この記事の要約
- LLMを活用し、PdMが“飛躍した仮説”や革新的なアイデアを高速で量産し、磨き上げるための具体的なワークフローを紹介
- 「制約解除プロンプト」など実践的なプロンプトと、発散・評価・収束の全プロセスをプロダクト開発のリアルな現場目線で落とし込んでみる
- 今日から使えるテンプレート
プロダクト開発の現場で「何か新しい価値を生み出したい」「ありきたりな改善から脱却したい」と感じることはありませんか?成熟したプロダクトほど“飛躍的な仮説”が枯渇し、日々の業務が“改善”に寄りすぎてしまう構造があります。
僕自身、「本当にぶっ飛んだ案を考えてそれを実装すること」は未だに悩み中です。このような課題に対して、LLMを組み込んだ仮説形成フローを作ってみると、驚くほど“非常識”で本質的なアイデアが短時間で量産できる、というワークフローを本記事で紹介します。
なぜ PdM に“飛躍アイデア”が足りなくなるのか
気付けば、PdMの仕事は「目の前の数字改善」や「既存機能の最適化」で埋まってしまう。
この現象には理由があります。
成熟した事業ほど既存KPIの達成にリソースが取られ、リスクを取った“飛躍”への投資が後回しになる。しかも、チームの発想も“過去データ”や“過去の成功体験”に引っ張られがち。
マイクロソフトのSatya Nadella CEOも、組織がスケールすると「小さな改善」に最適化され、“非連続な価値”が生まれにくくなると述べています(『Hit Refresh』より)。
この壁を破るためには、“型破り”なアイデアを高速で発散→評価→収束する、再現性のあるフローが必要になります。
“制約解除”:LLMで常識を外す思考法
ここで登場するのが制約解除プロンプト(普段の常識を意図的に外す質問テンプレ)です。
LLMに「一旦すべての制約を外す」指示を与えることで、人間だけでは辿りつけないアイデアを引き出せます。
- パラダイムブレイク:「もしも〇〇が不可能だとしたら、どんな手段をとる?」
- 逆張り:「業界常識の真逆をやるなら、どんな仮説が生まれる?」
- 結合:「他業界の成功事例を、自社サービスに転用するなら?」
- 極端化:「10倍高速・10分の1コストで解決せよと言われたら?」
この“制約解除”を起点にアイデアを爆発的に発散させると、「自分たちの普通」がいかに狭い枠組みでしかないかを痛感します。
際の現場では、「今日は常識を壊す日」とルール化して、定期的にこの“暴れ馬”タイム!!!(名前はてきとうにつけました)を挟むのがおすすめです。
「可愛く愛らしい暴れ馬がLLMを使いこなしている2次元イラスト」(chatGPT o3で生成
ワークフロー / Diverge → Evaluate → Converge
ここからは、LLMを使った仮説形成ワークフローの全体像を紹介します。
一言で言うと「発散(Diverge)→評価(Evaluate)→収束(Converge)→実験プラン出力」のサイクル。どこでAIに任せて、どこで人間が判断すべきか、その役割分担がポイントです。
- 発散:10分で100案を生み出す
- 評価:粗くていいから“致命的なNG”を弾く
- 収束:筋の良い仮説を“ストーリー”まで落とし込む
- 実験プラン化:MVPと検証指標まで一気通貫
特に「評価」と「収束」は、人間の視点が入ることで“使える仮説”へ磨かれます。
例えば、僕のチームではこのプロセスをMiroやNotion上で可視化し、「どこでLLMを使ったのか」「どこからは人間判断か」を区別できるようにしています。
ステップ① 発散:10分で100案を生むプロンプト・ライブラリ
本気で“突拍子もない仮説”を量産したいなら、まず発散専用プロンプトを活用します。
ポイントは、「一度に大量に、かつ異なる方向性」でアイデアを出させること。例えば下記のようなテンプレートがおすすめです。
- 「顧客ペイン」×「産業」×「変数」掛け合わせ
例:「BtoB SaaS × 組織のサイロ化 × 社内政治をゼロにするには?」 - “絶対NG”仮説も含めて出す
例:「もしも法的に完全に規制が撤廃されたら、どんなソリューションを作る?」
さらに、ChatGPT・Claude・Geminiなど複数モデルで生成した案を持ち寄ると、バイアスを一気に排除できます。
【使える発散プロンプト例】
「次の制約を外して、仮説を100個出してください:
1. 利用可能なリソースに上限がないとしたら?
2. ユーザー属性を完全に無視するとしたら?
3. 競合サービスの動きを“真似”するなら?
4. 人間ではなく“AIのみ”で業務を完結させるなら?」
ステップ② 評価:粗いが致命傷を避ける「5つの評価軸」
量産した仮説のなかには“ワンチャン大化け”もあれば“即NG”もあります。ここで使うのが「評価用の5軸」。一つひとつ厳密に精査しなくても、以下の5軸でざっくりスコアを付けるだけでOKです。
- 事業適合度(自社ドメインや顧客ニーズに本当に沿っているか)
- 実現コスト(エンジニアやビジネスサイドのリソース、外部依存も含めて現実的か)
- 差別化度(既存サービス・競合との違いが明確か)
- 収益ポテンシャル(お金になる/LTVが上がる仮説か)
- 学習価値(「検証してみて初めて分かる」リサーチ要素が強いか)
これらをLLMにスコアリングさせた後、僕は「なぜそのスコアになったか?」を深掘り質問して根拠を引き出します。これにより、チーム内で“あいまいなYes”や“なんとなくNG”を防げます。
実際、「LLMを使った新機能開発」の現場でも、最初の評価基準が曖昧なままだと「なんか良さそう」で進んでしまい、後から手戻りになることが多いです。

