North-Star Metric(NSM)がしっくりこない時に基本の価値方程式を見直す

プロダクト企画

プロダクトの主要指標としてNorth-Star Metric(NSM)を設定してはいるものの、“なんかしっくりこない”」――そう感じたことのあるPdMやマーケの方は意外と多いはずです。

この記事では、そうした悩みを抱える方向けに、下記のポイントを整理しています。

  • NSMがどのような場面で陳腐化しやすいのか?
  • NSMがしっくりこない時に見直す価値方程式
  • 定性データ(JTBDやN1インタビュー)との結び付け方
  • 具体的な設計・運用手法

NSMが陳腐化する理由

NSMとは、プロダクトが目指す中心的な価値を数値化したもので、組織全体が「何を目指すべきか」を共有するために使われる指標。プロダクトの最終ゴールを示す羅針盤的な位置づけとして、スタートアップから大手企業まで幅広く採用されています。

ただ、このNSMが時間の経過とともに陳腐化してしまうケースも少なくありません。主な要因として、以下の3つが考えられます。

1 / プロダクトの成長ステージ変化
リリース初期は「新規ユーザー獲得」が優先度の高い指標だったとしても、一定規模に達すると「リテンション」や「有料転換率」が重要になるなど、ステージに応じたアップデートが行われないと、当初のNSMが空回りしがちです。

2 / ユーザー行動パターンの変化
ユーザーがプロダクトを使う目的や利用シーンが拡大すると、最初に設定したNSMだけでは複雑化したニーズを捉えきれなくなります。

3 / 組織の意思決定プロセスの形骸化
NSMありきで「数字が上がったか下がったか」しか見なくなり、本来必要な価値検証や仮説検討が疎かになるリスクがあります。

こうした陳腐化を防ぐには、プロダクトと顧客価値の関係を再検討し、新たな価値方程式を再構築する必要があります。


新たな価値方程式の作り方

NSM再設計の第一歩は、「なぜその指標が最終的な価値を示すのか?」という論理的なつながりをもう一度洗い直すことです。ここで鍵になるのが、“価値方程式”の再定義。これは以下の要素を数値と概念の両面で関連づける作業です。

  • どの顧客が
  • どんな課題を
  • どういう行動によって解決し
  • それによってどんな成果が得られるのか

価値方程式の例
BtoB向けのコラボレーションツールを提供していると仮定しましょう。因数分解のイメージは次のとおりです。

  • 対象顧客:中小企業のバックオフィス担当者
  • 課題:チーム間の情報共有に時間がかかり、ミスが頻発
  • 行動(行動指標):ツール上でのファイル更新、チームメンバー間のコメント、既存ソフトウェアとの連携など
  • 成果(成果指標):ミスの減少、コミュニケーションコストの削減、導入後の有料継続率 など

上記をもとに「どの行動が最終成果を生む要因か」を関連づけることで、「この行動が成果を最大化する」という仮説を立てられます。そこをNSMやKey Resultsとして設定すれば、チーム全体で“どこに注力すべきか”を的確に意識しやすくなります。

ただし、価値方程式を作るには定量情報だけでなく、定性面からの洞察が必須です。実際にエンドユーザーが何を意図して使っているのかを正しく理解しないと、「お金を払ってでも解決したい課題なのか?」を見極められません。「ユーザーがコストを払っていない課題は課題ではない」でも触れていますが、ここは見落としがちな重要ポイントです。


定性データと紐付ける(JTBD・N1インタビュー)

NSMをアップデートするうえでは、定量データと定性データの連動が不可欠です。ユーザー数や利用頻度を追うだけでは、行動の裏にあるユーザーの動機や背景を捉えにくいからです。そこで活用したいのが、ジョブ理論(JTBD:Jobs to be Done)やN1インタビューといったフレームワーク・手法です。

JTBDを活用した行動理解

ジョブ理論は、「ユーザーが本当に“雇用(hire)”しているのは何か?」を深掘りするフレームワークです。たとえばノート作成アプリの場合、「文章を書く」だけでなく「頭の中の混乱を整理してアイデアを具現化する」ために使っているかもしれません。こうした本質的な動機を理解しないまま「ノート数」をNSMにすると、量的な指標ばかりが先行して質を伴わない成長に陥ることがあります。
ジョブ理論については、こちらの記事で詳しく解説しています。

