この記事の要約
- OpenAI・Google・Anthropic・Metaが同時期に大型モデルや新サービスを投入し、生成AI競争が「長文・マルチモーダル・エージェント化」へシフト
- 研究開発ではMixture-of-Experts(MoE:専門ブロックを切替えて計算効率を高める仕組み) など“ポストTransformer”の試みが進行。巨大文脈長や自律タスク実行が現実に
- 国内でも政府のGENIAC-PRIZEや通信社×大手ITの日本語データ整備が始動。PdMは「自社領域×尖ったLLM」を早期に試し、ユーザー体験を再設計すべきフェーズ
2025年5月の”生成AI界隈”
2025年5月は、生成AIが“次の当たり前”へ動き出した月。
英国の調査会社Omdiaによると、企業のLLM導入率は前年同月比で12ポイント上昇し48%に達しました。つまり、競合の約半数がすでに何らかの形で生成AIを組み込み始めています。特に今月は「長時間推論」「マルチモーダル」「ハードウェア連携」といった次世代機能が一気に可視化されました。PdMとしては、単なる記事ウォッチではなく自社ロードマップの再検証が必須になってくるかも。
グローバルメガテックの製品リリース
OpenAI:GPT-4.1とAIハードウェアへの参入
GPT-4.1は最大100万トークンの文脈長に対応。法律文書や設計書の一括レビューという、従来分割必須だったタスクを丸飲みします。軽量版mini/nanoも用意され、エッジデバイス組込みが視野に入りました。
さらにSam Altman氏はJony Ive氏のスタートアップを買収し、ポケットサイズのAIコンパニオン開発を宣言。ソフトとハードを垂直統合し、「スマホの次」を奪いに来た格好です。
- PdMへの一言:長文処理はナレッジ系SaaS に即応用できる可能性。機密保持を加味し、mini/nanoでオンプレ推論→クラウドで高性能推論というハイブリッド設計がありえる
Google:検索「AIモード」とVeo/Imagen/Flow
検索にGemini 2.5搭載のAIモードが正式実装。
ユーザーはクエリを会話ベースで深掘りし、AIが関連リンクを提示。広告クリック依存のUXを再発明しました。同時に、Veo 3(動画生成)+Imagen 4(静止画生成)+Geminiを束ねる制作ツールFlowを公開。シナリオ→画像→映像→音声をワンストップで生成します。
機能 | 従来 | AIモード後 |
---|---|---|
情報探索 | キーワード検索 | 対話+引用リンク |
動画制作 | 複数ソフトを行き来 | Flowで自然文→完成 |
- PdMへの一言:検索UXが変わる前提でSEO戦略を再設計。FAQコンテンツは「AIが答えを作りやすい構造化データ」へ転換する必要が出てくるかも。
Anthropic:Claude 4シリーズが拓く“長時間AI”
Claude 4 Opusは数千ステップを要するタスクを中断せず処理。外部ツール呼び出し機能で、モデル自身がウェブ検索や計算を実行します。思考過程は要約のみ公開し、安全性を保ちつつ透明性も確保。
- PdMへの一言:バックオフィスの定型レポート生成や、テスト自動化の“夜間バッチ”をAIに完全委譲できる未来はもうすぐそこに。「AIに終業後も働いてもらう」視点で業務棚卸しを
Meta:Llama 4が示すオープン戦略
170億パラメータでも1,000万トークンを処理するMoE設計。AWSでオープンウエイト提供され、企業は自由に微調整可能です。画像入力も標準装備し、視覚×言語の複合タスクを安価に実現。
- PdMへの一言:自社データでファインチューニング→オンプレ提供がしやすい。規模より運用コストを優先する場合の有力選択肢
Microsoft・Apple:プラットフォームとハードの伏兵
Microsoft Build 2025ではNLWeb構想を発表。任意サイトがAPIひとつで独自AIエージェントを実装できる“AIプラグイン市場”を狙う。AzureはGrokやClaudeなど1900超のモデルをホストし、どこのAIでも走るポジションを固めています。
一方AppleはAIスマートグラスを2026年投入と報道。ウェアラブル領域でAI体験を再設計する姿勢が見えます。
研究開発トレンド:マルチモーダル・長文・エージェント化
今月の論文発表と企業ブログを俯瞰すると、下記3つがキーワード。
- 長文最適化:MetaのMoE、OpenAIの圧縮アテンションに加え、MicrosoftのRetNet、DeepMindのH3など“線形計算”アプローチが台頭
- ネイティブ・マルチモーダル:画像+テキスト入力はもはや前提。音声・動画まで一気通貫で扱えるモデル設計が進む
- エージェント化:外部ツール呼び出しやAPI連携を前提にしたLLM。タスク達成型AIとして「考える→行動→検証→修正」を自律ループ
これらはすべて計算効率と安全性の両立を課題に持つ点が共通。PdMは「推論時間」「運用コスト」「ガバナンス」をセットで比較検討する必要があります。
国内動向:日本企業と政府支援の加速
通信大手と共同通信がタッグを組み、ニュース記事ベースのクリーン日本語データセット構築を発表。経産省はGENIAC-PRIZEで総額8億円の賞金を用意し、製造・CS・官公庁業務をテーマに生成AIプロジェクトを公募中です。さらにELYZAは論理推論特化LLMを公開し、コールセンター自動分類で実証。国内でも用途特化+日本語最適化の流れが見えてきました。
PdM視点でのインパクトとロードマップ
- 競合優位性:長大文脈やマルチモーダルにより、ユーザー価値の“深さ”で勝負する時代へ。FAQ自動生成、全社ナレッジの横断検索など差別化余地大
- コスト構造:MoEや軽量モデルの採用で、GPUコストは2024年比で最大40%削減。PoC段階から運用時の単価シミュレーションを
- 組織変革:エージェントが夜間も働く前提なら、開発・サポートのシフト体制を再設計。評価指標も「AI+人の総アウトプット」へ
- リスクマネジメント:安全策の内製は困難。Anthropicが公開するConstitutional AIやOpenAIのガードレールAPIを活用し、ホワイトリスト→モニタリング→ユーザーフィードバックの3段ロジックで運用
今日から実践できるアクション
- 自社の長文データセット(議事録、マニュアル等)を抽出し、GPT-4.1 miniでサンプル要約を生成。効果とコストを計測
- CS部門と連携し、Anthropicの外部ツール接続APIを使った「深夜帯エージェント」PoCを2週間で試行
- 開発ガイドラインにマルチモーダル入力前提を追加し、UXワイヤーフレームを更新
参考情報
- OpenAI. “Introducing GPT-4.1 in the API.” 2025-04-14.
- Google. “AI Mode in Search – I/O 2025 Updates.” 2025-05-20.
- Fried, I. “Anthropic unveils the latest Claudes with claim to AI coding crown.” Axios, 2025-05-22.
- Amazon AWS News. “Meta’s Llama 4 models now available on AWS.” 2025-04-28.
- 経済産業省. 「生成AIの社会実装に向けたプロジェクト『GENIAC-PRIZE』を開始します」2025-05-09.
- ソフトバンク株式会社・共同通信社プレスリリース. 2025-05-23.
- Microsoft Build 2025 Keynote. 2025-05-19.
- Omdia “Enterprise LLM Adoption Survey Q2-2025.”
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