定量 x 定性でのロイヤルユーザーとの向き合い方:なぜ最良の顧客がプロダクトの成長を止めるのか

プロダクト企画

この記事の要約

  • ロイヤルユーザーは収益の80%を生む重要顧客だが、プロダクトの進化を妨げる「イノベーションのジレンマ」も引き起こす
  • VoC分析やNPS調査でロイヤルユーザーを特定し、カスタマーアドバイザリーボードで深い関係を構築しながら要望を収集
  • 新規ユーザー獲得のための革新と既存ユーザー維持のバランスを取るには、段階的移行や並行運用の戦略が不可欠

ロイヤルユーザーの定義と指標

まずは「誰がロイヤルなのか」を決める必要があります。
あなたのチームでは、「ロイヤルユーザー」の定義がプロダクトチーム全員で揃っていますでしょうか?

例えば、以下のような指標で「ロイヤル」の定義をすることができます。

  • 利用頻度:週3回以上、もしくは毎日ログイン
  • 継続期間:サービスを半年以上使い続けている
  • 支払い金額:追加プランや有料オプションを積極的に購買
  • NPS(Net Promoter Score):アンケートで高いスコアを出している

もしろん、定義はプロダクトの特性によって異なります。
例えば、SaaSであれば「継続利用(課金)月数」、ECなら「月の購入回数や購入金額」、メディアなら「記事閲覧やSNSシェアの数」などが候補。
ただし、あまり細かく基準を作りすぎると抽出できる人数が少なすぎるため、一定以上の利用指標を複合的に見て切り出すとよいです。

個人的なおすすめとしては、以下どちらか。

  1. 支払いを継続している上位10%(できれば5%)のユーザー
  2. 直近1ヶ月などでログインありユーザー全体を抽出し、その中でログイン頻度やKPIに該当するアクションを上位10%(できれば5%)レベルで行っているユーザー

“ロイヤルユーザー”はなぜロイヤルなのか?

次に、行動ログやインタビューを使って「彼らがどのように使っているか」「なぜその使い方をしているか」を明確にします。
こちらも同様に、あなたのチームではメンバー全員が「ロイヤルユーザーがロイヤルである理由」を説明できますか?

  • 行動ログ:ログイン時間帯、機能利用率、コンバージョン経路など
  • インタビュー:どんな課題を解決できているのか、競合他社との比較、意外な使い方

このとき、ロイヤルユーザー理解のために、“ジョブ理論”的な視点でインタビュー結果やログ分析結果を解釈する手段も有効。
この製品を“雇用”することで、どんな仕事を片付けられるのか」と深掘りするイメージです。
インタビューの設計は、ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイドを参照してください。

ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド
テック企業でプロダクトマネージャーをしているクロと申します。私はマーケ出身で博報堂、リクルート、toCスタートアップなどで累計700人以上にユーザーインタビューを実施してきました。本記事では、ユーザーインタビューの目的・設計・実施・分析の一...

行動ログを見るときは、いきなり集計を行うのではなく個別ログを時系列順に10-20名分みて仮説を設計するのがおすすめです。

裏タスクや非公式な使い方の発見

また、ロイヤルユーザーからプロダクトグロースのヒントを得る方法についても触れます。

ロイヤルユーザーほど、製品を使い込むあまり“裏ワザ”や“独自の工夫”を編み出している可能性があります。
これは大きなチャンス。公式ドキュメントや普通のユーザーが想定しない“裏タスク”があれば、新機能やusecaseをnotロイヤルユーザーに展開することでグロースできる可能性があります。

ユーザーの「裏タスク」を特定して、プロダクトグロースのチャンスを見つける
この記事の要約 ユーザーが既存ツールの代わりにExcelや手書きメモなどの「非公式ワークアラウンド」を使う背景には、機能不足やカスタマイズ性の欠如といった本質的な課題が隠れている インタビューで裏タスクを発見し「ToDo-Pain-Gain...

「裏タスク」とは、ユーザーが本来の目的以外や独自の方法でその製品を活用している状況。
例えば、SNSを“個人の情報管理ツール”として使う、BtoBツールを「個人営業の顧客管理」に流用するなど。それを公式機能として取り込むと、新規セグメント開拓や関連サービス展開へ発展する可能性があります。

ユーザーインタビューでは、まずユーザーの「ワークアラウンド(代替手段)」を深掘ってみよう
この記事の要約 「ユーザーが自力で生み出したワークアラウンド」をインタビューで深掘る ワークアラウンドは顕在痛点 × 高コスト × 実証済みニーズが同時に可視化された“金脈”「どこを深掘ればいいのか?」――について600回以上のインタビュー...

