インタビューでプロトタイプに対する評価が低い時にどうするか?

ユーザーリサーチ

この記事の3行要約

  • 明確な撤退基準で迅速な意思決定を実現:既存プロダクトよりもNPSが下回る・コアバリューが否定される・想定ユーザー層に響かない・根本的な要件見直しが必要な場合は、早期ピボットを検討する客観的基準を設定
  • 定量データと定性インサイトの組み合わせで判断精度を向上:ユーザビリティテストスコア・ベータテスト利用ログ・NPS測定などの定量データで、ふわっとしがちな定性評価を補強し説得力のある意思決定を行う
  • コアコンセプト再確認による適切な修正レベルの見極め:全面ピボットの前に、顧客課題設定・独自価値・ソリューション・UI/UXのどの層に問題があるかを特定し、軸変更か部分修正かを判断してリソース浪費を防ぐ

「機能のピボット/取り下げ」はいつ必要になるのか?

Eric Riesの著書『The Lean Startup』では、検証結果が仮説を否定した場合、方向転換を素早く行う重要性が強調されています。ただし、新機能の評価が低いからといって、すぐにピボットを決定してしまうことにもまたリスクがある、と個人的には思っています。つまり適切な撤退の判断が必要。

そのため、以下のようにどの程度のネガティブ反応でピボットを検討するかの基準を事前に明確にしておくと判断がスムーズになります。

  • 既存プロダクトよりもNPSが下回った
    インタビューで既存バージョンとプロトタイプを両方検証し、正しく設計した上でNPSが現状以下なら辞める
  • 新機能のコアバリュー自体が否定
    「この機能リリースによって絶対に解消すべき課題」が全く課題と認識されていない、もしくは機能そのものが解決策として機能していないと判明した場合
  • 想定ユーザー層から興味を持たれていない
    主要ペルソナに全然響かず、ニーズが薄いと感じられるフィードバックが多い場合
  • 改善のための修正量が膨大
    多少の改善でどうにもならず、根本的な要件見直し(UI/UXだけでなく、ビジネスモデル側まで再設計)が必要とわかる場合

一方で、「操作性がちょっと分かりにくい」「UIがごちゃついている」などの周辺的な問題であれば、大きな軸を変えなくても修正によって克服できる可能性があります。例えば、既存プロダクトよりもNPSが低いが、それが「見にくい」「ボタンがわかりにくい」など軽微な問題だった場合は、それを改善したプロトタイプを再度作って当てに行くべきです。

定量データと組み合わせて判断

ユーザーインタビューはどうしても定性的な評価が主体なため、判断材料として「ややふわっとしている」と感じがちです。そこで、定量データを組み合わせると、説得力のある意思決定がしやすくなります。

簡易ユーザビリティテストスコア

たとえば新機能のプロトタイプを使ったタスクを設定し、その成功率や所要時間を計測します。「成功率が50%以下」「平均操作時間が既存機能より大幅に長い」といった、客観的に見ても厳しい数値であればピボットを検討します。
※ユーザビリティテストの実践や定量化の方法については、Lostnessなどの分析手法を紹介した記事も参考になります。

ユーザビリティテストの分析手法「Lostness」「タスク間連関分析」を解説
本記事では、ユーザービリティテストの測定指標について少し深ぼって行きます。具体的には「成功率」や「操作時間」だけでは見えづらい、Lostness、タスク連関分析を解説します。UI全体のナビゲーション構造を定量的に把握し、根深い課題を浮き彫り...

ベータテストや小規模ローンチ

可能であれば、本番環境の一部ユーザーへの限定公開を実施し、実際の使用ログを取得します。
「利用開始率」「継続利用率」「フィーチャーエンゲージメント」などを追うことで、ユーザーのリアルな反応を定量データで把握できます。
その際、ネガティブなフィードバックだけでなく「使われなかった機能」もデータとして捉え、ピボットの可能性を検討します。

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NPS(ネット・プロモーター・スコア)

最もライトな測り方。
「この製品をどの程度同僚や知人友人におすすめしたいか?」を0-10段階で聞き、8-10であれば「推奨者」と判定されます。
現行バージョンを触ってもらい、そしてプロトタイプを触ってもらい、それぞれのNPSを聞く形で一定の定量情報としましょう。
ただし、スコア回答の基準が曖昧だったり比較対象がなかったりすると正しく回答してもらえないので注意。

ネガティブ評価が多い場合の再設計プロセス

プロトタイプ検証で想定以上にネガティブ評価が集まった場合でも、必ずしも全面ピボットが正解とは限りません。まずは次のプロセスで“本当にピボットが必要なのか”を見極めます。

