曖昧な言葉はプロダクトの静かに潰していくので、言葉の解像度を上げる

プロダクト企画

「この機能、もっと”スマート”にできないかな?」

プロダクトマネージャー(以下、PdM)なら、一度は言われたり、あるいは自分で言ってしまったりした経験があるのではないでしょうか。

この、”スマート”、とか”フラット”、”シンプル”、とかってめちゃくちゃ多義的ですよね。例えば、”スマート”なら、エンジニアは「AIによる自動化」を想像し、デザイナーは「ミニマルで洗練されたUI」を思い浮かべ、そしてユーザーが本当に求めていたのは「少ないステップで完了する手軽さ」だった…なんてことは、悲しいですが日常茶飯事。

このような「言葉の解釈のズレ」が、手戻り、チームの疲弊、そして最終的にはユーザーに愛されないプロダクトを生み出す元凶となります。この記事では、コンセプトや課題仮説から、そうした多義的な言葉を排除し、チーム全員が寸分違わず同じゴールを描けるようにするための、具体的で実践的な思考法について深掘りしていきます。

この記事の要約

  • プロダクト開発で使われる「楽」「スマート」「安心」といった曖昧な言葉が、なぜ開発コストの増大やチームの疲弊を招くのかを構造的に解説します。
  • 現場で頻出する10個の危険な「解釈の罠」となる言葉を特定し、どのような認識のズレを生むのかを具体例と共に明らかにします。
  • 曖昧なコンセプトを、誰が聞いても誤解しない「実行可能な仕様」へと変換するための、明日から使える5つの思考ステップを提示します。

なぜ「曖昧さ」はプロダクト開発における最大のコストになるのか

「言葉の解釈くらい、都度すり合わせれば良いのでは?」と思うかもしれません。しかし、シニアなPdMほど、この「曖昧さ」を放置するコストの高さを知っています。曖昧さは、目に見えない技術的負債ならぬ、「コミュニケーション負債」として、プロダクト開発のあらゆるフェーズに静かに、しかし確実にダメージを与えていくのです。

見えない負債の温床:開発後期の手戻り

ソフトウェア開発の世界には、「手戻りコストの法則」という経験則があります。これは、開発プロセスの初期段階で発見されたバグを修正するコストを1とすると、リリース後に発見されたバグの修正コストは100倍以上にもなる、というもの。

曖昧な言葉による「認識のズレ」は、まさにこの法則における最悪のバグです。初期のコンセプト段階での「楽な体験」という曖昧な合意は、開発が進むにつれて解釈が枝分かれし、最終的に「思っていたのと違う」ものが完成。その結果、開発終盤やリリース後に大規模な仕様変更や作り直しが発生し、莫大な工数と時間を浪費することになります。

意思決定の質の低下:「なんとなく」で進む怖さ

プロダクト開発は、無数の意思決定の連続です。どの課題を優先するのか、どの機能を作るのか、どんなUIが最適か。これらの重要な意思決定になると、ROIとかで測るのはもちろんなんですが、コンセプト、とかプロダクトビジョンを拠り所にすることも多いと思います。その時に、プロダクトビジョンやコンセプトが「スマート&スムーズ」とかの曖昧な言葉になってしまうと、どうなるでしょうか。

上記の場合だと、「声の大きい人」「その場の雰囲気」で決まっていきます。これほど危険なことはありません。言葉の解像度が低いと、チーム全体が客観的な判断基準を失い、プロダクトは羅針盤のない船のように漂流を始めてしまいます。

チームの速度と士気の低下:ゴールが見えない徒労感

「ユーザーに”感動”を与える体験をデザインしてください」

これは極端ですが、もしあなたがデザイナーで、PdMからこんな依頼を受けたらどう感じるでしょうか。おそらく、「で、具体的に何を作れば…?」と途方に暮れてしまうはずです。

エンジニアやデザイナーは、具体的な課題を解決するためのプロフェッショナルです。ゴールが具体的で明確であればあるほど、彼らは自律的に動き、最高のパフォーマンスを発揮します。逆に、ゴールが「感動」「ワクワク」といった曖昧な言葉でしか示されないと、彼らは指示待ちになり、何度も確認作業を強いられ、創造性を発揮する機会を奪われます。この徒労感が、チーム全体の生産性だけでなく、モチベーションをも削いでいくのです。

