LLMでPRDの”質”と”スピード”を両立する

生成AI

プロダクトマネージャーとして避けたいことの1つは、「手戻りだらけの開発」。その大きな原因のひとつが、PRD(Product Requirements Document)の質の低さです。PRD作成段階の構想が曖昧だと、要件の抜け漏れや認識の違いが次々に表面化して、リリース直前での大幅修正を強いられます。

一方で、ChatGPTに代表されるLLM(大規模言語モデル)が、リサーチやドキュメント作成の効率を飛躍的に高める存在として注目を集めています。僕自身、PMをしているなかで、LLMをPRD作成に活用するメリットを日々感じています。
この記事では、LLMを使ってPRDの質を上げながら作成スピードも加速させる具体的なステップや注意点を紹介します。

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PRDの背景を一気に整える:文脈把握をAIに促す

PRDが曖昧になりがちな理由のひとつが、背景情報の散在

  • 議事録
  • Slackのログ
  • 過去の顧客アンケート
  • PMの頭の中の情報
  • アップデートされた事業戦略

などがバラバラに存在すると、必要な文脈を整えるだけでも相当の時間を要します。
そこで活用したいのが、LLMにチャンク化したドキュメントを連続で読み込ませるアプローチです。たとえば1万行あるSlackログを1000行単位に分割し、「このチャンクでプロダクト戦略や顧客ニーズに関わるやり取りを要約して」と依頼。最後にまとめた要約を再度AIに食わせ、「全体を統合して背景をまとめて」と指示する。

「経営層・上司・メンバーを動かすユーザーインタビュー結果の見せ方・使い方」にも記載したように、背景が整理されているとチームの合意形成が圧倒的に進みやすくなります。

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また、テンプレートをあらかじめAIに提示し、「この背景セクションに従って情報を埋め込んで」と作業指示を明確にすると整合性が高い文書に仕上がります。会社独自のPRDフォーマットを持つ場合、LLMにそれを学ばせることで、社内標準に沿った下書きを効率よく作成できます。

課題仮説の具体化:LLMで抜けや思い込みを補う

課題仮説定義段階でLLMを活用すると、思い込みによる検討漏れを減らせます。ユーザーの声や定量データをインプットしたうえで「ここにどんな潜在ニーズがあるか?」「どのような競合解決策が既に存在するか?」と問いかけると、多角的な仮説が提示されるからです。

具体例として、サブスクリプション型の学習サービスを展開するC社を想定してみましょう。C社では新機能検討時に「学習継続率が下がっている要因」をLLMと一緒に洗い出しました。AIからは想定外の「学習進捗が可視化されていない」「受講者コミュニティが希薄」といった論点が示され、これをもとに新たな仮説を追加。結果、PRDに「コミュニティ機能の強化」「学習マイルストーン可視化のUX改善」といった項目が盛り込まれました。

なお、課題仮説を強化する際は、「ユーザーインタビュー前に『筋の良い仮説』をチームで設定する具体的な方法やフレーム」もご参照ください。

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要求定義とユーザーストーリー作成を一気に加速

PRDの中核はやはり要求定義。必要な機能や仕様をまとめる作業にLLMを投入すると、初期ドラフト作りが桁違いに速くなります。
一例として、機能名と概要、前提条件、優先度を箇条書きにしたメモをAIに入力し「これをもとに機能要件の詳細を補足して、箇条書きをもう少し整理して」と指示。すると、それぞれの機能に対して受け入れ基準やエッジケースが数行でまとめられたドラフトが生成されます。そこから人間が優先度やテクニカル制約を加筆修正すると、短時間で80%完成度の要件リストが得られます。
また、ユーザーストーリーを書く際にも「As a ○○, I want to ○○ so that…」フォーマットを使い、AIに大枠を作ってもらうと効率的です。例えば、ChatGPTに「以下の機能をユーザーストーリー形式で書き出してください。受け入れ基準もそれぞれ3項目ずつ追加して」と依頼して最初のドラフトを得る、というアプローチが有効です。その後、技術チームとレビューを行い、現実的な修正を加えるというフロー。

要件を一度に詰め込みすぎるリスクはありますが、LLMが提示した網羅的な案を“取捨選択”する形なら、抜け漏れリスクが減るメリットが大きいです。

非機能要件も忘れずに拾う

リリース後に「想定よりレスポンスが遅くて離脱率急増」「セキュリティ要件に抵触」など、非機能領域の不備で困ることは珍しくありません。LLMは、知識ベースから一般的なセキュリティやパフォーマンスの観点をリストアップできるので、早期に品質面を洗い出すのに向いています。
たとえば「このPRDに関連する非機能要件をセキュリティ・パフォーマンス・拡張性・UX品質の4分類で提案して」と依頼すると、暗号化や同時アクセス数などを幅広く提示してくれます。

