「読まれるドキュメント」にするPM向けのドキュメンテーションとドキュメント管理

プロダクト企画

プロダクトマネージャーは、日々さまざまなドキュメントと向き合います。
新機能の要件定義や仕様書、社内プレゼン用のスライド、営業チームへの説明資料……どれも“プロダクトの中枢”を担う情報が詰まっているはずです。
しかし「内容が曖昧」「文章が長いわりに分かりにくい」「管理が散らかっていて最新版がどれか不明」などの問題があると、チームが混乱し、生産性が大きく低下します。

一方、ドキュメントの質が高く、しかも管理がスマートだと、エンジニアやデザイナーとの意思疎通がスムーズになり、サービスのリードタイムや品質が向上します。
では、どのようにドキュメントの質を上げ、かつ管理を楽にできるのでしょうか。
リモート組織の成功事例『GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた』(翔泳社)や、“読みやすい文章”の技術を解説する『20歳の自分に受けさせたい文章講義』を参考に、具体策をまとめました。

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なぜドキュメントの質がPdMにとって死活問題になるのか

プロダクトマネジメントは、ビジネス要件・UXデザイン・技術的制約などを一貫してまとめ上げる役割です。
その軸となるのがドキュメント。要件定義書・仕様書をはじめ、「どのように作り、なぜそうするのか」を言語化してチームに伝える必要があります。

ここでドキュメントの質が低いと、以下のような影響が出やすいです。

  • 認識ズレの頻発:エンジニアが仕様の解釈を誤り、リリース直前に大幅修正が必要になる。
  • 社内説得の失敗:営業や経営層に「何のための機能か?」が伝わらず、承認が降りない。
  • メンテナンスコストの増大:文書が散らばり、どれが最新版か分からない。古い情報を参照することで再工数が発生。

逆に言えば、“質の高い”ドキュメントを適切に整備すれば、チーム全体の生産性が向上し、意思決定のスピードも上がるというわけです。


ドキュメントの「質」を上げる書き方のポイント

まずはドキュメントの中身を充実させ、読み手にストレスなく情報が伝わるようにするためのコツを整理します。
意外に見落としがちなのが「文章の技術」。システム知識やビジネス知識はあっても、文章力を学んでいないPMは多いかもしれません。

書き始める前に“文書の目的”と“読み手”を明確化し冒頭に記載

20歳の自分に受けさせたい文章講義』でも強調されるように、「誰に向けて、どんな行動を促すために書くのか」を冒頭ではっきりさせると、読み手の混乱を大幅に減らせます。
例えば、仕様書なら“エンジニアに正確な要件を伝える”ことが目的。営業資料なら“ビジネスインパクトを強調し、説得力を持たせる”ことが狙い。
これを最初に示さずにダラダラ書き始めると、読んでもらえる可能性が低くなります。

具体的には、文書の先頭に「この文書の目的と想定読者」「概要」を置き、そこだけ読めば概要がわかるようにする。
要点をリスト化するのも手。目的→背景→結論という順番で簡潔にまとめると、読み手が安心して読み進められます。

抽象(コンセプト)と具体(例)を行き来する

プロダクトの文書はビジネスコンセプトと技術的実装を両方扱うため、抽象度を切り替える技術が必須です。
「この機能で達成したいゴール」「実装上の要点」をセットで書くことで、ビジネスサイドもエンジニア側も共通理解が生まれます。
例えば:

  • 目的(抽象):ユーザーが商品を効率的に比較できる機能を提供し、購入率を高める
  • 実装例(具体):比較ボタンを押すとモーダルが開き、最大5商品を1画面で見られるようにする

特に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』で提唱される「抽象と具体の往復」は、情報を理解しやすくする基本テクニック。
抽象的な狙い(なぜやるのか)を述べた直後に、具体案(どう実装するか)を例示すれば、読み手がメリットと手順を同時に把握できます。

