ユーザーインタビューは、プロダクトマネージャーにとって“ユーザーの本音”を直に取得できる貴重な機会。
ただ、その成果はインタビューのやり方だけでなく、どれだけ綿密にメモを取り、後から分析やチーム共有に活かせる形で残すかにも左右されます。これは言われてみたら当然なんですが、インタビューのやり方やリクルーティング方法などに比べると全然語られない印象があります。
録音・録画だけに頼ると、後で膨大な映像や音声を再確認する手間が大きく、微細なニュアンスや気づきが埋もれがちだし、誤ったメモをするとファクトを取り違えてしまう危険性も。
そこで本記事では、インタビューの現場で“ファクトを逃さずサボらず書く”姿勢を中心に、スプレッドシートを活用したフォーマット化など、メモの取り方とその活用法を徹底的に深堀りします。
僕自身、これまで600人以上にインタビューをしてきましたが、ペアとなるメモ担当の方のメモの質がインタビュー後の学びの質を左右する、と痛感しています。
なぜ、ユーザーインタビューで“メモ”が生命線になるのか
ユーザーインタビューにおいて録画・録音は便利ですが、後処理に大きなコストがかかります。さらに、録画を見返す頃には、実際の会話中に感じた「微妙な違和感」や「熱量」が薄れてしまいます。
ここでリアルタイムの詳細なメモが大きな意味を持ちます。
Jakob Nielsenの『Usability Engineering』(1993)でも、“ユーザビリティテスト中には観察やログだけでなく、リアルタイムのメモを組み合わせることで、後の分析が効率化する”旨が指摘されています。
事後的に文字起こしを詳細に行うやり方では、深い分析ができる反面、手間が大きく、迅速な意思決定を求めるPMには向かない場合も多いのです。
インタビュー後に素早く施策立案したいなら、現場でファクトをしっかり書き留める習慣が欠かせません。
“ファクトをサボらず”細かく書く姿勢が生む力
メモを書く上で最も重要なのは、ユーザーが発した言葉を“要約しすぎない”で残すこと。
例えばインタビュイーが「ちょっとボタンが多くて…正直どれを押せばいいのか分からなかったんですよね。結局2回間違えて、もう戻るの面倒になっちゃいました」と言ったなら、そこには「2回間違えた」「戻るのが面倒に感じた」など、具体的な行動や感情が含まれています。
これをただ「UIがわかりにくい」と書くだけでは、せっかくの細かい事実がそぎ落とされてしまう。
一見余分と思える情報でも、後から分析すると大きな示唆をもたらすことがあるため、発言をそのまま書く意識が大切です。
迷ったら、発言を一言一句違わずにそのまま書きましょう。
解釈は後回し、まずは“生の発言”を
人はインタビュー中に「なるほど、UIが原因なんだな」と即断しがち。
しかし、それはあくまでPMの解釈にすぎません。
実際はUIだけでなく、ユーザーの使うデバイスやネットワーク環境など、他の要因も絡んでいる可能性があります。
だからこそ、まずはファクト(=ユーザーの実際の発言や行動)を忠実にメモし、解釈は別枠で書く。または後でまとめる、という姿勢を崩さないことが重要です。
インタビューメモでは、判断や考察は不要です(みんなでインタビューを見ながら並行してslackで感想を言い合うとかは全然OK)。
スプレッドシートでメモをとる
次に、具体的なメモの取り方としておすすめの方法が「行に質問、列にユーザーを配置したスプレッドシート」です。
インタビュー対象者が複数人いる場合、回答を横並びで比較しやすい利点があります。
質問を事前に行として準備
ユーザーインタビューでは、あらかじめ聞きたい項目をリストアップしておくのがセオリー。
例えば「Q1:利用頻度」「Q2:課題」「Q3:UIの印象」「Q4:理想の形」など、シートのA列に列挙しておく。
そして、B列~C列に「ユーザーA」「ユーザーB」と名前を入れ、発言を当てはめていくとインタビュー中の迷いが激減します。
この設計は、ユーザーインタビューの質問項目大全とも相性が良いです。
あらかじめ質問をスプレッドシートに書いておけば、どの順番で聞くかを整理しながら、回答枠を空けておくことで、インタビュー当日は回答を追記するだけで済みます。

後でAI分析に貼りやすいテキスト構造
この表形式を使うと、インタビュー終了後、コピー&ペーストで発言データをChatGPTなどの生成AIに貼り付けやすいメリットがあります。
インタビュイー×質問の組み合わせが整然と並んでいるので、
- 各ユーザーの共通点と相違点
- 一番多かった不満点は何か
などをAIに聞くと即座に要約結果が得られます。
