既存のユーザーベースが一定数いるプロダクトであれば、必ず「ロイヤルユーザー(ヘビーユーザー、パワーユーザー)」が存在しますよね。
ライトユーザーとは異なる“熱量”を持ち、日常的にサービスを使い込む彼らの行動を可視化し、深いインサイトを得ることは大きなグロースの鍵。
今回は、ロイヤルユーザーの定義や指標、深掘り方法、そして具体的な施策転換の流れを紹介します。
僕もPMを務める中で、コア層の分析こそ新機能アイデアやブランド価値向上につながる原動力だと実感しています。
ロイヤルユーザーの定義と指標
まずは「誰がロイヤルなのか」を決める必要があります。
- 利用頻度:週3回以上、もしくは毎日ログイン
- 継続期間:サービスを半年以上使い続けている
- 支払い意欲:追加プランや有料オプションを積極的に購買
- NPS(Net Promoter Score):アンケートで高いスコアを出している
定義はプロダクトの特性によって異なります。
SaaSであれば「月に何日ログインしているか」、ECなら「月の購入回数や購入金額」、メディアなら「記事閲覧やSNSシェアの数」などが候補。
ただし、あまり細かく基準を作りすぎると抽出できる人数が少なすぎるため、一定以上の利用指標を複合的に見て切り出すとよいです。
個人的なおすすめとしては、以下どちらかがおすすめです。
- 支払いを継続している上位10%(できれば5%)タイルのユーザー
- 直近1ヶ月などでログインありユーザー全体を抽出し、その中でログイン頻度やKPIに該当するアクションを上位10%(できれば5%)タイルレベルで行っているユーザー
“ロイヤルユーザー”はなぜロイヤルなのか?
次に、行動ログやインタビューを使って「彼らがどのように使っているか」「なぜその使い方をしているか」を明確にします。
- 行動ログ:ログイン時間帯、機能利用率、コンバージョン経路など
- インタビュー:どんな課題を解決できているのか、競合他社との比較、意外な使い方
このとき、ロイヤルユーザーの“ジョブ理論”的な視点も有効。
「この製品を“雇用”することで、どんな仕事を片付けられるのか」と深掘りするイメージです。
インタビューの設計は、ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイドを参照してください。
行動ログを見るときは、いきなり集計を行うのではなく個別ログを時系列順に10-20名分みて仮説を設計するのがおすすめです。
裏タスクや非公式な使い方の発見
ロイヤルユーザーほど、製品を使い込むあまり“裏ワザ”や“独自の工夫”を編み出している可能性があります。
これは大きなチャンス。公式ドキュメントや普通のユーザーが想定しない“裏タスク”があれば、新機能のヒントになりえます。
興味深い事例としては、「ユーザーの『裏タスク』を特定して、プロダクトグロースのチャンスを見つける」観点を深掘りしたこちらの記事もご参考ください。
裏タスクとは、ユーザーが本来の目的以外でその製品を活用している状況。
例えば、SNSを“個人の情報管理ツール”として使う、BtoBツールを「個人営業の顧客管理」に流用するなど。
それを公式機能として取り込むと、新規セグメント開拓や関連サービス展開へ発展する可能性があります。
ロイヤルユーザーの声を活かしたロードマップ策定
ロイヤルユーザーの要望をすべて実装すればいいというわけではありません。
彼らが求める機能や改良点は、ライトユーザーには過剰サービスになるかもしれない。
そこで重要なのが、優先度づけと波及効果の見極め。
- ビジネスインパクト:その改善が生む収益や利用拡大がどれほど見込めるか
- 実装コスト:開発期間やエンジニアリング難易度
- 他層ユーザーへの適用:ライト層や新規ユーザーにも恩恵があるか
こうした判断をロードマップに落とし込む際は、チーム内での合意形成が不可欠です。
経営層や上司を説得するには、ユーザーインタビュー結果の見せ方が大きな影響力を持ちます。
ロイヤルユーザーとのコミュニケーション手段・仕組みづくり
ロイヤルユーザーは、製品の“生の声”を提供してくれるだけでなく、新機能の優先テストを担う協力者になることも。
- コミュニティイベントの開催:オンラインフォーラムやオフラインミートアップで交流を深める
