プロダクトマネージャーとして日々開発を進めていると、ポジティブなコメントや褒め言葉に目がいきがち。ただ、ユーザーから寄せられるネガティブフィードバック(クレームや不満)こそが、プロダクトの本質的な課題を浮き彫りにし、強力な改善アイデアの源になります。
僕自身、累計600名以上のユーザーインタビューを行ってきましたが、ネガティブな声に耳を傾けるほど新しい発見や根本解決につながる施策を生み出せたと感じています。
本記事では、「ネガティブフィードバック」がどのように生まれるのか、その正しい扱い方や分析手法、そしてチーム全体に共有して改善につなげる仕組みを解説します。
顕在化した不満と潜在的な不満
顕在化した不満
顕在化した不満は、ユーザーが自覚している問題点です。たとえば「機能が複雑で使いにくい」「料金が高いわりに価値を感じられない」などが典型例です。こうした声はサポート窓口やSNS、レビューサイトなど、ユーザーが直接表明しやすいチャネルに寄せられる傾向があります。
また、ネガティブなレビューを投稿するユーザーは、プロダクトに何らかの期待をしていたからこそ失望感を持っているとも言えます。AmazonやApp Storeのレビューを見ても、星1つの評価には強い思いが込められがちです。ここに本質的な課題が隠されているかもしれません。
潜在的な不満
一方で、ユーザー自身が不満を自覚していなかったり、口に出せないまま内在化している問題もあります。本人が気づいていない、もしくは言語化が難しい不満は、インタビューや観察調査を行わないと浮上してこないのです。
潜在ニーズを引き出すには丁寧なヒアリングと観察が必要なので、まさにここがPdMとして腕を振るう場面です。定性データの収集と分析については、過去の記事「質的データ分析がプロダクトマネジメントにもたらす価値」でも詳しく触れています。

不満の分類
クレームの内容は実際には多岐にわたります。ここでは機能面、価格面、サポート面を中心に解説します。
機能面の不満
直接的に最もよく耳にするの以下のような声。
- 「使いにくい」
- 「必要ないのに機能が多すぎる」
- 「バグが頻発してストレスになる」
参考として、機能過剰になってしまう問題については、過去記事「いらない機能がなぜ生まれるのか?」でも触れているので、あわせて参照してください。

価格面の不満
- 「コストに対して期待したほどのリターンを得られない」
- 「無料トライアルが短すぎる」
という意見は、特にBtoB領域でしばしば聞かれます。企業間契約ではROI(投資対効果)を厳しく見られるため、価格設定や費用対効果の説明が不十分な場合、ネガティブな評価につながります。ここで得られる学びは「機能の見直し」だけでなく「価値の伝え方」や「契約プランの設計」におよぶ可能性があるという点。
サポート面の不満
- サポート対応の遅さ
- 問い合わせ窓口の不明確さ
- FAQの不十分さ
など、ユーザーがつまずいたときに適切な助けを得られないケースもクレームの温床になります。顧客満足度調査(CSAT)では、製品品質よりサポート品質への不満が強く影響するという研究結果も存在します(Forrester Research, 2021年)。こうした不満は、プロダクトそのものの機能改善というより、カスタマーサクセスやサポート体制の整備に直結する課題を示唆します。
インタビューでネガティブを引き出すコツ
ネガティブフィードバックを効果的に集めるには、ただ「不満点はありますか?」とストレートに聞くだけでは不十分。ユーザーによっては遠慮して言わない場合や、本音を意識的に隠している可能性もあるからです。そこで、僕がユーザーインタビューで大事にしているポイントを紹介します。
1. 具体的な利用状況を想定した質問
抽象的な質問は、ユーザーにとっても答えにくいものです。たとえば「普段どんな操作のときにストレスを感じますか?」という問いかけは漠然としすぎています。代わりに「この機能を最後に使ったシーンを思い出していただけますか?」と状況を具体化し、そこでの感情や行動を掘り下げるとネガティブ要素が自然と浮き彫りになりやすいです。
2. 非言語情報を察知する
