ユーザビリティテストの分析手法「Lostness」「タスク間連関分析」を解説

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HRテック企業でPdMをしているクロです。本サイト「PM x LLM STUDIO」ではプロダクトマネジメントやユーザーリサーチに関する情報を発信しています。

今回は「成功率」や「操作時間」だけでは見えづらい、Lostnessやタスク連関分析といった先進的な指標・手法を解説します。
UI全体のナビゲーション構造を定量的に把握し、根深い課題を浮き彫りにするための武器になるはずです。さらに、実際にどうやって施策につなげるかまで踏み込んだ内容をお伝えします。ぜひ参考にしてください。


Usability Benchmarkのおさらい

まず、今回のテーマとなる先進指標を活用するにあたって、Usability Benchmarkの概念をおさらいしておきます。
一般的なユーザビリティテストでは「タスク成功率」や「操作時間」を測定しますが、Usability Benchmarkではそれを継続的に追跡し、改修前後や競合との比較を行い、UI改善の効果を客観的に示す仕組みを作ります。
詳しくはこちらの記事でも解説していますが、Lostnessやタスク間連関分析を組み合わせることで、単なる数値だけでは把握しきれない「迷いの全体像」を浮かび上がらせることができます。


LostnessとNavigation Efficiencyとは?

Lostness

Lostnessは、ユーザーが画面上でどれほど迷っているかを算出する指標です。
たとえば、Smith (1996)[1] で提案されている有名な式がありますが、少し数式に慣れていない方もいるかもしれないので、簡単に解説しておきましょう。

Lostness = sqrt( ((C/N) - 1)² + ((S/R) - 1)² )
  • C : 実際に移動した画面遷移のステップ数
  • N : 理想ステップ数(最短経路のステップ)
  • S : ユーザーが実際に訪問したユニーク画面数
  • R : タスク達成に必要な最小ユニーク画面数

「(C/N) – 1」や「(S/R) – 1」で理想(=1.0)からどれだけ離れているかを計算し、二乗して合計、その平方根を取るという流れです。
値が大きいほど迷いが多い、0に近いほど理想に近いというイメージでOKです。

Navigation Efficiency

Navigation Efficiencyは、「理想ステップ数に対してユーザーがどれくらい効率的にタスクをこなせたか」を%で表す指標です。
たとえば最短ルートが3ステップなのに実際5ステップかかった場合は、

Efficiency = 3 ÷ 5 = 0.6 (60%)

高いほど効率的、低いほど冗長という捉え方ができます。


タスク間連関分析とは?

タスク間連関分析は、複数タスクの成否やLostnessを横断的に見て、「Aタスクで迷う人はBタスクでも失敗率が高い」といった連鎖を発見する手法。
単体の成功率や操作時間だけで把握できない、“タスク1に失敗した人の70%がタスク2でもつまずく”などを可視化することで、ナビゲーション全体の再設計や、タスクフロー全体の改修を検討できるようになります。


施策につなげるまでの実践フロー

ここでは、Lostnessやタスク間連関分析を単に計算して終わりではなく、どうやって施策につなげるか、その実践フローを示します。

  1. データ収集 & 計測
    • 被験者リクルーティング:PC派・スマホ派、初心者・熟練者などセグメント分け
    • 画面遷移ログの取得:画面IDを振って被験者がどの画面を何ステップ通過したか全記録
    • 失敗/成功・エラー原因の記録:フォーム入力ミスか、ボタンを見つけられないなど
  2. Lostness・Navigation Efficiencyの算出
    • (C/N) と (S/R) を基にLostnessを計算
    • 最短経路 ÷ 実際ステップ数でNavigation Efficiencyを%表示
    • 散布図やヒートマップで「誰がどこでどれだけ迷ったか」を視覚化
  3. タスク間連関の可視化
    • 各タスクの失敗/成功、Lostnessの大小をクロス集計
    • 共通失敗率や連鎖率を数値化し、ネットワークマップに落とし込む
  4. 施策検討
    • 重み付け(ビジネスインパクト大のタスクを優先)を考慮
    • Lostnessが高い画面のUI再設計や、連鎖失敗のタスクをまとめて改修
    • インタビューを併用して「なぜ迷うか」を深掘りすると精度UP
  5. 改修後に再テスト
    • 同じタスク・同じ指標で比較(Usability Benchmark)
    • 差分を見て、UXダッシュボードで定期的に追跡
    • こちらの関連記事も参照し、ベンチマークを仕組み化

Amazonを事例にUsability Testの実践方法を紹介

ここでは「Amazonのプロダクトマネージャーが、楽天と比較しながらLostnessやタスク連関分析を実施して施策につなげる」という仮想シナリオで実践方法を解説します。

シチュエーション(仮想)

  • 自社: Amazon
  • 競合: 楽天市場
  • 対象デバイス: PCとスマホ
  • 検証したいタスク:
    • 商品検索→カート投入
    • クーポン適用→決済完了

