ユーザーアンケート入門:ユーザーインタビューと併用するアンケート設計5ステップ

ユーザーリサーチ

僕は現在テック企業のプロダクトマネージャーを務めていますが、元々はマーケ出身で、博報堂時代にユーザーインタビューの基礎を叩き込まれ、今までに600人以上へのインタビューを経験してきました。

その中で以下のようなことを感じています。

  • アンケートの活用次第で「早い段階からデータを収集できる」反面、設計の甘さによる誤解やバイアスが潜みやすい
  • アンケートだけでは掴みきれない“なぜ”の部分は、ユーザーインタビューでしか見えてこないケースが多い

本記事では、アンケートとユーザーインタビューを併用し、アンケート特有の罠を避けるポイントや、具体的な設計ステップを深堀りしていきます。


アンケートの利点と落とし穴

ご存知の通り、アンケートは短期間で大量の定量データを集められる利点があります。フォームを配信して数日待てば、主要な指標(満足度や利用頻度など)をざっと把握でき、製品企画や仮説検証において強力な武器になることは間違いありません。

ただ、アンケート設計が甘いと事実誤認を起こしかねません。

たとえば以下のような設計不備から誤った結論を導く危険が潜んでいます。

  • 選択肢が誘導的になっている
  • 質問の意図が曖昧で、回答者が勝手に解釈して答えている

特にユーザーリサーチが未成熟な組織では、アンケート回答数の多さだけに安心してしまうことが多いです。実際には回答者がどんな文脈で回答したのかを考慮しなければ、有益なインサイトには繋がりません。数が集まっただけでは不十分ということです。

また、アンケートは回答時の心理的バイアスも発生しやすい手法です。回答者自身が無意識に社会的に望ましい答えを選んでしまったり、質問文が誘導尋問的になったりするケースは多いです。これらのバイアスは調査全体の精度を大きく歪めるので要注意といえます。詳しくは、バイアスを徹底攻略!回答バイアス・誘導尋問・社会的望ましさを防ぐの記事でも解説しています。

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インタビュー×アンケートの相乗効果

僕はアンケート単体での調査だけではなく、ユーザーインタビューとの併用を強く推奨しています。理由は明快で、アンケートが明らかにしてくれる「数字」の部分と、インタビューが掘り下げる「なぜ」の部分が補完関係にあるからです。

例えば、以下のようなイメージです。

<アンケートで把握すること>

  • 「利用率が低い機能はどれか」
  • 「ユーザー満足度がどれくらいか」

<インタビューで深堀りすること>

  • 「なぜ使っていないのか」
  • 「どこが分かりにくいのか」

さらに、定量データでは多数派の意見を迅速に把握できるものの、少数派の声が掻き消されやすいというデメリットがあります。そこにインタビューを加えると、数は少ないが重要な不満や要望に気づくケースが出てきます。少数派のインサイトは差別化やイノベーションの源泉になることが多いので、この補完は非常に大きいです。

組織のリサーチ文化を育てる上でも「インタビューで仮説を作り、アンケートで検証する」または「アンケートで概要を掴み、インタビューで背景を理解する」という二重のプロセスは有効です。どちらか一方に偏ると失敗のリスクが増すため、両者を掛け合わせることがポイント。


アンケート設計5ステップ

ここでは、アンケート特有のリスクを回避するために押さえておきたい5ステップを解説します。

1) 目的の明確化

まず最初に「何を知りたいのか」の目的と仮説を設定します。

  • 新機能の満足度を測りたいのか?
  • リテンション率が下がっている理由を探りたいのか?

ここの目的があいまいなままでは、後工程でデータの扱いに困ってしまいます。
重要なのは、目的が「改善のための具体的アクション」に繋がるかどうかを意識すること。単に満足度を測るのではなく、「満足度が低い場合にどう対処するのか」を先に想定しておくといいです。

この辺りの仮説設計が不安な方はぜひ以下の記事も合わせてご覧ください。

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2) 質問リスト作成

目的が明確になったら、質問項目を作っていきます。気をつける点は下記の3つ。

  • 質問文が紛らわしくないか(「どちらとも言えない」の選択肢が必要か)
  • 一度に複数のことを聞いていないか(ダブルバレル質問の回避)
  • 回答者が答えやすい順序になっているか(プライバシーに関わる質問は後回しなど)

さらに選択肢はなるべく網羅的に、かつメインの関心ごとを選びやすいように設定すると回答者のストレスが軽減されます。曖昧な文言を避け、定義をはっきりさせることも欠かせないポイントです。