簡潔に、しかし必要情報は省かない

「短く書く=質が高い」と思いがちですが、あまりに情報を削りすぎると、本当に必要な背景や根拠が伝わりません。
重要なのは、読み手が判断や作業をするために必要な情報は何かを見極め、それは丁寧に書き込む。一方で、冗長な説明や重複をそぎ落とすことです。
根拠となるデータやユーザーインタビューの成果をリンクや添付で参照できるようにし、本文は要点を明快にまとめるのが理想です。


ドキュメンテーションを“楽に”する管理術

ドキュメントの質が高まっても、ファイルが散らばりバージョン管理が無法地帯なら、誰も最新版を見つけられず、混乱は絶えません。
ここからは、管理そのものを簡便にしてストレスを減らすアプローチを紹介します。
リモート体制のGitLabが重視している「オンラインでの一元管理」「誰でも更新できるフロー」はまさにこの観点です。

シングルレポジトリ+更新ルール

NotionやConfluence、GitHub Wikiなど、チームの規模や文化に合うツールを選び、一元管理を徹底します。
ポイントは「すべてのドキュメントはここに置く。更新があればSlackで連絡」というような運用ルールを最初に決めておくことです。
そして

  • 「仕様書はPMがオーナー」
  • 「UIガイドラインはデザイナーがオーナー」
  • 「営業資料はCSがオーナー」

など、ファイルごとに責任者を明示します。

これだけで「どこに何があるか」不明という問題が減り、バージョンも確認しやすくなる。
また、GitLabが採用しているようにMerge Requestでレビューを行う仕組みがあると、更新内容をチーム全員が簡単に把握できます。PMに置き換えると、これがレビュー依頼のslackでの連絡になるでしょう。

名前付けやバージョン管理の徹底

命名規則を決めておきましょう。
例:「機能名_YYYYMMDD_バージョン」で統一など。
また、日付+バージョンをファイル名やページタイトルに入れると、最新版がどれか一目瞭然です。

さらに、タグやラベルで「#要件定義」「#UI仕様」「#マニュアル」などと分類すれば、閲覧者がジャンル別に探せて便利。
徹底したバージョン管理があれば、トラブルが起きても過去版に戻って原因を追跡しやすいメリットがあります。


“書き手”と“読み手”を結ぶレビュー体制

書き手が丁寧に書き、管理も行き届いたドキュメントであっても、関係者がレビューしてフィードバックを返さないと、質の向上が止まります。
“書き手⇔読み手”の循環を回すには、PMがレビュー体制を主導することが鍵。

“週次ドキュメントレビュー”で差分を共有

Scrumのスプリントレビューに似た感覚で、週1回程度「今週更新されたドキュメントは何か」をリストアップし、差分を報告する会を開催します。
エンジニアやデザイナー、営業がそこで気づいた疑問を出し合い、PdMが必要に応じて追記・修正を行う流れが理想です。

所要時間は30分でも効果大。みんなが忙しいなかでも、差分をざっと見て「OK」「そこは逆にこう思う」という意見を交わすだけで、ドキュメントは常に精度が上がっていきます。

読み手からの指摘を歓迎する文化

GitLabのように“誰でも編集や提案ができる”仕組みを取り入れれば、書き手と読み手の壁がなくなりやすいです。
PMが「意見をどんどん書き込んでください」と強調し、承認フローを簡潔にすることで、自然とドキュメントの質が高まっていきます。また、もらったコメントには100%返信したり、MTGの中で取り上げたりするとコメントをした人が「自分のしたコメントには意味があったんだ」と感じることができます。
反対に、固い権限管理だけだと、読み手は「面倒だし黙っておこう」と思いがちで、フィードバックの機会を逃してしまいます。


読み手の時間を奪わない“質の高い文章”を徹底する

ドキュメントの質を上げる最大のポイントは「読み手が短時間で必要情報を得られる」こと。
『20歳の自分に受けさせたい文章講義』にもあるように、文章は『読む人の時間』を借りているという意識が大切です。

