課題発見のためにグループインタビューをするのはおすすめしない

ユーザーリサーチ

この記事の要約

  • フォーカスグループインタビューではグループダイナミクスが働きやすく、個々の深い課題を捉えにくい
  • 課題の本質を探るなら、1on1インタビューで個人の文脈や感情を徹底的に掘り下げる必要がある
  • (おすすめしないが)どうしても複数人で議論をするなら、共創ワークショップとして設計する

僕はテック企業でPdMをしていて、日々ユーザーへのヒアリングを行います。ときどき耳にするのが「フォーカスグループインタビューでさくっと意見を集めましょう」という提案。でも実際にやってみると、いまいち課題の深部が見えず不完全燃焼に終わるケースがほとんどです。

なぜでしょうか?実は、グループでのインタビュー構造には課題発見を阻むいくつかの根本的な理由が隠れています。この記事では、フォーカスグループインタビュー(以下、グループインタビュー)の仕組みがなぜ課題の深掘りには不向きかを具体的に説明します。


フォーカスグループインタビューが課題発見に不向きな背景

フォーカスグループインタビュー(複数人のユーザーを同時に集めて、特定テーマについて意見をもらう手法)は、もともと広告効果やブランド認知などマーケティング寄りのリサーチでよく用いられてきました。テレビCMや新製品コンセプトの評価をざっくり把握したいときに、「グループで自由に話してもらう」ことで世間の認知度や印象を素早く収集できるメリットがあるためです。

ただし、僕たちPdMが直面する「ユーザーはどんな課題を抱えているのか?」というテーマでは、表面的な感想だけ拾えても本質にたどり着けないケースが多いです。グループで議論すると、互いに牽制し合い、本当に困っていることや個別の事情を開示しにくい。その結果、「その場だけのふわっとした一般意見」しか見えず、後から「で、結局どういう課題なんだっけ?」となりがちです。

一方、課題発見やインサイト(ユーザー自身も自覚していない潜在的な問題やニーズ)をつかむには、個人の事情や深い文脈まで踏み込むことが必須です。グループインタビューはそこを苦手とする構造を持っています。


なぜグループインタビューでは課題発見が難しいのか?

ユーザーの本音を引き出すには、「安心して何でも話せる空間」と、「突っ込みながら深堀りする余裕」が必要です。ところがグループ形式だと、次のような問題が顕在化しやすいです。

1) 同調圧力(Conformity Bias)の影響

同調圧力(Conformity Bias)とは、集団の多数派意見に合わせようとする心理現象のこと。グループの場では、一人だけ違う意見を主張するのが難しく、極端に言えば、周りが「この機能最高ですよね」と言っているとつい「そうですね」と肯定してしまう状況が生まれがちです。結果、実際には問題だと思っていても言い出さないまま終わります。

2) 声の大きい人に引っ張られる

グループにはリーダー気質の人がいると、その人が議論をリードしやすくなります。特に発言力や知識量が豊富な人がいる場合、他の参加者は意図せず発言を控えてしまう。「あの人が詳しそうだし、まあいっか」となるわけです。実は困っているユーザーが何も言わないまま退席、というのはグループインタビューでありがちな展開です。

3) 表面的な意見で終わる

グループでは時間も限られ、複数人が話すため、個々の詳細な体験を深掘りすることが難しいです。さらに、他人の前で「自分だけの失敗談」や「恥ずかしい習慣」を包み隠さず語る人は少数派。結果として浅い感想や無難な意見の交換にとどまり、本当に知りたい「その人が抱える根本的な課題」は見えにくくなります。

これらの要因から、グループインタビューで得られた発言を鵜呑みにして「うちのユーザーはこう思ってるんだね」と判断すると、大きく認識を誤るリスクがあります。


グループ形式だと見落としやすい“個々の文脈”

ユーザーの「課題」は、生活背景や環境、個人の性格など多様な文脈と結びついています。誰かにとっては「朝の通勤電車で」困ることが、別の人には「夕方の家事タイム」で起こっているかもしれません。こうした「いつ・どこで・なぜ?」を正確に押さえなければ、本当の課題を発見できないのが実態です。

しかし、グループインタビューではそういった個別事情を話しにくかったり、時間的に話す時間がなかったりします。わざわざ他人の前で「妻がものすごく厳しくて……」なんて話したがる人はいませんし、話せる人でもそれを1人1人が語っていると普通に時間オーバーになります。こうした“ちょっとしたリアルな事情”が、実はプロダクトの課題を浮き彫りにするヒントになったりするのですが、グループの場では埋もれてしまいます。

ユーザーインタビューでコンテクストを徹底的に深堀りする重要性がしばしば言われますが、コンテクストを引き出す場としてはグループ形式は不向きです。自分だけの事情や行動パターンを赤裸々に語ることにためらいがあるからです。隠れた課題ほど「そういえば実は……」と1対1で突っ込んで聞かないと出てきません。

ユーザーインタビューでたった1つ意識するなら「コンテクストの徹底的な深堀」
ユーザーインタビューについて、プロダクトマネージャーであればやったことがない人はおそらくいないし、その重要性を知らない方もいないと思います。ただ、僕自身累計600回以上インタビューを実施してきましたが、すべてを網羅的にこなすのは正直なところ...