詳しくは、ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説で詳述してるので、本記事ではこれ以上は触れませんがスプシメモがありと、後からコピペだけでAI分析にかけられるため、インタビュー直後の熱が冷めないうちに結果を得られる利点が非常に大きいです。

インタビュー当日に使える実践テクニック:メモを円滑にする工夫
ここからは、インタビュー当日にどのように動けば効率よくメモが取れるかを深掘りします。
理想は「質問担当+メモ担当」の2名体制ですが、とはいえPM1人で行う場合もあるでしょう。
そんなときに役立つテクニックを紹介します。
質問の順序と目的をシートに入れておく
インタビュー質問が前後するとメモが混乱し、後で統合しにくくなります。
そこで、あらかじめスプレッドシートに「Q1: 現状の利用」「Q2: 課題」「Q3: 要望」「Q4: 理想像」などと並べ、各質問の意図(なぜ聞くか)もメモしておきます。
実際のインタビューで流れが変わっても、基本的な道筋があるだけでかなりの混乱を回避できます。
例えば、Q2はUIの不満を聞きたい、Q3は導入障壁を深堀りしたいといった意図を補足欄に書いておけば、どの回答がどこに当てはまるかをすぐ判断できます。
チームでの略語やシンボルを活用する
キーボードでメモを取る場合も、話が速いと打ち込むのが追いつかないことがあります。
そこで、チームの共通言語として略語を作っておくと便利です。
例えば、「UI → (U)」「不満 → (F)」など簡単なシンボルやショートカットを使えば、メモを素早く入力できます。
後で落ち着いて整理する時間を設け、そこから「UIに対する不満」と書き直すなどの清書工程を挟むとより完璧です。
僕は手打ちが追いつかないとき、箇条書きでキーワードだけ入れておき、インタビュー後5分などで録音を軽く聞き返しながら詳細を補足します。
この“キーワード先行→補足”スタイルでも、ファクトを逃しにくくなります。
ただ、2人体制でメモに慣れた人についてもらうのが理想です。
インタビュー後に「どう活かすか」:メモ→分析→施策への接続
メモを取る目的は、良い文章を残すためではなく、ユーザーインサイトをいち早くプロダクト開発や施策に反映するためです。
ここで、メモをどう活かすかを詳しく見ていきます。
すぐに仮説検証へ進む
インタビューが終わったら、PMはなるべく当日中、あるいは翌日にはメモを整理し、チームへ共有する段取りを組むのがおすすめ。
スプレッドシートなら整理済みなので、「○○という課題が3人に共通した。××の機能要望は2名が口にした」など、要点をSlackやNotionで伝えれば、エンジニアやデザイナーが即アクションを考えられます。
もし追加の分析が必要なら、上記で少し触れたようにChatGPTなどのAIにペーストして要約やタグ付けを依頼し、初期的な仮説に結びつけると時短できます。
詳しくは「ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説」で扱っているので、興味があればそちらも参照してください。

レポートやステークホルダーへの報告作成
ユーザーの発言がスプレッドシートに整理されていれば、報告書や施策提案スライドなどに引用しやすいです。
PMが経営層や営業チームに報告するとき、「ユーザーはこんな言葉を使っていた」という箇所をコピペするだけで、説得力が一気に増す。
この“生の声を引用する”ことはユーザー調査の効果を高めるうえで超重要です。
また、複数回のインタビューを重ねるとスプレッドシートが蓄積し、ロングタームのナレッジになります。
定期的に見返して「1年前のユーザーも同じ課題を言ってる」「UI改善を行った後の人は発言が変わっている」などの比較も可能になるわけです。
トラブル対処:メモ運用を挫折させないためのコツ
優れたメモ術は便利ですが、実際にはいくつかの壁にぶつかることもあります。
以下、代表的なトラブルとその解決策を深く解説します。
“とにかく書くのに必死で表情を見逃す”問題
ユーザーが重要な仕草や表情変化を見せたが、自分はキーボードに集中しすぎて気づかないケース。
理想は2人体制(質問+メモ)ですが、難しいなら録音や録画でフォローし、後からその部分だけ短時間見返す手順を確保すること。
あらかじめタイムスタンプをメモに書いておけば、後日見返す際も目的のシーンをピンポイントで探せます。
1人で回すための“間”の取り方
聞きながらメモするのが大変なら、ユーザーの発言後に少し待ってもらうのが意外に有効です。
