「ユーザーインタビューの当日、思わぬトラブルが発生した!」
PMのみなさん、1回は上記のようなケースに遭遇したことがあるのではないでしょうか?
ドタキャン、録音ミス、インタビュー中の脱線、想定外の回答…などなど。それが小さければ1回くらいあっても大きなダメージにつながりかねませんが、例えばN = 5のインタビューのうち2-3回発生するとサンプル数を確保できないので致命的ですよね。
本記事では、ユーザーインタビューで生じやすいトラブルを「なぜ起こるのか?」という根本原因から掘り下げ、具体的な準備方法・リカバリー術を体系的に解説します。
なぜユーザーインタビューではトラブルが多発するのか?
ユーザーインタビューは、対象ユーザーのリアルな声・行動・心理を直接キャッチできる貴重な手段です。しかし、それだけにプロセスが複雑になりやすく、トラブルが発生するリスクが高まります。ここでは、その背景を整理してみます。
1. 相手ありきのアクティビティ
ユーザーインタビューは、こちらの都合だけでは進められません。ユーザーの予定・都合・モチベーションに左右されるため、ドタキャンや遅刻、インタビュー中の不参加などが発生する可能性があります。BtoB案件なら担当者や上司の承認プロセスも絡み、リードタイムが長引くことでスケジュールに乱れが生じやすいです。
2. 裏側の事務・調整タスクの多さ
実際にインタビューを行うまでには、募集、スクリーニング、日程調整、事前準備(質問票、録音機材、リハーサル)など、想像以上に多くのタスクが存在します。やり慣れていないチームほど、どこかの工程でミスが起こりやすいです。特に初期ステージのスタートアップや少数精鋭のチームでは、別の業務と並行して進めることも多く、スケジュール管理が難しい側面があります。
3. PMが “絵に描いた完璧なプラン” を過信しがち
僕自身、完璧なインタビュー設計を作り込んだと思っていても、実際にユーザーの前に立つと想定外の方向へ話が転がることが少なくありません。現実世界では、ユーザーの理解度や製品利用状況が多種多様であり、どんなに検討した質問リストも当日になって合わなくなることがあるという前提を忘れてはいけないのです。
よくあるトラブルと実例:徹底的に掘り下げる
ここからは実際のインタビューで遭遇しやすいトラブル、その原因と対策を紹介します。
1. ドタキャン(直前キャンセル)
- 実例:事前に何度も確認メールを送っていたが、当日朝になって「やっぱり仕事の都合で時間が取れなくなりました」とキャンセル。別の参加者も同時期にキャンセルし、一気にインタビュー対象がゼロになった。
- 原因:特にビジネスユーザーの場合は業務優先、個人ユーザーなら生活環境の急変など、そもそもユーザーはインタビューを最重要事案とは見ていない場合が多い。
- 対策:日程が近くなるほどユーザーのスケジュールに変動が生じやすいため、あらかじめ複数人分の“バックアップリスト”を用意する、直前に必ずリマインドメールを送る、調整サービス(例:Calendlyなど)を活用して空き枠を可視化するといった方法が有効。
- 参考リンク:ユーザーインタビューのドタキャンを防ぐにはどうしたら良いのか?

2. 録音ミス・記録データ消失
- 実例:オンラインインタビューの録画機能をONにしたはずが、ホスト権限の不具合などで録画が始まっていなかった。メモも取りきれておらず、詳細な発言がすべて不明に。
- 原因:オンラインツールへの過信、PCのストレージ不足、アプリのアップデートに伴う不具合、あるいは単純な人為ミスで「録音ボタンを押し忘れる」など。
- 対策:できれば2重での録画ですがそれを毎回やるのは現実的ではないので、2人組でインタビューをし、少なくともメモを取り漏らすことはないようにしましょう。

3. 質問設計ミス(抽象的すぎる、論点がズレる)
- 実例:「サービスの使い心地はどうですか?」など漠然とした質問を投げかけるだけで、相手から抽象的な回答しか返ってこない。気づいたら、ただの雑談で終わってしまい、結局何も本質が分からないまま終了。
- 原因:「何を検証したいか」のゴールがあいまいで、仮説が曖昧なままインタビューを開始している。質問の順序や言葉選びも不十分なケースが多い。
- 対策:インタビューの目的(検証したい仮説、聞きたい内容)を先に可視化し、そこから逆算して質問リストを構築。チーム内で模擬インタビューを行い「答えやすいか」「抽象度が高すぎないか」を常にチェック。
- 関連記事:ユーザーインタビュー前に「筋の良い仮説」をチームで設定する具体的な方法やフレーム

