「ユーザビリティテスト(Usability Test)」と「ユーザーインタビュー(User Interview)」は、いずれもユーザーリサーチの代表的な手法。両者がどう違うのか、また実務でどのように使い分け、あるいは組み合わせれば良いのか、最初は混乱しがち。そこで今回は「UI上の具体的な問題点を発見するのが得意なユーザビリティテスト」と、「課題の背景を深く理解するのに適したユーザーインタビュー」の違いや、それらを組み合わせるメリット、フレームワーク、進行例を紹介します。
ユーザビリティテストとユーザーインタビューの定義
● ユーザビリティテスト(Usability Test)とは?
概要:
実際の製品・アプリ・プロトタイプなどをユーザーに操作してもらい、「使いやすさ」や「UI上の問題点」を洗い出す調査手法です。被験者にあらかじめ用意したタスクを行ってもらい、操作時の行動や発話(think-aloud法)を観察・記録して分析します。
代表的な理論やフレームワーク:
- UX Benchmarking:タスク成功率・エラー率・操作時間などの指標(KPI)を継続測定する[3]
- ちなみに僕がやる時にはUX Benchmarkingを使うか、もう少しライトに発話法だけやることが多いです
- ISO 9241-11(Usability定義規格):効率・有効性・満足度の3つを基軸とした評価[4]
得意なこと(目的):
UI上の具体的な問題点を定量・定性の両面から把握し、操作性を高めるための改善策を導きやすい。
● ユーザーインタビュー(User Interview)とは?
概要:
ユーザーの行動背景、動機、感情などを深堀りする「定性調査」。ユーザーに「いつ困るのか」「なぜそう思うのか」「どんな文脈か」などを、具体的な過去事例や体験ベースで問いかけることで、より深い洞察を得ます。
代表的なフレームワークやまとめ方など:
- 半構造化インタビュー(Semi-structured Interview):質問項目だけ決めておき、回答次第で柔軟に深掘る[2]
- 5 Whys:なぜを繰り返し聞いて、課題の根本原因に迫る
- 実際に「なんでですか?」と5回連続で聞くとほぼ尋問になるので注意(笑)
- Jobs to Be Done(JTBD):ユーザーが何を達成したいのかの観点からインサイトを得る
- ペルソナ・カスタマージャーニーマップ:インタビュー結果を可視化して共有しやすくする
得意なこと(目的):
ユーザーの「行動原理」や「課題の本質」を理解し、アイデア創出やサービスの方向性に関する示唆を得る。
得られる情報の違い
項目 | ユーザビリティテスト | ユーザーインタビュー |
---|---|---|
主眼 | UI操作時の問題点発見 (使いやすさ、操作性) | 課題の背景や動機の深掘り (なぜ困る? どんな状況?) |
アプローチ | 実際のプロダクト・画面を触ってもらい、行動を観察 | 会話を中心に、過去の実例や感情をヒアリング |
適切なタイミング | プロトタイプ段階、UI改修前後、リリース後の改善期など | アイデア検証初期、課題抽出、サービス方向性を定めるとき |
利点 | 具体的なUIの問題点を早期発見。 タスク成功率等の定量評価も可能 |
ユーザーの真のニーズや痛みを把握。 新しいアイデアの源泉にもなる |
定量的な成果の出し方 | タスク成功率、エラー率、操作時間などを比較しやすい | 回答内容をカテゴリ分け・頻度分析して、 優先度や発生率を可視化 or グランデッド・セオリー・アプローチ |
補完関係 | UI課題が出たら「なぜ?」をインタビューで深掘り | 抽象的な悩みは実際のUIで検証して 具体的な問題点を特定 |
両者は“相互補完的”です。UI課題が見つかったらインタビューで原因を深掘りし、インタビューで抽出した課題を実際のUIでテストして確かめる。こうした合わせ技が理想的ですが、1回のセッションでどちらもじっくりやると時間が足りなくなりがちなので、まずは片方を徹底的に行うのがおすすめです。
ユーザビリティテストのフレームワーク・進め方
● よく使われる指標
- タスク成功率(Task Success Rate):指定したタスクを完了できた被験者の割合
- エラー率(Error Rate):誤操作や行き詰まりが何回起きたか
- 操作時間(Time on Task):タスクに要した平均時間
- Nielsenの10の評価ヒューリスティックス:システム状態の視認性やユーザーの自由度などの評価チェックリスト[1]
これらの指標を組み合わせ、UX Benchmarkingとして継続的に測定したり競合サービスと比較したりすると、改善施策の効果を定量的に把握しやすくなります[3]。
● ユーザビリティテストの進め方ステップ
- テストシナリオとタスク設計
ユースケースに即したタスクを定義します。(例:ECサイトで「商品をカートに入れて購入手続き画面まで進む」など) - 被験者リクルーティング
1ターゲットセグメント5名を目安に参加者を集めます[1]。