ただし、法規制や業界基準に関わる要件は最新情報を再確認し、人間の判断で精査する必要があります。AIが古い基準を提示する可能性もあるので注意が必要です。

KPI設定でプロダクトの“ゴール”を明確に

PRDには「成功指標」を記載しておくと、開発チームがゴールイメージを共有しやすくなります。売上やアクティブユーザーなど定番のKPIは思いつくかもしれませんが、LLMに「この機能の成功を測るKPIをユーザー指標とビジネス指標で提案して」と尋ねると、思わぬ視点が拾える場合があります。
回遊率や継続利用率のようなUX面の指標を思い出させてくれたり、顧客満足度スコア(NPS)の測定手段をアドバイスしてくれたり。海外SaaSを運営するF社によれば、LLMからの提案をもとに導入した指標(1週間後のリテンション率)が、実際の成果測定に大きく寄与したと報告されています。
もちろん、数値目標の最終決定はプロダクト戦略との整合性が必須です。AIの示す数字が業界平均と合致していても、目指すレベルがもっと高いなら修正すべきです。この点は、PMがビジョンと照らし合わせながら最適解を選ぶことが重要。

AIレビューを導入してセルフチェックを高速化

PRDを書き上げた後のレビュー段階でも、LLMは心強い味方になります。連日多忙な経営層やリーダー陣にレビューを依頼しても時間がかかることが多いですが、AIなら即座にフィードバック案を提示してくれるからです。
実際に「あなたはCEOの視点でこのPRDを批判的に読んで。リスクやROIの懸念を挙げてほしい」とプロンプトを設定し、不足点を洗い出すやり方が有効。別のラウンドでは「今度はエンジニアリングリードとして技術リスクを指摘して」と役割を変えさせ、仮想ステークホルダーの疑似レビューを実現できます。

ステークホルダーごとにドキュメントを自動生成する

PRDは全員が熟読するとは限りません。むしろ、経営層・営業チーム・エンジニアなど、それぞれが知りたいポイントは違います。
そこで「同じPRDをステークホルダー別に最適化」するアプローチが有効です。たとえば、技術的詳細を求めるエンジニア向けには仕様説明を厚く、ビジネス重視の経営層向けには投資対効果の記載を充実させる、など。

LLMの活用例として、先に作成したPRDを提示し、

  • 「CEO向けに売上インパクトやROIを強調した短いバージョンを生成してほしい」
  • 「エンジニア向けにAPI仕様を詳細に書き加えてほしい」

と依頼する。数十秒で複数バージョンが得られるので、手動コピペの手間が省けて誤記や漏れも減ります。

参考情報

  • Brown, T. et al. “Language Models are Few-Shot Learners.” NeurIPS, 2020.
  • Hashimoto, T. “Self-Conflict Prompting: Generating Contradictory Perspectives via Multiple Personas.” arXiv preprint, 2023.
  • O’Reilly Media. “Practical MLOps: Operationalizing AI for Reproducible and Trustworthy ML.” 2022.
  • OpenAI Blog. “Advanced Techniques for Chunk-based Context Management and Multi-Round Prompting.” 2023.

今日から実践できるアクション

  • プロンプトと回答の履歴管理
    リサーチ結果が変わった際に差分を把握できるよう、ML Ops的にバージョン管理を導入。Gitなどでログを残す
  • 段階的要約
    Slackや議事録を細かく分割してAIに要約させ、最後に統合。背景セクションの精度が上がる
  • 要件ドラフトの叩き台生成
    箇条書きの機能概要をAIに入力し、受け入れ基準やエッジケースを追加した初期リストを手早く作成
  • 自動レビューを組み込む
    役割を変えたAIレビュー(CEO視点・エンジニア視点)を受けて、多面的なフィードバックを事前に獲得
  • ステークホルダー別のPRD展開
    エンジニア向けと経営層向けのドキュメントをAIに再生成させ、コミュニケーション効率を高める

Q&A

Q1: LLM任せで作ったPRDに誤情報が入るのでは?
A1: そのリスクは常にあるため、最後にPMやチームの目で検証するプロセスが必須。「LLMのハルシネーションを防ぐ方法」も実践し、要所でファクトチェックを挟む
Q2: 非機能要件や法規制の更新が多いプロダクトでもAIを使える?
A2: 十分に使える。ただし最新情報は別途確認。LLMが古い情報を提示している可能性があるため、最終的にはドキュメントの日付や外部データベースを参照してアップデートする
Q3: ステークホルダーごとにPRDを変えると管理が煩雑になりませんか?
A3: AIで再生成する手順を整備すれば手間は最小化できる。元のPRDに大きな変更があった時点で再度AIに投げ、バージョンを自動生成すればOK。最終整合性はPMがチェック

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