『採用基準』 – プロダクトマネージャーに必要な問題解決リーダーシップ

PM関連本

PdM x リーダーシップ

  • 技術的スキルやデータ分析力
  • ユーザーインサイトの発見や機能企画

そういったスキルももちろん重要ですが、プロダクトマネージャー(PdM)の本質的価値は、多様なステークホルダーを巻き込み、プロダクトをグロースさせるリーダーシップにあるのではないでしょうか?

なぜなら、どれほど優秀なプロダクト戦略があっても、エンジニア、デザイナー、営業、経営陣を動かせなければ価値は生まれないからです。特に急成長フェーズのスタートアップや新規事業では、技術的な正しさよりも「チームを正しい方向に導く力」が成果を決定づけます。

上記を理解できる書籍として、伊賀泰代氏の『採用基準』があります(プロダクトマネージャーというよりもビジネス全般の話ですが)マッキンゼーで12年間採用マネージャーを務めた経験をもとに、真に価値を生み出すリーダーシップの本質を解き明かした名著です。

本記事では、マッキンゼー流の問題解決リーダーシップをプロダクト組織でどう実践するかを解説します。

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PdMに求められる”知的持久力”

『採用基準』では、コンサルタントに必要な資質として「思考体力」が強調されています。マッキンゼーが本当に重視するのは地頭や思考体力よりも、「思考体力」、つまり複雑な問題に対して考え続けることを苦に感じない姿勢です。

プロダクト開発における思考体力の重要性は、例えばA/Bテストの結果解釈に顕著に現れます。

表面的な数値改善を見て満足するPdMと、

  • 「なぜこの結果になったのか」
  • 「他の解釈はないか」
  • 「次にテストすべき仮説は何か」

などを執拗に考え続けるPdMでは、長期的な成果に天と地の差が生まれます。

思考体力の高いPdMは、ユーザーインタビューでも一つの発言から10個の仮説を立て、それぞれを検証するアプローチを設計します。一方、思考体力の低いPdMは極端にいうと「ユーザーがこう言ったから、この機能を作ろう」で思考を停止してしまいます。

思考体力の鍛え方

  1. 日常的な疑問の深掘り習慣:なぜこのUIデザインなのか、なぜこの価格設定なのか、競合サービスの設計意図を推測し続ける
  2. 複数解釈の強制:一つのデータや現象に対し、最低3つの異なる解釈を考える習慣をつける
  3. 仮説検証の連鎖設計:一つの検証結果から次の5つの検証項目を設計できるまで考え抜く

リーダーシップが問題解決力を凌駕する理由

また、問題分析と解決策立案の前後には実際に隣人と交渉し、行動変容を促すには強烈なリーダーシップが必要です。ロジックや問題解決力だけでは成果につながりず、粘り強く行動し、周囲を動かすリーダーシップがあるかどうかがプロダクトが前に進むか机上の空論で終わるか?が分かれますよね。

例えば、「ユーザー獲得コストが高い」という問題の解決策として、UXの改善、コンテンツマーケティングの強化、リファラル機能の実装あたりを立てたとしましょう。これらを実行するには以下のリーダーシップが必要となります・

  • デザインチームとの交渉:既存のデザインシステムを覆すUX改善の必要性を納得させる
  • マーケティング部門との協働:プロダクト主導のマーケティング戦略への方向転換を促す
  • エンジニアリングリソースの確保:技術的負債の解消よりもリファラル機能を優先させる

論理的な説明はまあ前提として、これらのステークホルダーを動かすのは「感情に訴える熱意」と「リスクを引き受ける覚悟」です。リーダーシップを発揮しようとする人は、企業の利益の最大化という成果達成のために、誰に命令されなくても必要なことをやるべき責務があると理解しています。

マッキンゼーの採用基準から見るグローバル人材の現実

また、マッキンゼーの採用基準は3つです:

  • リーダーシップがあること
  • 地頭がいいこと
  • 英語ができること

日本支社の場合、これに「日本語ができること」が加わります。

この4要素すべてを満たす人材は、実は日本人よりも中国系や韓国系の候補者に多いらしいです。特に英語力とリーダーシップの組み合わせにおいて、日本の教育システムの限界が露呈しています。

プロダクト開発の国際化が進む中、この基準は重要な示唆を与えます:

英語力の戦略的重要性

  • グローバル市場向けプロダクトでは、英語でのユーザーインタビューや海外チームとの協働が必須
  • 最新の技術トレンドやUX研究の多くは英語圏で生まれるため、情報収集力に直結します

