立ち上げ初期に「ユーザー課題解決」以外の軸を増やすとプロダクトは伸びない

プロダクト企画

この記事の要約

  • 軸が増えるほど“やらなくていい施策”を正当化し、プロダクトが複雑化する
  • 結果的にユーザー離脱が進み、本来の成長機会を逃してしまう
  • ユーザー課題を最優先にし続けるためのリサーチ・意思決定の仕組みを解説

はじめに

ユーザーのために、機能追加やUI改修をしているはずなのに、なぜかプロダクトが伸びない」。

そんなモヤモヤを抱えていないでしょうか? 特に立ち上げ期やリニューアル直後でユーザー課題以外の軸を判断基準に混ぜるほど、プロダクトは複雑化の一途をたどりがちです。

  • 売上至上主義
  • ステークホルダーの思惑

など、ユーザー価値と無関係な条件が増えると、“本来なら見送りそうな意思決定”が通りやすくなる。結果として画面や機能がどんどん増え、ユーザー体験が壊れていく。この現象こそが、プロダクトグロースを阻む大きな要因になります。

この記事では、「ユーザー課題解決」を軸にしつつ、余計な軸を入れないための具体的仕組みや、伸び悩みを打破するリサーチ手法を整理します。

なぜ「軸が増える」とプロダクトは遠ざかるのか?

プロダクトが成長するためには、ユーザーの課題を正面から解決する施策を続けることが欠かせません。ところが、実際には「売上を短期で上げたい」「投資家にアピールしたい」「競合対策が必要だ」といった別の要件が加わると、ユーザー課題と無関係な施策が通りやすくなる。

たとえば、広告スペースの拡大やVIP顧客向けの超ニッチカスタムな要望(戦略上重要な顧客ならOKだが)などが例。どれも“正当な理由”があるように見えるため、「ユーザーのため」と矛盾するのに、止める口実を失ってしまう。意思決定時に複数の軸があり、優先度が曖昧だと、「まあとりあえずやってみよう」という結論に流されがちです。

しかし、それこそがユーザー離脱を招きます。必要性の薄い機能がUIを圧迫し、操作ステップが増え、ユーザーは「面倒」「本当に自分の問題を解決してくれているのか?」と思うようになる。結局リテンション率が下がり、肝心のビジネス成果も遠のく悪循環です。

複雑な判断軸が生む“歪んだ意思決定”の具体例

“ユーザー課題以外の軸”が増えると、実際の現場ではこんな歪んだ意思決定が起きがちです。

  • 「売上を早く稼ぎたいし、社長も急げと言っているから、トップ画面いっぱいに広告を埋め込もう」
  • 「競合がチャット機能をリリースしたみたいだし、ウチも急いで似た機能を追加しよう」
  • 「VIP顧客がカスタマイズを要求しているから、とりあえず要望を全部入れて既存UIにボタンを積み増そう」

ユーザー課題から考えれば「広告まみれにすると使いにくい」「チャット機能はコアニーズでない」「現行UIにボタン追加するとゴチャつく」など明白ですが、売上・競合対策・VIP対応といった別軸が出ると、誰もNOと言えなくなる。
このように、本来なら排除すべき施策が、“それっぽい論理”でゴリ押しされる結果、プロダクト全体が迷走状態に陥るリスクが高まります。

ユーザー課題解決からブレない仕組みを作る

ではどうすれば、ユーザー課題以外の軸に流されずに済むのか。当たり前ですが、仕組みとして「ユーザー課題解決」を最優先にすることです。一度「軸はユーザー課題が絶対」とチーム全体で合意できていれば、売上優先や競合対策などが理由で異なる提案が来ても拒否しやすくなる。
具体的には以下のステップがおすすめです。

  • ステップ1: コア課題定義
    「私たちのプロダクトは、主にどんなユーザーのどんな課題を、どの程度解決するのか」を明確に1つだけ文章化する。チーム全員がいつでも見返せる形にしておく
  • ステップ2: 機能要望を“課題解決度×効果範囲”で評価
    新しい要望が浮上したら、「これはコアユーザーの主要課題と関係あるか?」「どの程度の効果範囲が期待できるか?」を数値化。閾値を超えないものは却下する
  • ステップ3: 検証プロセスで“ユーザーが喜ぶか”を確認
    小規模PoCやカナリアリリースなどでユーザー反応をチェックし、本当に価値を感じているかを測る