Step1: 計測準備

  1. 被験者選定:PC利用メイン10名、スマホ利用メイン10名
  2. 各ユーザーにAmazon/楽天の同タスクを行ってもらう
  3. 理想ステップ数(N)を事前に定義(例: Amazon検索→カート最短3ステップ、楽天クーポン→決済最短5ステップ)

Step2: LostnessとNavigation Efficiencyの算出

  • PC版AmazonのLostness平均: 0.25 / Efficiency 70%
  • スマホ版AmazonのLostness平均: 0.35 / Efficiency 60%
  • PC版楽天のLostness平均: 0.30 / Efficiency 65%
  • スマホ版楽天のLostness平均: 0.45 / Efficiency 50%

(あくまで仮のデータですが、こういった定量結果が出るイメージです)

Step3: タスク間連関分析

  • タスク1(検索→カート) でLostnessが高いユーザーが、タスク2(クーポン→決済) でもエラー率が上がるか相関を確認
  • Amazon vs 楽天、PC vs スマホで連鎖失敗率を比較

Step4: 深い洞察を得る & 施策立案

  • もしスマホ版楽天でLostnessが0.45と高く、タスク1→2をまたいだ連鎖失敗が多いなら、UIを再構成する必要がある
  • 検索画面とクーポン導線をまとめて表示し、ステップを圧縮
  • 迷いの原因が「画面上の要素が多すぎ」なら、情報整理や画面ID再設計を行う

Step5: 改修後に再テスト

  • 同じタスク・指標でUsability Benchmarkを継続
  • Lostnessや連鎖失敗がどれだけ改善したかを社内報告し、次の施策へ反映

表やグラフの例

  • Lostnessヒートマップ
    タスク×被験者マトリクスで色分け。0.4以上を赤、0.2~0.4を黄、0.2以下を緑など
  • Navigation Efficiency散布図
    横軸に操作時間、縦軸にEfficiencyでプロット。長時間+低Efficiencyゾーンが危険領域
  • タスク連関マップ
    タスク1~2の失敗重複率50%以上なら太線で結ぶなど、連鎖的課題をビジュアル化

今日から実践できるアクション

  1. タスク間連関をとる
    既存ログがあれば複数タスクの成否をクロス集計し、失敗の重複を探す
  2. Lostness計算を初めて導入
    (C/N)と(S/R)の比率をExcel等で求め、数値をヒートマップ化。思わぬ迷い箇所が見える
  3. 競合&デバイス比較
    Amazon vs 楽天のように複数軸で試すと差が浮き彫りに
  4. インタビューとセット
    Lostnessが高いユーザーに「どの画面で、なぜ迷ったか」をヒアリング。数値+定性がカギ
  5. 継続観測 & ダッシュボード化
    改修後も再テストし、差分を追う。こちらの記事も参考に

Q&A

Q: Lostnessの式はややこしく見えますが、ついていけるでしょうか?
A: “(C/N – 1)²”や“(S/R – 1)²”を足して平方根を取るだけです。理想(1)からどれだけズレがあるかを二乗で合計し、その大きさを測ると考えてください。0に近いほど迷いが少ないので、まずはそのイメージで問題ありません。
あと、最悪理解していなくてもchatGPTが何とかしてくれます笑

Q: タスクが多い場合、連関分析が大変になりませんか?
A: まずはビジネスインパクトの大きい3〜5タスクに絞るのがおすすめ。大量のタスクを一度に見ると可視化が複雑になりすぎます。段階的に拡張するアプローチがよいでしょう。

Q: 成功率が高いがLostnessが大きい場合、どう解釈すれば?
A: “苦労しつつ何とか成功している”状態です。ユーザーが頑張って達成しているものの、実際は遠回りやストレスが多い可能性が高い。将来的な離脱リスクや満足度低下に繋がるので、UI再考の余地は大きいです。


参考情報

  • [1] Smith, S. L. (1996). “Lostness Measures and Graphical Analysis of Hypertext Paths.” International Journal of Human-Computer Interaction.
  • [2] Tullis, T., & Albert, B. (2013). Measuring the User Experience. Morgan Kaufmann.
  • [3] Nielsen, J. (1993). Usability Engineering. Morgan Kaufmann.
  • [4] Usability Benchmarkを継続的に運用する方法
    (UXダッシュボード等を作成し、組織的にテスト成果を可視化するポイントを解説)

Lostnessタスク間連関分析など先進的な指標は、画面間の迷いやタスク同士の連鎖失敗を可視化する強力な武器。「成功率が高いから大丈夫」と見過ごしがちな分野に光を当て、グローバルナビゲーションタスクフローの抜本的再構築を検討できるチャンスです。
すでに基本指標(成功率・操作時間)を回している方にこそ、この応用テクニックを取り入れ、さらに深いUI洞察を得てみてください。

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