“問題の本質”をあぶり出すには「個別深掘り」が欠かせない

課題発見の鍵は、ユーザーが「普段はあまり気づいていない」あるいは「言語化していない」問題を浮上させること。そこには、ユーザー個人の感情や日常行動、価値観まで含まれています。こうした内面を引き出すには、1on1インタビューが最も有効です。

1on1なら、ユーザーが「実はこんなところで苦労しているんですよね」と言い出せば、すぐに「具体的にはいつ、どこで?」「なぜそれが困るんですか?」と掘り下げられます。話題の展開に応じて質問を変えていける柔軟性も大きなメリット。フォーカスグループだと、ほかの参加者がどんどん話し始めてしまい、せっかく出た個人の発言を深める前に議論が流れてしまう場面が多々あります。


ユーザー同士の意見交換が必要なら:“ユーザーと一緒に考えるワークショップ”へ

「グループの場にユーザーを集めたい」というニーズがある場合、それはおそらく「ユーザー同士でアイデアや意見を交わしてほしい」「クリエイティブな発想が出ることを期待したい」などが狙いではないでしょうか。そうした状況下で、単なるフォーカスグループインタビューをやっても、課題発見にはつながりにくい可能性が高いです。

その目的でやるなら、グループヒアリングとしてではなく「共創ワークショップ(Co-creation Workshop)」の形式がおすすめ。ワークショップでは、ユーザーと一緒にホワイトボードを使ったり、付箋でアイデアを出し合ったりする仕掛けを用意します。目的は「皆で課題を深め、解決策を一緒に発想する」ことにシフトし、「本音を共有しづらい空気」を解消しやすくなります。

例えば、デザイン思考の手法で知られる「エンパシーマップ(Empathy Map)」を作るワークショップをやると、各ユーザーが自分の「感じていること」や「考えていること」を付箋に書いてまとめる作業が入ります。一人ひとりの意見を明示的に可視化することで、声の大きい人の発言だけに引っ張られず、個人の背景もそこそこ表に出やすくなるのです。とはいえ、あくまでグループでの“アイデア出し”や“解決策づくり”には有効であって、課題の最深部を発見する場というよりは、アイデア発散の色合いが強い手法です。

もし課題発見が主目的なら「まず1on1インタビューで個別の課題を把握→その後ワークショップでアイデア化」を段階的に行う方がベター。


課題発見は1on1で行い、グループでは“共創”にフォーカス

フォーカスグループインタビューは「みんなで楽しく話している雰囲気」が表面的には出やすいため、一見すると「リサーチがうまくいっている感」を得やすい手法かもしれません。しかし実態は、同調圧力や声の大きい人に引っ張られる構造があり、個人のディープな悩みや課題が引き出されにくい。課題発見には不向きと言わざるを得ません。

もし本当に「ユーザーの本質的な課題」を知りたいのであれば、1on1インタビューをメインとするのが鉄板です。1対1なら気兼ねなく自分の状況を語れるし、インタビュアー側も気になった点を次々と深掘りできるからです。なお、どうしてもユーザー同士の意見交換をしたい場合は、フォーカスグループインタビューという形ではなく、ワークショップ形式に切り替えて「アイデア出し」や「共創」に特化するほうが有意義です。

 

参考情報

今日から実践できるアクション

1. まずは1on1インタビューをデザインする
グループヒアリングに頼る前に、1対1での質問項目を作成し、実際に数名のユーザーから話を聞く。アプリの利用環境や使い方、感情の動きに着目すると課題が見えてくる。

2. グループインタビューの結果を疑うクセをつける
既存の調査資料にフォーカスグループのまとめがあったら、「声の大きい人が牽引していないか?」「同調圧力で意見が偏っていないか?」をチェックする。実は異なる課題が潜んでいるかもしれない。

3. デリケートなトピックほど個別ヒアリングを優先する
健康、家族関係、金銭面などセンシティブな話題はグループで共有されにくい。そうした領域こそ1on1で丁寧に話を聞くのが必須。

Q&A

Q1: グループインタビューで本音を引き出す方法はありませんか?
A1: 工夫次第である程度は可能ですが、同調圧力や声の大きい人の影響をゼロにするのは困難です。付箋に匿名で意見を書いて発表するといった仕掛けはありますが、それでも個々の深い文脈までは追いにくいのが実情です。

Q2: マーケティングの世界ではフォーカスグループが定番と聞きましたが、なぜPdMにはおすすめしないのでしょう?
A2: マーケティングリサーチの場合、商品コンセプトの印象や広告のイメージなどを短時間で集める目的が多いです。課題発見やユーザーインサイトの深掘りとは目的が異なるため、グループインタビューでもそこそこ使えます。しかしPdMが扱う「ユーザーの本質的な課題」を知るには、やはり1対1で踏み込むリサーチが有効です。

Q3: どうしても時間がなく、一度に多人数から話を聞きたい場合はどうすればいいでしょうか?
A3: 事情があってグループでしか集められないなら、ワークショップ形式に切り替えて「1人1枚ずつ、自分の体験や問題点を書いてください」というステップを設けましょう。直接口にしづらい事情も紙に書けば話しやすくなる可能性があります。とはいえ、できればその後フォローアップで1on1インタビューを追加するのが理想です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました