PLG(Product-Led Growth)の“イマ”

プロダクト推進

Product-Led Growth(PLG)は、ここ数年で爆発的に広まったというより、既に多くのSaaS企業やtoCサービスで普及し定着してきた概念ですよね。

SlackやZoomといった代表事例に始まり、あらゆるBtoBサービスが「まず触ってもらい、価値を体感し、そのまま導入へ」という仕組みを取り入れてきました。2025年においては、その流行を経て“PLGが当たり前”になりつつあるのが現状と言えます。

しかし、「PLGが当たり前になった」からこそ、差別化の難しさや導入後の定着率に苦しむ企業が増えてるのではないか?と考えています。僕自身、toCスタートアップをやっていた時にPLGを実践しようとして苦労した経験があります(PLGのための仕組みや機能を本当に作るべきか?など)。

そこで本記事では成熟期を迎えている概念であるPLGが置かれている現状を踏まえ、今なお成果を上げ続ける企業の成功事例や、実践的なフレームワーク、陥りがちな罠(アンチパターン)を整理します。調べてみた内容と、僕自身toCスタートアップをやっていたときにPLGを使っていたので考察もしています。

PLGが“当たり前”になった背景と現在の状況

まずはPLGの現状を調べてみたので、簡単に整理しておきます。

1. 多数のSaaS製品が無料トライアルやセルフサーブを導入
2010年代後半から高まったPLGブームにより、ほとんどのSaaS企業が何らかの形でフリーミアムやセルフサーブ導入を行うようになりました。新規顧客獲得のハードルを下げるという観点では、PLGはもはや必須手段という認識が一般化しています。

2. エンドユーザーから広がる導入の“自然拡大”が標準化
職場で新しいツールを試す際、個人や小規模チームが勝手にアカウントを作り、良さを実感してから組織導入へ進む――こうした流れが一般的になりました。SlackやZoom、Notionに代表される“まずは使ってみて、気に入ったら拡張”というモデルが、今や当たり前の景色となっています。

3. 差別化ポイントが“オンボーディング”や“ロイヤルユーザー活用”へ
多くのサービスがフリートライアルを導入している今、どのようにオンボーディングを設計し、ユーザーが短期間で価値を実感できるかが勝負所です。ロイヤルユーザーとの二人三脚やコミュニティづくりの巧拙が、PLGにおける成功・失敗を分ける大きなポイントになっています。

PLG成功事例

“既に多くの企業が採用しているPLG”の中でも、差別化に成功し、なおかつ高い成長率を維持しているサービスをいくつかピックアップしてみます。最近のアップデートや施策に焦点を当てることで、成熟期におけるPLGの新しい動きを捉えましょう。

1. Miro:オンラインホワイトボードの共同作業を徹底的にスムーズ化
オンラインホワイトボード「Miro」は、フリープランでのチーム利用を積極的にサポートするだけでなく、最近では「テンプレートギャラリー」を充実させてエンタープライズ導入を後押ししています。セルフサーブから大規模組織への拡張において、導入事例やテンプレートを活用した“即効性の高いメリット”を明確に示すことが成功要因になっています。

2. Figma:デザイナーだけでなくエンジニアやPMまで巻き込むコミュニティ戦略
UIデザインツールFigmaは、デザイナー向けのコラボレーション機能からスタートし、今やプロダクトマネージャーやエンジニアとの共同作業にも使われるようになりました。テンプレートやコミュニティプラグインの公開に力を入れたことで、“誰でも参加しやすい”フレームワークを実現。個人~小規模チームが無料で始めやすい、かつ拡張プランが有用という典型的なPLGの成功例と言えます。

3. Airtable:データベース的な機能でノンエンジニアを取り込み
Airtableはスプレッドシート感覚で使えるデータベースとして注目を集めました。無料プランでも一定数のレコードを管理できるため、簡単なプロジェクト管理や連絡帳、顧客リスト作成などに幅広く使われています。最近では拡張機能や自動化機能(Automations)が進化し、より複雑な業務フローにも対応。個人利用からチーム全体利用への段階的なアップセルがしやすい点がPLG的に成功している理由です。

