ユーザーに“好き”と言ってもらうプロダクト設計のギミック

プロダクト企画

この記事の要約

  • ユーザーの心を捉える「好きになる仕掛け」の具体例を紹介
  • UIやマイクロコピー、ゲーミフィケーションなどの細部調整で高いロイヤリティを生む

なぜ「好きになる仕掛け」が重要なのか?

MLP(Minimum Lovable Product)という考え方に象徴されるように、最近では機能の“使える・使えない”だけでは差別化が難しくなっています。市場に大量の似通ったサービスやアプリが並ぶ中、ユーザーが「これ、なんかいい!」と感じる瞬間がない限り、早期離脱や利用停止が発生しやすいのです。

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そこで重要な概念が「感情を動かす仕掛け」。Don Normanの著書『Emotional Design』(2004)によると、人は使い心地やデザインに対し感覚的な好みが先行して判断を下し、その後、合理的な理由づけを行う傾向があるとされています。つまり、「好き」という感情を喚起すれば、ユーザーは多少の不便や課題を乗り越えてプロダクトを使い続けてくれる可能性が高まるのです。

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「好きになる仕掛け」の構成要素と事例

ユーザーに「好き!」と言わせる要素は大きく以下の3つに分類できます。

  1. 驚きや新鮮さ(Surprise
  2. 共感や安心感(Empathy
  3. 達成感や楽しさ(Engagement

たとえば有名な事例としては、Duolingo(語学学習アプリ)のゲーミフィケーションが挙げられます。かわいいフクロウのキャラクターがレッスン継続を促してくれ、マイルストーン達成時には祝福の演出やコイン取得で“楽しく学べる仕掛け”が満載。結果、学習という本質的には地道な行為にもかかわらず、多くのユーザーが継続しやすくなっています。

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また、Notionの軽快なUIアニメーションや、Slackのゆるやかなスタンプ機能なども「思わず笑ってしまう」「ほっとできる」という感情を揺さぶります。これらは開発リソースを大幅に割かずとも実装可能な小さな仕掛けでありつつ、大きなユーザー満足度の差を生み出しているのが特徴です。


UI・マイクロコピーの徹底強化

UI設計やメッセージテキストの細部(マイクロコピー)を見直すだけで、プロダクトの雰囲気やユーザー体験は大きく変わります。些細な言葉遣いであっても、ユーザーとのコミュニケーションを円滑にし、心理的ハードルを下げる効果があるからです。
例えば、以下のようなポイントを意識すると良いでしょう。

  • エラーメッセージ:ユーザーを否定するのではなく、「もう一度試してみませんか?」などポジティブな再挑戦を促す言葉にする
  • 成功アクション時:タスク完了や保存成功などを褒める文言やアニメーション,バイブなどを用い、達成感を高める
  • ユーザーに寄り添う口調:硬すぎず、親しみのある語尾で「まるで人と話している」感を演出する

例えば、過去に僕がやっていた習慣化アプリでは、その日の設定したタスク完了時のメッセージ(思い切り称賛する) + アニメーション + バイブで、「達成した気持ちよさ!」を助長することで継続率が向上しました。

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ゲーミフィケーションで継続モチベーションを高める

ゲーミフィケーションとは、ゲームの要素(ポイント、バッジ、ランキングなど)をゲーム以外のサービスに適用して、楽しさや達成感を生み出す手法です。
具体的には、以下のような仕掛けが挙げられます。

  • スコアリング:ユーザー行動に応じてポイントや評価が可視化される
  • 報酬設計:一定スコアに達したらクーポンや特典を付与
  • コミュニティ機能:ユーザー同士が競い合ったり、励まし合ったりできる場を設ける

大事なのは、あくまで本質的な目的に沿ったゲーミフィケーションであることです。単にポイントをばら撒くだけでは、「遊び要素だけ増えたけど価値がない」と冷められてしまいます。学習やタスク管理、健康管理などの領域では特に、ユーザーが本来目指しているゴールに向けて“習慣化”をサポートするゲーミフィケーションが非常に効果的です。