ロイヤルユーザーの声を活かしたロードマップ策定

当たり前すが、ロイヤルユーザーの要望をすべて実装すればいいというわけではありません。彼らが求める機能や改良点は、ライトユーザーには過剰サービスになるかもしれません。そこで重要なのが、優先度づけ波及効果の見極め

  • ビジネスインパクト:その改善が生む収益や利用拡大がどれほど見込めるか
  • 実装コスト:開発期間やエンジニアリング難易度
  • 他層ユーザーへの適用:ライト層や新規ユーザーにも恩恵があるか

こうした判断をロードマップに落とし込む際は、チーム内での合意形成が不可欠です。
経営層や上司を説得するには、ユーザーインタビュー結果の見せ方が大きな影響力を持ちます。

経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方・使い方
ユーザーインタビューの分析・見せ方で経営層や上司、メンバーを本気で動かすには?具体的な分析フレームワークや可視化手法、ROIを意識したレポート術を徹底解説。
RICEスコアリングを理解して、開発優先度決めの初期の迷いを最小化する
プロダクトマネージャーをしていると、「どの機能から開発すべきか」「どの要望を先に取り組むべきか」という優先度付けの壁に必ず直面します。リソースは限られているため、一歩間違えると“大量の機能要望リスト”を前に手が止まってしまいかねないですよね...

ロイヤルユーザーとのコミュニケーション手段・仕組みづくり

さらなるグロースプロセスとして、ロイヤルユーザーは、製品の“生の声”を提供してくれるだけでなく、新機能の優先テストを担う協力者になることもあります。

  • コミュニティイベントの開催:オンラインフォーラムやオフラインミートアップで交流を深める
  • ベータテストへの招待:新機能を一般公開前に試してもらい、改善のフィードバックを即回収
  • 共同開発的アプローチ:UIや機能のアイデア出しにユーザーを巻き込む

BtoBサービスならカスタマーサクセス(CS)の支援が不可欠。ヘビーユーザーの問い合わせ・サポート窓口で集まった意見を定期的にPdMが拾い上げる仕組みを作ると、ロードマップ策定がより強固になります。

特に、複数回プロトタイプを持ち込んでも喜んでフィードバックをくれるようなロイヤル顧客は全力で感謝して、その後の機能やUX開発の効果でコミットメントのお返しをしましょう。

今日から実践できるアクション

  • 1. ロイヤルユーザーを定義・抽出する:
    月あたりの利用回数、課金状況、NPSなど複数指標で選定。サンプル数が多すぎず少なすぎない範囲を狙う
  • 2. ログデータを可視化して仮説を立てる:
    ロイヤルユーザーがどの時間帯・どの機能を頻用しているかを洗い出す。仮説に基づいてインタビュー設計を行う
  • 3. 深掘りインタビューを実施する:
    愛用理由や裏ワザを聞き出す。ユーザーインタビューのガイドも参考に、質問項目を整備する
  • 4. “裏タスク”をチームで共有:
    「想定外の使い方」や「競合にはない強み」を見極める。機能拡張のチャンスを検討
  • 5. ロードマップと連携し、優先度づけ:
    ロイヤル層向けの施策がビジネス全体に及ぼすインパクトを評価。他のユーザー層や経営層の視点を加味して、合意形成を図る

Q&A

Q1. ロイヤルユーザーの声はニッチすぎるかもしれない。どう扱う?
A. ニッチな意見でも、市場を再定義したり強い差別化要素につながる場合があります。ライト層や新規ユーザーにも広がる可能性を検討し、ビジネスインパクトと合わせて判断するとよいです。

Q2. ロイヤルユーザーとライトユーザーの両方をバランス良く取りたいときは?
A. まずロイヤルユーザーから深いインサイトを得て施策を立案し、次にライトユーザー向け調整を加える流れがおすすめです。機能を限定公開して段階的に検証すると失敗リスクが下がります。

Q3. 裏タスクを正規機能に落とし込むにはどうすればいい?
A. まずはプロトタイプを用意し、ロイヤルユーザーに試してもらいフィードバックを収集。需要が高まるようなら正式機能化を検討。プロトタイプを使った検証も参照ください。

参考情報

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