解像度の高い言葉を使う文化は、自律的で強いチームを育むのです。


よくある「解釈性の高い」言葉たち

では、具体的にどのような言葉に注意すべきなのか。ここでは、特に危険な「解釈の罠」となりうる言葉を、シーン別に10個ピックアップしました。これらの言葉を聞いたとき、「自分のチームは全員、同じ絵を思い浮かべられているだろうか?」と自問してみてください。

カテゴリ1:ユーザー課題・ニーズを表現する言葉

1. 「もっと手軽に〇〇したい」

「手軽さ」は非常に多義的です。この言葉の裏には、全く異なる複数のニーズが隠れている可能性があります。

  • 時間的な手軽さ:操作ステップが少ない、所要時間が短い
  • 金銭的な手軽さ:初期費用が無料、月額料金が安い
  • 精神的な手軽さ:専門知識が不要、失敗する不安がない
  • 物理的な手軽さ:スマホだけで完結する、特別な機材が不要

PdMが問うべきこと:「ユーザーが『手軽じゃない』と感じているボトルネックは、時間・費用・知識・手間のうち、具体的にどれですか?」

2. 「安心して利用したい」

「安心」の定義は、立場によって驚くほど異なります。

  • エンジニアの思う「安心」:堅牢なセキュリティ、データ暗号化、サーバーの安定稼働
  • デザイナーの思う「安心」:エラー発生時の親切な案内、操作を元に戻せる機能
  • ユーザーの思う「安心」:運営会社の信頼性、いつでも連絡がつくカスタマーサポート、個人情報がどう扱われるかの透明性

PdMが問うべきこと:「ユーザーが感じている『不安』の正体は何ですか? 情報漏洩ですか? 操作ミスですか? それとも運営元への不信感ですか?」

3. 「業務を効率化したい」 (BtoBで特に頻出)

「効率化」は、見る人の役職や立場によって、その意味合いが大きく変わる言葉の代表格です。

  • 現場担当者の「効率化」:日々の作業時間の短縮、ミスの削減、精神的負担の軽減
  • 管理職の「効率化」:人件費の削減、生産性の可視化によるマネジメントコストの低下、内部統制の強化

PdMが問うべきこと:「この『効率化』によって、誰の、どの業務の、何を、どのように改善するのですか? その結果、会社全体にとってどのような金銭的・時間的インパクトがありますか?」

カテゴリ2:プロダクトの価値・コンセプトを表現する言葉

4. 「シームレスな体験」

聞こえは良いですが、「何」と「何」の継ぎ目をなくすのかが全く不明瞭です。

  • デバイス間のシームレス:PCで見ていたページの続きを、スマホアプリで自然に再開できる
  • サービス間のシームレス:例えば、Slack上で申請した経費が、会計ソフトfreeeに自動で連携される
  • オンラインとオフラインのシームレス:ユニクロのアプリで注文した商品を、最寄りの店舗で待たずに受け取れる

PdMが問うべきこと:「具体的に、何と何の『継ぎ目』でユーザーは面倒さや分断を感じていて、それをなくすことでどんな価値が生まれるのですか?」

5. 「スマートな〇〇」

冒頭の例です。テクノロジー文脈で使われがちですが、極めて曖昧です。

  • 見た目が「スマート」:洗練されたミニマルなデザイン、不要な情報がないUI
  • 機能が「スマート」:AIによる自動化、少ない操作で目的を達成できること
  • 提案が「スマート」:ユーザーの利用状況を先読みして、最適な情報やアクションを提案してくれること

PdMが問うべきこと:「我々の言う『スマート』とは、ユーザーの『何を』肩代わりすることですか? 思考ですか? それとも作業ですか?」

6. 「パーソナライズされた体験」

パーソナライズには、大きく分けて2つの方向性があります。これを混同すると、全く見当違いなものを作ってしまいます。

  • システム主導のパーソナライズ:AmazonやNetflixのように、閲覧履歴や購買履歴に基づいてシステムが自動でコンテンツをレコメンドする
  • ユーザー主導のパーソナライズ:Notionのように、ユーザー自身がページ構成やデータベースを自由にカスタマイズできる

