ユーザーインタビューの後工程の質を上げて楽にする最新ツールまとめ

ユーザーリサーチ

この記事の要約

  • ユーザーインタビュー後の膨大なログを効率よく整理・要約するサービスや手法を紹介
  • AIやLLMを活用して、質的データの精度を高める事例や実践的方法を解説
  • 具体的なツール名や導入メリット・導入企業の活用例を挙げて、明日からの活用をイメージできるようにする

僕はユーザーインタビューをこれまで700人以上実施してきましたが、インタビューログの整理や分析、インサイト抽出に膨大な時間を費やし、進行中の他業務が圧迫されることもしばしば。そこで今回は、大量のインタビューデータを効率的にまとめあげ、高度なインサイトを抽出するための最新ツールやアプローチを網羅的に紹介します。

※Dovetailとかは利用経験ありますが全てのサービスを試したわけではなく調べた情報が含まれています

インサイト抽出の難しさ

ユーザーインタビューはPdMにとって必須の情報収集活動です。僕自身、HRテック企業で多様なユーザーを対象にインタビューを行う中で感じているのは、「インタビュー実施」自体はまだしも、その後の質的データ分析こそが最も負荷が大きいということです。具体的には、こんな課題があるはず。

  • ログ整理の工数: 1時間のインタビューで数千字〜数万字のテキストが発生し、それを読み込みハイライトして要点をまとめるのは一苦労。
  • 分析スキルの属人化: 経験者ほど短時間でインサイトを抽出できますが、組織的にノウハウが共有されていないケースが多い。
  • 活用フェーズへの壁: 分析した結果を社内で共有して意思決定につなげる段階も、プレゼン資料化やテキストハイライトの整理に多くの手がかかる。

たとえば僕は1回のプロダクト改善サイクルでインタビューを10~20人行うので、累計では3万字以上に達することもしばしばでした。そうなると、要約やマッピングに1週間以上かかることもしょっちゅう。結果、迅速な意思決定が妨げられたりします。

こうした課題を解決する鍵になり得るのが、「最新AI搭載のユーザーリサーチ分析プラットフォーム」や「汎用LLMの応用」

AI搭載ユーザーリサーチ分析プラットフォーム――DovetailやNotablyなど

まずは、ユーザーインタビューの録音→書き起こし→分析→共有までを一気通貫でサポートするツールを挙げます。近年はDovetailやNotablyなど、「AIが自動でログを要約や感情分析、テーマ抽出」してくれるサービスが急増しています。いくつか代表例を紹介します。

Dovetail (ドブテイル)

オーストラリア発のユーザーリサーチリポジトリツール。僕も使ったことがあり、文字起こしと要約の精度は高いですね。

  • 録音をアップロードすると自動文字起こしし、それをもとにAIが感情分析、要約をしてくれる
  • 大量の発言からポジティブ、ネガティブなど感情ラベルを自動で付与し、類似テキストをクラスタリング
  • 日本語を含む75言語に対応しているため、海外チームや海外ユーザーリサーチもスムーズ
  • 議事録のAIチャット機能があり、ユーザーインタビューデータを元に質問すると引用付きで回答を得られる

たとえば10本程度の1時間インタビューがあって、合計で10万字以上のテキストが生まれたとします。これをすべて目視で分析していると、タグ付けや要点抜粋で相当大変。DovetailならまずAI要約でざっと全体像を把握し、その後ハイライトの精査や意思決定のためのレポートづくりを中心に時間を充てられる、というメリットがあります。

Notably (ノータブリー)

Dovetailとよく比較されるオールインワンのUXリサーチプラットフォーム。特徴は以下のような点。

  • 音声アップロードで自動文字起こしと要約、感情分析が瞬時に行われる
  • 発言をデジタル付箋化し、AIがクラスタリングをサポートしてくれる
  • 生成AIによる関連画像の提案などビジュアル面のサポートがユニーク
  • UIが洗練されており、リサーチ結果をチーム内で共有しやすい

自動要約や感情分析、クラスタリングなど、要点を絞った分析をスピーディーに進められるので、要素検討やUIの方向性を早めに固められるのが強み。

Maze AI

ユーザーテストプラットフォームであるMazeに追加されたAI機能です。探索的なユーザーテストとインタビューが混在するような場合に重宝します。

  • 文字起こしや自由回答のテーマ抽出がAIで自動化
  • 回答内容から感情分析も可能で、ネガティブな部分をすぐに把握できる
  • インタビュー質問のバイアス検出・改善提案など、リサーチ設計のサポートも充実

