「ユーザーインタビューで“良いのか悪いのか分からない”を脱却するにはどうしたら良いか?

ユーザーリサーチ

この記事の要約

  • ユーザーインタビューが曖昧な結果になりがちな原因を解説
  • 「課題生成」「課題検証」「ソリューション検証」「ユーザビリティテスト」「機能/UI単位の検証」ごとの具体的な解決策を提示
  • 分析フェーズで迷わないための評価軸やツール活用法を紹介し、次の意思決定につなげる

ユーザーインタビューを頑張ってやったのに、蓋を開けてみると「この機能は良いって人もいるし、悪いって人もいる。結局どうなの?」と判断ができずにモヤモヤしてしまう。これは多くのPdMが経験する悩みではないでしょうか。僕も何百回とインタビューをしてきましたが、「結論らしい結論」が見えずチームが混乱してしまう瞬間がありました。

本記事では、ユーザーインタビュー結果が曖昧になりやすい原因を整理し、インタビューの目的(課題生成・課題検証・ソリューション検証・ユーザビリティテスト・機能/UI単位)ごとにどうすればいいかを紹介します。


  1. インタビュー後に「良いか悪いか分からん」となる背景
  2. 「目的次第」で変わる評価基準
  3. 【課題生成インタビュー】「ユーザーの本音」を構造化して曖昧さをなくす
      1. インタビュー前の仕込み:テーマの明確化と幅広い質問設計
      2. 分析視点:KJ法やグラウンデッド・セオリー・アプローチで共通パターンを可視化
      3. 「課題の頻度×強度」で意思決定に活かす
  4. 【課題検証インタビュー】仮説をしっかり検証する質問設計とラベリング
      1. 仮説リストの作り込みが鍵
      2. インタビュー結果のコード化(ラベリング)で曖昧をなくす
      3. “いい、悪い”が混在する場合の対処
  5. 【ソリューション検証インタビュー】解決策の妥当性を評価する定量+定性ハイブリッド
      1. プロトタイプ活用でビジュアルを駆使する
      2. “実際の使い方”を想定したシナリオテスト
      3. 簡易スコアリングで主観的満足度を数値化
  6. 【ユーザビリティテスト】操作ログ×観察×インタビューで実際の使い勝手を把握
      1. 事前に測定指標を設定する
      2. 観察+事後インタビューで定性補完
      3. 良し悪しが混在する場合の切り分け
  7. 分析フェーズでのチェックポイント
      1. インタビューの目的を常に再確認
      2. 複数の分析者・関係者を巻き込む
  8. 目的を明確にしてこそ、インタビューからの意思決定が進む
  9. 参考情報
  10. 今日から実践できるアクション
  11. Q&A

インタビュー後に「良いか悪いか分からん」となる背景

ユーザーインタビューは、プロダクトの成長や意思決定を支える非常に強力な手段。ただし、インタビューの目的や質問設計が曖昧なまま実施すると、「なんかポジティブな声もあるけど、ネガティブな声もある…」と収集がつかなくなりがちです。

なぜそうなってしまうか?はシンプルに「良し悪しを判断する評価の軸が曖昧なままインタビューをする」からです。曖昧な評価軸と基準で進めると、結局どの方向性に舵を切るべきか分からない状況に陥ります。

裏を返すと、明確な目的と事後分析の手順がしっかりしていれば、“良いか悪いか”は比較的クリアに見えてくるということです。以降、ケースごとにインタビューの目的を整理し、それに合わせた分析・意思決定のフローを紹介します。


「目的次第」で変わる評価基準

ユーザーインタビューは大きく分けて以下のような目的に分類できるかと思います。

  • 課題生成: ユーザーがどんなシーンで何に困っているかを幅広く探索する
  • 課題検証: ユーザーの困りごとや課題に関する仮説が正しいかどうかを深掘りする
  • ソリューション検証: 提案している解決策や機能が本当に効果を発揮するかどうかを評価する
  • ユーザビリティテスト: 製品や機能の使いやすさ、操作性を検証する

次章から、目的別にどう設計すれば曖昧にならず、意思決定に結びつけられるかを解説します。


【課題生成インタビュー】「ユーザーの本音」を構造化して曖昧さをなくす

インタビュー前の仕込み:テーマの明確化と幅広い質問設計

課題生成インタビューはユーザーが日々抱えている課題や潜在ニーズを発見するためのものです。ここで大事なのは「まず広く“生活背景”や“行動プロセス”を掘り下げる」こと。「良い/悪い」という評価ではなく、どんな場面で何をしているかを徹底的に聞き取ります。

たとえば、BtoBの人事支援ツールを開発しているなら「候補者との連絡はどんなツールでやっていますか?」「それ、実際に使う上で何が面倒?」と聞いてみる。思いもよらない課題が見つかったりします。

分析視点:KJ法やグラウンデッド・セオリー・アプローチで共通パターンを可視化

課題生成インタビューの結果は膨大なフリートークが集まりがちです。そこからポイントを抽出する際に役立つのがKJ法(付箋にキーワードを書いてグルーピングする手法)や、「グラウンデッド・セオリー・アプローチ」(質的データをカテゴリー分けしながら理論構築する分析手法)です。散らばった発言をまとめ、