個人的には2セグメント同時に走らせるとどのセグメントに刺さりやすいかも理解できるのでおすすめ。 - テスト実施
モデレーターはタスクを提示し、基本的に口を挟まず観察とメモに集中。操作画面は許可をとり録画していきましょう。。 - 結果分析
タスク成功率やエラー率、操作時間などを集計。被験者の発話ログや行動の迷いどころを洗い出し、UI上の問題箇所を特定します。 - 比較・改善施策検討
前回の調査や競合との比較を行い、課題の優先度を決めて改善策を検討します。本質的な原因を深く理解したい場合は、追加でユーザーインタビューを実施することもあります。
ユーザーインタビューのフレームワーク・進め方
● よく使われるフレームワーク
- 半構造化インタビュー:あらかじめ大まかな質問リストを用意し、回答次第で柔軟に深掘り[2]
- 5 Whys:なぜを繰り返し問うことで根本原因やユーザーの内面に迫る
- Jobs to Be Done(JTBD):ユーザーがその製品・サービスで「何を達成したいのか」に着目
● ユーザーインタビューの進め方ステップ
- 目的・仮説の明確化
何を知りたいのか、どんな仮説を検証したいのかを最初に整理します。 - 質問ガイド作成
できるだけ「いつ」「どんな状況で」「どう困ったか」といった過去事例や具体的な事実ベースで聞くように工夫します。 - 被験者リクルーティング
調査テーマに合うユーザー層(ペルソナ)を定義し、必要な人数を集めます(目安は5~10名ほど)。 - インタビュー実施
30~60分程度を目安に、モデレーターは聞き手に徹します。ユーザーの回答に対して「なぜそう思うか」などを追加で深掘り。 - 分析・整理
インタビュー内容をテキスト化し、発言をカテゴリー分けします。頻度や感情の強度などから優先度を判断し、施策の方向性を固めます。
それぞれを行うメリット
● ユーザビリティテストのメリット
- UI上の具体的な課題を数値で示せる(タスク成功率、エラー率など)
- 改善のインパクトを測定できる(施策前後や競合比較で変化が明確に)
- ボトルネックを把握しやすい(どの画面で迷いが起きたか可視化)
● ユーザーインタビューのメリット
- 課題の背景理解による施策の精度向上(「なぜその課題があるのか」を把握)
- 新たな発見や仮説転換が得られる(ユーザーの感情面や潜在ニーズが掴みやすい)
- 定量との組み合わせで効果倍増(インタビュー内容を頻度分析・優先度付けに活かせる)
ちなみに僕個人はインサイト大好き人間なのでユーザーインタビューの方が楽しいです。
今日から実践できるアクション
- UI課題が見えたらインタビューへ
ユーザビリティテストで「○○がわかりにくい」と出てきたら、なぜそう感じるのかユーザーインタビューで深堀り。 - ユーザービリティを測定する自社の指標を決める
タスク成功率、エラー率など定量的なKPIをあらかじめ設定すると、改善効果が把握しやすい。 - テスト→インタビューの短サイクル
1日で5人にテストとインタビューを実施し、短期間でインサイトを得る。 - チームメンバーに共有
結果を録画やハイライトで共有し、UI改修や施策の優先度をチーム全員で決める。
Q&A
Q1. ユーザビリティテストは何人くらい行えばいいの?
A. Nielsen博士の5人テスト理論[1]が有名です。1ターゲットセグメントにつき5名を目安にテストすると主要課題の85%が見つかると言われています。ターゲットセグメントが複数ある場合は、セグメントごとに5名ずつ行うと効果的です。
Q2. ユーザビリティテストで出てきた課題をそのまま改善してよいの?
A. UI上の問題はすぐ対応したいですが、なぜ迷うのかをユーザーインタビューなどで理解することもおすすめです。根本にあるのはボタン配置ではなく、用語やフロー設計の問題かもしれません。
Q3. ユーザーインタビューで本音を引き出すコツは?
A. 「もし◯◯だったら?」のような仮定形より、「いつ困ったか」「どう感じたか」など、具体的な過去事例を聞くのがコツです[2]。回答があれば、さらに「なぜそう思ったのか」を掘り下げましょう。
参考情報
- [1] Nielsen, J. (1993). Usability Engineering. Morgan Kaufmann.(5人テスト理論や評価ヒューリスティックスが有名)
- [2] FounderX. (2020). スタートアップ向け「顧客インタビュー」のおすすめ記事一覧. https://resource.foundx.jp/interview
- [3] Nielsen Norman Group. (2022). Product UX Benchmarks.
- [4] ISO 9241-11:2018 (Ergonomics of human-system interaction – Part 11: Usability: Definitions and concepts).
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