UserTesting AI Insight Summary

大手のユーザーテストプラットフォーム「UserTesting」が2023年に導入したAIによるサマリ機能。英語圏のユーザーテストでは定番サービスです。

  • 複数のインタビュー動画や画面操作ログを統合し、AIが重要な発見を要約
  • 行動ログと発話内容、そして感情面をシンクロさせて「どこでユーザーがつまずいたか」を自動検出
  • 要約結果には参照箇所の動画リンクがついていて、根拠確認も容易

インタビュー結果を時系列で並べたり、躓いた瞬間を可視化できるので、定量分析との掛け合わせがやりやすい。

dscout AI

dscoutは日常生活の中で「日記調査型」リサーチをするようなサービス。その中でも2024年から実装されたAI機能に注目が集まっています。

  • 動画・音声コメントから文字起こしと要約を自動生成
  • 回答のニュアンスを分析して頻出トピックを抽出する「自動タグ付け」
  • ハイライト動画をテーマごとにまとめるAIサポート機能

日常使いしているユーザーの動画記録や日記を扱うので、従来はレビューや抜粋に莫大な時間がかかりましたが、AIが中間処理をしてくれるおかげで意思決定のスピードが上がります。エンタープライズ向けの料金形態ですが、高頻度で日常観察を行う場合には導入メリットが大きいといえます。

顧客フィードバック分析ツール(VoCソリューション)――KraftfulやClientZenなど

次に、ユーザーインタビュー後工程にとどまらず、アンケート自由回答やサポート問い合わせ、SNSコメントなどあらゆる顧客の声(VoC: Voice of Customer)を扱えるプラットフォームを見ていきます。「ユーザーインタビュー」だけでなく「レビュー」や「サポートメール」もあわせて分析し、統合的に製品改善につなげたいPdMには最適です。

Kraftful

GPT-4搭載のフィードバック分析ツールとして2025年に注目されているのがKraftful。かつてはプロダクト開発者向けのUI設計支援ツールでしたが、近年は「プロダクト開発を加速するAIフィードバックハブ」として進化しています。

  • AppStoreレビュー、サポートチケット、インタビューログなど多様なソースを統合し、AIが共通パターンや深層ニーズを抽出
  • Slackなどのコラボレーションツールと連携し、インサイトが自動通知される
  • Jiraチケット化のサポートもあり、要件管理への落とし込みが容易

たとえば「〇〇機能のUIが使いづらい」というレビューが大量にあった場合、Kraftfulは類似内容をまとめたうえで「改善への優先度が高い」とスコアリングしてくるそう。インタビューデータとレビューを一括で処理して、新機能の優先順位付けがスピーディーに行えるのが魅力です。

ClientZen

サポート問い合わせやフィードバックを自動解析するSaaSで、チャットボット形式の分析支援AI「Mantra AI」を備えています。

  • ユーザーの声をタグ付け・分類し、どのトピックがネガティブなのかを分析
  • テキストの感情分析で不満点や解約リスクを早期検出
  • NPSなどの顧客満足指標とコメントをひもづけて、満足度と発言内容の関連を可視化

ユーザーインタビューだけでなく、問い合わせ窓口やチャットサポートに寄せられたテキストも宝の山。そこから「どんなユーザー層がどんな課題を抱えているか」を見ることで、インタビュー対象の選定にも役立ちます。関連する形で、感情分析からインタビューの追加アクションをプランニングするといった流れがスムーズに。

Viable (バイアブル)

ViableはOpenAIのGPT-4を独自に再学習しており、大量の顧客フィードバックを高度に要約・分析するVoCツールとして知られています。

  • 自由回答やレビューを多角的に分析し、カテゴリー分類やキーワード抽出を自動化
  • AIアナリスト機能で自然言語質問に対して具体的な回答を生成
  • ZendeskやIntercomなど、各種CRM/サポートツールと連携して定期的にフィードバックをアップデート

Viableを導入している海外SaaSの例を見ると、テキストベースの膨大な声をまとめるのが手動よりも圧倒的に速いと評判。PdMが意思決定をするうえで、「この前の週に来たユーザーレビューで頻出した文句は何なのか?」を瞬時に把握できるため、チャンスロスを抑えられるのが強みです。

汎用AIや知見整理支援ツール――ChatGPT/Claude/Bardなどの活用

先ほど紹介したような専用プラットフォームを使わずとも、汎用大規模言語モデル(LLM)をうまく活用すればインタビューデータの要約や構造化を手軽に進められます。僕自身も、「ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説」という記事を書いたくらい、かなりChatGPTをヘビーユースしています。

