴリズムとパラメータ次第。HNSW は Recall 99%以上を維持しつつ 100倍速も可能。
Q3. SQL検索とどう違う?
SQLはキーワード完全一致や数値範囲検索が得意。近傍探索は“意味が近い”を高速で探す。

参考情報

  • Spotify Engineering Blog. “Annoy: Approximate Nearest Neighbors at Spotify”
  • Facebook AI Research. “FAISS: A Library for Efficient Similarity Search”
  • Malkov & Yashunin (2018). “Efficient and robust approximate nearest neighbor search using HNSW”
  • Google AI Blog. “ScaNN: Efficient Vector Similarity Search at Scale”

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