PdMが問うべきこと:「私たちのターゲットユーザーは、『自分に最適なものを自動で提案してほしい』のか、それとも『自分で自由に最適化したい』のか、どちらの欲求が強いですか?」

カテゴリ3:機能・UI/UXを表現する言葉

7. 「直感的な操作性」

「直感」ほど、個人の経験やリテラシーに依存するものはありません。

  • IT上級者の「直感」:業界標準のUIパターン(ハンバーガーメニューなど)に沿っていること
  • 初心者の「直感」:現実世界のメタファー(ゴミ箱アイコンなど)に近いこと、専門用語がないこと
  • 特定のOSユーザーの「直感」:iOSやAndroidの標準的な操作作法(スワイプ操作など)に準拠していること

PdMが問うべきこと:「私たちのターゲットユーザーにとっての『当たり前』の操作とは何ですか? 彼らが普段、最も多くの時間を費やしているアプリは何ですか?」

8. 「柔軟な(フレキシブルな)設定」

「柔軟性」は、ユーザーによっては「複雑さ」と表裏一体です。

  • パワーユーザー向けの「柔軟性」:API連携が容易、あらゆる項目を細かく設定可能であること
  • 初心者向けの「柔軟性」:難しいことを考えなくても、シンプルな設定で十分使えること
  • BtoB向けの「柔軟性」:役職やチームごとに、詳細な権限設定が可能であること

PdMが問うべきこと:「誰のために、何を、どこまで『柔軟』にする必要がありますか? その柔軟性が解決する、具体的なユースケースは何ですか?」

9. 「分かりやすいダッシュボード」

誰にとって、何が分かれば「分かりやすい」のかが全く定義されていません。

  • 経営層の「分かりやすい」:売上や利益率、LTVといった重要なKPIが一目でわかる
  • 現場担当者の「分かりやすい」:自分の担当領域の進捗やタスクが詳細に追える
  • データアナリストの「分かりやすい」:ドリルダウンして、様々な角度から深掘り分析ができる

PdMが問うべきこと:「このダッシュボードを見る人は、そこから何を知り、次にどんなアクションを起こしたいのですか?」

10. 「ストレスフリーな入力フォーム」

ユーザーが入力時に感じる「ストレス」の源泉は一つではありません。

  • 入力の手間に対するストレス:入力項目が多すぎる、何度も同じ情報を入力させられる
  • 入力ミスへの不安からくるストレス:エラーのフィードバックが不親切、どこを直せばいいか分からない
  • パフォーマンスに対するストレス:フォームの表示や入力時の動作が重い、待たされる

PdMが問うべきこと:「ユーザーが最も『ストレス』を感じているのは、入力の手間ですか? それとも入力ミスへの不安ですか? あるいは動作の遅さですか?」


曖昧さを撲滅せよ。コンセプトを「実行可能な仕様」に変える5つの変換術

では、どうすればこれらの曖昧な言葉を、誰が読んでも誤解の余地がない「解像度の高い言葉」に変換できるのでしょうか。特別な才能は必要ありません。ここでは、僕が常に実践している、再現性の高い5つの思考ステップを紹介します。

