はじめに:PDCAの限界と新しい開発サイクル
プロダクトマネージャーの仕事において、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルは長年、開発と改善の指針として活用されてきました。しかし、ユーザーのニーズが瞬時に変わりうる時代、検討から実行までのスピードがとにかく重要です。特に2025年の現在では、生成AI(特にLLM)の劇的な進化によって、これまで数日〜数週間かかっていたリサーチや検証が数時間で可能になりました。
本記事では、すでにリーン系アプローチとして知られる「Build-Measure-Learn」を、さらに“Learn”を先頭に据えて高速回転させる形にアップデートした“L(earn)-Build-Measure 2.0”=LBM 2.0サイクルを提案します。ポイントは「2025年の最新LLM活用を前提とし、学習(Learn)をスタート地点に置くことで、従来以上に仮説検証を加速させること」です。
Why LBM (Learn-Build-Measure) 2.0?
従来のPDCAは、Plan→Do→Check→Actという直線的な流れです。問題は「Plan(計画)段階で時間をかけすぎるあまり、早期のユーザーフィードバックが得られない」点。一方で、リーンスタートアップ系のBuild-Measure-Learnは先に小さな実装をし、ユーザーから学びを得るアプローチです。
では、なぜ「LBM 2.0」なのか。2010年代から“Build-Measure-Learn”は存在しますが、LLMが当時と比べて飛躍的に進化した今だからこそ、学習(Learn)を最初に据えて情報を大規模に取り込み、そこから“最小限で素早くBuild”し“リアルタイムでMeasure”できる体制を整えることに大きな意味があります。しかも生成AIを駆使すれば、デスクトップリサーチや競合調査、顧客データの分析、テスト実装までを一気通貫で数時間以内に回せる可能性もあります。
この「常時学習モードで仮説を高精度化してからBuildに移り、測定(Measure)した結果を再度Learnへ高速にフィードバックする」流れこそがLBM 2.0の真髄です。従来のBuild-Measure-Learnが「とりあえず作って→計測して→学ぶ」だとすれば、LBM 2.0は「学びを深めながら作り、計測結果を瞬時に学習へ戻して次の仮説を組み立てる」。このサイクルを回すスピードや学習精度が、旧来型の手法と大きく異なります。
生成AIがもたらす高速リサーチ環境
2025年の今、ChatGPTやGeminiなどのLLMツールはご存知の通り超絶高度化し、単なるテキスト要約やコード生成を超えて「自動インタビューログ分析」「質問票の自動最適化」「競合比較の一括サマライズ」など、多彩なタスクをほぼリアルタイムで処理できるようになりました。これがプロダクト開発に与えるインパクトは計り知れません。
具体例を挙げると、以下のような流れが現実的になっています。
- ユーザーインタビューをオンライン開催し、その録音データをAIがリアルタイム文字起こし
- 同時にLLMが要旨とインサイトを自動抽出し、「意外な仮説」「ユーザー感情の変化」をチームに即座に共有
- 競合製品の機能比較や市況データをAIが自動でまとめ、SlackやNotionに投稿
これにより、従来は1週間かかっていたリサーチ工程が半日〜1日で終わることも珍しくありません。LBM 2.0では、この高速リサーチ環境を活かしてLearnフェーズの精度を高め、且つスピードも落とさないことが鍵となります。ツール選定やワークフロー構築のコツは、「プロダクトマネージャーのための『生成AIツール活用方法』8選を事例つきで紹介」でも解説しているので、あわせてチェックしてみてください。

ステップ1:Learn(リサーチと洞察抽出)を“常時”回す
LBM 2.0の第一ステップは、とにかく学習(Learn)を絶えず回すこと。ここで言う「学習」は、単にユーザーインタビューや定量データを集める作業だけを指しません。生成AIを介してリサーチを自動・半自動化し、機会学習やNLPモデルで洞察を発掘するプロセス全体を含みます。
例えば、以下のようなワークフロー。
- インタビュー実施+自動分析:
