いきなりですが、僕はユーザーインタビューは定量だけでは見えない「顧客の本音」をあぶり出す手段だと信じています。
とはいえ、インタビューが10名程度だと時には「たったN=10だし…」と軽視されるケースもあるのも実情。
しかし、適切な分析プロセスを踏めば“たった10人”でも有効なエビデンスになり得ます。
本記事では、そのインタビューを「質的データ」として扱いながら、定量的な要素を少し取り入れつつ効果的に示す方法を紹介します。
重要キーワードの解説
- 質的データ:定量データでは表現しきれない感情や思考プロセスなどの情報。インタビューや観察などで得られます。
- アフィニティ・ダイアグラム:付箋を使ってアイデアや意見をグループ化し、テーマを抽出する可視化手法。MiroやMURALなどのオンラインボードでの実施も増えています。
- グラウンデッド・セオリー:質的データを段階的にコード化して、中核となる理論(仮説)を導き出す研究アプローチ。
- オープン・コーディング / アクシャル・コーディング / セレクティブ・コーディング:
1. オープン・コーディング:データの中から概念やキーワードを細かく抽出
2. アクシャル・コーディング:抽出したコード同士の関係性や因果を検討
3. セレクティブ・コーディング:最終的に中核となる仮説をまとめ上げる - Notta, Otter.ai:音声や動画をアップロードすると、自動的に文字起こしを行ってくれるAIツール。
- Miro, MURAL:オンラインで付箋をペタペタ貼るように直感的に情報整理できるコラボレーションツール。
早速、インタビューログの分析ステップを解説していく
重要キーワードも説明したところで、早速本題。
具体的にインタビューログという質的データを分析していくステップの概要を説明します。
ステップ1:分析目的の再確認
- 問い:既存機能の利用促進方法をアイデア抽出したい
- 仮説:スマホ利用が中心のユーザーには、一覧から詳細画面に進む導線が分かりづらい。そのため、導線を整理すればスムーズに商品のカート投入が進むのではないか?
まず当たり前ですが、分析のゴールを固めるところから。
特に質的データ分析ではゴールが曖昧だと、テーマ抽出が散らかりやすくなります。
ステップ2:録画と文字起こし
- 書き起こし:ZoomやMeetで録画した音声データを、NottaやOtter.aiなどで文字起こしします。
- 個人情報のマスキング:発言者の氏名や所属など、プライバシーに配慮して伏せ字にします。
- ペアでの実施:インタビュアーと記録係の役割分担をすると、作業漏れが減って安心です。
具体例:録画→自動文字起こし→不必要な雑談部分はカット→発言者単位で整形し管理。
AIツールを活用すると大幅に効率化できる利点があります。
ステップ3:初期コード化(キーワード抽出)
テキスト化した発言を読み込み、気になる言葉や重要そうな内容を初期コードとしてピックアップします。
- 「設定画面が複雑で分かりづらい」→初期コード:「複雑なUI」「操作不明瞭」
- 「ふだんはスマホだけ使う。PCはあまり開かない」→初期コード:「スマホ利用メイン」「PC利用少なめ」
エクセルやスプレッドシートに「発言内容」と「コード」を並べ、チームで振り返りやすい形にしておくと便利。
ステップ4:グルーピングとテーマ抽出
初期コードをある程度出し切ったら、類似しているもの同士をまとめて大きめのテーマに昇華します。
アフィニティ・ダイアグラムの例:
- 付箋に初期コードを書いて貼り出す
- ホワイトボードやMiroで近い内容をグルーピング
- まとまりごとにテーマ名をラベリング
例:「画面がわかりにくい」系統は「UI改善が必要」というテーマに。
「スマホ中心でPCは不便」系統は「利用デバイス偏重」というテーマにするといった具合です。
ステップ5:仮説検証・因果関係の整理
抽出したテーマが「なぜ起こるのか」を考察しながら、仮説と検証をつなぎ合わせます。
- 例:「UIが分かりにくいのはPC前提でデザインされているからでは?」→発言ログを引用し、具体的に因果関係を示す
これはいわゆるグラウンデッド・セオリー的な流れに沿っています。
オープン・コーディング→アクシャル・コーディング→セレクティブ・コーディングへ進み、最終的な中心仮説を確立していきます。
ステップ6:発見したインサイトを開発プロセスへ落とし込む
- 課題の優先度付け:ビジネスインパクトや工数、実装難易度を考慮して施策を並び替えます。
- ロードマップへの反映:Q2でUI刷新を行う、Q3でスマホ向けチュートリアルを強化するといったスケジュールに落とし込みます。
- ドキュメンテーション:誰の発言がどの施策を支える根拠なのかをレポート化し、チームへ共有します。
具体例:「UI改善が必要」というテーマが出たなら、スマホ用レイアウトの見直しを最優先課題としてQ2に着手すると決定するなどの流れです。
失敗しないためのポイント(具体案)
1. 分析のバイアスを減らす仕組み
- インタビュアーを複数配置:同じ人ばかりだと誘導的になりがちなので、ローテーションで担当を変えるなど工夫します。
- 分析レビュー会:コード付け後、別のメンバーに査読してもらい偏りをチェックします。
2. 再現性を担保するデータ管理を心がける
- コード定義リスト:どのキーワードがどのテーマに紐づくかをまとめておくと、後日見直すときに便利です。
- ツールの活用:NotionやConfluenceでインタビュー録やコード一覧、テーマ別インサイトを一元管理します。
3. 数字でインパクトを添える
- 発言数の頻度:「UIが複雑」の声が全体の◯%などと示すと説得力が増します。
- プチ定量化:「10人中6人がスマホしか使わない」などの表現で、数字と一緒に示す手法です。
今日から実践できるアクション
- 録音+書き起こしテンプレの準備:ZoomやMeetの録画をAI連携して、すぐに自動文字起こしできる体制を整えます。
- 初期コードとテーマ抽出ガイドライン:「この発言はこのテーマ」に分類するといったサンプルをチームで共有しておきます。
- 定期的な“インサイト報告ミーティング”:週1程度で付箋のグルーピングを行い、優先度を検討する場を設定します。
- 社内Wikiへのまとめ:「定性調査の手順」を明文化しておき、新メンバーでもすぐ実践できるようにします。
Q&A
Q1. インタビュー対象が少ないときはどうするの?
A. 飽和点に着目します。追加でインタビューしても新しい発見が出ないなら、すでに質的データが十分集まっていると判断できます。Q2. コード化はどこまで細かくすればいい?
A. はじめは大まかで十分です。重複が多い場合は同じ意味としてまとめ、抽象度が高すぎれば細分化します。最終的にちょうどよい粒度に落ち着きます。Q3. 分析結果をどのようにプレゼンすれば納得感が高まる?
A. ユーザーの発言テキスト、発言頻度、そこから導かれたインサイト、そして具体的な施策への結びつきを一気通貫で示す方法がおすすめです。マインドマップやチャートで図解できるとさらに分かりやすくなります。
参考情報
- Glaser, B. & Strauss, A. (1967). The Discovery of Grounded Theory. Aldine Transaction.
- Creswell, J. W. (2014). Research Design: Qualitative, Quantitative, and Mixed Methods Approaches. SAGE Publications.
- 川喜田二郎 (1967). 発想法―創造性開発のために. 中公新書.
- Guest, G., Bunce, A., & Johnson, L. (2006). “How Many Interviews Are Enough?: An Experiment with Data Saturation and Variability.” Field Methods.
- Nielsen Norman Group (n.d.). When to Use Which User Experience Research Methods.
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