プロダクトの競合分析の質を徹底的に上げるために抑えておくべきポイント

ユーザーリサーチ

「競合分析が大切」というのはプロダクトマネージャー(PM)、BizDev、マーケなどの職種にとっては通過儀礼のようなトピック。

しかし、単に

  • 「競合がAという機能を持っている(機能やUIの比較表の作成)」
  • 価格は自社より安い

といった表面的な比較をするだけでは、真の差別化戦略にはつながりません。なぜなら、ユーザーは単なる機能比較や価格比較だけで意思決定をしているわけではないからです。機能表や価格表で負けているから市場で勝てない――とは限らないケースが多々あります。

ここで求められるのが「競合がサービスを提供している市場環境」や「ユーザーの潜在ニーズ」を再定義する視点。マーケットにおいて他社が果たしている役割や、ユーザーにとっての価値構造を誤解していると、どんなに丁寧な比較表を作っても本質をつかみきれません。

PMや先ほどあげた職種にとって、事業ドメインに潜む“真の課題”を発見し、それが自社の強みとどう結びつくのかを見極める深い洞察が必要です。ここを押さえずして、ロードマップ策定やユーザーインタビュー設計を行っても表面的な改良に終始しかねないのですよね。

よくある競合リサーチの落とし穴:局所的な比較と“競合の定義”の間違い

落とし穴①:競合の捉え方が狭い

まず最初に気をつけたいのは、「競合の捉え方が狭い」問題。

類似サービスをピックアップして、その機能や料金、マーケ手法を比較するだけで終わってしまう、などのケースです。

しかし、ユーザーからすれば“同じカテゴリ”に属するサービスだけが競合とは限りません。

  • 業界外の競合
  • 課題を解決するサービス以外の手段
  • まったく異なる業界・テクノロジーによる代替手段

なども検討リストに入っているかもしれません。

落とし穴②:表面的な比較表やレポートのみに依存

もう1つの落とし穴は、「表面的な比較表やレポートのみに依存する」こと。

コンサル会社や業界メディアが出している競合レポートを鵜呑みにして、自社の戦略を決めてしまう、などです。

確かにそれらの情報は有用ですが、自分のプロダクトの文脈に落とし込まないまま真似をするのは危険。たとえば、大手が急激にシェアを伸ばしているからといって、自社が同じ機能を実装するだけで同様の成果が得られるわけではありません。ユーザーの利用シーンや意思決定プロセスが違う可能性も十分にあるからです。

単なる機能比較表に終わらせない

表面的な比較に終わらせないためには、以下の観点で分析を進めることが不可欠です。

  • 市場構造
    • 業界のバリューチェーンや利益プール、潜在顧客のボリュームとニーズの変化など
  • ユーザー行動
    • 意思決定プロセスや導入後の利用実態、満足度の源泉など
  • 競合戦略
    • 競合が市場に対してどのようなコンセプトや提供価値で挑んでいるかなど

さらにここに自社と競合と比較するユーザーインタビューを組み合わせると、数字だけの世界では見落とされがちな「定性面な深いインサイト」が得られます。

たとえば、競合が同じ価格帯・同じ機能を持っていたとしても、ブランドやコミュニティの存在がユーザーの意思決定を左右しているケースがあります。あるいはシンプルに「サポート担当者のレスポンスが早いから離れられない」という事例もあり得ます。こうしたリアルな声を拾うことで、競合の強み弱みをより正確に捉え、自社が打ち出す差別化要素を研ぎ澄ますことが可能になります。

競合分析×ユーザーリサーチで、数字では見えない“意外な決定因子”の発見

では、先述した「ユーザーインタビューなどのユーザーリサーチと組み合わせる」とうい点について深ぼっていきましょう。

まず前提として捉えたい事実は、「数字だけでは絶対にわからない購入・利用決定の理由がある」ということ。比較サイトの評価やスペック表を見ると「A社に決めるだろう」と思えるユーザーが、実際には「B社の方がUIが直感的で現場のスタッフに好評だったから」という理由でB社を選んだりします。こうした情報は実際にヒアリングしないと得られません。

さらに、導入してしばらく経った後の満足度を聞くと、当初想定していた機能よりも「思わぬサポート」や「コミュニティが充実している」といった点に高い評価をしている場合もあります。PMとしては、そこに“意外な顧客価値”が埋まっていることを認識し、自社のプロダクトにどう活かすかを考える必要があります。