オンライン会議ツール(ZoomやTeamsなど)と連携して、インタビュー録音を即時文字起こし。生成AIが要約・キーワード抽出・感情分析を行い、その日のうちにレポートがSlackに投稿される。 - ログ分析+LLMサマライズ:
プロダクト上の操作ログや問い合わせログをLLMで一括サマライズ。異常な操作パターンや高頻度の苦情ワードを自動で検出する。 - 外部データの継続取り込み:
競合のリリース情報、SNS上のユーザーの声、市況レポートなどもAIが監視し、日次や週次で「注目すべき新情報」をチームに通知。
重要なのは、Learnを「インタビューした後にだけやるもの」ではなく、開発中もリリース後も常に回す点です。もし新たな学びが得られれば、すぐに仮説を更新し、次のステップであるBuildに反映する。こうしたスピード感が2025年のプロダクト開発には求められています。
ユーザーインタビューの具体的な進め方やログ分析の方法は、「ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド」や「ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説」もご参照ください。


ステップ2:Build(プロトタイプとテスト実装)の自動化・超高速化
Learnステップで得た仮説は、すぐにBuild(実装)に移します。ここでもLLMの進化が強力な武器になります。近年では、GPTs BuilderにUIのラフスケッチや要件を投げると、それをもとにプロトタイプコードまで一気に生成してくれるケースが増えてきました。
さらに、AIアシスタントが自動でコードレビューを行い、潜在的なバグやセキュリティリスクを警告してくれる環境も整ってきています。結果として、Buildフェーズの工数が劇的に削減され、より多くの試作が可能に。具体的には以下のような手順が考えられます。
- プロトタイプ要件のAI化:
Learnフェーズで抽出したインサイトをGPTs Builder等へ入力し、「ユーザーが求める最低限のUI・機能」を自動生成。 - AIコードレビュー:
生成されたコードや画面遷移をAIがチェック。改善ポイントやバグの可能性をコメントとして可視化。 - ユーザビリティテストの迅速化:
数時間〜1日程度で作成したプロトタイプを実際にユーザーへ触ってもらい、追加インタビューを行う。操作ログやフィードバックを即座にAIで要約し、次のMeasureフェーズへ。
「プロトタイプを使って、ユーザーインタビューで新機能の検証を行う方法・Tips」や「GPTs Builderでプロトタイプをすることで、仮説検証を高速にする」なども参照すると、実践のイメージがわきやすいはずです。アジャイル開発と組み合わせることで、1〜2週間単位でサイクルを回すことも十分可能です。


ステップ3:Measure(効果測定と学習蓄積)をリアルタイム化する
Buildしたプロトタイプや新機能をユーザーに触れてもらったら、できるだけリアルタイムかつ多角的にMeasureを行います。2025年現在では、以下のような自動測定の仕組みが一般的になりつつあります。
- AIダッシュボード:
KPI(クリック率、滞在時間、コンバージョン率など)をダッシュボードで可視化し、閾値を超えた変化が起きるとSlackにアラート。 - 自動タグ付け&感情解析:
インタビューやサポートチャットの内容をLLMが解析し、「ポジティブ」「ネガティブ」「要改善点」などのタグを自動付与。顧客の声を一元管理。
Measureで得られた定量・定性データは、再度Learnへフィードバックして、次のBuildへつなげます。この連鎖が高速で回るほど、プロダクトのフィット感が高まり、ユーザーへの価値提供までのリードタイムが大きく短縮されるわけです。僕のチームではNotionと専用データベースを連携させ、インタビュー内容・操作ログ・KPIなどを一元化しています。蓄積が進むほど次の予測精度も上がり、機能追加や改善ポイントの優先度をAIが提案してくれる状態になっています。
ケーススタディ:HRテックプロダクトの架空ケースで考える
架空のケースとして、HRテックプロダクトでLBM 2.0をフル活用して新機能をわずか2週間でリリースするケースを考えてみます。おそらく従来の開発サイクルであれば1〜2か月はかかった規模の機能だと思います。
