この記事の要約
- 課題ドリブンは王道だが、課題ゼロ発想でも成功し得る事例がある
- 課題とアイデアの両輪思考が生むメリットとリスク管理のポイントを解説
- アイデアドリブンの場合に成功に必要な4要素を紹介
「新しい機能やUXUIを作りたいけど、やっぱり課題ベースで考えるべき?」
「課題がはっきりしないのに成功するプロダクトもあるって聞くけど、どういうこと?」
と感じたことはありませんか。
この記事では、課題ドリブンがなぜ鉄板とされているのかをまず押さえつつ、「課題不在」から生まれた成功例を掘り下げ、アイデアドリブンの場合に成功に必要な4要素を紹介します。
“課題ドリブン”はなぜ鉄板か?
プロダクト開発のセオリーとして「ユーザーの課題を特定し、それを解決するソリューションを提案すべき」という考え方があります。いわゆる課題ドリブンです。これはリーン・スタートアップ(Eric Ries『The Lean Startup』)や、ジョブ理論(Clayton M. Christensen『Competing Against Luck』)など、数多くのビジネス書や研究で重要視されている手法です。明確な課題を起点にすることで、ユーザーが「これなら私の問題を解決してくれそう」と瞬時に納得し、プロダクトが本質的な価値を提供できる可能性が高まるからです。
僕もこれまで多くのユーザーインタビューをこなしてきましたが、課題ドリブンで進めた場合は、開発ロードマップが組みやすく、エンジニアやデザイナーとの連携もスムーズです。また、組織を納得させやすいのもメリットの一つです。ユーザーインタビュー前に「筋の良い仮説」をチームで設定する具体的な方法やフレームを紹介した記事でも触れましたが、しっかりとした課題仮説があるとチーム全体が迷いにくい状態になります。
一方で、「顧客課題がクリアになっていないサービス」も世の中には存在します。むしろ「こんなの欲しかった!」という声が後づけで発生するケースも。たとえば、SNSやゲーム系サービスの中には、最初はユーザーの「課題」ではなく「なんか新しい遊びを試してみたい」という好奇心を掴んで成長したものもあります。つまり、課題ドリブンが鉄板である一方で、課題が見えにくいところから大きなイノベーションが生まれる余地もあるわけです。
課題が不明瞭でも生まれるイノベーション事例
「課題がよくわからない」状態から始まったイノベーションの例はいくつか存在します。たとえば、3Mのポストイットはもともと粘着力が弱い接着剤の副産物として生まれました。初めは「何に使うのか?」という課題が見えませんでしたが、試作を重ねるうちに「ちょっとしたメモを貼る用途が便利」というアイデアへと結びついたのです。これはユーザーの明確な課題から出発したわけではありませんでした。
また、SNSの世界ではTwitterが代表例とされます。元々「140字の短い文章をリアルタイムで共有する」というアイデアはニッチに見えましたが、ユーザー同士のコミュニケーション需要を刺激し、社会のリアルタイム実況としての役割を獲得しました。これも「もともと課題を解決するためのサービス」というよりは、新しいコミュニケーション体験が先にあり、その後に「情報収集の手間を短縮する」という課題感が後づけで浮かび上がった印象です。
研究論文でも、新規製品開発におけるセレンディピティ(Serendipity)(思いがけない発見)の重要性を指摘するものがあります(Huston & Sakkab, 2006, Harvard Business Review)。実際、「どう使われるかは正直わからないが、面白い技術を試してみよう」という始まりでイノベーションが起こることも珍しくないです。
ユーザーの“潜在欲求”を見つける
課題が明確になくても、ユーザーの深層心理にある“潜在欲求”に触れれば、新しい価値を生み出せます。潜在欲求とは、ユーザー自身もはっきり認識していないが「そうなったら嬉しい」「意外と便利」という欲求のことです。
具体例を挙げると、ゲーム系アプリが提供する“楽しさ”や“暇つぶし”は、必ずしも顕在的な課題ではありません。でも、人は疲れを癒やしたり、ストレスを発散したりしたいという欲求を持っています。ここにアプローチすることで、多くのユーザーを巻き込むことができます。
潜在欲求を見つけるには、定型的なインタビューではなく、よりオープンな質問や観察手法を使う必要があります。僕は以前から「ユーザーがどんなふうに日常でサービスを使っているか」を何気ない雑談の中で引き出すよう心がけています。課題という言葉は出てこなくても「朝イチでスマホを見るのが習慣」「仕事の合間に手軽にできる息抜きがほしい」といった声からヒントを得ることが多いです。
「課題から考えない」アプローチで成功するための条件