  • 「どうやら◯◯のステップで多くの人がつまずく」
  • 「管理者権限がなくて自由に操作できず困ってる」

など、共通する課題パターンを導き出します。

どんな困りごとが頻出しているか」を抽出すると、曖昧さがグッと減ります。

「課題の頻度×強度」で意思決定に活かす

このフェーズで得られた課題を“頻度”と“強度”の2軸で評価すると、重要度が見えてきます。

頻度
何人のユーザーが同じような不満を抱えているか

強度
それがどれほど深刻か

たとえば「競合サービスと比較しづらいから不便」と言われても、それが1人しか言っていないなら優先度は低いかもしれません。逆に「採用候補者管理に毎回5時間取られている」と3人言っていたら、その課題の優先度は高くなるでしょう。


【課題検証インタビュー】仮説をしっかり検証する質問設計とラベリング

仮説リストの作り込みが鍵

課題検証インタビューでは、すでに「こういう課題があるんじゃないか」という仮説を持っている状態が前提になります。例えば「中途採用の現場では候補者プロフィールと社内オペレーションが分断しているんじゃないか」という仮説を用意しておき、それに対しユーザーが本当に困っているか、どう困っているのかを掘り下げるイメージです。

この段階では、質問項目に“仮説を確認する問い”が入っている必要があります。漠然と「どう思いますか?」と聞いても良い/悪いがはっきりしません。具体的には「管理オペレーションの段階でボトルネックんいなっていることやプロセスはありますか?(あれば、それを再現してください)」のようにピンポイントで聞き、その答えを仮説と突き合わせる形です。

インタビュー結果のコード化(ラベリング)で曖昧をなくす

インタビューが終わったら、「仮説を支持する意見」「仮説に反する意見」に発言をラベリングするとクリアになります。GoogleスプレッドシートやNotionを使って「発言内容」「どの仮説に紐づくか」「肯定/否定」などの列を作ると可視化しやすいです。賛否両論が混在していても、どのセグメントに否定的傾向が強いのか、逆に賛成しているのはどういった属性のユーザーか、が見えてきます。

“いい、悪い”が混在する場合の対処

もし同じ課題に対して「良い」と言う人と「悪い」と言う人が混在するときは、セグメント別に再度振り分けてみます。たとえば「管理職クラスは非常に問題と感じるが、スタッフ層はそこまででもない」といった違いがあるかもしれません。それでも判断が難しい場合は、ビジネスインパクトや優先ターゲットに照らして、どちらを重視すべきか決めるのがPdMの仕事です。


【ソリューション検証インタビュー】解決策の妥当性を評価する定量+定性ハイブリッド

プロトタイプ活用でビジュアルを駆使する

ソリューション検証インタビューでは、ユーザーの抱える課題に対して「このような機能やUIで解決しようと思うんだけど、どうだろう?」と具体的に見せると曖昧さが激減します。言葉だけで「こういう機能を想定しています」と伝えるより、FigmaやSketch、あるいはGPTs Builderやv0などのLLMプロトタイプもユーザーがイメージしやすいです。

GPTs Builderでプロトタイプをすることで、仮説検証を高速にする
主にソリューション仮説を検証するインタビューにおいて、GPTのGPTs(BPT Builder) Builderを用いるメリットや方法を解説します!なぜGPT Builderが新しいMVPになり得るのかエリック・リースの『The Lean ...

“実際の使い方”を想定したシナリオテスト

単にデザインを見せるだけでなく、ユーザーがどんなシーンでそのソリューションを使うかをシナリオ化し、ロールプレイ形式で使ってもらうのが効果的です。例えば「実際に候補者にメールを送るシーンを想定して、この画面を操作してみてください。何か戸惑いはありますか?」と誘導すると、思いのほか具体的なリアクションを得られます。

この際、ユーザーが口に出す言葉だけでなく、操作途中で止まってしまうポイントや、表情の変化を観察することも重要です。ユーザビリティテスト的アプローチと組み合わせるイメージで進めると、定性面が具体化します。

簡易スコアリングで主観的満足度を数値化

インタビュー中に「使いやすさを1~5点でつけるとしたら何点ですか?」と聞いてみるだけでも、印象のバラつきが可視化されます。バラバラの回答が来ても「4点以上をつけたのは半数か」「2点以下はどんな属性のユーザーか」といった切り口で分析すると、ソリューションの方向性がより見えやすくなります。


【ユーザビリティテスト】操作ログ×観察×インタビューで実際の使い勝手を把握

事前に測定指標を設定する

ユーザビリティテストでは、ユーザーがプロダクトを操作している様子を観察し、タスク完了率や操作エラー率を測るのが基本です。例えば「◯◯画面で登録を完了するまでに何分かかったか」「エラーが何回発生したか」など、定量化できる指標をあらかじめ決めておくと、後で“良い/悪い”が曖昧になりにくいです。

ユーザビリティテストの分析手法『Lostness』『タスク間連関分析』を解説」の記事で詳しく触れましたが、タスク達成にどれだけ迷っているかを可視化できる指標を導入すると、定性コメントだけではわからない“迷い”を確認できます。