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共感を生むストーリーテリングとブランディング

ユーザーが「このプロダクト、私のことをわかってる」と感じると、愛着は一気に高まります。単なる機能説明ではなく、ストーリーテリングでユーザーの世界観や悩みに寄り添うのが効果的です。
例えば、スタートアップのコスメブランドが「男性向けスキンケア」を打ち出すとき、「最近肌が気になるけど、どんな製品を使っていいか分からない男性のための“気軽な入口”を作りたい」というストーリーを明確に共有すると、ユーザーは「自分の悩みを理解してくれているんだな」と共感しやすくなります。
またブランディングの観点で言うと、ロゴや色、フォントなどがユーザーの感情に強く影響するとされます(Osgood’s Semantic Differential法などの研究も参照)。実際にデザイン一つでイメージが変わるため、プロダクト全体で一貫性を持たせつつ「あなたに寄り添うんだ」というメッセージを届ける工夫が必要です。


インタビューで「感情が動く瞬間」を探る

ユーザーインタビュー(ユーザーリサーチ)は、好きになる仕掛けを設計するうえで最重要といえる手法です。どんな機能があれば「助かる!」と思うか以上に、「なぜそんな感情を抱いたのか」「どんな場面で嬉しかったのか」を深く掘り下げる必要があるからです。
具体的には、以下のような質問をするのがおすすめです。

  • 「この画面で、どこか印象に残った部分はありましたか?」
  • 「操作中に、何かテンションが上がった(下がった)瞬間はありますか?」
  • 「普段、このプロダクトをどんな感情で使っていますか?」

インタビューを行う際は、当サイトのユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイドユーザーインタビューの質問項目大全も併せてチェックすると、質問設計がスムーズになるはずです。PdMとしては、インタビュー中のちょっとした表情や声色の変化まで見逃さず、感情の起伏をメモすることを心がけたいところです。

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“愛されるプロダクト”を作るために

「好きになる仕掛け」を設計するためには、ユーザーが感じる“小さな驚き”“共感”“達成感”を徹底的に追求する必要があります。そこにゲーミフィケーションやマイクロコピー、ストーリーテリングを絡めつつ、LLMでアイデアや分析のスピードを上げるのが現代的なアプローチといえます。

開発優先度としては後回しになりがちな領域かもしれませんが、実際に取り組んでみると「使われる」ではなく「使いたくなる」プロダクトへと進化するはずです。気持ちよく操作できるUIや、思わずSNSでシェアしたくなる演出などは、ユーザーとプロダクトを結びつける大きなきっかけになります。
PdMとして、感情面の仕掛けを軽視せずに、細部まで作り込みながらユーザーのリアルな声を拾い続けていきたいものです。


今日から実践できるアクション

  • 小規模なUI変更でA/Bテストを実行する
    CTA文言やカラー、マイクロコピーをLLMに複数案生成させ、A/Bテストでユーザー反応を比較する
  • エモーショナルヒアリングを実施する
    次回のインタビューで「感情がどこで揺れたか?」を深掘りする質問を増やして、好きになる瞬間を可視化する
  • ゲーミフィケーション要素をプロトタイプ化
    ポイントやバッジ制度などを簡易実装し、ユーザーの反応を伺う。GPTs Builderなどを活用すれば高速にプロトタイプを作れる

Q&A

Q1. 「好きになる仕掛け」と「不要機能の追加」はどう区別すればいいですか?
A1. 「ユーザーがそのプロダクトで最も実現したい目的をスムーズに、かつ気持ちよく実現する」要素かどうかで判断します。飾りにしかならない仕掛けは削ぎ落とし、本質的な体験価値につながる仕掛けだけを厳選しましょう。
Q2. どのタイミングでゲーミフィケーションを入れるべきでしょうか?
A2. 初期ローンチ時に基本機能と合わせて入れることが理想ですが、後から追加する場合でも「ユーザーが習慣化に苦労している領域」にポイントを当てると効果が出やすいです。
Q3. LLMを使って作ったコピーはそのまま使って大丈夫ですか?
A3. 最終判断は必ず人間が行ってください。LLMの提案が不正確な場合もあるので、チーム内でレビューし、実際にユーザーにテストしてから実装しましょう。

参考情報

  • Don Norman (2004) 『Emotional Design: Why We Love (or Hate) Everyday Things』
  • Brian de Haaff (2017) 『Lovability: How to Build a Business That People Love and Be Happy Doing It』
  • Marty Cagan (2018) 『INSPIRED: How to Create Tech Products Customers Love』
  • Duolingoのゲーミフィケーション事例(公式サイト、ユーザーコミュニティのレポート等)
  • Osgood, C. E. (1957). “The Measurement of Meaning.” University of Illinois Press.

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