浅い競合分析はどうしても機能・価格・導入実績の三点にフォーカスしがちですが、そうした「人間的な要素」も含めた総合力が競合の魅力になるケースは多々あります。

ユーザーは競合サービスとの比較を“感覚的”にも行っている

また、先ほども少し触れましたがユーザーがサービスを選定するとき、ロジックだけではなく感覚的な印象も意思決定に組み込まれます。

例えば「UIの美しさ」は数字では測りづらい領域ですが、実際には非常に大きな影響力を持ちます。競合より高価格であっても「触っていてストレスがないから選ぶ」という例も少なくありません。

また、BtoBのサービス導入においては、複数のステークホルダーが異なる基準で評価を行います。

  • 経営層がコスト削減効果を重視
  • 現場は効率アップやサポート体制を高く評価

――といったズレが生じるケースは普通です。

こうした多元的な評価軸を把握しないまま「比較表で機能が多い=優位」と決めつけると、ユーザーに響かない施策にリソースを注いでしまう可能性があります。競合分析を深めるには、それぞれのステークホルダーがどんな要素を重視するかを把握する視点が欠かせません。

競合ツールを使うユーザーへのインタビュー設計:バイアス除去と深堀り

さらに、競合分析で最も価値があるのは、「競合プロダクトを実際に使っているユーザーの声」です。ただし、このインタビューには特有の難しさがあります。ユーザーは、現在使っているサービスを正当化する心理(保有効果や認知的不協和の回避)が働きやすく、客観的に評価をしてくれない場合があるのです。ここで大切なのが、バイアス対策を念頭に置いたインタビュー設計。

【2025年】ユーザーインタビューで起こるバイアスを徹底攻略!回答バイアス・誘導尋問・社会的望ましさから「本音」を引き出す実践ガイド
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例えば、「本当にそのUIが良いと思うのか?」それとも「UIをほめることで自分の導入判断を肯定しようとしているのか」を見極めるには、一歩踏み込んだ質問が求められます。

  • 「具体的にどの画面・どの操作が便利でしたか?」
  • 他社の類似サービスと比べて、どんな点で差を感じましたか?

など、具体的な話を引き出す問いかけが鍵を握ります。抽象的に「良かった」「悪かった」だけを聞いても、深い学習にはつながりません。

差別化要素の見極めるために、“非機能価値”を捉える

加えて、競合分析でしばしば見落とされがちなのが、「非機能価値」の存在。

機能というのはあくまでユーザーの課題を解決する一手段にすぎず、実際には以下のような機能以外の要素が意思決定を後押しするケースが多くあります。

  • ブランドの信頼性
  • 導入担当者同士のコミュニティ
  • サポート体制
  • UI/UXの体験価値

PMとしては、この非機能価値を正しく捉えて差別化戦略を立てる必要があります。

例えばSaaSプロダクトだと、オンボーディングの手厚さや導入初期のカスタマーサクセス施策が決め手になることが少なくありません。競合が「導入マニュアルを自動生成してくれるシステム」を用意していたら、それは一見地味でも、現場担当者にとっては極めてありがたい機能かもしれません。価格やメイン機能では勝っていても、こうしたサポート要素で負けていると、「契約したのに使いこなせず解約」という最悪のシナリオを招きかねないのです。

競合の”直近リリース”、”リリース済み機能”の実態と裏側を分析する

競合が新機能を公開したり、既にある機能について気になったら、まずはリリース後の実際の使用状況を調べることが重要。過度な恐怖でも楽観でもなくファクトから始めましょう。

たとえば自動レコメンド機能を追加した事例では、ユーザーインタビューやSNSなどで

  • 実際どの程度使われているのか?
  • ユーザーの反応はどうか?

など、客観的なファクトを収集します。

この段階では「なぜリリースしたのか」という競合側の意図推測よりもまずは以下のような事実情報が肝心。

  • どのように使われているのか?
  • 利用頻度や導入コストの実態はどうか?