リーダーシップと語学力の相乗効果

  • 多文化チームでのリーダーシップは、単なる語学力を超えた文化理解と適応力を要求します
  • 日本的な「察する文化」では通用しない、明確な意思表示と論理的説得が必要です

PdM採用において、TOEICスコアだけでなく「英語での議論を通じてチームをまとめた経験」を評価する企業が増えているのは、この現実を反映しています。

リーダーと管理職の根本的違い:PdMが陥りがちな罠

「リーダーは成果を出すためにあらゆる手を講じるが、管理職はチームを管理して秩序を守る役割」という区別があります。リーダーは「組織の和」よりも「成果を出すこと」を優先します。一方、管理職は組織の調和と秩序維持を重視します。PdMは両方の要素を持ちますが、どちらに軸足を置くかで結果は大きく変わります。

管理職型PdMの特徴(避けるべき)

  • ステークホルダー間の衝突を避けることを最優先する
  • 全員が納得する案を作ろうとして、結果的に平凡な施策に落ち着く
  • 短期的な調和を保つために、長期的に必要な意思決定を先送りする

リーダー型PdMの特徴(目指すべき)

  • プロダクトの成功のためなら、一時的な摩擦を恐れない
  • データと論理に基づいて明確な方向性を示し、反対意見にも堂々と対峙する
  • チームメンバーの成長のため、時に厳しい要求も突きつける

重要なのは、リーダーシップの発揮が「独裁」ではないことです。全員がリーダーシップをもつ組織は、一部の人だけがリーダーシップをもつ組織より、圧倒的に高い成果を出しやすいのです。優れたPdMは、チームメンバーにもリーダーシップを発揮させる環境を創造します。

不確実性の中でPdMに必要な腹の据わり方

さらに、プロダクト開発の9割は不確実性との戦いです。完璧な情報が揃うのを待っていては、競合に先を越されるか市場機会を逸します。十分な情報が揃っていなくても、たとえ十分な検討を行う時間がなくても、決めるべきときに決めることができる人がリーダーなのです。

不確実性下の意思決定フレームワーク

  1. 最悪シナリオの許容可能性確認:失敗した場合のダメージがリカバリー可能か
  2. 機会損失との比較:待つことで失うものと得るもののトレードオフ
  3. 学習機会としての価値:失敗からも貴重なインサイトが得られるか

問題解決リーダーシップの4つのタスク

書籍では、真に問題を解決するリーダーとして4つのタスクが挙げられています

  1. ムーンショット的な目標を掲げる:メンバーが「そこまで行けたら面白い」と思うワクワク感のある目標設定
  2. リスクを引き受けて最初の一人になる:失敗や恥を恐れず、先頭に立ってリスクを背負う姿勢
  3. 不確定な中でも決める:情報が揃わない状況でも意思決定し、前に進む度量
  4. しつこいくらい熱を持って伝える:一度の説明で理解されなくても繰り返しビジョンを語り、周囲を巻き込む

ムーンショット目標の設定

「月間アクティブユーザー10%増」ではなく「業界のカスタマーエクスペリエンス基準を根本的に変える」レベルの目標設定です。チームが「実現できたら世界が変わる」と感じる壮大なビジョンを描きます。

実践のポイント:

  • 定量目標と定性的なインパクトの両方を明示する
  • 競合比較ではなく、絶対的な価値創造にフォーカスする
  • 3-5年後の社会変化まで見据えた目標設定を行う

リスクを背負う先頭走者

PdMが最初にリスクを取ることで、チーム全体の心理的安全性が高まります。失敗を恐れる組織では真のイノベーションは生まれません。

たとえば:

  • 上層部への説明で、チームメンバーではなく自分の判断ミスとして報告する
  • 不確実性の高い新技術導入の第一提案者となる

不完全情報下での決断

準備が完璧になるまで決めないという意思決定方式は、一見責任感のある正しいやり方に見えますが、準備を完璧に行うことができると考えている時点で傲慢で非現実的です。プロダクト開発では「60%の確信」で決断し、実行しながら修正していく姿勢が重要です。

執拗なまでの伝達

一度の説明で理解されると考えるのは甘いです。重要なビジョンやストラテジーは、形を変えながら繰り返し伝える必要があります。

効果的な伝達戦略:

  • 週次ミーティングでの一貫したメッセージの発信
  • ビジュアルツールを活用した直感的な理解促進
  • 個別の1on1での個人的な動機づけ

PdMの採用・育成に活かす実践的指針

採用面接での思考体力見極め

効果的な質問例:

