はじめに:なぜコホート分析が重要か
コホート分析は、リテンション(継続率)向上のために欠かせない分析手法。
ユーザーを“サインアップ時期”や“プラン”といったセグメントに分け、その後の継続行動を追うことで以下を把握できます。
- いつどんな人が離脱するのか?
- 継続を生むキー体験は何か?
例えば、ただ「最近離脱が多い……」で終わらず、「7月に登録したユーザーが2週間後に顕著に落ちている」など具体的に把握できます。そこに対し、オンボーディング強化やUI刷新といった打ち手が取れるわけです。
「コホート分析は知ってるけど、実際どう進めれば?」という状態もあると思うので、この記事では、具体的な手順と、Amazonを例にした架空のケースも交え、どうやってコホート分析をプロダクトグロースに繋げるかを解説します。
コホート分析とは?
コホート分析では、まずユーザーを特定のグループ(コホート)に分け、その後の継続行動や課金行動を時系列で追いかけます。代表的なやり方は以下。
- サインアップ週・月別: 7月1週目登録ユーザー、7月2週目登録ユーザー……
- プラン別: フリープラン/スタンダード/エンタープライズなど
- イベントベース: 初回課金日や、ある主要機能を初めて使った日を起点に追う
続いて、DAU(Daily Active Users)やMAU(Monthly Active Users)、あるいは課金継続率など評価指標を決めます。そのうえで、コホート別に「1週後、2週後、3週後……のアクティブ率や課金率」を表にまとめて可視化する。
例えば「7月1週目に登録した100人のうち、2週後にアクティブな人は50%だったが、3週後は30%になった」といった形です。これをExcelやスプレッドシートでグラフ化すると一目で傾向を把握できます。
<コホート分析のアウトプットイメージ>
ざっくりした流れ
- コホートの粒度(サインアップ週など)を決める
- 追いかける指標(例:継続ログイン率、課金率、N回目の利用継続など)を設定
- ツールかExcelでデータを抽出し、コホート表やグラフにする
- 傾向を確認し、「いつ」「誰が」離脱または課金に至るかを読み解く
- 仮説を立て、改善施策を検討
- 施策後に再度コホート分析し、効果を検証
この反復がリテンション改善の軸。
Amazonを例にしたコホート分析→施策展開の架空ケース
ここではAmazonを例に架空のケースとしてコホート分析がどう役立つかを見てみます。例えばAmazonが、「プライム登録者の継続率をさらに高めたい」という課題を持っているとします。以下のように進めるイメージです。
- コホート分割
- 「プライムに登録した月別」にユーザーをグルーピング
- 分析指標
- 登録後○ヶ月目の継続率(解約していないか)
- また初回セール参加率やプライムビデオの利用状況を見る
- 結果(仮定)
- 7月に登録したユーザーは、登録後3ヶ月で解約率20%
- 一方、8月登録ユーザーは同じ3ヶ月後でも解約率30%
- 仮説
- 8月登録組がセールを十分活用できていないのでは
- プライムビデオに触れていないのでは?
- ここで、継続率のhigh/middle/lowなどで体験の差分をデータ分析して仮説の精度を高める
- 施策
- 8月組にはセール情報を強調したメールを積極配信
- プライムビデオのおすすめリストも登録直後に提示
- 検証
- 再度コホート分析し、9月組・10月組にも同施策を適用
- すると解約率が3ヶ月後に20%以下に抑えられ、リテンション改善!
つまり、Amazon(の一部セグメント)であっても、「いつ登録したユーザーがどの時点で離脱するか」を把握し、セールやコンテンツ活用施策を強化することで継続率を改善できるわけです。
コホート分析はBtoCだけでなく、BtoBでも有効。
たとえばBtoB SaaSの場合は「導入直後コホート」「オンボーディング完了コホート」などに分け、利用頻度や課金プランの移行率を観測します。どのコホートが離脱しやすいか判明すれば、対策の優先度が明確になります。
ログ分析と定性インタビューの組み合わせ
注意していただきたいのは、「コホート分析が示すのはあくまで数字」という点。
- 「なぜそこで離脱するのか」
- 「どうすれば継続してくれるのか」
などの理由を深く知るには、継続率のHML(High/Middle/Low)分析や定性インタビューが必須。深掘りの数字とユーザーの生声を合わせることで、原因と解決策が浮き彫りになります。
例えばAmazon例の続きなら、8月登録コホートのユーザーに対してインタビューを実施し、
- 「そもそもセールがあるとは知らなかった」
- 「プライムビデオを全く意識していなかった」
- 「UIが分かりにくくて情報を探せなかった」
など仮説を立ててユーザービリティテストなどで実態を開きにいくイメージです。
「ログ分析→ユーザーインタビューの流れで…」を行えば、ログで「ビデオページに一度も遷移していない」ユーザーはビデオの存在を知らないか、知っていても魅力を感じていない可能性が高いという仮説を裏付けできます。