  • ChatGPT/GPT-4: プロンプトを工夫して要点要約やカテゴリ分類、仮説検証時のアイディア出し
  • Claude: テキスト最大100kトークンなど、ロングテキストに強みあり。「複数本インタビューを一括処理し、統合的インサイトを分析」といった使い方に向く
  • Gemini: Google連携の強みを生かし、社内ドキュメントなど検索との融合も今後期待される

特に大量データを短時間で把握する、または要約してプレゼン資料に落とし込む用途で強力。ユーザーのネガティブ発言だけ抽出して一覧化したり、質問リストを改善してくれたりするため、リサーチ設計の段階でも役立ちます

Notion AIやMiro AIなど

  • Notion AI: ノートツール「Notion」と統合され、ドキュメントの要約やドキュメント校正に使いやすい
  • Miro AI: 付箋を自動クラスタリングする機能があり、KJ法でアフィニティ図をつくる作業を時短化
  • tl;dv: Zoom/Teams/Meetの会議を自動で文字起こし&要約。ユーザーインタビューの議事録作成を自動化できる

これらのツールはすでにチームで使い慣れているケースも多いでしょう。「社内でメイン利用しているNotionにデータをまとめ、まずAI要約で見出し候補をつくってから、PdMやリサーチ担当が精査する」という使い方をすると、まとめ作業の手間が軽減されます。

ユーザーインタビュー後工程を加速し、チームを前進させる

質的データ分析はPdMにとって創造性を発揮すべき重要作業。しかし、いちいちテキスト全量を読んでタグ付けし、要約レポートをまとめていると、多くの工数がかかるのも事実。
AIやLLM活用ツールをうまく使うことで、データ分析の効率と精度が格段に向上し、PdMはより価値の高い意思決定に集中できるようになります。最後にポイントを振り返ります。

  • AI搭載リサーチプラットフォーム(Dovetail, Notably, Maze, UserTestingなど)でログ整理から要約・分析を自動化
  • VoC分析ツール(Kraftful, ClientZen, Viableなど)を導入し、アンケートやレビュー、問い合わせデータも一括で俯瞰
  • 汎用LLM(ChatGPT, Claude等)でセルフサービス的に要約やアドバイスを得る。
    セキュリティやトークン制限を考慮しつつも、高い生産性を実現
  • Miro AIやNotion AIで情報の可視化・クラスタリング・共同編集がしやすくなり、組織全体でインサイトを活用できる

PdMがユーザーインタビューの後工程を迅速に完遂できれば、次の仮説検証やプロダクト改善への着手が格段にスピードアップするはず。僕自身も日々こうしたAIツールを駆使することで、インタビュー分析にかける時間を大幅に削減し、新機能の優先順位付けや要件定義に注力できるようになりました。

今日から実践できるアクション

  1. PoC(概念実証)として一部インタビューでツールを試す
    最初から全インタビューに導入するのではなく、3〜5人程度のインタビューで文字起こしや要約を試し、チームの反応や作業効率の変化を計測する。
  2. チームメンバーの慣れを見ながら導入範囲を拡大
    短期間で大きな学習コストを強いないために、まずはPdMやリサーチ担当だけが使いこなし、次にデザイナーやエンジニアにもアクセスを与えるなど、段階的に拡大。
  3. フィードバックループを回して運用を最適化
    「分析結果のタグ名がバラバラになる」「レポートへの反映が追いつかない」といった課題があれば、AIツールの設定や運用フローを修正していく。
  4. 社内での活用事例を共有し、リサーチ文化を醸成
    AIツールで得られた有益なインサイトを具体的に共有し、「時短になった」「意思決定が速まった」などの成果を見える化する。

Q&A

Q1: すでに社内で大量のインタビューデータが溜まっているのですが、途中から導入しても活用できますか?
A1: もちろん可能です。ただし、古いデータを一気に読み込ませるとコストや時間がかかるため、まずは最新の数件に対してAI分析を実施し、ツールの使い勝手や有用性を確認すると良いです。
Q2: 機密情報が含まれるインタビューを外部AIサービスにアップするのが怖いです
A2: 機密保持契約やプライバシーポリシーを確認のうえ、必要であれば部分的に個人情報を伏せ字にして取り扱うなどセキュリティ対策が必須です。一部のツールはオンプレミスや専用環境も提供しているため、チームのセキュリティ要件にあわせて選ぶと安心です。
Q3: ツールを入れれば、分析は全部AIに任せても大丈夫でしょうか?
A3: AIが抽出した結果を鵜呑みにするのは危険です。あくまで補助ツールとして、“どの仮説を検証したいのか”をPdMが考えながら仕分けていく姿勢が必要です。AI分析をベースに、最終的な意思決定やストーリーテリングは人間が担うのが望ましいです。

参考情報

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