UIライティングでもっと分かりやすいプロダクトへ

プロダクト企画

UIライティングの重要性

UI上の文言は、ユーザーが最初に触れる「プロダクトの声」です。どんなに高機能なプロダクトでも、ボタンラベルやメッセージが分かりづらいだけで、ユーザーは「使いにくい」印象を持ちます。例えばエラーメッセージが曖昧で原因不明な場合、ユーザーが操作を放棄することも多いです。

UIライティングはデザインほど華やかに見えないかもしれませんが、離脱率や継続率に大きく影響する要素。たとえば「登録する」と「始める」のどちらをボタンに使うかで、コンバージョン率が変わることがあります。例えば海外の事例では「Sign Up Free」を「Get Started Now」に変えただけで、CTAボタンのクリック率が10%以上向上したケースも報告されています。

UIライティングの基本原則 – シンプル/一貫性/ユーザーファースト

UIライティングは「シンプル「一貫性」「ユーザーファースト」。これらは代表的な権威あるソースでも繰り返し強調されています。例えば、Jakob Nielsen(Nielsen Norman Group共同創設者)のユーザビリティ原則や、Steve Krugの著書『Don’t Make Me Think』などです。ここでは、それらのソースが提唱する代表的な考え方を取り上げながら、実際のUIライティングにどう落とし込めるかを解説します。

1. シンプル:情報を簡潔に伝える

Nielsen Norman Groupは、UIテキストは以下を満たすべきだとしています。

  • Clarity(明確さ)
  • Brevity(簡潔さ)
  • Scannability(素早く読み取れること)

特にボタンやラベルの文言は、長くなるほどユーザーが一目で把握しづらくなるという指摘があります。

分かりやすく具体例を挙げると「設定を保存するためにボタンを押してください」というメッセージを、シンプルに「保存」というボタンにまとめるイメージです。これにより操作に迷う時間を減らし、素早いアクションを促すことができます。また、Apple Human Interface Guidelinesでも「Keep text short and action-oriented」と明記されており、短い動詞ベースの文言を推奨しています。これらのガイドラインは、ユーザーに余計な思考を強いないための最も基本的なアプローチです。

さらに、「シンプルに書く」とは単に文字数を減らすだけでなく、ユーザーにとってなじみのある表現を優先するという意味も含まれます。専門用語や略語をなるべく使わず、必要最低限のフレーズで最大限の伝わりやすさを追求することが重要です。

2. 一貫性:言葉のブレをなくし、学習コストを下げる

Microsoft Writing Style Guideや、Google UX Guidelinesでは、UIライティングにおいて用語やトーンを統一することの大切さを強調しています。一貫した表現を使うことで、ユーザーが「前の画面で見た言葉と同じ意味なんだな」と自然に理解できるようになり、学習コストを下げる効果があります。

実際の例として、ユーザー登録を指す言葉が画面Aでは「登録」、画面Bでは「サインアップ」と分かれていた場合、ユーザーは「どちらのアクションが正しいのか?」と一瞬迷ってしまうかもしれません。そこで、ガイドラインを用意して「登録」という表現に統一することで、サービス全体の使いやすさを底上げできます。これはボタン文言だけでなく、エラーメッセージやメニューラベルにも同様に適用されます。

また、「一貫性」は文体や言い回しにもおよびます。丁寧語を使うのか、フランクな口調なのか、敬体か常体かといった点をチーム全体で決めるだけで、プロダクトが統一感をもち、ユーザーに安心感を与えます。

3. ユーザーファースト:相手の文脈を理解した表現

Steve Krugは『Don’t Make Me Think』の中で、「ユーザーに考えさせない」というコンセプトを重視しています。これは、ユーザーが自然に操作できるように設計すべきだという考え方です。UIライティングでも同じで、開発者や社内の視点ではなく、「ユーザーが一目で理解できるか」が基準になります。