オンラインインタビューでも、映像を使って表情の変化や声のトーンなどを観察することが効果的。オフラインの場合は、さらに姿勢や視線、微妙な表情の動きから「実は言いたいことがあるのでは?」と推測できます。ユーザーが言葉に出さなくても、しきりに眉をひそめたり、声のトーンが落ちたりした場合、追加で質問するチャンスです。詳しくは「ユーザーインタビューで『非言語情報』から『本音』を見抜く観察手法」でも解説しています。

3. 自身の失敗談を交えて相手を安心させる
ユーザーが「クレームを言うのは気が引ける」と考えている場合は、こちらから先に失敗談を話すことで“場を和ませる”のも有効です。例えば「僕も最初この機能を使ったとき、設定が分からず苦労したんですよ。なので、今仰っていただいた点について遠慮なくおきかせてください、」などと投げかけるだけで、相手が話しやすくなります(バイアスを与えないように注意です)。
ネガティブフィードバックを分析・優先度をつける
ネガティブフィードバックをただ受け取るだけではなく、しっかり分析し、開発や改善の優先度をつけることが大切。ここでは「表面的な不満」と「根深い不満」を見極める視点や、具体的なフレームワークを紹介します。
表面的な不満 vs 根深い不満
- 表面的な不満:
- 一時的なバグやUIのわかりにくさなど、すぐに修正できるものが多いです。対応が早ければユーザーの不満解消につながりやすいが表面的な不満だけを潰してると独自性のないプロダクトになりがち。
- 根深い不満:
- 製品のコンセプトやビジネスモデルと直結するような構造的問題。例えば、ターゲットユーザーの真のニーズとズレた機能ばかりを追加してしまったり、価格設定がマーケットと合っていないケースなどが挙げられます。こうした問題には抜本的な見直しが必要です。
クラスタリング手法
ネガティブフィードバックをテーマ別に分類することで、「どの領域に不満が集中しているのか」を可視化できます。たとえば、以下のようなカテゴリに分けて集計する方法が一般的。
- 機能(UI/UX、バグ、パフォーマンス)
- 価格(コストパフォーマンス、プラン内容)
- サポート(対応スピード、ドキュメントの充実度)
- その他(ブランドイメージ、マーケ表現への不満など)
特定のカテゴリにクレームが偏っているなら、そこを重点的に強化する必要があると分かります。このような分析をチームで共有すると、どこから改善すべきかイメージしやすくなります。
ハインリッヒの法則的アプローチ
ハインリッヒの法則とは、本来は安全管理(労働災害など)の分野で用いられる概念ですが、プロダクトのクレーム対応にも活かせます。重度なクレーム1件の裏には、29件の軽度クレームと300件のヒヤリハット(未報告の問題)が存在する、という考え方です。
言い換えると、深刻なクレームが発生していなくても、軽度の不満や「ちょっと使いにくい」といった声を放置すると、後に大きなダメージを受ける可能性があるのです。大事なのは、ユーザーがわざわざクレームとして報告しない小さな不満を見逃さずに拾い上げる仕組みを作ることです。
ネガティブを“次の製品アイデア”に転換させる実例
最後に、ネガティブフィードバックをきっかけにプロダクトを劇的に改善し、ユーザーの支持を得た事例を紹介します。また、近年注目されているLLM(大規模言語モデル)ツールの活用についても触れていきます。
他社先行事例:SlackのUI変更
2019年頃、ビジネスチャットツールSlackは大規模なUI刷新を実施しました。最初は「アイコン配置が変わって混乱する」「フォントが見づらい」という大きなクレームがユーザーから殺到しましたが、チームはこれらの声を迅速に吸い上げて微調整を繰り返しました。その結果、最初の大きな不満が収束した後は「情報整理がしやすい」「チャンネル構成がわかりやすい」というポジティブフィードバックに変わり、ユーザーエンゲージメントの向上につながったという例があります。
このように、ネガティブな声への素早い対応とプロダクト改修で、最終的には良い方向へシフトしていくことが可能です。
スタートアップが爆速で改善してヒットしたケース:Airbnb
Airbnb創業初期、ユーザーから「写真がわかりづらい」「予約の不安が拭えない」といったクレームが多数寄せられていました。そこで創業者らはホストの元へ直接出向き、プロのカメラマンを手配して高品質の写真を掲載する施策を打ちました。これが結果的にユーザー側の不安を大きく解消し、爆発的な成長を遂げたと知られています。クレームを無視せず、現場レベルで対処方法を工夫し大きなイノベーションを生んだ代表例といえます。