4. 時間オーバー・脱線しすぎる
- 実例:「インタビューは1時間の予定」と伝えていたが、ユーザーとのやり取りが盛り上がり、気づけば90分以上経過。ユーザーの後続予定にまで影響が出てしまい、最後は打ち切り状態で終わった。
- 原因:最初に余計な雑談や長めの自己紹介をしてしまい、時間配分が狂う。あるいは仮説と無関係な話題で盛り上がりすぎてしまう。
- 対策:開始時に「今日は60分で、前半は●●、後半は▲▲を中心に話を伺います」とアジェンダを明確化。途中で時計をチェックし、随時軌道修正する。それでも往々にして時間オーバーするので、質問リストの中で優先順位を数字でつけておく。
5. 想定外の回答に翻弄される
- 実例:ユーザーがまったく別の文脈を延々と話し始め、本題に戻せなくなる。そのまま終わってしまい、欲しかったインサイトを得られず。
- 原因:ユーザーに「この話をしていいんだ」と感じさせてしまうインタビューの雰囲気づくり、または質問自体が広すぎて相手が違う方向をどんどん深堀ってしまう。
- 対策:仮説に対し興味深い話であれば積極的に深堀るが、明らかに関係ない話題に傾いたら「今のお話と少し関連するかもしれませんが…」と自然に軌道修正する。話を制止するのではなく“共感の合いの手”を入れながら少しずつ本筋へ戻す技術が求められる。
海外リサーチコミュニティでの失敗談ランキング
ユーザーインタビューのトラブルは日本だけでなく、海外のUXリサーチコミュニティでも頻繁に取り上げられています。2024年に開催された国際的なUXカンファレンス「UXLX」で共有されたデータによれば、参加リサーチャー100名超が投票した「やらかし度ワースト5」は以下の通りだったそうです。
- 録音・録画の不備(オンラインツールのバグ、人為ミス、デバイス故障など)
- 対象のリクルーティング・スクリーニングミス(想定していた属性と異なる人が参加してしまう)
- インタビュー質問の誘導的表現でデータが偏る(意図せずユーザーを誘導してしまう)
- ドタキャン・予定変更
- 機材トラブル(通信不安定、カメラ不良など)
このランキングで注目なのは「誘導質問」によるデータの偏りが3位に入っていることです。つい「この機能、便利ですよね?」のような聞き方をしてしまい、ユーザーが本音を言いづらくなるケースは、海外でも大きな課題になっています。
誘導質問を避ける具体策については、『The Mom Test』の要約記事などで詳しくまとめているので、気になる方はチェックしてみてください。

体系的に準備する:トラブル最小化のプロセス設計
インタビューの失敗リスクを最小化するには「プロセスの可視化」と「役割分担」が肝になります。
1. リスクマップ&チェックリストを作成する
インタビューの全行程(募集 → スクリーニング → 日程調整 → 前日リマインド → 当日実施 → 後処理)を縦軸に、考えられる失敗パターン(ドタキャン、録音ミス、質問不備など)を横軸に置き、対処法を整理したリスクマップを作ります。それぞれのリスクに対して「誰が」「いつ」「どのツールを使って」対応するか具体化しておくと、バタバタを事前に防げます。
2. 質問設計と仮説検証のステップを明示
インタビューの目的は「仮説を検証すること」です。筋の良い仮説の立て方を参考に、インタビュー設計前にチームで「今回のゴールは何か」「どの項目を明らかにしたいか」を明示し、そこからブレイクダウンして質問リストを作る。リストができたら、模擬インタビューでテストし、言い回しや順序を最適化します。

3. リクルーティング計画とアサイン
ユーザー募集は特にトラブルが起こりがちな領域。あらかじめ社内外のリソース(顧客リスト、SNS、提携企業など)を洗い出し、誰がスクリーニングを担当し、誰が日程調整を行うのか役割分担を明確にします。
「ユーザーインタビューでのユーザー集めの方法と成功/失敗事例」では、リクルーティング手法の詳細や注意点を深堀りしています。