N1インタビューで“1人のリアル”を徹底分析

N1インタビュー(1名の顧客からでも深い学びを得るアプローチ)は、少数サンプルながら濃密なインサイトを引き出せる手法です。ここで得られる「どんなタイミングで」「何をトリガーに」「どんな価値を得たと感じているのか」といった情報は、NSMに付加すべき要素を見極めるうえで大きなヒントになります。
詳しい活用例や進め方は、N1マーケティングの記事を参考にしてみてください。

こうした定性情報を定量データと照合すると、「利用頻度が高まっているユーザーは本当は何を求めているのか?」や「アクティブユーザーの定義が狙うべきユーザー価値と合っているか?」を見直すきっかけになります。さらに、行動ログの分析とインタビュー内容が食い違う場合は新たな仮説立案やNSMの再検討を促す合図です。実際、定量データとユーザーインタビューが食い違うときほど学びが大きいケースもあるので、むしろチャンスと捉えるといいでしょう。


ダッシュボード構成パターン

NSMを再設計した後は、チームが数字を追いかけやすくするためのダッシュボードを構築する段階に入ります。代表的な構成パターンは次の3つです。

パターンA:コア指標 + サポート指標セット

  • コア指標(NSM):プロダクトの本質的な価値を示す最重要指標
    • 例:週次の「継続ログイン率」「主要アクション完了数」など
  • サポート指標:なぜコア指標が変化したのかを定性面や細分化した定量面から補うもの
    • 例:「滞在時間」「ログイン中のアクション数」「エラーレポート数」など

数値が上下した要因を探索する仕組みを用意しておくのがポイントです。例えばエラーレポート増加が機能不具合による離脱に直結していた、などの因果を早期発見できる可能性が高まります。

パターンB:ステージ別指標セット

  • オンボーディング期:新規ユーザーの初回アクション完了率
  • 定着期:継続利用や定期利用しているユーザーのリテンション指標
  • 拡張期:有料転換率やプランアップグレード率など

顧客ステージに応じて指標を設定すると、フェーズごとに求められる行動が明確になります。各ステージでの定性情報もあわせて表示すると、組織全体でユーザーの温度感を共有しやすいです。

パターンC:仮説検証用ダッシュボード

新機能や実験的施策の多いチームでは、仮説ごとに「この数値が上がれば最終的にNSMに貢献するはず」という因果関係を可視化するダッシュボードを作るパターンも有効です。具体的には以下のような構成です。

  1. 検証したい仮説(ターゲットユーザー・期待する行動変化など)
  2. 関連する中間指標(例:特定ページのクリック率)
  3. 想定する最終成果(例:有料会員への転換率向上)
  4. インタビューの声や考察(リンクでもOK)

今日から実践できるアクション

  • 価値方程式を書き出す
    自社プロダクトのターゲット顧客・解決すべき課題・ユーザー行動・成果を一度、因数分解してみる。
  • N1インタビューを1件でも実施
    深い洞察を得るためにエンドユーザーの生の声を改めて聞き直す。仮説と整合性が取れているか検証する。
  • NSM以外の重要指標を1つ追加
    コラボレーション度やコンバージョンの質など、NSMを補完できるものをダッシュボードに取り入れてみる。

Q&A

Q1. NSMを1つに絞りきれないのですが問題でしょうか?
A1. 一般的にはNSMを「これ」と決めたほうがチームの集中力が高まります。ただし、BtoBとBtoCなど複数セグメントがある場合は、複数NSMを補完的に設定する選択肢も検討できます。最も大切なのは“それぞれが本当に別の価値を提供しているのか”を曖昧にしないことです。
Q2. 経営層が設定したNSMを理解してくれないのですが?
A2. 経営層にも納得してもらうには、定量データだけでなくN1インタビューや行動ログなどの定性面も合わせて示すと効果的です。「MAUだけでは見えない価値」が明確になれば、説得力が増します。
Q3. 既存のNSMが陳腐化した場合、どのタイミングで切り替えるのがベストでしょうか?
A3. 大きなリリースやプロダクトのステージ転換時が理想です。たとえばアーリーアダプター期からマス市場に広がる時期、有料化に力を入れる時期などが切り替えの目安になります。週次レビューで“何かがおかしい”と気づいたら、短いサイクルで仮説検証を進めるのも手です。

参考情報

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