実際、僕も累計600人以上のインタビューをしてきましたが、定量データだけで原因がわかった気になっても実は別の要因があったというケースがたびたびあります。コホート分析が教えてくれるのは“現象”であり、“本質”を見極めるには深堀りが大切。
改善アクションと検証プロセス
コホート分析で課題を見つけたら、次は施策を打ち出してみて、その結果を同じコホート分析で測定するサイクルが重要。
具体的な改善アクション/検証の流れ
- 分析
- サインアップ月別に離脱率を出す。改善対象のコホートを絞る。
- 仮説設定
- 定性インタビューで離脱理由を探り、「UIが複雑」「必要な情報が届かない」などを特定
- 施策実装
- たとえばオンボーディングEmailを拡充し、サインアップ1週間後にプライムビデオを案内するなど
- 再分析
- 新施策を受けたユーザーのコホートで離脱率が下がったか比較し、効果を確認
- 成果が出れば正式リリース
- 効果が薄ければ施策を再検討
繰り返しになりますが、「どのユーザーが、どの時期に、どの行動をとらないか」をコホート分析で可視化したうえで改善策を当てるのがポイント。初心者コホートにはとにかくチュートリアルを強化する、上級者コホートには追加機能へのアップセルを設計するなど、コホート別の施策を設計すると効果検証もしやすくなります。
具体的にコホート分析自体をどうやるか(手順例)
- データ取得
- サインアップ日時や利用プラン、ログイン履歴、解約日時などユーザー行動をDBやAnalyticsから抽出
- コホート定義
- 例:サインアップ月ごとにユーザーを分類(2025年7月/8月/9月)
- 追う指標を決める(週ごとの継続率、○日目のアクティブ率、n回目ログインまでの期間 など)
- ビジュアル化
- 縦軸にサインアップ月、横軸に経過週を置いて残存率を%表示する「コホートテーブル」
- 例:7月サインアップ組は2週後 60%、4週後 50%、8月サインアップ組は2週後 55%、4週後 40% など
- Excelやスプレッドシートなら、「条件付き書式」でグラデーションをつけるとわかりやすいです
- 問題箇所の特定
- 縦に見て離脱が早い月を特定、横軸で離脱率急増の週を特定
- 例:8月サインアップ組は2週目で急落→オンボーディングが不十分か?
- 仮説検証
- ログ調査:2週目以降に使ってほしい機能が利用されていない?
- インタビュー:リアルユーザーの声を集め「ビデオ知らなかった」「使い方分からない」など把握
- 施策:UI改善、タイミングをずらしたEmail配信、新機能のチュートリアル強化など
- 再度コホート分析で確認
- 施策適用コホートの離脱率が減ったか確認しPDCAを回す
今日から実践できるアクション
- コホート分けの仮説を1つ選ぶ:
- まずはサインアップ月別が無難。イベント駆動型コホートは慣れてからでも遅くない
- ツールやスプレッドシートで可視化:
- Google AnalyticsやAmplitudeを導入済みなら活用し、ない場合はCSV抽出からExcelで作成
- 問題の週・ユーザー群を定性深掘り
- コホート分析で見えた離脱傾向に対してインタビューを行う。
離脱原因や課金障壁を探る。「筋の良い仮説」を設定して挑むと効率
- コホート分析で見えた離脱傾向に対してインタビューを行う。
- 小さな施策を試す
- 例えばオンボーディングEmailのタイミング変更、UIの簡易アップデート、A/Bテストで文言を見直す
- 再度コホート分析で効果検証
- 新施策導入組のコホート離脱率が改善したか。数字の裏付けが得られれば全体展開し、次の施策へ
Q&A
Q1. コホートが細かくなりすぎて分析が複雑に……
A. 最初はシンプルな切り口(サインアップ月やプラン別)に絞るべきです。あまりに分割しすぎるとノイズが増え、十分なサンプルも確保できず混乱します。
Q2. 離脱率が特定フェーズで高いが、改善策が思いつきません
A. 必ずユーザーへの深掘りインタビューやログ詳細を見て、具体的な原因を推測してください。「ログ分析→ユーザーインタビュー」の流れが有効です。

Q3. 数字は良いが、社内をどう説得すれば?
A. 定量結果をグラフ化し、インタビューの生の声を添えると説得力が増します。経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方も参考になります。

参考情報
- McKinsey & Company (2021). “Retention Growth Strategies in SaaS”. Industry Report.
- Mixpanel Blog (2022). “Cohort Analysis: A Complete Guide for Product Teams”.
- Ries, E. (2011). The Lean Startup. Crown Business.
- Saravanakumar, K. & Suganthi, L. (2018). “Retention Analysis in SaaS-based Business Models.” International Journal of Emerging Technology and Advanced Engineering.
- ログ分析→ユーザーインタビューの流れで、「本当に解くべき課題」を明確にする
- ユーザーインタビュー前に「筋の良い仮説」をチームで設定する具体的な方法やフレーム
- 経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方・使い方
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