この記事の要約
- チームメンバーのユーザーインタビュースキルを最短で底上げする方法を紹介
- リアルタイムチャット&15分フォローアップで、具体的な即時フィードバックを行う
ユーザーインタビューのスキルを底上げするには、講義形式の研修だけでは限界があります。実際にインタビュイー(ユーザー)と対峙し、リアルタイムに質問しながら躓いたらすぐに修正し、次の質問を投げかける。こうした“現場感”を伴うフィードバックこそスキルアップを促す鍵だと僕は考えています。
そこで本記事では、チームメンバーのユーザーインインタビューのスキルを伸ばす方法を紹介します。簡単に結論を言うと、「インタビュー中にチャットを通じてアドバイスし、終了後に短時間で振り返る」という仕組み。僕自身、PdMとして日々ユーザーインタビューを行いながら、メンバーのスキル育成の一環で実践している方法です。
また、ユーザーインタビューには事前の①設計、②実行(ユーザーとの対話)、③分析、④施策への接続のステップがありますが、今回は「②実行(ユーザーとの対話)」の話です
ユーザーインタビューの「実行(対話)」スキルが上がると何がいいのか?
ユーザーインタビューはPdMやUXリサーチャーが中心になって行うことが多いですが、その職種のジュニアなメンバー含めチーム全員がある程度のインタビュー技術を身につけることで、以下のようなメリットがあります。
- 意思決定の質が上がる
開発・マーケ・カスタマーサポートなど、各ポジションがユーザーの実情を深く理解していれば、プロダクト仕様の議論もスムーズになります。裏打ちのある意見が増え、優先度設定での合意形成がしやすくなります。 - 顧客への共感力がチーム全体で向上
インタビューを通じて顧客の痛みや要望を“自分事”として捉えられるようになります。結果として、プロダクトの改善アイデアや細かい仕様検討で「顧客の視点はどうか?」を自然に意識できる文化が育ちます。 - 経営層・ステークホルダーへの説得力が増す
「実際に○名のユーザーと話し、その結果、○○という課題が判明した」という具体的なファクトがあれば、上司や投資家などを動かすときのエビデンスとして極めて強力です。定量データだけでは見えないリアルな声は説得材料になります。
一方で、インタビュースキルが未熟な状態でインタビューを行うと、誘導的な質問や曖昧な聞き方が発生しがち。さらにユーザーの本音までたどり着けずに、表面的な答えで終わってしまうこともあります。そうすると、せっかく時間をかけてインタビューをしても十分なインサイトが得られず、改善策が的外れになるリスクが高まります。
こうしたリスクを回避し、チーム全体のユーザー理解度を深めるために、“実戦形式”でのトレーニングが効果的です。オンラインインタビューを使えば、現地集合のコストや移動負担も減らせるため、チームでの導入ハードルがかなり下がります。
また、「インタビューのスキルとはなんぞや」という方はぜひこちらの記事も読んでみてください。

リアルタイムチャット&15分フォローアップの全体フロー
では、実際の方法をお話しします。流れはシンプルで以下の通り。
*冒頭に書きましたが今回は、仮説やインタビューの設計の後にくる「実行(ユーザーとの対話)」スキルの話なので、それの前後は飛ばします
- インタビュー対象ユーザーのアサイン
ユーザーをリクルーティングして、オンラインインタビューの日程を調整。
(参考:ユーザー募集のコツは「ユーザーインタビューでのユーザー集めの方法と成功/失敗事例」で詳しく解説しています) - メンバーがインタビューしているところで深堀ポイントや追加質問、FBをチャットで送る
ZoomやGoogle Meetなどでユーザーと接続し、インタビュアーが進行。メンターは同じ会議に参加しつつ、インタビュアーとだけ共有しているチャットチャンネルでリアルタイムアドバイスや追加質問、深堀ポイントを送る。 - インタビュー終了後、15分程度のフォローアップ
通話を切ったあと、メンターと受講者が簡潔に振り返り。良かった点・改善点を短時間で整理し、次のインタビューに活かす。
このスキームで重要なのは「インタビュー中はユーザーには気付かれない形で指導を受けられる」ことです。ユーザーに余計な心配をさせることなく、スムーズにアドバイスしつつ学習を促せます。
リアルタイムチャットでどんな指示・アドバイスを送るか?
実際に、インタビュー中にメンターがどんなメッセージをチャットで送るのか、具体的にイメージしてみましょう。ユーザーとの会話が進むたび、以下のようなアクションを促すパターンがあります。
- 深掘りを促すパターン
受講者がユーザーの回答を聞き流していると感じたら、「『具体的にはどんな時にそう感じましたか?』と聞いてみて」などのチャットで指示。曖昧な回答をそのままにしないよう背中を押す。 - 誘導尋問を避けるパターン
受講者が「この機能は便利ですよね?」など、Yes/Noを強要するような質問をしたら、「今のは誘導的かも。『何がきっかけで便利だと思ったのか』と聞いてあげて」と修正を促す。 - 非言語情報から気付きを得るパターン
ユーザーが少し困った表情や、声のトーンが一瞬変わったときには、「今、表情が曇ったように見えるから何か懸念点があるかも。さらに掘り下げよう」とフォローを出す。
(非言語情報を活用するには「ユーザーインタビューで「非言語情報」から「本音」を見抜く観察手法」も参考になります)
こうした指示をリアルタイムで受け取れると、受講者はすぐに質問を修正でき、「あ、そうか、こういうふうに深掘りをかけるのか」と学習できます。文章だけでなく、アイコンや短いリアクションを使うなど、チャットを視覚的にわかりやすくする工夫も効果的です。
実際、僕が指導した場面では、「ユーザーが『なんか最近このサービス、ちょっと重いなって思う』と言った瞬間に、受講者がスルーしかけたため、『そこ深く聞いて』とチャットで言ったら、ユーザー視点の“回線環境×機能ロード速度”に関する重要な改善点が判明した」というケースもありました。リアルタイムの修正がインタビューの質を大きく左右する例です。
この方法の注意点として、メンターとメンバーの信頼関係がなかったり事前説明が不十分だったりすると、ただインタビュー中にチャットしまくってくるうざいやつになるので、事前のメンバー共有は意図含めて丁寧にやりましょう & いいポイントは「今のGood!☺️」と全力で讃えましょう!
15分フォローアップで短時間で学びを最大化する
インタビュー終了後、そのまま解散してしまうのはもったいないです。15分程度のフォローアップを設けて、すぐ振り返ることで次回のインタビューがより洗練されます。以下のポイントを押さえると、短時間でも充実した振り返りができます。
- 印象的だった質問&回答の振り返り
「どの質問がユーザーの本音を引き出したか」「どの回答が一番インサイトフルだったか」をピックアップする。受講者に喋ってもらい、メンターが補足を入れると効果的。 - 見落としポイントの洗い出し
「深掘りが足りなかった部分」「もう少し具体を聞けたのに流してしまった場面」を本人に挙げてもらう。メンターからも気づいた点を補足してあげる。 - 今後のアクションプラン
「次回はあのタイミングで、具体例を引き出す追質問をしよう」「誘導尋問っぽい聞き方は、こういう表現に切り替えよう」など、次回インタビューで実行すべき事項を明確化する。
フォローアップをインタビュー直後に行うのが肝です。時間を空けると記憶があいまいになり、学習効果が薄れます。また、時間が許せば録画したインタビューを一部再生し、良かった箇所や課題部分を確認するのもおすすめです。
インタビューメモの取り方次第で気づきも変わるので、興味があれば「ユーザーインタビューのメモを「極める」 – ファクトを徹底収集してインサイトを最大化」もご覧ください。

