「いつの間にか、プロダクトが本来のコンセプトとズレ始めてる…」。
そんな違和感を覚えたことはないでしょうか?
長期運用の中で機能追加を重ねてきた結果、当初の価値やターゲットからいつの間にかかけ離れてしまう。そこに気づかず、アジャイル開発を回すこと自体が目的化しているような“コンセプトドリフト”を放置すると、ユーザーのニーズに応えきれなくなり、ビジネスインパクトも先細る危険があります。
本記事では、PdMがコンセプトと現状のズレを早期に把握し、ユーザーリサーチを通じて本来のバリューを再確認するフレームを紹介します。
長期運用で陥る「コンセプトドリフト」とは何か?
コンセプトドリフトとは、ローンチ当初に設定したコンセプトやコア価値が、長期運用の過程で徐々にズレていく現象を指します。機能追加や顧客要望、経営層のリクエストなどに対応していくうちに目指すべき姿がぼやけてしまうのです。
その結果、以下のような問題が起こりがちです。
- ユーザーの満足度が妙に低い
- プロダクトが散らかった印象
- リテンションレートが低く、広告費をかけてもユーザーが蓄積しない
特にサブスク型SaaSは、ユーザーの絶え間ないフィーチャーリクエストをすべて受け入れると、本来の価値提案が埋もれやすい。結果として、企業内でも「競合に負けたくないから」という無数の要求に押され、最初のビジョンを忘れてしまいます。
ユーザーが求める価値が初期コンセプトとどれほど合致するかを常にチェックしないと、「いらない機能大量発生」状態になる恐れもあります。コンセプトドリフトは、それらが重なって大きな負債になる。ここを放置すると、後になって大規模なリニューアルが必要となり、ユーザー離脱やエンジニアリングリソースの浪費につながります。

プロダクトが元々のコンセプトからズレ始めている5つのシグナル
コンセプトドリフトの予兆を見逃さないためには、日頃から以下のようなシグナルを意識してウォッチすることが大切です。
- ユーザーの「何に使えばいいか分からない」声が増加
新機能を追加しても、ユーザーが目的を理解できない。
サポート問い合わせやSNS上で「この機能って何?」という反応が増える - リテンション指標やNPSの低下
定期的に測定しているリテンション率やNPSがじわじわ落ちてきているが、原因が特定できない - 機能リクエストが上積みで肥大化
バックログが膨大になり、優先度を整理できなくなっている。
結果として「何でも追加」状態でUIが散らかる - チーム内で「そもそも何がコア価値だっけ?」の空気感
要件定義会議で初期コンセプトを誰も口にしなくなっている。
会話が「機能比較」と「数字の議論」に偏る - スタート時と比べて顧客層が大幅に変化
当初狙っていたメインターゲットが離脱し、新しい顧客層がメインを占める。
ただしその層への最適化は中途半端
これらのシグナルが複数当てはまるなら、コンセプトドリフトが進行している可能性が高いです。早めに手を打たないと、一気にユーザーやチームのモチベーションが落ち込んでしまいます。
事例:巨大SNSがユーザー満足度低下に気づかなかったケース
コンセプトドリフトの具体例としてよく挙げられるのが、SNS大手Facebook(現Meta)。もともとは「つながりを作る」コンセプトで大学生のコミュニケーションを助けるサービスでしたが、ユーザー数拡大に伴い、多彩な機能と広告最適化に注力。そうするうちに、ユーザーのタイムラインに政治的対立や低質コンテンツが混在し、満足度を下げる原因になったと報じられています(The Wall Street Journal, 2024)。
Metaは「コミュニティとプライベートなつながり」を再度強化する方向でテコ入れを始めましたが、大きな批判とクレームを受けてからの後手対応でした。こうした例はドリフトに気づかないまま放置していた結果であり、ユーザー信頼を回復するのに膨大なコストをかけざるを得なくなることを示唆します。
なぜ起きる? PdMが目を背けがちな兆候
過剰な機能追加による迷走
機能リクエストをすべて受け入れていると、気づけばプロダクトが何でも屋化している。これは最もあるなるな兆候。PdMや経営層が機能とコンセプトの整合性を厳密に検証せず、優先度の低いものまで積み上げると、UIも煩雑になりユーザーも混乱してしまいます。
結果、核の価値が散逸し、「どんな人にどんな便益を提供するのか」があやふやになる、という結末が待ち受けています。
過剰なKPI最適化
特定の指標(売上、MAUなど)を伸ばすことに固執して、初期ビジョンから外れた施策を積み重ねると、ユーザー体験全体が歪む。SNSのエンゲージメント率を上げたいがあまり、刺激的な広告や通知を多用してユーザー疲労を増やすケースなどが代表的です。