LLMツールでネガティブフィードバック分析を自動化
近年は、AIによるテキストマイニングが格段に進化し、顧客レビューや問い合わせ文章を自動でクラスタリング・感情分析するソリューションが増えました。特にChatGPTなどのLLMを活用すれば、大量のクレーム内容から類似トピックをグルーピングしたり、重度の高い課題を優先的に抽出したりすることが可能です。
「ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法」という記事で紹介しましたが、面倒なテキスト整理を自動化することで、より多くのネガティブフィードバックを短時間で分析できます。これにより、PdMは戦略や改善策の立案に集中できるようになるでしょう。
今日から実践できるアクション
- インタビューで不満を引き出すテンプレートづくり:具体的な状況を想定した質問リストを用意し、非言語情報にも注意を払う
- “ハインリッヒの法則”に基づく軽微な不満も拾う:コミュニティやSNSでのささやかな声をモニタリングし、バックログへ集約する
- 分析を自動化するツール導入:LLMやテキストマイニングツールを活用して、クレーム内容をカテゴリー分類・可視化しやすくする
Q&A
Q1. ネガティブフィードバックがまったく集まらないのですが、どうすればいいでしょうか?
A. ユーザーが声を出しにくい環境かもしれません。まずは“クレームを歓迎する”姿勢を明示し、問い合わせチャネルをわかりやすく提示しましょう。また、インタビューやアンケートで「問題点があれば遠慮なく教えてください」と積極的に促すことも大切です。バイアスを排除した質問設計については「【2025年】ユーザーインタビューで起こるバイアスを徹底攻略」で解説しています。

Q2. ネガティブフィードバックが多すぎて何から改善すればよいか分かりません。
A. まずはクラスタリングし、機能面・価格面・サポート面などのカテゴリに分けてみましょう。さらに、それぞれのインパクトと頻度をスコアリングすると優先度が見えやすくなります。表面的な不満はすぐに解消し、根深い不満はロードマップに組み込んで中長期的に対応してください。
Q3. ネガティブフィードバックを公にオープンにすると企業イメージが悪くなりませんか?
A. 一定のリスクはありますが、むしろ不満を隠蔽するほうが長期的に信頼を損なう可能性が高いです。誠実に問題に向き合い、改善のプロセスを透明性高く示す企業はユーザーからの評価が高まる傾向にあります。SNS時代においては、企業側が積極的に課題解決への取り組みを発信することが信用獲得につながります。
参考情報
- Forrester Research (2021). “Customer Experience Trends and Analysis.”
- Nielsen Norman Group (2020). “How to Analyze Customer Feedback for Deeper Insights.”
- Kano, N. (1984). “Attractive Quality and Must-Be Quality.” The Journal of the Japanese Society for Quality Control.
- Slack, Official Blog (2019). “Refining Our UI: Lessons Learned from Customer Feedback.”
- いらない機能がなぜ生まれるのか?
- ユーザーインタビューで「非言語情報」から「本音」を見抜く観察手法
- ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説
- 「質的データ分析」がプロダクトマネジメントにもたらす価値とは?
- 【2025年】ユーザーインタビューで起こるバイアスを徹底攻略
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