ステップ③ 収束:仮説を“一本のストーリー”に磨き上げる
評価で「手応えあり」と感じた仮説を、“ユーザーストーリー”や“バリュープロポジション”として具体化していきます。
このフェーズで使えるのが、以下のLLMプロンプト。
- 「この仮説の“理想ユーザー”はどんな人物? どんなジョブを抱えていて、何に一番困っている?」
- 「この仮説が実現したとき、顧客の生活や業務はどう変わる?」
- 「競合や類似サービスに比べ、どんな“決定的な違い”を作れるか?」
このとき、ペルソナ設計やジョブ理論(JTBD)、バリュープロポジションキャンバスの要素をプロンプトに落とし込むと、LLMが矛盾や筋の悪い部分も洗い出してくれる。
より具体的なペルソナ設計やジョブ設計の方法は、こちらの記事でまとめています。

重要なのは「“ツッコミ”を入れる」こと。LLMが作る仮説は往々にして“いい感じ風”になりがちなので、現実感・事業性・バリューを持った一本のストーリーに仕上げていく工程が必要です。
ステップ④ 実験プラン生成:MVPと検証指標を出力させる
最後に、収束した仮説から「どんなMVPを作るべきか?」「最初に検証すべきKPIや行動は?」をLLMに出させます。ここで活用したいのが“OpEx(Operational Experiment)”の発想。
- 「最小限のリソースで、仮説の本質を検証するにはどんな施策が最短か?」
- 「ユーザーテストとOpExを並行で走らせた場合、どこに大きな差分が出るか?」
たとえば「新しいレコメンド機能」を開発したい場合、まずは社内で“フェイクドア”を設置し、最小のUIで反応率を見る。その後、外部の既存ユーザーにA/Bテストを回してみる、といったフローが使えます。具体的なA/Bテスト設計のノウハウはこちらを参照ください。

よくある失敗と対策:LLM頼みで陥る3つの罠
どんなに優れたフローでも、やり方を間違えると痛い目をみます。
- 評価基準が曖昧:「なんとなく良さそう」で先に進み、後から「やっぱり違う」となって手戻り地獄になる
- プロンプトが権威勾配を再生産:「上司がよく言うフレーズをLLMに学習させてしまい、逆に発想が硬直化する」(プロンプトを入れる現場の人のバイアス)
- 人間側の先入観で候補を絞り過ぎる:「一見“現実的な仮説”しか残らず、結局小さくまとまる」
これらを避けるには、
- 「最初に評価基準を明文化し、みんなで合意する」
- 「意識的に“逆張り”プロンプトを使う」
- 「最後まで“突拍子もない案”も残す(全否定しない)」
といったガードレール設計が大切です。
また、LLMのハルシネーション(事実でないことを生成する)を避ける方法はこちらでも詳しく解説しています。

まとめ
成熟事業こそ“改善タスク”に埋もれがちですが、制約解除プロンプト×ワークフロー設計で「非連続な価値」を日常業務に仕込むことは十分可能です。ぜひ一度、この記事のプロンプト集や評価シートをチームで回してみてください。
もし疑問や「ここはどう応用すれば?」などあれば、コメントやTwitter(X)で気軽に連絡ください。
今日から実践できるアクション
- 「週1アイデア会議」を開催し、制約解除プロンプトでLLMを使った仮説発散を10分だけでもチームで実施してみる
- チームで評価基準(5軸)を明文化し、「なぜこの点数?」までLLMに根拠を出させる
- 生成した仮説を“ユーザーストーリー”や“バリュープロポジション”まで具体化し、最低1つは翌週の実験プランに落とし込む
Q&A
- Q. LLMで生成した仮説は現実離れしすぎない?
- A. 最初はぶっ飛んだ案も混ざりますが、評価→収束→実験のフローで“現実性”も担保できます。最初から制約をかけすぎないのがコツです。
- Q. 複数モデルを使う意味は?
- A. LLMごとに発想の癖が違うため、ChatGPTとClaude・Geminiなどを“掛け算”すると、よりバイアスの少ないアイデアが量産できます。
- Q. 自分が属する業界でも応用可能?
- A. 業界によらず再現性のあるフローなので、BtoB SaaSはもちろんtoCや行政、非営利などでも応用できます。
参考文献・参考リンク
- Wang et al. (2024). Prompt Design for Maximizing Creativity in Large Language Models. arxiv
- Bessemer Venture Partners (2024). AI in SaaS Ideation: More Ideas, Faster. bvp.com
- Satya Nadella. Hit Refresh. (2017)
- LLMを使った新機能で顧客課題を解決し、事業を伸ばすための実践論
- “ペルソナ”だけで終わらない。ジョブ理論(JTBD)と掛け合わせて実在する顧客を捉える方法
- LLMのハルシネーションを防ぐ7つの方法を紹介
- プロダクトマネージャーのためのA/Bテスト理解
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