3) バイアスチェック

アンケートで最も怖いのが、設問や選択肢にバイアスが仕込まれていること。誘導尋問になっていないか、社会的望ましさバイアスを生みそうな言い回しはないかをチェックします。
この段階でメンバー間のレビューを挟みましょう。第三者の視点が入ると、自分では気づかないバイアスに気づけます。「バイアスを徹底攻略!回答バイアス・誘導尋問・社会的望ましさを防ぐ」でも、バイアスの具体例が紹介されていますので参考にしてください。

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4) プレテスト

本番配信の前に数人に回答してもらう「プレテスト」は必須です。実際に回答してもらうことで、設計上の誤りや質問文の解釈ずれが見つかります。僕は社内のデザイナーやセールス、エンジニアなど、背景の異なるメンバーに回答をお願いし、フィードバックをもらうことが多いです。
プレテストで得た修正点を反映し、本番前にアンケートのクオリティを高めます。ここを飛ばすと、意図しない方向へ回答が偏るリスクが高まるので注意が必要です。

5) 実施・分析

最後に本番のアンケートを実施し、回答を分析します。回答率を上げるために、告知や配信のタイミングを工夫することも大切です。例えばメール配信なら月曜朝や金曜夜は避けるといった細かな気配りが求められます。
分析においては、単純集計やクロス集計だけでなく、重要な顧客セグメントごとの差分を見るのがおすすめです。初期ユーザーとヘビーユーザーで大きく感覚が異なる場合など、クロス集計をすると思わぬ発見が出ることがあります。


集計後にインタビューを再度実施する理由

アンケート結果が集まった後、すぐにレポートをまとめて終わりにしてしまうチームは多いです。しかし僕は、集計したタイミングこそユーザーインタビューを再度実施する絶好のチャンスだと考えています。
理由はシンプル。アンケートで見えた数値の裏にある「なぜそうなのか」を探るのに、生の声こそが必要不可欠だから。特に大きく数値が突出している項目や、回答が分かれている項目などは、深掘りすると次の施策に繋がるネタがゴロゴロ出てきます。

また、アンケート後にインタビューをすることで、回答者が具体的な文脈を説明しやすくなる利点もあるのです。たとえば「導入初期が面倒」と答えているユーザーが具体的にどう感じているのか、オンボーディング画面のどの辺りが不明瞭だったのかなどを、インタビューで解明できます。
こうした追加の深掘りを怠ると、せっかくの定量データが活用されずに終わる可能性が高まるため、必ずフォローアップインタビューを検討してください。


今日から実践できるアクション

  1. 既存アンケートを棚卸し
    まずは現在使っているアンケートを見直し、バイアス誘導や質問のあいまいさがないかをチェックしてみる。
  2. プレテストを徹底
    新しいアンケートを配信する前に、社内メンバーや少数のテストユーザーへ回答してもらい、改善点を洗い出す。
  3. インタビューとセット運用
    大事な調査ほど、アンケートの後に少数のユーザーでインタビューを行い、数字の裏側にある“なぜ”を補足する。
  4. 分析段階のセグメントを意識
    初期ユーザーとヘビーユーザーなど、利用状況の違いで回答を切り分けると、より具体的な改善アクションが導きやすい。
  5. リサーチ文化の醸成
    アンケート結果を共有するだけでなく、インタビュー知見も合わせてまとめ、チーム全体で議論する場を定期的に作る。

Q&A

Q. アンケートの回答率が低いと感じています。どうすれば上げられますか?
A. メールの配信時間帯を見直す、インセンティブを用意するなどが一般的な対策です。また、質問数を可能な限り短くして負担を減らす工夫も大切。ユーザーが「答える意味」を見出せるような説明を冒頭に入れると、回答率がアップする傾向があります。
Q. アンケートで満足度が高いのに、実際の利用率が低い機能があります。なぜでしょう?
A. アンケート回答時には「いい機能だ」と思っていても、実際の利用シーンでは面倒くさかったり優先順位が下がったりすることが多いです。仮説としては操作性の複雑さや導線のわかりにくさなどが考えられます。インタビューや実際の使用ログを分析しないと真因は見えてこないかもしれません。
Q. 「自由記述欄」をつけると分析が大変じゃないですか?
A. 分析コストは増えますが、自由記述には定量設問では拾えない本音が詰まっています。少数でもいいのでテキストマイニングやタグ付けをして共通のテーマを抽出すると、多様なアイデアの源になります。必要に応じて追加インタビューを行い、具体化する流れがおすすめです。

参考情報

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