一見指標は伸びているように見えるが、ユーザー満足度やブランド信頼は長期的に下がっているかもしれない。これがKPI最適化の落とし穴。ビジョンとの整合を意識せず数字だけ追うと、気づかぬうちにドリフトを加速させます。
どうやってユーザーリサーチでズレを把握し、修正すべき方向を明らかにするか
コンセプトドリフトに陥った場合、ユーザーリサーチは単なるヒアリングではなく、「どこがズレているか」と「どこに戻すか」を確かめるための再設計手段になります。ポイントは、以下のステップで調査対象や質問内容を絞り込むことです。
- インタビュー前の仮説整理
まず、初期コンセプトと今の状態を書き出し、「こういうユースケースやユーザー像を想定していたが、実際には違う層に使われているのでは?」など、ズレの仮説を立てます。
そのうえで、「なぜズレが起きた?」という焦点を質問に組み込む。関連する手法は「筋の良い仮説」をチームで設定が参考にしてください。 - 現行ユーザーと離脱ユーザーを対比
現行ユーザーには「日々どんなシーンで使っているか」「最初と使い方が変わってきていないか」を聞きます。
さらに、プロダクトを離脱したユーザーを捕まえて「そもそも期待していた価値と実際のギャップ」「どうして使わなくなったか」を深掘りする両輪で回すことが重要です。 - コアバリューへの評価を問う
「もともと○○を便利にするツール」という前提に対し、ユーザーはどう評価しているかを直接尋ねます。「○○できていますか?」「どの程度恩恵を感じているか?」など、肯定・否定どちらにも振れる質問を用意。ここで、“あまりそこに期待していない”“もっと違うところを評価していた”などの声が出れば、コンセプトドリフトを裏付ける証拠になります。 - 機能の取捨選択をユーザーに委ねる質問
ユーザーヒアリングを経て、プロダクトチームで「もし機能を3つに絞るなら何が必要か?」といった問いを考えましょう。ここで残らない機能が、ドリフトの要因かもしれません。 - インタビュー結果とログを突合
ユーザーが「○○の機能を毎日使っている」と答えていても、ログ上は週1しか使っていない場合があります。そのギャップを見れば「認知だけは高いが実際の使用は少ない」「本人は使っているつもりだが価値を感じていない」といった矛盾に気づきやすくなり、修正すべきポイントもより明確になります。
これらの調査を進めると、どの機能/UX/UI/デザイン/サポートが初期コンセプトを体現していて、どれが乖離しているか?が見えてくるはずです。そこを起点にPdMは「コンセプトを修正するか」「機能を切るか」「新たなコア価値を打ち出すか」を判断できます。
今日から実践できるアクション
- コンセプト棚卸し: 最初のコンセプトを改めて書き出し、チーム全員で現状と比較する
- ログ分析でのギャップ特定: 現行ユーザーと離脱ユーザーの行動データを対比し、ズレの原因を洗い出す
- 離脱ユーザーインタビュー: リクルーティングは難しいが、原因を直に聞くことでドリフトの真相が判明しやすい
- 機能取捨選択の質問: インタビューで「必須機能はどれか?外すならどれか?」を明確に聞き、コンセプトに合わない機能を発見
- 指標再定義: 収益指標だけでなくNPSやUX指標を加え、定期レビューを行う
Q&A
- Q1: コンセプトドリフトの兆候を具体的に見分けるには?
- A1: ユーザーからの「使いにくい」「この機能って何?」といった声の頻出、リテンションやNPSの低下、機能リクエストが肥大化して優先度を決めきれない状態が続くなどがサインです。
- Q2: 機能要望をすべて受け入れるのは悪い?
- A2: ユーザー要望が多いのは期待の表れですが、コンセプトに合わない機能まで実装すると迷走しやすい。不要機能を最小化し、コアに集中することが長期的成功につながります。
- Q3: リニューアルを大々的に宣言すると現行ユーザーが離れない?
- A3: 可能なら小規模PoCやカナリアリリースで影響を限定するのがおすすめ。NetflixやSpotifyが実践するように、一部ユーザーだけに先行適用して問題を確認してから広げる方が安全です。
参考情報
- The Wall Street Journal. (2024). Meta and the Shift from Social to Content Platform.
- Netflix Tech Blog. (2023). Canary Release Approach for Large-Scale Service Updates.
- Spotify Labs. (2022). Case Study on Stepwise Feature Rollouts and User Feedback Loops.
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