観察+事後インタビューで定性補完

操作ログが示す定量データだけでは、“なぜ迷ったのか”がわかりません。そこで、テスト中のユーザーを観察し、終わってから「どのあたりで混乱しましたか?」と突っ込んで聞くのがポイントです。この組み合わせで「ここのボタン表示が分かりづらい」「エラーメッセージが役に立たない」という具体的改善策を導き出しやすくなります。

良し悪しが混在する場合の切り分け

ユーザビリティテストの結果は、UI要素、タスクフロー、情報設計など、複数視点を分けて分析しないとカオスになりがちです。たとえば「画面デザイン自体は好評、ただし入力フォームの制限が多すぎて不満」というケースもあります。評価観点ごとに分解し、どこに問題が集中しているかを突き止めることで、次の改善アクションが見えます。


分析フェーズでのチェックポイント

また、全てのタイプのインタビューで質的な結果を分析するときは、つい曖昧さに振り回されがちです。そこで意識すると良いポイントは以下の2つ。

インタビューの目的を常に再確認

  • 「今回のインタビューは課題生成なのか?課題検証なのか?それともユーザビリティテストなのか?」
  • 「そもそも、事前に確認したかった目的と仮説、問いは何でそれはどう検証しようとしていたのか?」

など振り返りながら結果を整理すると、評価の軸を見失いにくくなります。もし違う目的の質問が混ざってしまっているなら、結果を分けて分析するのがコツです。

複数の分析者・関係者を巻き込む

デザイナー、エンジニア、マーケ担当など、視点が異なるメンバーに協力してもらうと、1人のPdMが曖昧だと思っていた情報も、他の人から見ると明確な改善ポイントに見えたりします。インタビュー結果をシート化し、オンラインホワイトボードで意見交換する場を作るとスムーズです。


目的を明確にしてこそ、インタビューからの意思決定が進む

ユーザーインタビューで「良いのか悪いのか分からない」という曖昧な状態は、往々にしてインタビューの目的や評価軸が定まっていないことが原因です。課題生成、課題検証、ソリューション検証、ユーザビリティテストなど、どのフェーズの目的なのかを最初に定義し、それにマッチする質問と分析フレームを用意すると、フィードバックがはっきり見えてきます。

結局、インタビューから得た知見をプロダクトの意思決定につなげるのはPdMの責務です。相反する意見が出てきても、ターゲット優先度やビジネスインパクトで判断し、次のアクションに反映していく必要があります。僕も日々、ユーザーインタビューを繰り返す中で、模糊としていた情報が突然クリアになる瞬間を何度も味わってきました。

もし曖昧なコメントが多いと思ったら、そもそものインタビュー目的と分析軸を見直す。こうした地道なステップの積み重ねこそが、最終的にプロダクトの方向性に確信を持たせてくれると僕は信じています。


参考情報

  • Eric Ries (2011) 『The Lean Startup』 – インタビューと顧客開発の重要性を説いた名著
  • Glaser & Strauss (1967) 『The Discovery of Grounded Theory』 – グラウンデッド・セオリー・アプローチの原著
  • Jared Spool (2016) “Beyond the UX Tipping Point” – ユーザビリティテストの重要指標について議論
  • 本サイトの関連記事: ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説

今日から実践できるアクション

  1. インタビュー前に目的を一枚紙にまとめる
    「今回のインタビューは課題生成なのか、課題検証なのか、ソリューション検証なのか?」を明文化し、チーム共有するだけでブレが大幅に減ります。
  2. 仮説リストと発言を紐づけるラベリング表を作る
    ExcelやNotionで「仮説Aへの肯定コメント」「仮説Aへの否定コメント」などラベリングしていく。定量比較も加えると曖昧さが解消されます。
  3. 最小限のプロトタイプやUIを用意して、実際に触ってもらう
    ソリューション検証や機能/UI検証フェーズでは、話だけでなく「画面を見せる・使わせる」ことで評価を明確化できます。

Q&A

Q1:インタビューがいつも抽象的な話に終わってしまいます。何か対策はありますか?
A:まずは目的を「課題生成」「課題検証」などにはっきり分けましょう。課題検証なら仮説に沿った具体的な問い(行動の詳細、具体的にいつ困ったかなど)を設定すると抽象論になりにくいです。さらにプロトタイプなどビジュアルを見せることで、一気に具体化できます。

Q2:複数のユーザーが真逆の意見を言っていて混乱しています
A:ユーザーセグメントを切り分けてみましょう。たとえば管理職層と一般社員層ではニーズや解像度が違うこともよくあります。そのうえで、どのセグメントを優先すべきかビジネスインパクトなどで判断すると良いです。

Q3:ユーザビリティテストで数値化しにくいコメントが大量に出てきて困ります
A:ログやタスク完了率など、最低限の定量指標をあらかじめ決めておくと良いです。あとはコメントをカテゴリ分け(UI、フロー、メッセージなど)するだけでも整理できます。定性コメントをそのまま捨てずに、観察結果とセットでまとめれば、次の改善につながりやすいです。

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