メンバーの学習効果を高めるための運用ポイント
オンラインインタビュー+リアルタイム指導の枠組みを実施するだけでは、スポット的な成果に終わる可能性があります。継続的に、かつチーム文化として根付かせるために、以下の工夫を取り入れると良いです。
- 定期的な実践機会のセット
たとえば「毎月2回はオンラインインタビューを行う日を設定する」など、スケジュールに組み込みます。リズムができるとメンバーのモチベーションも維持しやすいです。 - メンターのローテーション
1人のメンターだけでなく、複数の熟練メンバーがローテーションで指導役を担当すると、異なる観点のアドバイスがもらえます。受講者の視野が広がり、より多面的なインタビュー手法を身につけやすいです。 - 指導・学習内容を共有するドキュメントの整備
メンバーに送ったチャットをchatGPTにぶちこんで、アドバイスシートをドキュメント化しましょう。それが溜まってくるとあなたの事業のユーザーインタビューでよく発生する落とし穴などがわかってくるはずです。
また、「そもそも組織にユーザーヒアリングやる文化がないのだが、、」という場合は、僕が以前まとめた「ユーザーヒアリングを組織に根付かせる4つの仕組みを考察した」をぜひご覧ください!

今日から実践できるアクション
- 小規模から始める
まずは2〜3名のメンバーを対象に、1回のオンラインインタビューでリアルタイム指導を行う。15分フォローアップを忘れずに。 - 学習内容を共有する
気づいたポイント、注意事項、成功した質問例などをWikiやノートにまとめておくと、後から参加するメンバーにも共有しやすい。 - 定期的なスケジュールを組む
「週1回はオンラインインタビューして、メンバーの誰かが実施→メンターが指導→15分振り返り」をルーティン化。継続こそ最大のコツ。
Q&A
- Q1:オンラインインタビューだと、非言語情報を拾いにくいのでは?
- A1:対面より視野は狭くなりがちですが、カメラ越しで顔がアップで映る分、表情の変化はむしろ把握しやすい側面もあります。視線の動きや声のトーンを意識し、こまめに「今、少し言いにくそう?」と察知して深掘りする工夫をしましょう。
- Q2:インタビューの回数を増やす時間的余裕がありません
- A2:短時間で行えるオンラインインタビューこそ、その問題に対処する手段です。30分程度のインタビューを用意し、15分フォローアップを合わせてもトータル45分。移動時間が不要なので、隙間時間を確保しやすくなります。
- Q3:指導者(メンター)が常にチャットで見ていると、緊張感が高まりそうです
- A3:多少の緊張感はむしろプラス要素です。誤った聞き方をしても即修正できるメリットのほうが大きいですし、徐々に慣れていくと自然体で臨めるようになります。
参考情報
- Steve Portigal (2013). Interviewing Users: How to Uncover Compelling Insights. Rosenfeld Media.
- Nielsen Norman Group (2020). “The Importance of Observing Nonverbal Cues in Remote User Research.”
- Amy Gallo (2019). “How to Give Feedback People Can Actually Use.” Harvard Business Review.
- 僕のサイト内の関連記事:
– ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド
– ユーザーインタビューで「非言語情報」から「本音」を見抜く観察手法
– ユーザーインタビューのメモを「極める」 – ファクトを徹底収集してインサイトを最大化
– ユーザーヒアリングを組織に根付かせる4つの仕組みを考察した
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