生成AIを使った機能開発は多くのサービスで一般化しつつあります。一方で、「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる問題が顕在化し、プロダクト運用の現場で頭を抱えるPMも少なくありません。
LLMが確信めいた調子で誤情報を出力するこの現象に対して、どう向き合い、どのような対策を施せばユーザーの信頼を守れるのか?本記事では、AIが誤情報を生むメカニズムと、そのリスクを最小化するための方法を解説します。
ハルシネーションとは? LLMが見せる“幻覚”の正体
ハルシネーション(幻覚)とは、大規模言語モデルが実際には存在しない情報や事実と異なる内容を、それらしい言い回しであたかも真実のように出力してしまう現象を指します。
たとえば、有名人の経歴を間違えて答えたり、引用元のない文献をでっち上げたりなど。これはAIが嘘をつこうとしているわけではなく、学習データに基づいて予測されるテキストを生成する過程で論理整合性の薄い推論が混じることに起因します。
この“幻覚”は、ユーザーにとって重大な混乱や誤解を招くだけでなく、ビジネス上の信頼失墜に直結するリスクを孕みます。とりわけ医療や法律など、高い正確性が求められる分野では大問題になり得ますよね。
なぜハルシネーションが起こるのか? 3つの主要要因
ハルシネーションの発生理由は、主に以下の3つに整理できます。
1. 統計的予測の限界
LLMは膨大なテキストを学習し、“文脈に沿ってもっともらしい単語列を予測する”モデルです。トレーニングデータ上では辻褄が合っていても、新しい質問や不完全なデータセットへの応答時に“埋め合わせ”が発生しやすいです。
2. 学習データの偏り
ソースとなるデータが一部の偏った情報に大きく依存していると、AIはその偏りを強化して学習します。結果として、実在しない事実や差別的な表現を再生産する可能性が高まります。
3. プロンプト設計の不備
ユーザーが与える指示文(プロンプト)に明確な制約やガイドラインがないと、“適当に補完”して発話を整える傾向が強くなります。
関連するプロンプト設計のコツは、「プロダクトマネージャーが知っておきたい最新プロンプトエンジニアリング実践ガイド」でも詳述しています。

ハルシネーションがもたらすリスクと事例
また、ハルシネーションについてPMが認識しておくべきリスクを整理します。
ビジネス的損害:
企業サイトのFAQやチャットサポートにLLMを導入した際、AIが不正確な回答を返すとユーザーは混乱し、クレームにつながります。場合によっては信用を失い、顧客離れに直結するケースも。
社会的影響:
誤った医療知識や法的助言をAIが提供してしまうと、当事者に深刻な影響が及ぶ恐れがあります。コスト面で導入しやすいからといって、リスク管理を疎かにするのは禁物です。
海外では、医療系チャットボットが誤診・誤処方のような危うい提案をした事例も報告されています(Brown et al., 2020)。プロダクトの仕様次第では、日本国内でも類似の事故がいつ起きてもおかしくありません。
ハルシネーションを最小化する7つのポイント
まず、ハルシネーションを“ゼロ”にすることは難しいです。
ただし、適切なプロセスと仕組みを導入すれば、リスクを大幅に抑えることは可能です。ここでは各種LLMツールの公式情報などで紹介されている内容などをもとに具体的な対策を7つ紹介します。
1. データセットのバリデーション:
AI開発前に、学習データのソースやクオリティを確認。公的機関や信頼性の高い研究報告に基づくデータを優先し、明らかにノイズの多いコーパスを排除します。
2. クロスチェック体制:
リリース前に、実際に想定されるユーザー質問を投げかけて回答をチェック。「ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説」なども参考に、ログ分析のテクニックを応用して回答の傾向をつかむことも有効です。