基礎に忠実に、先に結論、あとで根拠。

どこもかしこでも言われているように、結論先行型で書くと読み手が迷いません。
例えば、仕様書なら「ユーザーが商品を比較するための画面を追加する」という結論を先に述べ、続いて背景(ユーザーの要望)や実装詳細を示す。
プレゼン資料でも同様に、“まず結論を提示→理由を箇条書きで補足”という構成にすれば、読み手は一気に理解しやすくなります。

ビジュアルや箇条書きで情報を整理

文章だけが羅列されていると、スクロールが長くなり読者が疲弊しやすいです。
要件やUIフローは、図解箇条書きテーブルで整理すると格段に把握しやすくなります。また、仕様書に落とすときにFigjam、Miroなどで作れる図形のみに構成されたUIモックをPMが作ると認識の齟齬が生まれにくくなるのでおすすめです。

成功事例:成功のカギは“小さく始める”こと

ドキュメントの質と管理術を同時に強化するには、最初から全社規模でやろうとすると失敗しがち。
webなどの成功事例を見ても、“チーム単位”でまず適用して成果を示すというステップが多いです。

成功事例:要件定義書からスタート

僕が過去やっていたスタートアップでは、仕様書が各自のフォーマットで作られていたため、まず要件定義書だけをNotionに集約し、“PdMが書き、デザイナーとエンジニアがレビュー”という運用に絞り込みました。
文章は“結論先行”“例示を頻繁に使う”など、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』のエッセンスを取り入れ、高い可読性を実現し、記載する項目は全て統一してnotionのテンプレート機能でページを作った瞬間にフォーマットが作成される形に。
結果的に、異職種間の理解がスムーズになり効率よく開発ができるようになりました。


関連リンク:情報共有や組織体制に関する記事


今日から実践できるアクション

  1. オーナー設定:主要ドキュメント(仕様書・デザインカンプ・営業資料など)ごとに明確なオーナーを置く
  2. 小さく始める:まずは要件定義書など1種類だけを「このツール+このルール」で管理し、成功体験を作る
  3. 文章冒頭で目的+想定読者を宣言:『20歳の自分に受けさせたい文章講義』の要点。読み手が何を期待できるかを先に示す
  4. 更新フローと通知連携:NotionやConfluenceとSlackを連携し、更新があれば#doc-updatesチャンネルで告知。週1の差分会でレビュー
  5. 抽象+具体の往復:ビジネス的背景(なぜ)と実装的詳細(どう)をセットで書き、読み手ごとの理解をサポート

Q&A

Q1. うちの現場はエンジニア中心で、文章力に自信がないメンバーが多いです。どう改善できますか?
A. 文章力は少しの意識で向上します。まずは「1文1アイデア」「結論先行」で書いてみるだけでも読みやすくなります。『20歳の自分に受けさせたい文章講義』に書かれたヒントをチーム内でシェアする勉強会を開くと、共通の文書スタイルを育むきっかけになります。

Q2. “楽に”管理すると言っても、最初はルール化が面倒ではないですか?
A. 最初のセットアップは多少面倒ですが、一度ルールとツールが定着すると日常の負荷が驚くほど下がります。そこを乗り越えれば、むしろ作業効率がアップします。

Q3. ドキュメントを全部英語で書くべきか、日本語で書くべきか迷っています。
A. グローバル展開するなら英語で書くのがベストですが、チームの大半が日本語話者であれば日本語ドキュメントをメインにしつつ、要点だけ英語化する形もアリです。品質を下げないために“誰が読むか”“どの国のメンバーが関わるか”を考慮し、チーム内で合意を取ると良いです。


参考情報

  • GitLab, Inc. (2020). GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた. 翔泳社.
  • 古賀史健 (2015). 20歳の自分に受けさせたい文章講義. 星海社新書.
  • Notion Labs. (n.d.). “Centralizing Your Team’s Knowledge.” Retrieved from notion.so
  • Atlassian. (n.d.). “Confluence Documentation.” Retrieved from atlassian.com

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