例えば、社内では「インターナルID」「アカウント作成プロセス」など専門用語を使っていても、ユーザーにとっては馴染みの薄い概念かもしれません。こうした場合は、「ログインID」「アカウント登録」など、より馴染みのある用語に置き換えるとユーザーの負荷が下がります。

また、実際の利用文脈を意識した文言設定も重要です。ユーザーが抱える問題や課題を把握し、それを解決するアクションが分かりやすい言葉を選んであげる。例えばエラーメッセージでは、「何が原因で、どう対処すればいいか」を示すだけでも、サポート問い合わせの削減や離脱率の低下につながるという調査報告がNielsen Norman Groupからも出ています。

  • ×「エラーが発生しました」
  • ○「ネットワーク接続に問題があります。Wi-Fiをオンにして再接続してください」

文言ガイドラインをチームで共有する

プロジェクトが進むにつれ、機能追加や仕様変更でUI文言が増えます。そこで必要になるのが「UIライティングのガイドライン」をチーム内で共有すること。ガイドラインというと大げさに聞こえるかもしれませんが、文言を含むスタイルやトーンを簡潔にまとめるだけでも大きな効果があります。

テンプレートやスプレッドシートを用いて、各機能に使う用語やラベル表現を定義するとよいです。例えば以下のような項目を管理するイメージです。

  • 「サインアップ」ではなく「登録」を使用する
  • ボタンには動詞を最初に置く(例:「保存する」「共有する」)
  • エラーメッセージには解決策を含める

ただし、あらゆる単語や機能ごとに厳密にルール化しすぎると、確認や承認に時間がかかりすぎる懸念もあります。まずはよく使われる表現やユーザー操作に直結する重要用語だけルール化し、あとから随時拡張していく形が現実的です。こうしたガイドラインがチーム内で共有されると、デザイナーやエンジニアがUIを変更する際にも迷わず対応できるようになります。

ABテストでUIライティングを検証する場合の注意点

プロダクトが安定してくると、UIライティングレベルでのABテストが行われるようになります。例えばボタンのラベルをA案「今すぐ登録」とB案「新規登録」に分けて試し、どちらがより高いクリック率を獲得するかを比較するといった方法です。しかし、ABテストだけで結論を出すのは早計な場合もあります。

定量的な結果ばかりに注目すると、「なぜ結果が出たのか?」を深掘りできないことがあるので注意が必要です。僕は必ずユーザーインタビューや簡易なユーザビリティテストを併用し、言葉がどのように理解・誤解されたかを生の声で把握するようにしています。たとえばボタン文言が短すぎて、「これを押すとどうなるのか分からない」という不安をユーザーが持っていたことがインタビューで判明すれば、クリック率向上だけをもって「成功」と決めつけられない可能性があるからです。

また、ABテストの対象範囲を狭くしすぎると、機能全体のコンテクストを無視してしまう場合があります。プロダクト全体のジャーニーを俯瞰しつつ、UIライティングの変更がどの画面遷移や操作と連動しているかを捉えたうえでテスト設計をすると、より実態に即した検証が可能になります。

ユーザビリティテストでの観察項目

実際にユーザビリティテストでは、ユーザーがUIの文言を読む瞬間に注目することが重要です。具体的には、以下のような視点をチェックします。

  • ユーザーがどのラベルを最初に見るか
  • エラーメッセージを読み飛ばしていないか
  • 操作に迷った際、どこを見ているか

マイクロコピー(ボタンやヘルプテキストなど短いコピー)の微調整が行動を大きく変えることがあります。例えば、サービスへのアクセス途中でエラーが起きたときに、「エラーが発生しました。再試行ください」だけでは手詰まり感を与えてしまうかもしれません。そこに「ネットワーク環境をご確認のうえ、もう一度お試しください」と具体的な原因の可能性やアクションを示唆するだけで、ユーザーは安心して続行できるケースもあります。

こうした文言上の細かい気づきは、ユーザビリティテストでユーザーのリアクションを直接観察しないと発見しづらいものです。微調整がコンバージョン向上だけでなく、ユーザー満足度やサポート問い合わせの減少にも直結することが多い点を意識してテスト設計を行うと、有意義な発見につながりやすいです。