4. 機材・環境の整備(オンライン/オフライン問わず)
オンラインならZoomやGoogle Meetなどの安定した通信環境を準備し、録画録音設定も事前にテストしておく。きちんとやる場合はオフラインの場合はICレコーダーやバックアップのスマホ録音を含め、最低2系統で録音するのが鉄則。
オフィスで行う場合は会議室の予約、Wi-Fi速度の確認、電源の確保などの細かい点も要チェックです。
想定外が起きても慌てない!現場でのリカバリー術
万全の準備をしても、インタビュー現場では予測不能なことが起こります。そこで「想定外が起きたときにどう対応すれば良いか」を前もって考えておくとリカバリーがスムーズになります。
1. 場を和ませる“回復フレーズ”を用意しておく
インタビューが固くなったり、話が止まったりしたときに使える、“回復フレーズ”を準備すると便利です。
- 「ちょっと話題を変えても大丈夫でしょうか?」
- 「面白い話ですね。また時間が余ったらそこを詳しく聞かせてください。」
- 「なるほど、他に似たような経験をしたことはありますか?」
これらをいくつか用意しておくと、雰囲気が変わったり、会話が途切れたりした場合でも回復しやすいです。
2. 質問の軸を切り替える“緩衝ゾーン”を設定
インタビューガイド(質問リスト)には、メインの質問とサブ的なトピックを織り交ぜておくと良いです。想定外の話題で膨らみすぎたら一旦“緩衝ゾーン”の質問を挟んでクールダウンし、そこからメインに戻すという手段もあります。
軸を切り替える際には「とても興味深いお話ありがとうございます。ちなみに●●という点についてはどう思われますか?」など、相手を肯定しながら自然にトピックをシフトさせましょう。
3. リアルタイムでメモを取れるサポーターを用意
一人で質問もメモも録音確認も全てを兼務すると、突発的な問題が起きたとき焦りがちです。可能であればサブ担当をつけて“インタビュー進行役”と“メモ・記録役”を分ける。こうすると予期せぬことが起きても片方がリカバリーに回りやすくなります。
今日から実践できるアクション
最後に、すぐに使える具体的なアクションをまとめます。ここで挙げたポイントを少しずつ取り入れるだけでもトラブルを大幅に減らせます。
- インタビューのリスクマップを可視化する:
募集、スクリーニング、調整、当日運営の各フェーズで起こりうるリスクを書き出し、対策と担当者を明確にする。 - 質問設計を模擬インタビューで検証する:
チーム内で何度かロールプレイを行い、質問が具体的か、答えにくくないか、誘導的になっていないか確認する。 - インタビュー当日の役割分担:
可能なら進行役とメモ役を分けて、トラブル発生時のサポートをしやすくする。
Q&A
Q1. ドタキャンが頻発して当日の参加者がほとんどいないとき、どう対処すれば?
A. 予備枠やバックアップ候補のリストを前もって複数持っておくのがベスト。また、インセンティブ設計を見直すことも有効です。BtoBなら担当者の上長を巻き込んで日程調整を行い、キャンセルを減らす工夫をするのが現実的な手段です。
Q2. 質問リストは用意していても、インタビュー中に変えるのはアリ?
A. 大いにアリです。むしろユーザーの反応や仮説のズレに応じてアドリブで質問を変えるのが実践的。ただし「どこまで変えるか」の指針をチーム内で共有しておくとブレが少なくなります。変えた理由や状況をきちんと記録しておけば、後から分析で混乱しにくいです。
Q3. 緊張しやすいユーザーの本音を引き出すコツは?
A. はじめにライトな雑談や、ユーザーの文脈に合わせた「共感ポイント」を提示して安心感を演出しましょう。相手がリラックスしていないと本音は引き出しにくいです。時には「僕も以前、使いこなせなくて困ったんですよ」など、自分の失敗談をあえてオープンにすることも有効です。
参考情報
- Portigal, Steve (2013). Interviewing Users: How to Uncover Compelling Insights. Rosenfeld Media.
- Nielsen Norman Group (2024). “Common Mistakes in User Interviews – Updated Edition.”
- Harvard Business Review (2022). “How to Avoid Leading Questions in Customer Interviews.”
- Rob Fitzpatrick (2013). The Mom Test – ユーザーインタビューで建前ではなく本音を引き出すための手法:
【要約】『The Mom Test』 ユーザーインタビューの「本当の声」を引き出す秘訣「これ、あったら使う?」とユーザーに聞くと、優しい人ほど「いいね、それ欲しいかも」と言ってしまう。しかし、それが本当のニーズかと言えば、まあそんなことないですよね(上記の機能を実装して成功した経験は僕にはないです)。Rob Fitzpatr... - ACM CHI (2023). “User Research Pitfalls and How to Avoid Them.”
- ユーザーインタビューの目的・設計・やり方・分析まで完全ガイド
- ユーザーインタビュー前に『筋の良い仮説』をチームで設定する具体的な方法やフレーム
- ユーザーインタビューでのユーザー集めの方法と成功/失敗事例
- ユーザーインタビューのドタキャンを防ぐにはどうしたら良いのか?
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