「ありがとうございます、ちょっとメモを整理したいのですがよろしいですか?」と断れば、たいてい相手は待ってくれるはず。
慌てて書き取りミスをするより、1~2分確保してキーワードをまとめるほうが、後の分析で圧倒的に活きます。
メモに“バイアス”が入りすぎないようにするために
また、自分なりにまとめすぎると、ユーザーの言葉をPMの主観に寄せすぎるリスクがあります。
これを避けるには、ファクト欄と解釈欄を明確に分けて書くのがおすすめ、というか鉄則です。
ユーザーが「UIが複雑でどこを押せばいいか分からなかった」と言ったなら、そのままファクト欄に書き、隣に「導線を整理する必要」「ボタン配置が不自然?」など自分の考えを記録します。
心理学や人間中心設計の研究でも、観察データと解釈を混同すると分析精度が下がるとされています。
たとえばBlandford & Makri (2016)らが“Qualitative HCI Research”で述べているように、質的データを扱う際は、ファクトと主観を切り離すことが信頼性確保の鍵です。
インタビューのメモでも同じ発想が適用できます。
関連リンク
- ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド
- ユーザーインタビューの質問項目大全:今日から使える具体質問例と定石
- ChatGPTでユーザーインタビューの分析を爆速にする具体手法を解説
- ユーザーヒアリングを組織に根付かせる4つの仕組みを考察した
今日から実践できるアクション
- スプレッドシートの事前準備:
行に質問、列にユーザー名を配置。回答をコピー→ChatGPT分析できる構成を作っておく。 - ファクトと解釈を分ける欄を作成:
「発言そのまま」と「自分の気づき・仮説」を2列に分け、混在を防止する。 - インタビュー中はキーワード最優先:
時間が足りないなら箇条書きでキーワードを書き、終了直後10分で追記補足。録音・録画は保険として利用。 - アフターケア:“ChatGPT+差分報告”
メモをコピーし、ChatGPTなどAIで初期分析→SlackやNotionでチームに差分共有し、施策検討を加速。 - 2名体制を目指す:
可能ならインタビュー担当とメモ担当を分け、リアルタイムで詳細を記録。非言語的情報も拾いやすい。
Q&A
Q1. メモの作業ばかりに意識が向いて、ユーザーのリアクションを見逃しそうです。
A. その懸念があるなら、2人以上でのインタビューや録音を併用するのが理想です。どうしても1人でやる場合は、話の切れ目に「少しメモをとりたいのですがいいですか?」とお願いし、キーワードを補足する時間をつくるだけでも違います。Q2. ユーザーの発言をリアルタイムに書くのが難しく、どうしても雑になるのですが?
A. 雑でもいいから“キーワード”だけは漏らさない、あとで清書する時間を確保するという二段構えが得策です。インタビュー後に5~10分かけて補足すると、記憶が鮮明なうちに細部を盛り込めます。慣れればリアルタイムに書くスピードも上がります。Q3. ファクトをそのまま書きすぎると、長文になって読み返しにくいのでは?
A. そこは適度な要約力も必要ですが、例えば要点はそのまま書き、周辺フレーズは箇条書きにするなど工夫すると良いです。発言を一字一句書くというより、「この言葉はポイントだ」と思う箇所だけ抜粋してできるだけ原文に近い形で書き留めるイメージです。
参考情報
- Nielsen, J. (1993). Usability Engineering. Morgan Kaufmann.
- Blandford, A., Furniss, D., & Makri, S. (2016). “Qualitative HCI Research.” In: The Encyclopedia of Human-Computer Interaction. Interaction Design Foundation.
- Portigal, S. (2013). Interviewing Users: How to Uncover Compelling Insights. Rosenfeld Media.
- GitLab, Inc. (2020). GitLabに学ぶ 世界最先端のリモート組織のつくりかた. 翔泳社.
- 古賀史健 (2015). 20歳の自分に受けさせたい文章講義. 星海社新書.
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