「Lostness」やタスク間連関分析による定量評価

UIライティングの効果を定量的に測る手法として注目されているのが「Lostness」や「タスク間連関分析」です。ユーザビリティテストの観察データから、ユーザーがどの程度迷走したかを数値化する指標として活用できます。

ユーザビリティテストの分析手法「Lostness」「タスク間連関分析」を解説
HRテック企業でPdMをしているクロです。本サイト「PM x LLM STUDIO」ではプロダクトマネジメントやユーザーリサーチに関する情報を発信しています。今回は「成功率」や「操作時間」だけでは見えづらい、Lostness、タスク連関分析...

Lostnessが高いと感じられる画面では、UI文言の見直しが有効な施策の一つです。特にボタンやメニューラベルがタスク達成に必要な情報を正しく伝えているかをチェックし、不明瞭な表現を修正します。また、タスク間連関分析では、どの操作がどの操作に連動しているかを把握できるため、ストレスを生じさせている箇所でライティングを改良する指針となります。例えば「ステップ1」から「ステップ2」への遷移が分かりづらい場合、ラベルやガイドテキストを明確にするだけで迷走度が低下し、スムーズにタスクを完了できるユーザーが増える可能性が高いです。

今日から実践できるアクション

1. UI文言インベントリの作成: まずはプロダクト内で使用されている文言を一覧化し、重複や不整合を洗い出す。ガイドライン作りの基盤になる。たとえばExcelやスプレッドシートに「画面名」「文言」「その意図」「最終更新日」を記録し、チーム全員がいつでも参照できるようにしておくと便利です。

2. LLMで候補文を生成: 現行のUI文言をChatGPTなどに提示し、複数の改善案を一度に生成。奇抜でも良いので、多様な案から「これかも」と思う方向性を探す。候補を洗い出した後は、社内ガイドラインとの整合性やユーザーファーストの視点で取捨選択を行うとよいです。

3. ユーザビリティテストをシンプルに実施: 特定画面のボタンやエラーメッセージを変更したら、少人数のユーザーでテストを行い、「意味が伝わっているか」を観察。ABテストでも併用して定量評価と定性評価を組み合わせる。特にユーザーテストでは、ラベルをどのタイミングで読んでいるか、読んだ後にどんな行動を取るかを詳しく観察し、改善の余地を探します。

Q&A

Q1: UIライティングの変更だけで本当に離脱率が下がるのでしょうか?
A1: UIライティングはユーザーの行動を左右する重要な要素です。ただし、他の改善(デザインや機能面、ロード速度など)も同時に見直すと相乗効果が高まる傾向があります。ライティングが改善されるとユーザーがスムーズに操作できるようになり、離脱率が下がるケースは多いです。

Q2: LLMの提案を取り入れたいのですが、日本語が不自然な場合はどうしたら良いですか?
A2: ヒューマンチェックを必ず挟むことが大切です。日本語特有の文脈や微妙なニュアンスは、LLMが苦手とする場合があります。最終調整を人間が行うことで、自然で読みやすい文言に仕上げましょう。

Q3: 多言語化を急いでいて、機械翻訳だけで対応しても大丈夫でしょうか?
A3: 完全に機械翻訳に依存すると不自然な文言になるリスクが大きいです。機械翻訳後に現地語を理解するメンバーや専門翻訳者のレビューを挟むと、文化や慣習に即したUI文言に調整できます。

参考情報

  • Steve Krug (2014). Don’t Make Me Think, Revisited. New Riders.
  • Nielsen, J. (1994). Enhancing the explanatory power of usability heuristics. Proc. ACM CHI.
  • Nielsen Norman Group: UI Writing Insights
  • Hoekman, R. (2015). Designing the Moment: Web Interface Design Concepts in Action. New Riders.
  • 「ユーザビリティテストの分析手法『Lostness』『タスク間連関分析』を解説」:https://pm-ai-insights.com/lostness/

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