Harvard Business Review(HBR)で取り上げられている「AIフュージョンスキル(AI Fusion Skills)」。
シリコンバレーはもちろん、日本の企業でも「AI時代に求められる新しい能力」として注目を集めはじめています。
筆者(29歳・HRテックPM、累計600回以上のユーザーインタビュー経験あり)も、LLMをヘビーユースする中で感じる手応えがあります。
本記事では、その“AIフュージョンスキル”がどのようなもので、どこで役立つのか、そして具体的な実践法に迫ります。
AIフュージョンスキルとは何か?
AIフュージョンスキルは、HBRが2023年頃からいくつかの論考で取り上げた概念。
簡単に言うと、「AIの長所(高速分析・自動生成)と人間の長所(創造性・共感・戦略立案)を融合させる総合力」を指します。
このスキルがあると、PMは生成AIとの対話を活かして、アイデア発想や要件定義を爆速で進めつつ、ユーザーの本質的なニーズまで外さないバランス感を保てるようになるというわけです。
Harvard Business Review[1]では具体的に、AIフュージョンスキルを構成する3要素が挙げられています。
- インテリジェントな問いかけ(Intelligent Interrogation)
- 判断の統合(Judgment Integration)
- 相互の学習(Reciprocal Apprenticing)
以下では、これら3つの要素をもう少し踏み込んで見ていきましょう。
インテリジェントな問いかけ:AIを引き出す“質問力”
生成AIを業務に導入すると、「AIに聞けば一発で答えが出るのでは?」という期待が生まれがち。
しかし現実は、AIに何をどのように聞くかによって返ってくる情報の質がまるで違ってきます。
ここに必須なのがインテリジェントな問いかけ。
具体的には「ユーザーストーリーがまだ曖昧だが、競合Aと競合Bの機能差を分析しつつ、課金モデルも提案して」というように、AIが理解しやすい形で質問を整理し、必要なコンテキストを与えるテクニック。
筆者の例として、ChatGPTにPRDの雛形作成を頼むとき、“ビジネスゴール”や“ペルソナ像”を詳しく伝えてみる。すると、AIからは単なる機能リストだけでなく、「この機能がターゲットにどんな価値をもたらすか?」まで踏み込んだ提案が返ってくる。
こうした“使いこなし”こそが「Intelligent Interrogation」のキモ。AIをただの検索エンジンではなく、会話のパートナーとして扱うことがポイントです。
たとえば僕のPRDを作る時には、LLMツールへのpromptが300~500文字とかになる時などもあります。
判断の統合:AIの提案を鵜呑みにしない“批判的思考”
AIフュージョンスキルの2つ目は、Judgment Integration(判断の統合)。
生成AIはときに非常に魅力的なアイデアや分析結果を示してくれますが、そのまま鵜呑みにすると痛い目を見ることもあります。
たとえば、数字の整合性が取れていなかったり、明らかな事実誤認が紛れ込んでいるケース。
僕も以前、ユーザーインタビューを分析させたら定性で確認した直感とズレた集計結果を返されたことがありました。
AIは過去データに基づく一般解を返すのが得意で、文面も説得力があるため見落としやすい。
そこで大事になるのが、結果を批判的に検証する人間の目。
実際に顧客企業を訪れたり、開発チームと会話しながら、AIの提案が自社プロダクトの世界観やユーザー像にフィットしているかを見極める段取りをセットで行う。
この“人間による最終判断”を統合するプロセスがなければ、どれだけAIが賢くてもプロダクトの方向性を誤るリスクが上がるのです。
相互の学習:AIと共に進化する“Reciprocal Apprenticing”
3つ目のキーワードがReciprocal Apprenticing(相互の学習)。
これは、PMがAIを育て、AIからPMが学ぶという双方向の学習スタイル。
たとえば、PMがドメイン知識(顧客属性や業界特有の慣習、開発チームの制約など)を細かくAIに教えることで、AIがどんどんプロダクト専用の“賢いアシスタント”に育っていく。
逆にAIのほうも膨大なデータベースから、PMが気づかなかった新しい発想や成功事例を提示してくれる。
僕自身、AIに自社のカスタマージャーニーやユーザーペルソナ情報を学習させると、リリースノートをユーザーが好む文脈で自動生成してくれたり、「求職者が最も嫌がるUIのパターン」をリサーチ報告してくれたりと、めちゃくちゃいい感じのアウトプットが得られるケースが増えました。
これがまさに“Reciprocal Apprenticing”。PMとAIが互いを高め合う関係を築くことで、プロダクトの進化も加速します。
今日から実践できるアクション
- プロンプト設計を意識しながらAIと対話する
「ビジネスゴールは○○」「ユーザー層は××」「競合Zとはこんな違いがある」など、コンテキストを丁寧に教えた上で答えを求める。
具体的な数値データやターゲットイメージを盛り込むとAIが的確に返してくれる確率が上がる。 - AIの提案を必ずユーザー接点で検証する
会議室だけで済ませず、顧客企業やユーザーインタビューの現場感を照らし合わせる。
AIが出した数値やシナリオを「本当にこのユーザーに当てはまる?」と批判的に見る癖をつける。 - 自社専用のAI知識ベースを作る
製品仕様やユーザーストーリー、ビジネス要件などをまとめ、AIに学習させる。
徐々にAIが自社独自の文脈を理解し、アウトプットが洗練されていく。
Q&A
- Q1: AIフュージョンスキルがなくてもPMはできませんか?
- A: 従来型のPM業務だけなら可能かもしれません。しかし、生成AIが浸透するほど業務のスピードと高度化が進むため、AIとの協働を前提にしたスキルセットが必須になってくると考えられています。
- Q2: データサイエンティストではないPMにも習得できる?
- A: もちろん可能。AIフュージョンスキルは高度なプログラミングやアルゴリズムの知識とは異なります。むしろ“質問力”や“最終判断力”といった、PMらしいクリエイティブ思考が鍵です。
- Q3: 実際どれくらい時短や効率化になる?
- A: HBRの調査[1]では、文書作成や要件定義などで30〜40%の工数削減が報告されています。筆者自身も週3〜4時間は浮いた実感があります。そのぶん戦略立案やユーザーリサーチに時間を回せるのが大きいです。
参考情報
- [1] The AI Skills You Should Be Building Now
- pm-ai-insights.com: 「ユーザーインタビューの方法」「生成AIとPMの役割変化」など