  • 「最近、日常生活で気になった問題について、どう考察を深めましたか?」
  • 「使っているアプリで改善したい点を3つ挙げ、それぞれの解決アプローチを説明してください」
  • 「なぜその解決策が最適だと考えるのか、反対意見も踏まえて議論してください」

知識量ではなく、継続的に考え続ける習慣多角的な視点を評価します。

リーダーシップ経験の深掘り

以下の要素を含む経験

  1. 明確な成果目標の設定経験
  2. チームメンバーの反対や困難に直面した際の対処
  3. 自らがリスクを取ってチームを牽引した経験
  4. 失敗からの学習と次回への活用

英語力の実践的評価

TOEICスコアは参考程度に留め、実際の業務シーンでの運用能力を評価します

  • 英語でのプロダクト企画書作成
  • 海外ユーザーインタビューのシミュレーション
  • グローバルチームとの協働経験

「好き」を重視した採用

技術的スキルよりも、プロダクト創造への情熱を重視します。長期的に成果を出すのは、困難に直面しても諦めない人材です。

今日から実践できる具体的アクション

思考体力強化の日課化

  • 朝の15分思考タイム:その日使うプロダクトについて3つの改善案を考える
  • 移動時間の活用:競合アプリの設計意図を推測し、自分なりの仮説を立てる
  • 就寝前の振り返り:その日の意思決定について、他の選択肢があったか再考する

小さなリーダーシップ実践

  • チーム会議での積極的な進行役:アジェンダ作成から結論まとめまで主導する
  • 社内勉強会の企画運営:テーマ設定から講師調整、参加者動員まで責任を持つ
  • 新機能のユーザーテスト設計:仮説立案から結果分析まで一貫して担当する

ビジョン伝達の習慣化

毎週のチームミーティングで、プロダクトの最終目標と今週の作業の関連性を明確に説明します。同じメッセージでも、具体例や表現を変えながら繰り返し伝えます。

英語環境への積極的参加

  • 海外PdMコミュニティへの参加:ProductHuntやMind the Productなどの国際的なコミュニティで発言する
  • 英語での情報発信:開発したプロダクトについて英語でブログ記事を執筆する
  • グローバルカンファレンスへの参加:年1回は海外のプロダクト関連カンファレンスに参加する

よくある質問と実践的回答

Q1: 思考体力を短期間で向上させる方法はありますか?

A1: 思考体力は筋力と同様、継続的なトレーニングが必要です。効果的なのは「強制的な制約」の設定です。例えば、「10分で競合分析を3パターン完了する」「5つの異なる角度からユーザー課題を分析する」など、時間とアウトプットの制約を設けることで思考の瞬発力と持久力を同時に鍛えられます。

Q2: リーダーシップの強い人材が複数いると、チーム内で衝突しませんか?

A2: 確かに一時的な衝突は起こりやすくなりますが、それは成長痛として受け入れるべきです。重要なのは「共通のムーンショット目標」の設定と「透明性の高い情報共有」です。全員が同じ最終目標に向かっていることが明確なら、議論は建設的になります。むしろリーダーシップのある人材を避けることで、イノベーションと成長機会を失うリスクの方が深刻です。

Q3: マッキンゼー級の採用基準は現実的ではないのでは?

A3: 確かに理想的な人材がすぐに見つかるわけではありません。重要なのは「採用後の育成戦略」との組み合わせです。思考体力とリーダーシップの素質を持つ人材を採用し、実践的なプロジェクトを通じて能力を開花させます。入社時点での完成度よりも、成長ポテンシャルと学習意欲を重視するアプローチが現実的です。

まとめ:PdMキャリアを決定づけるリーダーシップ投資

プロダクトマネージャーとしての成功は、技術的知識や分析スキルではなく、問題解決リーダーシップの質によって決まります。マッキンゼー『採用基準』から学ぶべき本質は、リーダーシップが後天的に習得可能なスキルであり、日常的な実践を通じて確実に向上させられることです。

思考体力を鍛え、不確実性の中でも決断し、チームを鼓舞するビジョンを語り続ける。これらの習慣を身につけたPdMは、どのような組織においても価値を創造し続けることができます。

プロダクト開発の複雑さが増し、グローバル競争が激化する現在、「技術的に正しい判断」よりも「組織を動かす力」の重要性は増しています。今日から始める小さなリーダーシップ実践が、あなたのPdMキャリアを決定的に変える投資となるはずです。


参考文献

  • 伊賀泰代 『採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの』ダイヤモンド社、2012年
  • Harvard Business Review “How Google Sold Its Engineers on Management” 2013年
  • BetterUp “Project Oxygen: An inside look at what makes a good manager” 2025年

 

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