PLGを進化させる鍵:ロイヤルユーザーとの共創とデータドリブン

これまでPLG成功の要因として語られがちだったのは以下のような表層的な施策。

  • 「無料プランを用意する」
  • 「シンプルなオンボーディングで、すぐ使える」

ですが、2025年の成熟期には、さらに深い2つのポイントが求められていると考えていると個人的には考えています。

ロイヤルユーザーを核とした改善サイクルを構築する

フリートライアルやセルフサーブによってユーザー数が増えても、継続的に利用する層が育たなければ「一過性のブーム」に終わってしまいます。実際にハイエンゲージメントで使い続けているロイヤルユーザーをいち早く見極め、彼らの行動パターンやニーズを深掘りすることで、プロダクトの本質的価値を洗い出す。そこから得られた洞察をロードマップに反映し、新規ユーザーにも伝わるような施策に落とし込むことが重要です。ロイヤルユーザーの戦略活用についてはこちらも参考になります。

つまり、「ロイヤルユーザーがロイヤルたる理由」を明らかにしてそれを民主化していく、という考え方です。

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ユーザーのログデータ(どの機能をいつ、どれだけ使っているのか、どこで離脱するのか)を分析し、適切なタイミングで必要な支援を提供する。具体的には、インアプリガイダンスやチュートリアルの出し分け、利用頻度が低いユーザーへの個別アラートやメールフォローといったアプローチが挙げられます。こうしたデータドリブンな改善が、ユーザーの離脱を防ぎ、継続率を高めるカギ。ログ分析×定性インタビューの組み合わせ方はこちらで詳しく紹介しています。

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一方で、「フリートライアルを導入して広告を打ったものの伸びない」という失敗談もたくさんあります。ありがちなアンチパターンを押さえ、対処法を考えてみましょう。

サインアップは増えるが“初期価値”を実感できない

フリートライアルに登録はしても、実際に使い始めるまでの工程が複雑すぎたり、無料プランの制限が厳しすぎたりすると、ユーザーは本当の価値を体験しないまま離脱します。オンボーディングを最大限シンプルにし、“最初の成功体験”を得やすくする設計が必要です。

“最初の10分間”でユーザーが”よし、この製品を使おう”となる状態はどんな初期体験か?」をチームで議論してみましょう。

ロイヤルユーザーを活かせないまま独力で施策を回そうとする

せっかくのヘビーユーザーからのフィードバックや紹介効果を活かさず、開発チームやマーケチームだけで改善施策を進めてしまう。結果、ユーザーのリアルな要望とずれた機能開発に走りがちです。ロイヤルユーザーをコミュニティ化し、アンバサダー的な活動を盛り上げる運営体制が求められます。

強引なアップセル・クロスセルでユーザー体験を損なう

体験版から有料プランへの誘導を焦るあまり、プロダクト内で強制的なアップセルを連発するとユーザーが嫌気を感じることがあります。ユーザーの利用状況に即したタイミングやアプローチを設計しないと、逆効果になりかねません。

今日から実践できるアクション

1. 自社のユーザーオンボーディングを再点検する
サインアップ~最初の利用まで、どのようなステップを踏むか。途中で大きなハードルになっている部分がないかを洗い出し、最小限の操作でプロダクトの核心的価値を味わえるように設計を見直しましょう。

2. ロイヤルユーザーのインサイトを収集し、ロードマップへ反映
ログ分析から利用頻度の高いユーザーを特定し、定性インタビューを実施。継続的に使用している理由、具体的な成功事例を聞き出し、それを新規ユーザーのオンボーディングや機能改善に活かすサイクルを作ります。

3. パーソナライズしたサポートとコミュニティ運営を始める
利用状況やユーザータイプに応じてインアプリガイダンス、メール、チャットなどで必要なヘルプを提供します。活用のコツやナレッジをコミュニティで共有し、ユーザー同士の学び合いを促進する仕掛けを整えましょう。

Q&A

Q1:PLGの成熟期における最大の課題は何でしょうか?
A1:ユーザーが「無料で触れる」サービスが増えすぎたため、初期利用で確実に強みを実感してもらうハードルが高くなっている点です。そこで重要なのは、オンボーディングの徹底簡略化やロイヤルユーザーとの共創、データドリブンなパーソナライズ支援です。

Q2:フリートライアル期間の長さはどのように設定すべきですか?
A2:一概には言えませんが、「ユーザーが価値を体験するのに十分な期間」が目安になります。短すぎると機能を試しきれず離脱しやすいですし、長すぎると緊張感を失って活用が先延ばしになる可能性も。ユーザーが継続率高く使い始めるタイミングをデータで観察しながら、最適期間を調整するのが良いでしょう。

参考情報

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