- ベータテストへの招待:新機能を一般公開前に試してもらい、改善のフィードバックを即回収
- 共同開発的アプローチ:UIや機能のアイデア出しにユーザーを巻き込む
BtoBサービスならカスタマーサクセス(CS)の支援が不可欠。ヘビーユーザーの問い合わせ・サポート窓口で集まった意見を定期的にPdMが拾い上げる仕組みを作ると、ロードマップ策定がより強固になります。
特に、複数回プロトタイプを持ち込んでも喜んでフィードバックをくれるようなロイヤル顧客は全力で感謝して、その後の機能やUX開発の効果でコミットメントのお返しをしましょう。
事例イメージ:ロイヤルユーザーを起点に新機能拡張を実現
例えば某SNSでは、上位1%のアクティブユーザーがコミュニティ文化を育み、特定のハッシュタグやイベント企画を牽引していたケースが有名。
この動きを観察して公式機能として取り込み、トレンド機能やコミュニティスペースを強化したことで、新規流入が加速。
「ロイヤルユーザー発のカルチャー→公式サポート→サービス全体のグロース」の好循環が生まれた例。
BtoBでも導入時から継続的に使い込む企業ユーザーが要望したダッシュボード機能が大ヒットし、他のライトユーザーにも恩恵を与えた事例があります。
今日から実践できるアクション
- 1. ロイヤルユーザーを定義・抽出する:
月あたりの利用回数、課金状況、NPSなど複数指標で選定。サンプル数が多すぎず少なすぎない範囲を狙う - 2. ログデータを可視化して仮説を立てる:
ロイヤルユーザーがどの時間帯・どの機能を頻用しているかを洗い出す。仮説に基づいてインタビュー設計を行う - 3. 深掘りインタビューを実施する:
愛用理由や裏ワザを聞き出す。ユーザーインタビューのガイドも参考に、質問項目を整備する - 4. “裏タスク”をチームで共有:
「想定外の使い方」や「競合にはない強み」を見極める。機能拡張のチャンスを検討 - 5. ロードマップと連携し、優先度づけ:
ロイヤル層向けの施策がビジネス全体に及ぼすインパクトを評価。他のユーザー層や経営層の視点を加味して、合意形成を図る
Q&A
Q1. ロイヤルユーザーの声はニッチすぎるかもしれない。どう扱う?
A. ニッチな意見でも、市場を再定義したり強い差別化要素につながる場合があります。ライト層や新規ユーザーにも広がる可能性を検討し、ビジネスインパクトと合わせて判断するとよいです。Q2. ロイヤルユーザーとライトユーザーの両方をバランス良く取りたいときは?
A. まずロイヤルユーザーから深いインサイトを得て施策を立案し、次にライトユーザー向け調整を加える流れがおすすめです。機能を限定公開して段階的に検証すると失敗リスクが下がります。Q3. 裏タスクを正規機能に落とし込むにはどうすればいい?
A. まずはプロトタイプを用意し、ロイヤルユーザーに試してもらいフィードバックを収集。需要が高まるようなら正式機能化を検討。プロトタイプを使った検証も参照ください。
参考情報
- Reichheld, F. (2003). The One Number You Need to Grow. Harvard Business Review. (NPS概念)
- Christensen, C. M. (2016). Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice. Harper Business. (ジョブ理論)
- Nielsen, J. (1993). Usability Engineering. Morgan Kaufmann.
- ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド
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- 経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方・使い方
- プロトタイプを使って、ユーザーインタビューで新機能の検証を行う方法・Tips
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