さらに、先行リリースされた機能を深く分析する際は、実際に利用しているユーザーに対しても意見ではなく事実(使用状況、障害の発生回数、導入にかかった工数など)を尋ねるように設計します。主観的な感想ではなく、実際に起きた事象を確かめることで、開発リソースを追随に割くべきか、あるいは別の差別化施策に注力すべきかの判断が明確になります。たとえば、チャットボット機能を先に出した競合が急激に導入数を伸ばしていても、トレーニングに多大な工数がかかり、本番運用までに時間がかかっているという事実がわかれば、その追随リリースの優先度や改良ポイントも変わってくるはずです。

このように、「機能が実際にどのように利用され、どのような成果・問題が発生しているか」という事実を基点に捉えることで、競合の新機能や既存機能の真価や潜在的なリスクを客観的に判断できます。そこから自社の戦略に組み込むかどうかを検討すれば、表面的な後追いではない本質的な差別化につながります。

「Deep Research」を活用して、競合分析の質を上げる

また、従来の競合分析は「サービス概要や料金プランをまとめる」「口コミサイトにざっと目を通す」程度に終わりがち。しかし、ここまで述べたように、いま求められるのは、より深く、事実に基づいた洞察を得るための新しいアプローチ。

そのために、ChatGPTの「Deep Research」などを活用しましょう。情報の網羅性と解析スピードを大幅に高めるだけでなく、見落とされがちな隠れた事実や、特定領域でのユーザーの具体的な行動を浮き彫りにすることが圧倒的に楽に実現できます。

ちなみに、僕も本サイト「PM x LLM STUDIO」の競合分析をDeep Researchにやってもらいましたが、15分(グランウンディングと推論の時間)で超絶完成度の高いレポートが完成しました。

以下では、単なる機能比較や価格比較を超えて、Deep Researchを用いた実践的な競合分析の進め方を紹介します。

  1. 情報ソースの拡張:競合が置かれている“周辺”を徹底的に調べる
    まずは、競合のWebサイトやプレスリリースに加え、投資家向け説明会資料、特許出願情報、求人内容、技術ブログ、APIドキュメントなどに目を向けましょう。例えば競合が積極的にエンジニア募集をしているポジション(例:機械学習エンジニア、クラウド基盤エンジニアなど)から、次に取り組む可能性が高い領域を推測できます。また、特許情報や技術ブログからは、これから拡充するであろう機能の方向性を掴むことが可能です。
    調べたい上記のようなソースや情報カテゴリをプロンプトに網羅的に入れてみましょう。
  2. LLMで定性情報を“瞬時に”構造化:事例とログをファクトベースで解析
    口コミサイトやSNS、あるいはカスタマーサポート用のコミュニティ(フォーラム)などに散在する投稿から、具体的な事例や実際に発生した障害状況、ユーザーの“実行動”を抽出します。たとえば、手元に競合についてユーザーインタビューしたログがあれば、それもリサーチのプロンプトに組み込んで、「導入初日に◯◯というエラーメッセージが頻発した」「オンボーディングに何時間かかったか」など、主観的な評価ではなく事実に着目するよう指示してみましょう。
  3. “インタビュー=ファクト収集”と位置づけ、再現性のある調査を行う
    Deep Researchで仮説が立ったら、実際に競合製品を使っているユーザーや関係者へのインタビューで検証します。ただし、インタビューでは意見や感想に寄りすぎないように「1日平均で何回ログインしているのか」「トラブルシューティングが完了するまでに要した時間」など、事実に紐づく質問を用意することが重要。これにより「結局UIは使いやすいのか?」「本当にサポートが迅速なのか?」といった曖昧な認識が、明確なデータとして裏付けられます。
  4. 長期的なデータ蓄積と“進化し続ける”分析体制
    Deep Researchは一度きりの分析ではなく、競合や市場環境がアップデートされるたびに継続して回すのが効果的。ログデータやユーザーポストを定期的に収集・解析し、新しいリリースがユーザーにどう浸透しているかを継続ウォッチすることで、ロードマップの調整に素早く反映できます。特にSaaSのように機能追加やUI改修が頻繁に行われる市場では、この継続サイクルが差別化のスピードを決定づけます。

社内合意形成に必要なドキュメント例:ユーザーの“リアルな声”が決め手

競合分析の最終ゴールは、自社の差別化戦略を固め、組織として合意を得て実行に移すことですよね。ここで欠かせないのが「数字と事実、そしてユーザーの生の声」を組み合わせたドキュメント。