こうしたフローを日常的に回すと、売上や社内要望だけに流されるのを防ぎ、「ユーザー課題の解決が中心」という前提をぶらさないプロダクト文化が育ちます。

ユーザーのためと思っても伸びないのは“リサーチ不足”や“戦略ミス”の可能性

もうひとつ見落とされがちなのが、「ユーザーのため」と言いながらも、実はユーザーの真の課題を理解していないパターンです。例として、ユーザーインタビューやログ分析が不十分で、ユーザー像を勝手に想定して機能を作っているケースが挙げられます。
「これがあれば便利だと思いますよね?」と開発側が思い込んでリリースしたものの、実際にはユーザーがそれほど必要としていなかった…という事態は決して珍しくありません。関連する例として、不要機能を最小化する記事でも、似たような問題点が触れられています。

「いらない機能」がなぜ生まれるのか?そして、我々はどうすれば良いのか?
新機能の開発が進んでから「これ、別にいらなかったのでは?」と感じる瞬間。プロダクトマネージャーとしては「やってしまった...」と、チームメンバーに対して申し訳なくなる気持ちが一定発生する状態ですよね。失敗から得られる学びもあるので機能が当た...

もしユーザーのための施策がハズレるなら、リサーチやビジネス戦略が合っていない可能性が高い。想定していたユーザー層が実はメイン顧客ではなかったり、ニーズがあると思いこんでいた課題が実は優先度が低かったりする。このギャップを埋めるには、きちんとしたインタビューや定量分析を重ね、客観的な裏付けを取ることが欠かせません。

ユーザー課題以外の軸を入れるほど、グロースから遠ざかる

プロダクトはユーザーの課題を解決するという軸が主軸にあるからこそ成長できる。しかし、売上至上主義やステークホルダーの要求など“別の軸”を組み込むたび、機能やUIが複雑化してユーザーが離れてしまう。

特に「本来なら見送りそうな施策を正当化するロジック」が生まれやすくなる点が問題です。PdMは「ユーザー課題を解決するのか?」の問いを常に掲げ、合致しない要望を排除する仕組みを整える必要がある。そして、ユーザーリサーチで“本当にユーザーが求めているもの”を確認し、ビジネス戦略と擦り合わせることで、いらない施策を減らし、シンプルで伸びるプロダクトを作れる。

もし今、プロダクトが複雑になりすぎて「どこを触ればいいか分からない」状態なら、一度軸を見直すタイミングかもしれません。ユーザーのために機能を追加しているはずが、実は売上や社内都合だけで突っ走っていないか、ぜひチェックしてみてください。

今日から実践できるアクション

  • 1. コア課題定義を書き出す
    「何を解決するためのプロダクトか」を再度、文章にまとめ、チームで共有する。会議の前に必ずそれを読み返すルールを作ると効果的
  • 2. 機能要望をスコアリング
    「ユーザー課題への貢献度×影響範囲」といった指標を設定。閾値を下回る機能は開発しないと明示する
  • 3. リサーチを強化する
    インタビューやログ分析を行い、本当に需要があるかを検証。ユーザーインタビューを重ね、根拠を持って決定
  • 4. 定期的に“削る機能”を選ぶ
    機能や設定項目が多くなってきたら、どれをカットできるかを検討する会を開く。UIが再度シンプルに
  • 5. ロードマップにユーザー課題を併記
    ロードマップの各施策に「解決する課題」を添え、ズレた取り組みを事前に発見しやすくする

Q&A

Q1: 経営層から売上目標を押し付けられた場合、どうすればいい?
A1: 売上を上げる施策でも、ユーザー課題を解決する視点を忘れないようにする。短期の売上向上策がユーザー体験を損なうリスクが高いならPoCや限定提供で検証し、結果を示すことで過剰な施策を回避しやすい。
Q2: ユーザーのためと言いつつ、実際は自社都合の施策になってしまうのはなぜ?
A2: リサーチ不足で“ユーザーのためという思い込み”を起こしやすいから。実際にインタビューやログ分析を徹底してファクトを確かめないと、空想のニーズや社内要望だけで突っ走る危険がある。
Q3: いま付いている機能が本当に必要かを判断するには?
A3: まずは利用ログで実際の使用頻度を確認し、次にユーザーに「もしこの機能が消えたら困る?」と直接聞く。不要なら削除を検討する。“削減”こそUI改善とユーザー満足向上の近道になる。

参考情報

  • Spotify Labs. (2022). “Stepwise Rollouts and User-Centric Testing.”
  • Box社. (2021). “Press Release: Overhauled UI to Focus on Core File-Sharing.”
  • Harvard Business School. (2020). “When Too Many Features Hurt Usability.” HBS Working Paper.

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