- 「顧客のことは誰よりも理解している」
- 「データもインサイトも豊富にある」
- 「なのに、なぜ期待した成果が出ないのか?」
表面的には顧客理解が進んでいるように見えても、プロダクトグロースという成果に結びつかないケースは意外と多いもの。
本記事では、その現象の要因とどうすれば良いか?を考えてみます。
解像度ギャップ診断チェックリスト
まず自分やチームの”解像度の盲点”を洗い出しましょう。下記5問に「はい / いいえ」で答えてみてください。
解像度ギャップをチェック
- 顧客や営業/CSからの機能要望の背後にある”業務オペレーション”を時系列で言語化できるか?(1日の始まりから終わりまで顧客が何をしているか?のレベル)
- 顧客が製品を使わない”非利用シナリオ”を具体的に語れるか?
- ユーザーが「成功した」と感じる定量・定性指標を開発チーム全員が共有しているか?
- 直近6か月で顧客の優先課題がどう変化したか説明できるか?
- エンジニア・デザイナーが顧客の仕事現場を実地観察した回数は1ヶ月で2回以上か?
3問以上「いいえ」なら”解像度ギャップ”が存在するかもしれません。
このギャップこそが、解像度は高い(or 高いと思っている)のにグロースに失敗する根本原因です。では、なぜこのようなギャップが生まれるのでしょうか?
なぜ解像度の高いチームでも失敗するのか?
多くのチームが陥る問題は、顧客理解の「深さ」に偏りがあることです。表面的には詳細な調査を行っているように見えても、実は重要な層が抜け落ちていることが多いのです。
特に見落とされがちなのが、以下の3つのレイヤーです。それぞれの層で理解が不足すると、どのような症状が現れ、プロダクトグロースにどう影響するかを見てみましょう。
深掘りが足りない3レイヤーとその症状
レイヤー | 不足時の症状 | グロース阻害要因 |
---|---|---|
Context Layer 利用文脈 |
UI改善がピンポイントで外れる マルチデバイスで継ぎ接ぎ |
実際の利用シーンでの制約を見落とし → 使われない機能を量産 |
Emotion Layer 感情・動機 |
ユーザー行動は説明できるが”なぜ”が薄い | 表面的なニーズのみ解決 → 深い満足度や継続利用に結びつかない |
Outcome Layer 成功・成果 |
KPI設計が社内ロジック寄り 顧客ROIが曖昧 |
顧客の真の成功指標とずれた機能開発 → 価値実感の低い体験提供 |
解像度をグロースに変換する実践フレームワーク
ここからは、解像度をプロダクトグロースの成果に直結させるための具体的な手法を解説します。既存の調査やデータを活かしつつ、成果創出に特化したアプローチです。
Journey Snapshot
- 目的:利用直前・直後のスクリーン&環境写真共有で、真の利用文脈を把握
- 従来手法の限界:インタビューでは「きれいに整理された後の話」しか聞けない
従来のユーザーインタビューやジャーニーマップ作成では、どうしてもユーザーの記憶に依存することになります。しかし、実際の利用シーンは思っているよりも複雑で、様々な制約に囲まれています。
実践ステップ:
- 現場シャドーイング:30分×3回の実際の業務観察
- 瞬間写真収集:利用直前・直後のデスク環境をスマホで撮影共有
- 制約条件マッピング:写真から見える物理的・時間的制約を特定
5Why on Feeling
- 目的:感情系Whyを5回掘り下げ、表面的な要望の背後にある本質的動機を発見
- 従来手法の限界:「〜が欲しい」という要望をそのまま受け取ってしまう
多くのプロダクトチームが、ユーザーの「〜が欲しい」という要望をそのまま機能開発につなげてしまいがちです。しかし、その要望の背後には必ず感情的な動機があり、そこを理解することで全く違うソリューションが見えてきます。
実践ステップ:
- 感情の特定:「その時どう感じましたか?」で感情を明確化
- 5Why実行:感情の背景を5層まで深掘り
- 発見イメージ:「ダッシュボードが欲しい」→「数字で安心したい」→「上司に責められたくない」→「実績を客観視して先手を打ちたい」→「チームの信頼を失いたくない」。
Success Definition Workshop
- 目的:顧客と”理想の未来”を共創し、真の成功指標を設定
- 従来手法の限界:社内KPIと顧客の成功指標がずれている
プロダクトチームが設定するKPIと、顧客が実際に感じる「成功」には往々にしてギャップがあります。このギャップを埋めるためには、顧客と一緒に成功指標を定義することが重要。
実践ステップ:
- 理想状態の共創:「6ヶ月後の理想的な1日」を顧客と一緒に描く
- 成功指標の共同設計:その理想状態を測る指標を顧客と決める
- ジョブ理論活用:JTBDカードで「雇われる理由」を明確化
- 発見イメージ:「効率化ツール」として開発していた機能が、実際は「部下への指導時間確保」が真の目的。機能設計を「時間創出」から「コーチング支援」にピボット。
これらのフレームワークに共通するのは、従来の調査手法に「一歩踏み込んだ視点」を加えることです。インタビューをやめるのではなく、より深く、より実践的な洞察を得るための工夫なのです。
参考情報
- Christensen, C.M., et al. (2016). Competing Against Luck.
- HBR (2016). “Know Your Customers’ Jobs to Be Done”.
- Slack Engineering Blog (2024). “Re‑designing Mobile Status: Context‑Driven Approach”.
- ログ分析→ユーザーインタビューの流れで、「本当に解くべき課題」を明確にする
コメント