とはいえ、課題が見えない状態でアイデアを出しても、多くは失敗に終わるリスクが高いです。ここでは、課題から考えないアプローチで成功するための条件を整理してみます。
- ビジョンや哲学が明確
たとえばAppleは「人々の生活をよりクリエイティブに、よりパーソナルにする」というビジョンを強く持ち、iPhoneやiPadを生み出しました。当初は「こんなの必要?」と言われた製品でも、ビジョンがしっかりしていれば、コンセプトをブラさずに開発を進められます。 - 少量でも良いから熱烈なユーザーベースを作る
面白いアイデアには必ず“最初のファン”が付きます。そのファンと一緒に磨き込む文化や仕組みを作ると、ユーザーの本音を継続的にヒアリングできるようになります。ここで課題が後づけで見えてくるケースが多いです。 - 試作と検証の高速サイクル
とにかくLLMなどで動くプロトタイプを作ってユーザーからフィードバックをもらい続ける手法です。リーン開発やアジャイル開発とも相性が良いです。高速で仮説検証を回す中で「実はこの部分が課題だった」と判明します。 - 失敗を許容する組織文化
課題が明確でない分、成功確率は低くなりがちです。失敗したアイデアも「学習機会」として捉え、ナレッジを共有する文化がないと、組織の反発でイノベーションが潰されてしまいます。
これら4つの条件が揃っていれば、課題を明確に把握しないままでも、ユーザーインタビューや実験を通じて後から課題を形成していくことができます。
課題とアイデアの両輪で考え抜く
ただ、結局のところ、課題ドリブンであれ、課題が不明瞭なアイデアドリブンであれ、最終的には「ユーザーにとって価値があるか」がすべてです。課題ドリブンは堅実ですが、それだけにこだわると、ユーザーの新しい欲求を見過ごす可能性があります。一方で、アイデア先行はリスクが大きい反面、思わぬイノベーションを生む可能性も秘めています。
重要なのは両者を対立構造で捉えず、「課題とアイデアの両輪」で検討することです。プロダクトや事業をグロースさせるには、課題の深堀りだけでなく、新しい切り口にも常にアンテナを張っておきたいところです。課題から逸脱することを恐れず、でもユーザーとの対話を怠らない。そんなバランス感覚がPdMには求められるのかもしれません。
まあ、つまり「ユーザーの課題を探すぞ」だけではなく「こんなアイデアどうかな?」でも当たるケースはあるので課題特定をベースにしつつ、もうちょっとラフに自分の考えるアイデアを実験するスタンスも大事だよね、という話です。
今日から実践できるアクション
- 1. 課題仮説とは別に“アイデア仮説”リストを用意
ミーティングで出てきた雑多なアイデアも、すぐ捨てずにメモしておきます。小さくてもいいので試す環境を作ると良いです。 - 2. 観察重視のインタビューで潜在欲求を拾う
いきなり「課題は何ですか?」ではなく、「日常の行動パターン」や「なんとなくの不満・希望」を聞いてみることで、隠れた欲求が見つかります。 - 3. 簡易プロトタイプやランディングページを作る
最低限の機能デモやランディングページを用意し、ユーザーのリアクションをチェック。手応えがあるかどうかはユーザーの行動が教えてくれます。
Q&A
- Q1: 課題ドリブンとアイデアドリブン、どちらが初心者PdMにはおすすめ?
- 僕の個人的な経験では、最初は課題ドリブンが扱いやすいです。課題が明確であれば周りを説得しやすく、施策の優先度も立てやすいため。ただし、新しい可能性に気づいても、それを捨てない柔軟性は持っておくと良いです。
- Q2: 「課題っぽくないアイデア」がチーム内で否定されることが多いです。どう説得すればいい?
- まずは小規模実験でデータを取ってしまうことがおすすめです。成功したらその数字を根拠に説明すると説得力が高まります。失敗したとしても学びが得られれば、それはそれで評価される可能性があります。
- Q3: BtoBプロダクトだと、課題が明確な方が強いのでは?
- BtoBは顧客企業の課題やKPIが明確な分、課題ドリブンで進めやすい側面があります。ただし、競合との差別化や新領域の開拓を図る際には、課題不在のアイデアを検証する余白も重要です。
参考情報
- Eric Ries (2011). The Lean Startup. Crown Business.
- Clayton M. Christensen (2016). Competing Against Luck. HarperBusiness.
- Huston, L. & Sakkab, N. (2006). “Connect and Develop: Inside Procter & Gamble’s New Model for Innovation,” Harvard Business Review.
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