例として、「出張が多い営業担当者が、経費精算を”もっと楽に”したい」という曖昧なニーズを、この5ステップで解像度を上げてみましょう。

  1. 主語の具体化:誰が、どのような状況で?
    まず、「誰が」を徹底的に具体化します。「ユーザー」のような大きな主語ではなく、具体的な人物像と、その人が置かれている状況(コンテクスト)を明確にすること。例:「ユーザー」→「月20日以上、地方に出張する3年目の営業担当者が、移動中の新幹線の車内でスマホを使って
  2. 行動レベルへの分解:「〜できる」で表現する
    次に、その人が「具体的に何ができるようになるのか」を、行動を表す動詞で記述します。「楽になる」のような状態ではなく、具体的なアクションに落とし込みます。例:「楽になる」→「受け取った領収書の写真を撮るだけで、日付、金額、支払先が自動でデータ化される
  3. 状態の定量化:どうなったら成功か?
    その行動の結果、何がどう変化するのかを測定可能な指標(メトリクス)で定義します。これにより、開発のゴールが明確になり、リリース後の効果測定も可能になります。例:「データ化される」→「OCRの読み取り精度が98%以上であり、手入力による修正がほぼ不要になる。1枚あたりの精算処理時間が平均3分から30秒に短縮される
  4. 比較対象の明示:「何と比べて」新しいのか?
    「新しい」「改善」と言うなら、「何と比べて」そうなのかを具体的に示します。これにより、提供価値の斬新性や優位性が明確になります。例:(暗黙の比較)→「従来のように、領収書をオフィスに持ち帰り、Excelに1枚ずつ手入力する方法と比べて
  5. 反実仮想による価値の証明:「もし、〜でなかったら?」を問う
    最後に、「もし、この機能がなかったら、ユーザーはどうなるのか?」と自問します。その機能が存在しない場合の不便さやペインを言語化することで、その機能が提供する本質的な価値を逆説的に浮き彫りにします。例:(価値の逆説証明)→「もしこの機能がなければ、彼は月末に大量の領収書の山を前に、何時間も単純な入力作業に追われ、本来注力すべき営業活動の時間が奪われ続けることになる

どうでしょうか。「経費精算をもっと楽に」という曖昧な一言が、「月20日以上出張する営業担当者が、新幹線での移動中にスマホで領収書の写真を撮るだけで、98%以上の精度でデータ化され、1枚30秒で処理が完了し、月末の入力作業から解放される」という、誰が聞いても同じ光景を思い浮かべられる、実行可能な仕様に変換されました。ここまで解像度を高めることが、PdMの重要な責務なのです。
(このままだと長いので、ライティングする必要はありますが)

この「解像度を上げる」という考え方は、プロダクト開発のあらゆる局面で役立つ非常に強力な武器です。以前、名著『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』をPdM視点で解説した記事も書いているので、ぜひ合わせて読んでみてください。

【要約】『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』をプロダクトマネジメントと絡めて紹介
プロダクトマネージャーやBizDev、マーケターの皆様。曖昧な課題を前に「何が問題か分からないまま、とりあえず作業する」という状況に陥っていないでしょうか?僕自身、テック企業でPMやマーケターを務める中で「問題の解像度」が足りないと苦労が増...

解像度の高い言葉がチームを加速させる – 実践シナリオ

前章で紹介した「5つの変換術」は、具体的にPdMの業務のどこで活きるのでしょうか。ここでは、よくある3つのシナリオに沿って、その活用法を見ていきましょう。

シナリオ1:プロダクト要求仕様書(PRD)の記述

PRDは、PdMから開発チームへの「プロダクトの設計図」です。ここでの曖昧さは、致命的な手戻りを生みます。

❌ 解像度が低い要求(Before) ✅ 解像度が高い要求(After)
要求内容 ユーザーが迷わないように、直感的なUIにしてください。 ターゲットユーザー(40代のITに不慣れな事務職)が、チュートリアルなしで最初のデータ登録を完了できることをゴールとする。主要導線上のボタンには、カーソルを合わせると機能説明のツールチップを表示する。タスク完了率を95%以上と定義する。
開発チームの反応 「直感的って…?」「とりあえず今風のデザインにしてみるか…」→デザイナーの主観に依存し、実装の方向性が定まらない。 「ゴールが明確だ」「ターゲットのITリテラシーを考慮して、専門用語を避けよう」「ツールチップの文言を考えよう」→具体的な実装イメージを共有でき、自律的に動き出せる。

最近では、LLMを活用してPRDの質とスピードを両立することも可能になってきましたが、そのインプットとなる人間の言葉の解像度が高くなければ、結局アウトプットの質も上がりません。

LLMでPRDの"質"と"スピード"を両立する
プロダクトマネージャーとして避けたいことの1つは、「手戻りだらけの開発」。その大きな原因のひとつが、PRD(Product Requirements Document)の質の低さ。PRD作成段階の構想が曖昧もしくはそもそも要求/要件ドキュメ...