コアコンセプトを再確認する

本当に解決したかった顧客課題は何か?
ユーザーの声を改めて読み直し、設定した仮説と合っているかチェックします。
コアコンセプトが否定されず、「単にUI/UXがわかりづらいだけ」ならピボットではなく修正で対応可能なケースもあります。
顧客設定、顧客課題設定、独自価値(コンセプト設定)、ソリューション設定、UX設定、UI設定、インタビュー設計、のどこから巻き戻すべきかを元々の各種仮説や前提と照合して判断しましょう。

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機能構成の優先順位を変える

ネガティブ評価が集まったのは、メインではないサブ機能が原因という場合があります。
本当に最重要な“核”の機能部分は評価されているが、プラスアルファの要素が仇となっているケースです。
その場合、余分な部分を取捨選択し、一度スリムな形に戻すだけで改善が見込めます。

強制終了と軸変更(ピボット)

上記を検討しても「根本的に全体像がズレている」と判明した場合は、ピボットを決める選択肢が現実的になります。
逆に早い段階で気づけたなら、深みにハマる前に切り上げられる点はポジティブです。
必要に応じて別の顧客課題を狙い直すか、全く別アプローチを探る流れに移行しましょう。これも学習。

ピボット/修正をスムーズに進める社内合意形成の方法

ピボットはプロダクトの根本を動かす大きな決定なので、社内ステークホルダー(経営層、開発チーム、営業など)との合意形成が必要になります。次のポイントを押さえておくと、スムーズに進行できます。

エビデンスを揃える

当たり前ですが、ただ「顧客の反応がイマイチだったのでこの新機能やめます」では説得力に欠けます。
インタビューの具体的な発言ログやその集計、もし小規模ローンチをしているならその定量データを整理し、「こういう理由でこの方向に進むのが妥当」と説明します。
ログ分析の効率化には、ChatGPTによる爆速分析も活用できます。

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損切りコストと新機会の比較

ピボットにはコストが伴う一方で、続行のリスクも存在します。
「修正コストが大きいなら、いっそ新しいアイデアに投資するほうがトータルでは安上がり」
という場合もあり得ます。対照表を作り、数字で示すことが大切です。

方向転換後のロードマップを簡潔に示す

ピボット先のビジョンやスケジュールが曖昧だと、「で、これからどうするの?」と不安を招きます。
ロードマップの大枠と次のステップ(追加リサーチやプロトタイプ開発など)を明確に提示することで、チーム全体が動きやすくなります。

関連リンク


今日から実践できるアクション

  • 評価基準の洗い出し:コアコンセプトが否定されたのか、UI/UX改善で済むレベルなのか、あらかじめ線引きを数値化や一覧化しておく
  • 簡易ベータテストまたは限定機能公開:一部ユーザーにだけ新機能を試してもらい、利用ログや定量データを収集する
  • ユーザータイプ別集計:ネガティブ評価が特定のセグメントに集中していないかを調べる。周辺機能だけの問題なら全面ピボット不要な場合もある
  • 意思決定シナリオを事前に作る:「この数値なら続行」「ここまで落ちるなら方向転換」など、複数のシナリオと対応策を予め策定しておく

Q&A

Q1. 新機能の評価が微妙でも、多少の修正で上向く可能性はないのでしょうか?
A. あります。ただし「何をどう直せば劇的に良くなるか」が見えない場合はリソースの浪費になりやすいです。評価の背景を丁寧に分析し、コア課題にアプローチできそうなら修正、軸がズレていればピボットを検討します。

Q2. どれくらいのサンプル数で“ネガティブ評価が多い”と判断できますか?
A. 一般的には、ユーザーインタビューなら5〜10人程度のインサイトでも大枠の傾向は見えます。ただしより定量的な確証が必要なら、小規模ベータテストで実際の利用データを集める方法が有効です。サンプル数よりも、フィードバックの内容がコアを否定しているかが重要です。

Q3. ピボット先のアイデアが複数ある場合、どう決めればいいですか?
A. まずはどれが顧客課題の本質に迫っているかを優先し、最小限のプロトタイプで検証します。複数アイデアを並行テストするスプリントを設け、結果が最も良い方向へ舵を切る方法もあります。ロードマップとリソース配分を先に決めておくと進めやすいです。


参考情報

  • Ries, E. (2011). The Lean Startup: How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses. Crown Business.
  • Blandford, A., Furniss, D., & Makri, S. (2016). “Qualitative HCI Research.” In: The Encyclopedia of Human-Computer Interaction (2nd ed.). Interaction Design Foundation.
  • Cooper, A. (2004). The Inmates Are Running the Asylum. Sams – Pearson Education.
  • Nielsen, J. (1993). Usability Engineering. Morgan Kaufmann.

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