3. リファレンス指示の徹底:
プロンプトで回答を求める際、可能な限り「情報源を示す」ようにAIへ指示を与えます。これによりハルシネーションが起こりにくくなり、ユーザーが事実確認をしやすい形で回答が得られます。
4. 自己検証系プロンプトの活用:
「あなたの回答に誤りや偏りはないか、理由を説明してください」とAIにメタ的なフィードバックを促す。複数回答を生成し比較検討することで、誤回答を減らす仕組みを作れます。
5. 出力長や形式の制御:
プロンプトエンジニアリングの基本として、生成文字数やフォーマットをある程度指定すると、AIが恣意的に話を広げにくくなり、幻覚リスクが軽減します。
6. フィルタリング機能の導入:
卑猥表現や差別表現に加え、“高リスクの誤情報”と思われるフレーズをブロック・警告する仕組みを導入する。運用コストはかかりますが、企業信用を守るうえで重要な投資です。
7. ヒトのモニタリングとロールバック策:
全自動化に頼りすぎず、一定期間は人間のレビューを通したり、異常な回答検出時に素早くモデルバージョンをロールバックしたりする体制を作りましょう。特に初期リリース段階では欠かせないポイントです。
誤情報報告とモデルアップデートの運用・改善フロー
出力にランダム性があるのとモデル側のアップデートや調整が入るので、ハルシネーションは一度対策して終わりではありません。運用段階でのモニタリングと継続的な改善が鍵になります。ここでは代表的なフローを示します。
ちなみにちゃんとやると結構な工数がかかるので、PMはこの段階に入るまず「その課題、生成AIで解決する必要が本当にあるのか?」と問うようにしましょう。
ユーザー報告フローの整備:
LLMの回答に誤りを見つけたユーザーが、即座に報告できるようにUI上で窓口を設置します。PMは定期的にこの報告をレビューし、誤回答のパターンを抽出。
モデルアップデートサイクル:
誤情報パターンがある程度蓄積したら、フィードバックデータとして再学習やファインチューニングを実施。バージョン管理を行い、“いつのデータでどんな改善がなされたか”を記録することが重要。
これらの継続改善には、「生成AI時代のプロダクトマネージャーが果たすべき役割とスキル【2025年3月版】」でも触れているように、データサイエンティストやエンジニアとの連携が不可欠です。PMが全体を統括し、優先度を正しく設定することで、安定したプロダクト運営を実現できます。

ユーザー信頼を損なわないアナウンスとUI/UXの工夫
ハルシネーションリスクは完全になくならない以上、ユーザーにその旨を適切に伝え、正しい活用を促すことが求められます。
具体的には以下のようなUI/UX上の工夫が考えられます。
1. 免責文と利用上の注意:
「この回答はAIが生成しており、誤情報を含む場合があります」といった注意書きを掲示し、ユーザーが鵜呑みにしないよう啓発します。
2. リンクや参考資料の提示:
回答が外部情報を参照する場合は、リンクを提示。エビデンスに基づいた回答だという安心感を与えます。
3. “要約+詳細”の2段構成:
要点を短くまとめた要約パネルと、詳細情報を展開できるUIを用意。ユーザーが自己判断で深掘りできるようにすることで、誤情報が混ざっていてもユーザーの自己修正が効きやすくなります。
4. 回答に対する評価ボタン:
ユーザーが“誤回答”や“わかりやすい”などを簡単にフィードバックできるボタンを配置し、継続的な改善に役立てます。
今日から実践できるアクション
- 1. プロンプトを見直す
回答の形式や根拠提示を必須化するなど、プロンプト設計を具体的に変更してテストを行う - 2. データソースを再チェック
学習データの信頼度を棚卸しし、明らかに質の低いデータを排除する - 3. “人間のチェック”を正式プロセス化
リリース直後は特にリスクが高いので、重要な回答は人手レビューを組み込む - 4. ユーザーの通報機能を試験運用
社内環境でもよいので、誤情報を通報するUIを設置し、運用フローを確立してみる
Q&A
- Q1: ハルシネーションを完全になくすことは可能でしょうか?
- A1: 現行のLLM技術では難しいです。生成モデルの特性上、多少の誤情報リスクは常に内在します。ただし学習データやプロンプト、運用体制でリスクは大幅に低減可能です。
- Q2: バイアスとハルシネーションは別物ですか?
- A2: バイアスは差別的・偏見的な情報が強調される現象、ハルシネーションは事実無根の情報が生成される現象です。根本的な原因は学習データの偏りやモデルの予測手法にあるため、対策は一部重複しますが、目的や運用フローの観点で若干異なります。
- Q3: 予算や人員が限られている場合、最優先すべきは何?
- A3: データソースの見直しとプロンプト制御が最優先。これらは比較的コストがかからず、効果が大きいです。次に、ユーザー通報と人間のレビュー体制を必要最低限でも整えていくとよいでしょう。
参考情報
- Brown, T. et al. “Language Models are Few-Shot Learners.” NeurIPS, 2020.
- Ouyang, X. et al. “Training language models to follow instructions with human feedback.” OpenAI Research, 2022.
- Rachel K. E. Bellamy et al. “AI Fairness 360: An Extensible Toolkit for Detecting, Understanding, and Mitigating Unwanted Algorithmic Bias.” IBM Research, 2019.
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