シナリオ2:ユーザーインタビューでの問いかけ

ユーザーから本質的な課題を引き出すためにも、言葉の解像度は重要です。曖昧な質問は、曖昧な答えしか生みません。

  • ❌ NGな質問: 「このアプリ、もっと楽に使えたら良いと思いませんか?」 (→ ユーザーは当たり障りのない「そうですね」としか答えられない)
  • ✅ OKな質問: 「先月の請求書処理で、最も時間がかかった作業、あるいは面倒だと感じた作業は、具体的にどのようなものでしたか? よろしければ、その時の状況を再現するように教えてください」 (→ 具体的な行動や感情、つまりファクトを引き出せる)

シナリオ3:経営層への報告・提案

経営層は常に時間とリソースの最適配分を考えています。彼らを動かすのは、熱意や聞こえの良い言葉ではなく、具体的でロジカルな説明です。

  • ❌ 伝わらない報告: 「次の新機能は、ユーザー体験を革新し、顧客満足度を大きく向上させるポテンシャルがあります」 (→ 「革新」とは何か?「満足度」はどれくらい上がるのか? なぜ投資すべきか不明)
  • ✅ 伝わる報告: 「次の新機能は、現在、全ユーザーの30%が月5時間以上費やしている〇〇という手作業を自動化します。これにより、解約率が5%改善し、年間XXX万円の収益インパクトを見込んでいます。これは、競合A社にはない独自の価値提供です」 (→ 投資対効果が明確で、意思決定しやすい)

言葉を磨き、プロダクトを磨く

これまで見てきたように、「言葉の解像度を高める」ことは、単なるコミュニケーションのTIPSではありません。それは、チームの無駄なコストを削り、意思決定の質を高め、プロダクトの成功確率を劇的に上げるための、PdMにとって最も強力な武器なのです。

コンセプトを語る言葉が曖昧なら、出来上がるプロダクトもまた、曖昧で誰にも刺さらないものになってしまいます。逆に、解像度の高い言葉は、それ自体がプロダクトの強力な仕様書となり、チームを正しい方向へと導く北極星となります。

日々の業務の中で、自分やチームメンバーが発する言葉に少しだけ意識を向けてみてください。「それって、具体的にどういうこと?」と、愛を持って問いかけること。その小さな一歩が、あなたのプロダクトを、そしてあなた自身のPdMとしてのキャリアを、間違いなく次のステージへと引き上げてくれるはずです。


今日から実践できるアクション

  • ✅ 次のチームミーティングで曖昧な言葉が出たら、勇気を出して「それって、例えばどういう状況ですか?」と具体例を尋ねてみる。
  • ✅ 自分が書く次のPRDや議事録で、「楽」「便利」「スマート」といった言葉を一度封印し、前述の「5つの変換術」を使って書き換えてみる。
  • ✅ チーム内で「解釈の罠になりがちな言葉リスト」を共有し、どの言葉に注意すべきか、共通認識を持っておく。

Q&A

Q1. あまり細かく定義しすぎると、逆に開発の自由な発想を妨げてしまいませんか?
A1. 非常に良い質問です。これは「何を」「どこまで」定義するかのバランスの問題です。重要なのは、「What(何を作るか)」と「Why(なぜ作るか)」の解像度を極限まで高めることです。解決すべき課題と成功の定義が明確であれば、「How(どうやって作るか)」の部分は、むしろエンジニアやデザイナーの創造性に委ねるべき領域です。課題の解像度が高いからこそ、チームは最高の解決策を自由に探求できるのです。
Q2. 経営層や上司が、こうした曖昧な言葉を使ってフィードバックしてくる場合はどうすれば良いですか?
A2. これはPdMにとって永遠の課題かもしれません。相手を問い詰めるのではなく、「〇〇さんがおっしゃる『革新的な体験』とは、例えば『〜〜ができる』ようなイメージでしょうか?」と、こちらから具体的な解釈の選択肢を提示し、すり合わせるのが有効です。彼らの頭の中にある暗黙のイメージを、こちらが解像度の高い言葉で引き出してあげる。これもPdMの重要な翻訳・通訳スキルの一つです。

参考情報

  • マーティ・ケーガン (著), ‎その他 (著), ‎佐藤 伸哉 (監修) 『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』. 日本能率協会マネジメントセンター, 2019.
  • The Standish Group, “CHAOS Report” (ITプロジェクトの成功率に関する継続的な調査)
  • 馬田隆明 (著) 『解像度を上げる――曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』. 英治出版, 2022.

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