例えば以下のような構成を意識すると、社内での説得力が格段に高まります。

  • 市場構造や競合マップ:どの領域で競合が存在し、どんな価値提供をしているかをビジュアルに整理
  • 定量比較表:機能・価格・サポート内容などの客観データを一覧化
  • ユーザーインタビューからの引用:「UIがシンプルで現場が導入しやすかった」「サポート担当者のレスポンスが神がかっていた」などの具体的エピソード
  • 仮説と検証プラン:「導入サポートを強化すれば離脱率が○%改善する」など、実行すべき施策を具体化

このとき、インタビュー結果の見せ方を工夫し、要点をグラフやペルソナ、ユーザージャーニーなどでわかりやすくビジュアル化すると、他部門や経営層の理解が進みます。「実際に自社のユーザー(あるいは競合ユーザー)がこう言っている」という情報は、数字やプレゼン資料だけでは得られない説得力を持つからです。

経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方・使い方
ユーザーインタビューの分析・見せ方で経営層や上司、メンバーを本気で動かすには?具体的な分析フレームワークや可視化手法、ROIを意識したレポート術を徹底解説。

参考情報

・Cagan, Marty. INSPIRED: How to Create Tech Products Customers Love. Wiley, 2017.
・Ries, Eric. The Lean Startup. Crown Business, 2011.
・Christensen, Clayton M. Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice. HarperBusiness, 2016.
・Harvard Business Review. “How to Map Your Industry’s Profit Pool.”(市場構造分析のフレームワーク)
・PM x LLM STUDIO内の記事:バイアス対策「筋の良い仮説」インタビュー結果の見せ方

今日から実践できるアクション

1. 競合ユーザーへのヒアリング枠を確保する

  • 自社ユーザーばかりではなく、あえて競合プロダクトを使っているユーザーに話を聞く。SNSやコミュニティ、業界イベントを活用してリクルーティング。
  • バイアス対策を意識して質問項目を組み立てること。
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2. Deep Researchで“競合に関する定性情報”を一括分析

  • 口コミサイトやSNSからデータを収集し、LLMを使って主要テーマと感情を分類。
  • インタビューの準備段階で「ユーザーが気にしているポイント」を明確にし、質問項目を高度化する。

3. “非機能価値”の棚卸しと差別化シナリオの作成

  • 機能比較だけでなく、「ブランド」「サポート」「UI/UX」「コミュニティ」など非機能価値を洗い出す。
  • 自社ならではの強みを盛り込んだ差別化シナリオを具体化し、ロードマップに組み込む。

4. 仮説検証フローの再設計

  • 競合分析→仮説立案→小規模テスト→ユーザーインタビューの流れをテンプレート化する。
  • 「筋の良い仮説」を参考に、検証しやすい仕組みをチームで共有する。
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本記事では、ユーザーインタビュー前に「筋の良い仮説をチームで設定する」ことの重要性と、具体的な仮説の設計方法を解説します。仮説が緩い、ぶれぶれだと、「インタビューしたはいいが、で、どうする?」状態になりがち。ここでは、私が培ってきた経験と多...

Q&A

Q1: 競合分析を深めるうえで、まず何から手をつければいいのでしょうか?
A1: まずは「競合の定義」を広げることから始めましょう。同カテゴリーのサービスだけでなく、ユーザーが同じ課題を解決するために選ぶ可能性のある手段をリストアップし、そこからヒアリング対象を選定すると一気に洞察の幅が広がります。

Q2: 競合ユーザーへのインタビュー機会を見つけるのが難しいです。どうすれば良いでしょうか?
A2: 業界コミュニティやSNS、またはウェビナーやカンファレンス等で協力者を募るのが定番の手段です。LinkedInやTwitterで「○○サービスを使っている方にお話を伺いたいです」と声をかけるだけでも一定の反応が得られることがあります。

Q3: 機能比較表にはどこまで詳細を盛り込むべきでしょうか?
A3: 重要なのは「ユーザーが価値を感じるかどうか」を切り口にして比較項目を決めることです。細かすぎる機能一覧を作っても意思決定を助ける情報にはなりにくいので、まずはユーザーインタビューでどの機能が最もインパクトを持つのかを把握し、その後で必要十分な比較項目を選定するのがおすすめです。

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