まず、LearnフェーズでLLMにより、既存ログや過去のインタビュー結果から「採用担当者同士が候補者情報の共有に手間取っている」という課題を瞬時に抽出。新たなインタビューを2回実施し、そのデータをChatGPTで一気に要約。具体的なニーズとして「複数担当者でメモをシェアするときのUIや通知設計が使いにくい」と判明。
次に、BuildフェーズではGPTs Builderへ「このUIワイヤーフレームをもとに、最小限のチャット機能をプロトタイプ化してほしい」と指示。数回の対話で動くプロトタイプが完成し、即座にユーザーリサーチパネルを通じてテストを開始。ユーザーインタビューにも同じく生成AIを使い、フィードバックをまとめてさらにUIを微調整。アジャイルで2スプリント回した時点で、ほぼ完成度の高い機能ができあがり。
最後に、MeasureフェーズでのKPIダッシュボードを構築し、リリース直後から「利用率」「メンション機能の使用頻度」「問い合わせ件数」をモニタリング。ログもAIが解析してくれるため、ユーザーが混乱している箇所をリアルタイムで特定できます。リリースから1週間で追加改善案を数点出し、2週間目には正式ローンチ。ユーザーからの満足度が高いまま導入企業が増えています。
このように、常にLearn→Build→MeasureのループをAIで回し続けることで、開発スピードとユーザーフィットの両立が可能になりました。PDCAのように「計画だけで時間を取られてしまう」という場面が激減したのは大きなメリットだと感じます。
参考情報
・Eric Ries (2011) 『リーン・スタートアップ』
・Ash Maurya (2012) 『Running Lean』
・Mart Cagan (2018) 『INSPIRED』
・Harvard Business Review (2024) 「AIが変革するプロダクトマネジメントの未来」
・本サイトの関連記事:【要約】『リーン・スタートアップ』をあらためて噛み締める
・本サイトの関連記事:【要約】『Running Lean』で顧客開発を加速させる
・本サイトの関連記事:【要約】『INSPIRED』顧客に愛されるプロダクトを生むプロダクトマネジメントの極意
今日から実践できるアクション
1. 常時Learn体制の構築
・オンライン会議ツール+AI文字起こし+要約ツールを連携し、インタビュー終了直後にインサイトを共有できる仕組みを整える。
・競合情報や市場レポートもAIで自動監視して、Slackなどに通知が来るようにする。
2. プロトタイプ自動生成フローの整備
・GPTs Builderやノーコードツールを導入し、チーム内で「MVPの自動生成テンプレート」を作る。
・コードレビューやUIチェックもAIに任せる部分を明確化し、PMは本質的なユーザーフィット検証に集中する。
3. リアルタイムMeasureの取り込み
・KPIモニタリングを自動化し、閾値を超えた場合に即アラートが飛ぶように設定する。
・ユーザビリティテスト結果やサポート問い合わせの要約を自動で生成し、次のLearnに素早く組み込む。
Q&A
Q1:LBM 2.0の新規性は何ですか? 2011年からある“Build-Measure-Learn”とどう違うのでしょう?
A:大きな違いは、最新LLMの高速リサーチ環境を前提に「Learn」を常時回せることです。学習のフェーズを「インタビューの後だけ」ではなく継続的に走らせ、Build・Measureとの連携を徹底的にスピードアップさせている点がLBM 2.0の強みです。
Q2:LBM 2.0を導入するには大掛かりなシステムが必要ですか?
A:必ずしもそうではありません。まずはChatGPTなど手軽に使えるLLMやノーコードのプロトタイピングツールから着手し、リサーチや実装工程を少しずつ自動化するのがおすすめです。必要に応じて段階的に拡張していけばOKです。
Q3:リアルタイムMeasureを実践すると、ユーザーからのフィードバックが膨大になりませんか?
A:確かに膨大になりますが、AIを使った自動タグ付けやテキストマイニングを導入することで、ノイズをふるい落としつつ重要なインサイトだけを抽出できます。結果的に「必要な情報が素早く得られる状態」になるので、むしろチームの負担は減る傾向にあります。
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